総論
現在の日本の農業政策における問題としては、まず農家に対する過剰な保護政策がある。米の生産調整(減反)により供給量を抑制し、高い米価が維持される一方で、戸別所得補償などの直接支払制度が行われており、農家は二重に保護されている。これは言い換えれば、国民は消費者として、納税者として二重の負担を強いられていることになる。
また、農業の担い手の問題もある。高齢者によって担われている日本の営農の世界において、若い世代の担い手をいかに確保、育成していくかということは喫緊の課題である。日本の農業を持続可能なもの、さらに産業として自立させていくためには、いまある担い手の農家の支援に加えて、明日の農業を担っていく新たな担い手の確保、育成が必要である。このような課題を抱える中、安倍政権は、首相官邸に農林水産業・地域の活力創造本部を、農林水産省に「攻めの農林水産業推進本部」をそれぞれ設置し、改革に乗り出した。この一連の農政改革の中で、特に大きな変化としては、減反を廃止し、1970年から40年以上続けてきた価格支持政策を転換したことがあげられる。その他の政策課題についても、概ね実行しており、形式的な進捗だけ見れば改革は進んでいると評価できる。
ただし、この改革が実際に日本の農業が抱える課題の解決につながるものであるかは疑問である。
例えば、減反廃止は生産性の向上を促す半面、専業経営を不安定にするリスクもある。そこで、大規模農家などの担い手支援に絞った制度整備が必要となるが、政府は減反廃止と同時に、日本型直接支払い制度の創設をはじめとする零細・兼業農家の温存につながるような保護政策も打ち出している。
特に、この日本型直接支払い制度は、対象となる農地が日本の全農地の大半にあたり、従来よりも薄く広く補助金を支払うことになるため、農地の多面的機能の維持に資するという面もあるものの、形を変えた農地所有者に対するバラマキ色が強く、担い手への農地集約を目指している「攻めの農業」の方針と、整合性が取れていないものである。
農地中間管理機構にしても、設置したことは大きな進捗であるが、その実態は担い手への農地を集積するためのスキームになっていない。
説明責任という点でも問題がある。特に減反廃止は、マニフェストには具体的な記載のない政策であるため、きちんと国民に対して説明することが求められているが、現時点では政策転換に踏み切った理由について国民に対して明確な説明があるとはいえない。
また、2009年の政権交代に前後して、日本の農業政策は二転三転している。場当たり的ではない、体系性のとれたこれからの日本の農業の未来図をどう描いていくのか、ということについても国民に対してきちんと説明する必要があるが、それも不十分である。
安倍政権1年実績評価 個別項目の評価結果 【農林水産】
対象となる農地は400万ヘクタールと、日本の全農地(約460万ヘクタール)の大半にあたり、従来より薄く広く補助金を支払うことになるため、中小・零細農家の温存につながる可能性がある。農地の多面的機能の維持に資するという面もあるものの、形を変えた農地所有者に対するバラマキ色が強く、担い手への農地集約を目指している「攻めの農業」の方針と、どう整合性を取るのか、その説明が足りない。
また、担い手総合支援法は制定していないが、新規就農支援も含めた全体的な担い手支援政策の方向性は、2006年制定の「担い手経営安定化法」の路線を踏襲している。担い手(認定農業者、集落営農、認定就農者)に限定して支援をしていくという点では、「担い手の育成確保を推進」という目標実現に沿うものであるので、この政策修正には特段の問題はないと判断できる。
1970年から40年以上続いてきたコメの価格支持政策を転換していることは、非常に評価できる。ただ、減反廃止は生産性の向上を促す半面、専業経営を不安定にするリスクもある。そこで、大規模農家などの担い手支援に絞った制度整備が必要となるが、政府は減反廃止と同時に、日本型直接支払い制度の創設など零細・兼業農家の温存につながるような保護政策も打ち出しているなど攻めの農業について体系的な農業政策を示していない。
この減反廃止はマニフェストに記載されていないため、これからの日本の農業の未来図をどう描いていくのか、国民に対してきちんと説明する必要がある。現時点では政策転換に踏み切った理由についても国民に対して明確な説明があるとはいえない。
ただ、農地所有者は転用許可を受けて農地を売却すると大きな利益を得られる可能性があるため、自ら耕作しない場合にも、他の農業者への売却や貸し付けを敬遠する傾向にある。そこで、機構にどう貸し付けを促すかという対策が必要となるが、その方針については示されていない。そのため、現状では効果的に農地を集積するためのスキームとはいえない。また、集積した農地をまとめ上げて担い手に適切に貸し付けていくための仕組みについても「検討中」とされており、実効性は不透明である。
そもそも、担い手利用面積について、「10年間で全農地面積の現状5割から8割」という集積目標は、この機構だけで達成できるようなものではないため、目標を達成できるかは現段階では判断できない。
各分野の点数一覧
実績評価は以下の基準で行います
・未着手
・着手後、断念したが、その理由を国民に対して説明していない
・着手後、断念したが、その理由を国民に対して説明している
・着手し、一定の動きがあったが、目標達成はかなり困難な状況になっている
・政策目標を修正した上で着手したが、その修正理由を国民に説明していない
・着手し、現時点では予定通り進んでいるが、目標を達成できるかは判断できない
・政策目標を修正した上で着手したが、その修正理由を国民に対して説明している
・着手し、現時点では予定通り進んでおり、目標達成の方向に向かっている
・この一年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
原則として、マニフェスト等に具体的な政策の記載がある場合のみ採点するものとします。
しかし、特例として、記載がないにもかかわらず施策を動かした場合、以下のように採点します。
なぜ実施に踏み切ったのか、その理由について国民に対する説明をきちんとしていれば各項目で1点加点するものとします
マニフェスト等から理念は読み取れる場合
・着手し、現時点では予定通り進んでいるが、目標を達成できるかは判断できない
・着手し、現時点では予定通り進んでおり、目標達成の方向に向かっている
・この一年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた
マニフェスト等から理念も読み取れない場合
・着手し、現時点では予定通り進んでおり、目標達成の方向に向かっている
・この一年間で実現した。もしくは実現の方向がはっきりと見えてきた