統治機構の改革に消極的で公約後退、行政改革も不徹底
【政治・行政・公務員改革】個別項目の評価結果
衆議院議長の下に設けられた有識者からなる「選挙制度調査会」の答申を尊重するものとし、引き続き、よりよい選挙制度改革に取り組む。
【出典:2014年衆院選マニフェスト】
衆院議員定数の削減は次期通常国会終了までに結論を得た上で必要な法改正を行う
3点 (5点満点)
昨年:2点
2014年6月に衆院議長の諮問機関として設置された「衆院選挙制度に関する調査会」は15年12月16日に最終答申案を発表した。答申案は、議席配分に関して今の制度より人口比を反映しやすい「アダムズ方式」を採用。2010年の国勢調査で計算すると定数は東京都で3増、埼玉、千葉、神奈川、愛知の4県で各1増となり、青森など13県で各1減となる。
その結果、衆院の議員定数は小選挙区6、比例代表4の計10議席の削減により戦後最も少ない465議席となり、また、一票の格差も、議席配分の計算方法の変更により1.621倍となり、最高裁の違憲判決が出された最も低い倍率である2.13倍を大幅に下回るものとなった。同調査会は16年1月に正式答申する。
安倍首相は今年5月の衆院の党首討論で「第三者機関から出てきた定数削減案にみんなが賛成すれば、そこで決まる」と述べるなど答申を尊重する意向を示しており、「衆院議長の下に設けられた有識者からなる調査会の答申を尊重」するための地ならしには着手していると評価できる。但し、自民党は小選挙区に多くの現職がいることから、定数削減は比例代表に限定し、選挙区定数は維持すべきだと主張してきたこともあり、自民党内がまとまり、答申通りの定数削減、一票の格差が税制されるかどうかは、現時点で判断できない。但し、安倍首相の強いリーダーシップがあれば、法案の可決は可能だと考える。
なお、今回の答申では一票の格差の是正に重きが置かれており、選挙制度や衆参の在り方などについての議論にはなっていない。議員定数によって議員の数を減らし、かつ、政治の質を向上させるとするなら、衆参二院制の仕組み、選挙制度の仕組みなどを抜本的に変える必要がある。こうした点を踏まえて、政治制度改革のビジョンを国民に示していく必要がある。
行政改革を断行する
【出典:施政方針演説2015年2月】
「行政改革推進会議」を設置し、省庁改革を政治主導で実行。発足から1年以内に改革計画を立案、3年以内に立法措置
2点(5点満点)
昨年:3点
公約には着手したが、内容を大幅に修正。それに関する国民への説明は不十分
安倍政権は,第二次政権の発足時の2012年の衆議院選挙から、行政改革の断行を公約に掲げてきたが、その公約自体も13年、14年の選挙で明らかに後退し、内容を修正している。にも関わらず、何のためにどのような行政改革を行うのか,未だ国民に明らかにしていない。ただ、この3年間で、内閣府・内閣官房の機能整理や、予算の査定をより効率的に行う行政事業レビュー、また独立法人改革には一定の成果が見られる。
したがって、公約には着手していると判断されるが、その内容を大幅に修正しているため、現時点では当初の目的を実現することは困難である。かつその修正に関して国民に十分に説明していない、と判断し減点要因とする。
国のかたち」を視野に入れた統治機構改革という理念は実現していない
安倍政権の目指すべき行政改革の理念や目的は、2012年の自民党のマニフェストに明確に示されている。
まず行政改革の目的である。ここでは「この間の行政需要の変化や今後の動向を踏まえながら、国家統治の観点から国と地方の役割を見直し、効率的で機動性,柔軟性がある行政機構を目指し、行政機構の地方移転を含む省庁再々編といった、これからの国の形をつくる中央省庁改革を政治主導で実現します」と、国の統治機構改革に乗り出すことを明確に示している。
次にそれを実現する手段である。ここでは、「こうした改革の立案、実行、改革進行の監視、定期的な点検を行うために、行政改革推進会議を重要政策会議として内閣府に設置する。会議発足から1年以内に改革計画を総合的、戦略的なものとして立案し、3年以内に立法措置を行う」と、目標年次を区切った形で工程を明確に示している。
これが第二次安倍政権の行政改革における国民への約束であるが、実際にはここで掲げられた理念や目的は現時点で実現していない。
省庁改革の計画作りは、選挙のたびに目標時期が後退
これに基づき、2013年1月29日、内閣府に行革推進本部が、また、行政改革に関する重要事項の調査審議等を目的として、同本部の下に行政改革推進会議が、それぞれ閣議決定を根拠として設置された。しかし、この行政改革推進会議は当初公約で掲げられた内閣府の設置法に基づく重要政策会議として設立されておらず,閣議決定で作られたものである。かつ、この公約で掲げられた「行政機構の地方移転を含む省庁再々編といった、これからの国のかたちをつくる中央省庁改革を政治主導で実現」するための、1年以内の改革計画も3年以内の立法化も実現していない。
代わりにこの会議を軸に動き出したのは、こうした統治機構の改革ではなく、行政事業レビュー、独立行政法人改革、内閣府や内閣官房の機能整理に伴う国家行政組織法の改正である。この国家行政組織法の改正は、2001年の中央省庁再編において、省庁の大くくり化、独立行政法人制度の設置とともに柱の一つだった「首相の権限強化」の検証と再構築の一環として進められた。これは、再編以降、省庁にまたがる重要業務の多くが内閣府や内閣官房の所管となったことによる官邸機能の低下を是正することを目的とした施策で、内閣府・内閣官房における計20業務の廃止・縮小や、各省への総合調整権限の付与が定められ、改正法案は2015年の9月4日に成立し、16年4月に一部事務を除き施行されることになっている。
ただ、これは、国・地方・民間の役割分担など「この国のかたち」までを視野に入れた省庁の改革計画の一貫で進められたものではなく、その立案にも着手していない。
こうした公約の修正は自民党の公約の中でも確認できる。中央省庁改革に関する記述は2013年参院選のマニフェストにもほぼ同じ内容で引き継がれたが、改革計画の策定時期は、12年衆院選時の「1年以内」から「速やかに」に後退した。さらに、2014衆院選マニフェストの政策BANKでは、中央省庁改革については「検討を進めます」との記述に後退し、改革計画策定の期限に関する記述がなくなっている。
行政業レビューは、当初公約した省庁の組織の見直しとは無関係
その代わりにこの行政改革の項目で独立して示されたのが、この行政改革推進会議で検討が進んでいた、行政サービスの質の向上や政府事業の棚卸し(行政事業レビュー)、独立行政改革法人であり、こうした公約の実行の変更やその理由に関する国民への説明も行われていない。
なお、行政事業レビューは2013年以降毎年行われているが、予算査定プロセスの見直しを主眼に置いた施策であり、省庁の組織の見直しとは関係がない。独立行政法人改革については、2014年6月に成立した独立行政法人通則法の改正に基づき、統廃合などにより100法人(2013年12月の閣議決定時)を87法人に削減する具体的な予定が発表され、現段階で予定通り進んでおり、2016年4月には17法人が7法人に統合し、予定された統廃合が実現することになる。2015年10月に就任した河野行革担当大臣は、所管事務が広範にわたることによる大臣の負担を理由として厚生労働省の3分割を提案しているが、あくまで個人的な発言にとどまり、裏付けとなる政府決定は存在していない。
国・地方含めた抜本改革には全く着手せず、その理由を国民に説明していない
以上のように、官邸機能の強化と縦割り行政の弊害除去に向けた一定の進展は見られたものの、マニフェストで強調した省庁再々編や国・地方含めた抜本的改革の計画作り、及びそれに必要な体制の整備には全く着手していない。かつ、当初のマニフェストと比べた目標の修正・後退について、その理由を国民に説明していない。
公務員制度改革については、能力・実績主義に基づいた評価による信賞必罰の処遇と人事を厳格に実行し、真に頑張る者が報われる制度を確立する。
【出典:2014年衆院選マニフェスト】
「国家公務員制度改革基本法」を踏まえ改革を断行する
3点(5点満点)
昨年:4点
内閣人事局の設置により、官邸主導の政治という目標へ大きく動く
福田政権時代の2008年6月に施行された「国家公務員制度改革基本法」には、改革に必要な措置について「5年以内を目途として講ずる」と明記されているが、実際には、民主党への政権交代の影響もあり、多くの項目が実現していなかった。
それを受け、2012年衆院選の自民党マニフェストでは、「国家公務員制度改革基本法」を踏まえて、「国民の全体の奉仕者である国家公務員について、一人一人がその能力を高め、責任を自覚し、誇りを持って職務を遂行する」ことを目的に、そのために「能力・実績主義に基づいた評価による信賞必罰の処遇と人事を厳格に実行し、真に頑張る者が報われる制度を確立します」と明記した。この文言は、2013年参院選、2014年衆院選のマニフェストでも踏襲されている。
同法において最大の目玉となったのは「内閣人事局」の設置であり、2014年5月30日に設置され、審議官級以上約600人の人事権を各省から官邸に移す改革が実現している。
これにより、内閣官房の強化による官邸機能の政治の実現に向け、審議官級以上の幹部職員の人事権が各省大臣から移管され、首相と官房長官が幹部人事に強い権限を持つようになった。これは2001年の省庁改革から始まった総理の権限強化の最終章とも考えら、省益を排除した官邸主導の政治という目標の実現に向けて着実に動いている、とも判断できる。安倍政権になって遅れていた公務員制度の取り組みが大きく進んだことはある程度評価できる。
公務員改革の司令塔としての内閣人事局の運営は、現時点では評価が難しい
しかし、この内閣人事局は、自民党のマニフェストで一貫として掲げられる公務員改革に求められる広い意味での目的を実現するための制度設計を行う司令塔でもあり、国家公務員の人事管理に関する戦略的中枢機能を担う組織として、基本法に基づき、国家公務員の人事管理や採用、行政機関の定員管理を含めた関連制度の企画立案、方針決定、運用を一体的に担う権限が与えられている。
まだ現時点では制度が始まったばかりで有り、これが運営上でどのような弊害を持つものなのか、またそれがどう機能し,役割を果たすかは現時点で評価するのは難しい。今後の取り組みを判断するしかない。
2012年以降の自民党のマニフェストでは、この「国家公務員制度改革基本法」に基づき、公務員制度の基づく様々な対策が公約として掲げられている。これらも大筋で着手はしているが、いずれもその目的に沿って実現の目処が現時点で立っているわけではない。
人事評価の運用改善は未だ検証困難。給与体系の抜本的見直しには未着手
人事評価制度の運用改善も、公務員制度改革基本法に基づき、2011年1月より既に、各省内部で半年ごとの人事評価制度が導入されている。この制度が「真に頑張る者が報われる」ために恣意的な人事を排除する目的で運用が徹底されたかが、安倍政権に問われた課題であり、2013年7月、「人事評価に関する検討会」が総務省に設置され、14年2月に報告書を発表され、5段階評価で上から2番目までの評価を得る者が一般職員の6割を占めるといった点も指摘されているが、制度の運用改善が徹底されたかは現時点で検証するのは難しい。
また、2014年、一般職の職員の給与に関する法律等の一部が改正され、地域間・世代間の給与配分の見直しを目的とした俸給表・地域手当の改定が2015年4月から施行されたが、2012年のマニフェストで掲げた「抜本的な給与体系の見直し」とは言えない。また、役職の階級と給与とが厳格に連動している現行制度を改め、業績に応じた昇降格を柔軟に行えるようにするため「幹部公務員の給与を本俸と役職手当に区分する」ことをマニフェストで掲げているが、この検討は着手していない。
国家公務員の定年延長は具体的検討が進まず、公約内容も後退
2012年のマニフェストでは、年金の支給開始年齢引き上げに伴い定年退職者が無収入になるのを防ぐことを目的に、当面の再任用制度拡充を掲げるとともに、「将来的には65歳まで定年を延長します」と明記した。これを受け、2014年6月に国家公務員法が改正され、「国家公務員の定年の段階的な引上げ、国家公務員の再任用制度の活用の拡大その他の雇用と年金の接続のための措置を講ずることについて検討するものとする」という附則が設置された。しかし、定年延長による具体的な検討は進んでいるわけではない。2014年のマニフェストでは、「役職定年制の導入も含め、65歳まで働く事のできる環境を整備します」と、表現がやや後退しておる。
中途採用や官民交流、省庁間交流の人数は安倍政権発足後に増加しているが、2012年のマニフェストで明記した採用制度の「抜本的見直し」の検討には着手しているわけではない。
地方公務員の人事評価や再就職規制は、公約通りに改革が進む
地方公務員制度改革
2014年5月に地方公務員法が改正され、地方公務員において能力及び業績を把握した人事評価制度を導入し、任用、給与、分限その他の人事管理の基礎とすることが各自治体に義務付けられた。同時に、離職後の元職員による現職員への働きかけの禁止や、現職員の求職活動の規制といった再就職規制の強化も規定された。これらの措置は、公布日から2年以内に施行されることが定められている。こうした制度は、民主党政権時代には労働組合の反発により検討が進んでいなかったが、安倍政権では、マニフェストに記載された通り、国家公務員において既に施行されている制度に準拠した改革が進んでいる。
逆三角形」の年齢構成是正には、依然として答えが出ていない
国家公務員の年齢構成の是正
公務員制度改革の大きな課題は、逆三角形化が進む公務員の設計改善に政府が答えを出していない、ことにある。2007年の国家公務員法改正により、天下り廃止に伴う再就職斡旋が官民人材交流センターに一元化されたものの、民主党時代に同センターの機能が大幅に縮小されたことや、国家公務員総人件費の2割削減を掲げ、新規採用を大幅な抑制したことが、公務員の年齢構成を歪めている。この結果、定年までの雇用が一般化するようになり、この逆三角形の構造が進んでいる。
国家公務員の総定員法の上限を法律で規定した1968年度以降、国家公務員の総定員を1年あたり1%程度以上削減する目標が定期的に閣議決定されている。政府機関の民営化や独立行政法人制度の導入などが一巡したことにより、現在では、定員抑制の手段は新規採用の抑制と早期退職の促進のいずれかにほぼ限られるようになった。
役職定年制の検討は未着手。早期退職優遇の実効的な措置には至っていない
これに対して、自民党は2012年のマニフェストで、年齢構成の逆三角形化による組織の活力の低下を問題提起し、「ポストごとの役職定年制や早期希望退職優遇制度を導入します」と明記している。
このうち、役職定年制の導入には、検討を進める上での法的根拠がなく、まだ、内閣人事局等での具体的な検討は行われていない。一方、早期退職の優遇については、国家公務員退職手当法の改正によって、45歳以上(定年が60歳の場合)の職員を対象とした早期退職募集制度を導入し、2013年11月より本制度に基づく退職が可能となったが、同制度への応募は職員の自発的な意思に委ねられており、退職勧奨などのより実効的な措置の導入までには至っていない。また、早期退職の推進に必要な退職金のさらなる積み増しが予算制約の関係上難しいこと、もある。
上記の現状を踏まえ、定員純減と年齢構成是正の具体策については内閣人事局において引き続き検討が進められているが、依然として着地点は見出されていない状況である。
各分野の点数一覧
評価基準について
実績評価は以下の基準で行いました。
・着手して順調に動いているが、目標を達成できるかは判断できない
・着手して動いたがうまくいかず、目標を修正し、実現に向かって努力している、かつ、国民に修正した事実や理由が説明された
※但し、国民に説明していなければ-1点
新しい課題について
新しい課題に対する政策を打ち出し、その新しい政策が日本が直面する課題に見合っているものであり、かつ、目標や政策体系の方向が見えるもの。または、政策体系が揃っていなくても今後、政策体系を確定するためのプロセスが描かれているもの。これらについて説明がなされているもの
(目標も政策体系が全くないものは-1点)
(現在の課題として適切でなく、政策を打ち出した理由を説明していない-2点)