【会員限定・議事録全文】菅政権は国民の政治不信を治せるか
―政策評価作業第三弾「安倍政治の評価」

200910_kudo.png工藤:今日は言論NPOの評価作業の第三弾として、安倍政権の政権運営、引いては安倍政治そのものを点検したいと思います。まず、ゲストの紹介です。まず、読売新聞編集委員で、前政治部長の伊藤俊行さんです。そして、リモートでのご参加となりますが、東京大学先端科学技術研究センター教授の牧原出さん、北海道大学大学院法学研究科教授の吉田徹さんです。

 私たちは、2004年からマニフェスト評価や実績評価など様々な政治評価を行ってきました。また、最近行った約200氏の有識者のアンケートでは、今の政治に対して、国民の間に根強い不信感が広がっており、まさに民主主義そのものが問われている、ことも明らかになっています。

 今日はそういう点も含めて、首相の政治行動も含めて、7年8カ月にも及ぶ、安倍政治の評価を様々な角度から行っていこうと思います。

政権交代が緊張感ある政治システムをつくるとされた中で、7年8カ月もの安定政権を作り上げた意義自体が大きい

200910_makihara.png牧原:先程、言論NPOの有識者アンケートの結果を拝見しました。やはり、ここ直近の二、三年の印象というものが今の有識者の判断に強く出ていると思います。モリ・カケから始まって色々な問題が出てきた。最後にはコロナに対する対応が良くなかったなど、色々なことが調査結果からは浮かび上がっています。

 やはり、安倍政権というのは2010年代、とりわけリーマン・ショックの後、世界経済が回復していく過程で、日本経済も活性化していた中の政権であったと思うのですね。しかも、民主党政権が初めて政権交替で誕生した後、自民党としては少数野党から選挙で勝って多数政党に返り咲いて、政権を奪い返した、という初めてのプロセスを経て誕生した政権でもあります。

 第一次安倍政権以降、一年ごとに内閣が代わるということを繰り返してきた中で、この第二次安倍政権もどうなるのかと思われましたが、結局は7年8カ月も続いた。政権交代が緊張感のある政治システムをつくるということは、自民党が政治改革の中で言っていたことですが、その中でも長く続く安定政権をつくることができるということを、身をもって安倍政権が示した意義は、私は非常に大きいと思います。

 つまり、政権交代をしても、「また短期政権か」となってしまうと、やはり今の選挙制度も含めた政治システムそのものへの大きな不信が生まれたと思います。世界的にポピュリズムが台頭している時代の中で、日本の政治システムというものは非常に脆いものだと思われる可能性がありましたが、日本では政権交代からでも非常に強い権力を持った7年8カ月もの長期安定政権を実際につくることができたということを示した。

 私は、これは日本の憲政史、政治史上の最も大きな成果だったと思います。

 その最大のポイントは、やはり少なくとも初期の2016年くらいまでは谷垣禎一さんも石破茂さんも内閣や自民党役員の中に入るということで、オール自民党の体制をつくることができた、ということにあると思います。オール自民党をつくった上で、そこに公明党が協力するとより安定的な政権になるということを示したと思います。

 そして、大きな達成点としては、アベノミクスによって経済の基調を変えたこともあります。株価を上げ、為替を円安モードにするということで、結果的に雇用を生み出したことは大きい。

 7年8カ月にも渡る政権の安定感というのは、結果的には外交でも大きな成果をもたらしたと思います。外務省が小泉政権の頃から構築しようとした戦略外交が、安倍政権と結びついて、ようやくここにきて体制が、かなり出来上がってきたと思います。これは首相次第ではありますが、おそらく今後も引き継がれると思います。

 ただ、統治機構改革はまだまだ行き届いていないところがある。一番大きな問題としては、公文書と、それに伴ういわゆる情報の問題です。情報公開だけでなく、情報システムをどう保っていくか、ということができていない。これが今後の課題に繋がる部分です。

 ただ、そういういくつかの問題を抱えながら、とにもかくにも7年8カ月もの政権を築き上げたことは大きいと思います。

安倍政権はイデオロギー的には右派的な性格だが、実際は社会民主主義的な政策を取り、それが長期政権を可能とした絶妙のブレンドとなった

yoshida.png 吉田氏は、外交面では安倍氏が日本のプレゼンスを高めたことや、TPP11発効など自由貿易体制を推進したことには一定の評価をしつつ、取り組みの多くは安倍政権でなくともやっていたであろうこと、すなわち独自性が吉田:内政と外交でどう見るかというのはだいぶ違うのかもしれませんが、外交で見れば確かに国際社会における日本のプレゼンスは高まったと思います。G7で見ればドイツのメルケル首相に次ぐ長期政権の首相でしたので、そういう意味では曲がりなりにも先進国の一角としての日本のプレゼンスを再びアピールできたというのは確かです。

 ただ、内実を見ると「地球儀を俯瞰する外交」と銘打って、100近い国や地域を訪問したのですが、その看板として掲げていた、例えば経済外交では原子力発電の輸出、インフラ輸出など色々頑張ったけれど、できなかった。後半ではロシアとの領土交渉が頓挫した。

 成果としては、アメリカが抜けた後日本がリーダーシップを発揮してTPP11をまとめたことがあります。それから、日本とEUの経済連携協定も締結しました。これも現在の日リベラルな国際秩序になっていく中で、リベラルな国際秩序を維持するための大きなアピールになったという意味で成果であるといえます。

 ただ、これはおそらく安倍政権でなくともやったであろうという意味では、本当に安倍外交の成果だといえるかどうかというのは、いろいろ議論の余地があると思います。

 内政に関しては、2012年の安倍首相の所信表明演説を思い返してみると、三つ目標を掲げている。ひとつは脱デフレ、それから危機管理、最後に震災復興。ただ、振り返るときに安倍政権は、経済政策・アベノミクスとともに回顧されるようになると思います。

 失われた20年、あるいは30年といわれる中で、デフレに陥ってしまった日本企業がいかにまた歯車を回していくのか、その最初の歯車の一部として、金融とそれから財政に手をかけた。これは民主党政権ができなかったことです。日銀総裁を変えてまで金融緩和をやった。それから機動的な財政出動をした。それが地方再生などにもつながっていくわけです。あと官邸に労使の代表を呼んで、賃上げを要請する、ということもしていました。

 脱デフレはどこの国も上手くいっているところはなかなかないので評価は難しいのですが、そこにやはり懸命に前例踏襲ではない形で取り組んでいった。このところは、成果自体を評価すると厳しい採点になってしまいますが、ひとつの大きな特徴だったということは言える。

 もう少し俯瞰して申し上げますと、安倍政権というのはイデオロギー的には改憲を目標として掲げていたように、きわめて保守的、あるいは右派的な性格だったと思います。しかし、実際の政策を見てみると、本当の保守的な性質が表れた政策というものとは何だったのかというと、それは教育基本法の改正ぐらいしかない。

 これは第一次政権の時に手掛けたものですが、この教育を除けばそこまで保守的なものというのは実は見られない。むしろ、社会民主主義的な政策をやっていた、というところに特徴があった。これをねじれと言っていいかもしれませんが、もしかしたらこれが長期政権を維持する上で必要だった、ひとつの微妙なブレンドだったのかもしれません。

長期安定政権化は実現したが、「安倍スイッチ」で14年に解散し、余裕ある自分のペースを崩してしまった

200910_ito.png伊藤:第二次政権以降ということだけでなく第一次政権から共通していることがあります。安倍政権が掲げる政策というのは、大きな構えという意味で、かなり長期的なことをおっしゃる。第一次政権で言えば、戦後レジームからの脱却だった。これは第二次政権でも変わっていませんが、これは成し遂げるのには時間がかかるから長期安定の政権基盤が必要になる。そのため、第二次政権発足当初は、大きな目標を掲げているので長くやろうと思っていた節がありました。ですから、すごく慎重にスタートしていました。

 施政方針演説をざっと読んでみたのですが、最初の2013年の演説では、安倍さんは「改革」という言葉を13回しか使っていない。ところが、だんだん政権が安定軌道に乗ってきた2015年。この年は安全保障法制の実現を成し遂げたのですが、施政方針演説では「改革」が36回も出て来ます。実に色々な改革を並べている。政権が安定化してきたらやりたいと思っていたことを秘かに持っていたのではないかと思います。何をやりたいか、というよりもまず安定させることを優先し、そして、そこから長い時間をかけて出来るようなことをやっていこうという戦略、思いはあったのだと思います。

 ところが、皮肉なことに、長くやろうとすると、吉田先生も指摘されていましたが、ポピュリズム的な対応がどうしても出てこざるを得ない。例えば、選挙が近くなると自分が思っていることも言わなくなる。不人気な法案は先送りし、選挙が終わってからまた走り始める。また選挙が近づくと止まる、という格好になってしまう。

 結局、政権を長くするために、そういう政策の停滞を繰り返して、結果的に確かに長期政権になりました。しかし、そのために自分が掲げた長期目標は実現できなくなった、というジレンマにとらわれた政権であった、と思います。

 本当に勿体なかったと思うのは、2012年の衆議院選挙で大勝して、その半年後の13年の参議院選挙でも大勝しているわけです。そうすると、次の参議院選挙まで三年間は国政選挙を本当はやらなくてもよかったですよ。しかも、安倍さんはその頃は閣僚を誰も代えなかった。腰を据えて政策に取り組む、という構えがあったのに、小渕優子さんと牧島みどりさんという女性閣僚二人がスキャンダルでやめざるを得なかった。野党からガンガン攻められた結果、与党の中で誰も予想していなかったのですが、いきなり2014年11月に解散してしまう。我々メディアでは「安倍スイッチ」と呼んでいましたが、このスイッチが入ってしまうともう安倍さんは止まらない。前後見境なくあそこで解散した。勝ちましたけれど、その結果何が起こったのかというと、自分のペースを崩してしまった。

 日本は戦後一年半に一回くらいのペースで国政選挙をやっていたわけで、つまり総理大臣が腰を落ち着けて政策に取り組むことができるのは一年くらいです。半年後に選挙があるともう何もできなくなる。本来は三年も余裕があったのに、それを自分で乱してしまったというのは皮肉です。あの三年を安倍さんがうまく使っていればもっと成果があったのではないか、と私は思っています。長期安定自体は良かったのですが、ちょっと残念な部分もあったというのがざっくりとした私の評価です。

第二次安倍政権の首相の資質は8項目で歴代政権と比べて有識者の評価は高いが、後半は官邸チームと、国民への説明力で支持を失っている

工藤:確かに政権が長く安定していたからこそ色々なことができます。ただ、経済や社会保障分野の評価会議の議論はかなり厳しいものでした。国民の支持を得るために選挙の度にスローガンが変わった。一つひとつのスローガンはそれこそ一政権をかけて取り組まなければできないような構造的なものもあったが、だからこそ成果が中途半端になることを繰り返してきた、と。

 ただ、安倍氏の首相としての評価は、長期安定政権からか歴代政権と比べてもかなり高い評価だということが、私たちが定期的に行う専門家の評価で明らかになっています。

 今回も200氏が回答しましたが、そこでは「首相としての資質」について、項目は「首相の人柄」や「首相の政策決定における指導力や政治手腕(統率力)」、「首相としての見識、能力や資質」、「政権として実現すべき、基本的な理念や目標」、「既に打ち出されている政策の方向性」、「これまでの政策面での実績」、「政権を支えるチームや体制づくり」、「国民に対するアピール度、説明能力」の8つの評価軸で判断を求めています。

 その結果としては、第二次の安倍さんの評価は5点満点で最初が3.3点からスタートして、最後も2.7点。民主党政権時は5点満点で2点台か、1点台なので、それと比べてもやはり高い。ただ最近行ったアンケートの中身を見てみると、「政権を支えるチームや体制づくり」や、「国民に対するアピール度、説明能力」では、前回の調査から大幅に点数が下がっています。

 では、安倍さんの首相としての資質を、皆さんはどのように評価されていますか。

当初はむしろ官邸チームが機能し、長期政権化に寄与したが、後半は新陳代謝は行われず、チーム力がなくなった辞任は必然

牧原:「安倍内閣」、「安倍政権の官邸」、それから「安倍さん個人」、という三つくらいのレベルがあるのですが、この内閣が傑出しているのは、安倍首相の長所と短所、とりわけ短所をどう補うべきかということをよく分かっていた、ということです。ですから、私としては「チーム」の採点はむしろ高くなります。安倍政権を支える官邸のチーム力は、短所を十二分に補っていた。安倍さんの弱いところを徹底的に補ったということが、長期政権化にもつながっていった、というのが私の評価です。

 では、何が強いのかと言うと、これは安倍さんの第一次政権時からの大きな成長だと思うが、彼は官僚とか、あるいは有能な側近の言うことをそのまま聞き、そのペーパーをそのまま読み上げても全くかまわないという、ある種の自信というか、胆力が出来ていた。だから、彼はおそらく外交の場では官僚が書いたペーパーを読み上げている。ジョン・ボルトン氏がその回顧録の中で、トランプ氏に対して安倍氏が色々なデータを見せて説得したと言っていますが、多分これは下から上がってきたものをそのまま読ませるようにしようとしたのだと思います。これは、安倍さんは第一次政権ではやっていなかったことです。それをできるようになったということは大きな変化だと思います。

 ただ、彼自身が大きな哲学を持ち、胆力がある決定をしていくような人かというと、全くそういうわけではない。コロナの一連の対応を見ればわかりますが、下から上がってきたペーパーは読み上げるが、最終的に自分で判断して、妥当な決定を下すということははっきり言ってできなかったと思います。そういう弱さがある。そこを補うために、例えば、外交・安全保障で言えば、国家安全保障局長の谷内正太郎がいて、内政では菅義偉官房長官が支えていた。こうしたチームは、少なくとも2016年くらいまでは機能していたと思います。

 私は、この政権は基本的には安保法制、プラスアベノミクスが最初の入り口であって、それ以外は何もなかったのだ、と思います。だから、2015年に安保法制ができた後はやることがなかった。私は、憲法改正は内閣の施策として本気でやるつもりはなかったと思います。そういう高いハードルよりは次の課題を考えた。次の課題とは何かというと、2016年のトランプ氏当選を受けて、彼と決定的に良い関係をつくって、日米関係を安定化させること。これができたのは、安倍さんとプーチン氏くらい。少なくとも、トランプ氏との関係を良好にすることによって、できる限り彼からの強い要求をスポンジのように受けとめて逸らすということをやった。これは大きい成果だし、安倍さんはある程度はトランプ氏を説得できるということは、国際会議では周りも分かっていましたから、そういう役割を演じることができた。

 逆に2016年以降は、もうそれ以外に大きな課題がない中で、働き方改革や全世代型社会保障など、あまりやる気のなかった課題に手を付けて、不徹底に終わった。ですから、アベノミクスで経済の基調を変えること、安保法制を成立させること、それからトランプ氏との関係を良くすること、というこの三つについては成果として私も高く評価しますが、それ以外は、特に内政では確かにアベノミクスを補いながらやってきたけれど、自分の理念として中期的な目標を掲げ、それに向かった道筋を描くことはできていない。

 それから、チームは良かったと言いましたが、そのチームの欠陥としては「取り換えがきかなかった」ということがあります。新しい人材を次々に入れていって新陳代謝を図ることができないから、最初のメンバーが次々に消えていってしまうと機能しなくなってしまう。甘利明さんが不祥事で脱落し、谷垣さんは怪我で引退。最後、コロナ対応の頃に残っていたのは今井尚哉さんなどしかいなかった。こうなるとやはり、安倍さんは辞めるべくして辞めたということになります。政権発足時につくった人間関係から広げることができていない。新しい有能な人間がいた時に「よし、一緒にやろう」と言ってきたことが後半はできなかった。私は、これはおそらく、安倍さんを支えてきた今井さんあたりの人間関係形成力が弱かったからだと思います。そういうチームの最もコアな部分の弱かったところが最後には効いてきた。

 トランプ氏とは関係づくりができたわけですから、二面性があると言えるのでしょうけれど、限界でもあった。特に、専門家たちを入れることができていない。そのような意味で、この政権のプラス面、マイナス面があったと思います。

工藤:確かに、2015年9月の安保法制が成立し、16年あたりまでにある程度のことができてしまった。その後の参院選では圧勝しましたよね。安倍一強体制は完成したわけです。ただ、おっしゃるように、その後はカジノ法案とか強行採決とか色々な話があって、17年から森友・加計学園問題等が出てくる、という流れです。

自分がやりたいことと、国民がやってほしいことのギャップが支持率のパラメータであり、最後まで自身がやりたいことに手が付けられなかった

吉田:安倍晋三という政治家個人に限定して見た場合、気の毒なリーダーだったと私は思います。伊藤さんが言われたことにも関係しますが、やはり選挙が乗り切るためにはやりたいことをぐっと我慢して、選挙が終わったらアクセルを吹かす。だから、とりわけ2016年くらいまでが顕著ですが、最初に経済を持ってきて、選挙を乗り越えたら、その後、特定秘密保護法や、安保法制など軍事・安全保障に手を付ける。そうなると、支持率が下がります。ですから、それを引っ込めて、経済の方でまたアピールをする。その繰り返しです。

 最後まで政治家として、おそらく自分が得意だと本人が思っていたところにはなかなか手をかけられない、ということで、結局自分がやりたいと思っていることと、国民がやらせたいと思っているところにギャップがあった。そうしたパラメータの間で、安倍政権の政策や支持率が動いてきたのだろう、と思います。

 歴史的に見ればよくあることなのですが、リーダーというものは、得意なところで結局失敗する傾向があります。例えば、第二次安倍政権で言えば、最初支持率が上がったのは、株価が上がったということもありますが、政権発足直後に起こった、邦人も被害にあったアルジェリア人質事件がきっかけだと思います。ここで上手く対応したことで、やはり自民党政権は危機管理に強いのだということで民主党政権とのコントラストが明確になった。

 そういう印象が支持率の向上につながったので、所信表明でも危機管理ということを掲げたわけです。しかし、コロナ危機の中では躓いてしまった。そういう始めと終わりを見た場合、やはり皮肉な政権だと思わざるを得ないわけです。

座りが良い、良い神輿であったが、リーダーとして皆に説明する、皆をまとめる、皆の共感を得るように説得する、という努力は欠けていた

伊藤:自民党議員の安倍さんに対する評価というのは、非常に自分たちを引っ張ってくれるリーダーというよりは、担ぎやすい神輿、という感じです。座りが良い、というそういう評価を聞きました。牧原さんも言われたように、自分でぐいぐい行くというよりは、周りのチームが補ってくれて、「俺が俺が」というよりは、「良きに計らえ」という感じが、第二次政権では随分と出てきていた。

 昔で言うと、小渕さんなどの佇まいに似ている部分が、第二次政権の安倍さんにもあったと思います。それは第一次政権の反省から大きく変わったところであり、成長したところだと私は見ていました。

 その他、お二人が言及されなかった部分に特化して申し上げますと、リーダーとして残念だったのは、国会に行くことをすごく嫌がっていた、国会嫌いだったということです。国会を通じて国民に対して説明するなど、そういう態度がきわめて希薄だったし、出てきたら出てきたで自ら野次を飛ばしたり、というように大人の風格が最後まで感じられなかった。

 プライベートな空間で話してみると、チャーミングで座持ちの良い人ですけれど、パブリックな空間では悪い面の地金を出してしまって、すごくがっかりした感じがあります。キャラクターという面では両面あって、座りが良い、良い神輿であったという反面、リーダーとして皆に説明する、皆をまとめる、皆の共感を得るように説得する、という努力は欠けていたのかなという印象を受けました。

工藤:安倍政権の7年8カ月を見た場合、2016年前後の変化は確かにその通りだなと思います。この年の11月にトランプ政権が誕生し、12月にはプーチンさんが山口に来て会談しましたよね。この頃の安倍さんは、外交に注力していたのは間違いないと思います。しかし、この頃に森友学園の問題が同じタイミングで出てくる。外交的な存在感が非常に高まると同時に、国内では政治不信につながる問題が出てきた。この安倍政権後半と言っても良いかもしれませんが、この後半の評価をお聞きしたいのですが。

後半はすべての火種を内閣が抱え込むという構造だが、逃げ方が拙劣で、しかも逃げ切れていないまま政権が終わったという感じ。

牧原:森友・加計、それから桜を見る会の問題もそうですけれど、首相に近い人々、あるいは首相の事務所ですね。そこで利益誘導的な不祥事があったのではないか、という疑惑があった。それ以外にも自民党の個々の政治家には色々な疑惑がありますが、概ね似たような、はっきり言えば、ロッキード事件など過去の疑獄事件と比べればあまりにもスケールの小さな事件ばかりです。そうではあるが、首相と官邸が関わっているので、非常に大きな政治問題になった。これは、もちろん、脇が甘いというのもあり、あるいは首相自身の資質の問題であるが、私はむしろ構造的な問題だと思います。

 というのも、これらの疑惑は結局すべて公文書の問題に行き着くからです。公文書をどう残したか、残していないか。あるいは、改竄したか、していないか。これは福田首相が手をつけ、麻生政権で成立し、民主党政権で施行された公文書管理法がかなり効いてきている、ということだと思います。つまり、文書は必ずどこかに残っている。データとしては必ずあるのに、ないことにすれば何とかなると思って、上手くいっていない。これが多分、今後ますます大きな問題になってくる。

 デジタル化とかデータ庁などという構想が、総裁選後に動きだしていますが、この情報システムをどうするかという大きな問題に直面している日本、そして世界の政治システムの中で出てきているものを、非常に古い紙媒体レベルの問題として何とか逃げようとした。

 もうひとつは、全ての問題を官邸や内閣で処理する。官邸主導とは言いますけれど、例えば、公文書も実は管理自体は内閣なんですね。かつては、各省レベルですべて文書の責任を負っていたのですが、今は内閣です。これは文書だけではなく人事もそうです。内閣人事局が決める。つまり、安倍政権で完成したのは、公文書とか人事、あるいは内閣法制局の権限も安保法制で変えましたが、諸々そういう行政資源を、これまでは各省レベルで責任を持ってやるべきだった仕組みを全部内閣が抱えるという仕組みが完成していった。

 その結果、全ての責任が内閣に行く。政治問題もすべて内閣の問題になる、という傾向がはっきりと出てきたのが2016年だったと思います。

 色々な問題を内閣が抱え込むということは、結局すべての火種を内閣が抱え込むという構造になるわけです。これに対する対処が非常に雑だったことも安倍政権の特色でしたが、日本の行政システム、あるいは日本の内閣制度というのは、その問題をずっと抱え込むことになりますが、その意味で構造的な問題なのです。

 ただ、何と言っても逃げ方が拙劣で、しかも逃げ切れていないわけです。文書のデータは必ずどこかにありますので、それが出てきた時にどうするのか、という問題が残ったままです。星新一のショート・ショートのようなどこか気持ち悪い終わり方で、政権が終わったという感じがします。

消費税を政策決定のタイミングを上手くずらすことで、二回に分けて上げることができた、ということは特質に値する

吉田:安倍政権がここまで長期政権になったというのは、牧原先生のお話を引き継いでいえば、90年代以降の政治行政改革のひとつの完成形なのだと思います。

 小選挙区中心になって、首相あるいは党総裁、執行部の力が強くなる。それで、「○○チルドレン」というものが誕生し、数の力を国会で確保することができる。一方で、政策レベルでは官邸主導の体制を整えて、官邸に優秀な官僚をどんどん集めるようなかたちで、トップダウンで物事を進めていく。それ故に、逆にそこに足を絡め取られてしまった、というところもある。自滅、自壊のプロセスでもあったと思います。これが結果的に、安倍政権の寿命を決めることになったと。先程来、「皮肉」というご指摘がありますが、確かに皮肉と言えば皮肉です。

 工藤さんが言われたように、2016年を中心として前後期で分けて考えてみると、やはり言及しておかなければならないことは、消費税を二回に分けて上げることができた、ということは非常に大きな功績、業績のひとつだと思います。これまではまさに内閣の命運をかけて上げる、ということをやってきたのですけれど、これも先進国のスタンダードに則って考えれば稀な話です。2016年の6月、引き上げを延期します、という形で、時間をずらして、選挙を戦うわけですが、そのタイミングをずらすということによって2019年に二度目の消費税引き上げを果たした、という意味では非常にクレバーな手法だったと思います。7年8カ月という長い時間の中で、上手く政策決定のタイミングをずらすことで、難しい課題も実現していった。そこは非常に特筆に値するのではないか、と思います。

前半と後半の節目になったのは、2015年の自民党総裁選、後半は「利権の政策化」と言われる動きも出始め、驕り、慢心と言われる政権の姿勢が見られた

伊藤:前半と後半の大きな節目になったのは、2015年の自民党総裁選だったと思います。これは無投票再選となりました。もちろん、党内では立候補しようとする動きもありましたが、全部抑え込まれた。吉田先生も言われましたが、小選挙区制のひとつの完成形をまさに体現していました。誰も執行部に逆らうことができない。総主流派体制のような感じです。その後、我々メディアもよく使っていた、「長期政権の驕り、慢心」などといった表現は、この頃から頻繁に使われ始める。

 その後の出来事については、ある官僚が言っていた言葉が非常に印象的です。安倍政権がやっていたのは「利権の政策化」だと言っていたのです。牧原先生が指摘されていた、利益誘導の疑いがあるような政策が散見された。例えばカジノの合法化。それから国家戦略特区の中から加計学園の問題が出てきた。そうすると、この政策というのは、本当に国民のためにやっているのだろうか、それとも、特定集団の利益のためにやっているのだろうか、という疑念がたくさん出始めた。これが2015年以降、自民党総裁選を無投票再選して、しかもそれまでに国政選挙で三連勝している。それまでに「驕り」が出てきて、それが政策にも出始めたのではないだろうか、という気がしてならないのですね。

 この「利権の政策化」という言葉が、霞が関で言われるということは、非常にショックなことです。真実がどうかということは分からないことは多いですが、少なくともそう疑われるような政策なり、あるいは振る舞いをしてはいけないはずです。

 本来であれば引き締めなければならない時に、どんどん緩んでしまった。その一方の原因は野党にもありました。この頃の野党はどん底ですよね。相手が全く弱いので、政界に緊張がなくってしまった。そこで第二次政権ができた時に掲げていた高邁な目標があったと思うのですが、それがどんどん後ろに隠れてしまい、「利権の政策化」に向けて小粒な法律がどんどんでき始めた。それが結果的に、驕り、慢心と言われるような政権の姿勢になっていったというような気がしてなりません。

国民の中で進む政治不信と社会の分断といった民主主義の基盤の動揺は、安倍政権下の行動と関係しているのか

工藤:私たちは毎年、民主主義に関する世論調査を実施しているのですが、国民の中に、政党や自分たちが選んだはずの代表を信頼できない、という政治不信の傾向が強まっているのも、この数年の話です。世界では、民主主義の中で社会の分断が起こり、ポピュリズムが生じてきている、これは別の国の話だと思っていたのですが、日本でも分断に近いような傾向が垣間見える状況です。逆に、多くの人々が既存の政党に不信感を持って、ポピュリスティックな言動に心を動かされてしまう傾向もある。

 今はコロナ禍にありますから、堅実で真面目な政治を求める声が戻ってきていますが、何か民主主義の基盤そのものが揺れた時期に重なってきている気がしているわけです。

 このあたりの民主主義の構造と安倍政治の関係を皆さんはどう考えていますか。

吉田:日本政治というのは、ポスト55年体制になって、それまでのコンセンサス型、合意型から対決型になっていった。むしろ、90年代の政治改革で目指されたのはそれだったわけですよね。政権交代がある民主主義という形ですから。しかも、その場合の民主主義としてイメージされたのは、イギリスのいわゆるウェストミンスターモデルというものですが、二大政党制の下で、あるいは保革の大きな二大陣営の下で対決して、政策を競い合って、選挙で戦う。国会のバックドアで決めるのではなく、選挙で有権者に決めてもらう、日本が目指すべき民主主義はそれだと言われていた。そういった意味でも、民主党政権がその最初のモデルだったと思いますけれど、安倍政権もそういった大枠の90年代以降に目指されていた民主主義のあり方のひとつの「赤子」と言ってもいいと思います。

 それとやはり、その後90年代以降、先進国で進んだいわゆる「分断」と言われるものが、「分極化」、遠心的な競争になった。アメリカの共和党と民主党の対立が象徴的です。ヨーロッパでいえばポピュリスト政党と既成政党の対立という形になります。

 それと理由は違うのですけれど、日本も印象としては欧米と相似形に見えるというところはあると思います。ただ、やはり他の先進国と、日本の社会構造が違うわけですから、やや違うところもあると思います。

安倍政権は期待値を下げる行動や不祥事を持ち込み、官邸官僚も横暴な態度が目についたが、コンセンサスを作ろうとした政策が支持を繋ぎとめた

牧原:この問題を考えていく上で今日はまだ出ていない大きな論点に触れますと、安倍政権は、後世にまで残る大きな功績でもある天皇退位の実現と新天皇の非常にスムーズで安定した即位を下支えした、ということだと思うのですね。

 あの時に、今の上皇陛下の退位を求めるスピーチの後、退位に対する支持率が8割近くあったわけです。日本社会では7割から8割くらいの支持があると、ものすごい同調圧力が生まれて、マイノリティの声が抑圧される状況にはなってしまうのですが、それくらいの支持を得るテーマは今回のコロナもそうですけれど、結構多いのです。そういうことが社会にあるはずの分断を見えにくくしている部分であり、そもそも分断が少ないという部分の両方あると思います。

 安倍政権は、それに乗ろうとした部分があった。多くの民意に沿うテーマに乗る部分があった。しかし、安倍さん周辺は憲法改正のように、まさに分断するようなテーマをやりたいと思っていたわけで、この二つの間で揺れ動いていたのだろうと思います。

 政治システムとしては、対決型の二大政党制の仕組みを求めてはいるが、社会構造の中に天皇制という伝統的過ぎるようなシステムもある。それを均すような仕組みというのが、ある種のソーシャルキャピタルとして、連綿として続き、今も厳然としてある。ここの部分をどういう風に見るかという問題です。

 安倍政権の政治のあり方として批判的にならざるを得ないのは、分断型の政治を持ち込んだということです。そういうスタイルでは解決できないテーマの課題があるのに分断の方に持って行ってしまう。地方創生や一億総活躍ってまさに分断ではできないテーマであり、分断というよりは、本来はまさに総コンセンサス的な政策が多いわけです。それがこの政権が、ある種ギリギリの支持を持ち続けた一因だと思います。

 安倍政権はこれからも燻り続けるであろう不祥事を抱え、政治不信を招きましたが、不徹底ではあるけれど、コンセンサスを作ろうとした政策もあったので、これが支持を繋ぎとめる上で効いていた。ただ、我々は、最後は安倍さんが何をどう振る舞うのだろうか、ということを見るわけです。その点でいえば、国会や選挙戦での振る舞いを見ると、しょうがない部分もあるとはいえ、長期政権をつくり上げた世界的なリーダーとしては、期待値を下げるような振る舞いをすべきではなかった。しかもこの振る舞いは安倍さんだけでない。周辺の忖度が過ぎる官邸官僚も横柄、横暴な態度など非常に目に付いた。それがやはり、雑な政策決定となり、人々の不信感も生んでいるということだったと思います。

 最後に、ではそれが無くなれば、そういう官邸官僚が一掃されれば、もう少しきめの細かい政策ができるのかというと、私は必ずしもそうではないのではないかという気がします。というのも、吉田さんがよく言われる世界的なポピュリズムの問題があります。日本では確かに、そういうポピュリズムをなくすようなテーマはありますが、やはり分断を生んでしまうようなテーマもいくつもある。安倍さんは元々そういう右翼的なテーマを求める層を拾って、そこをベースにしながら総裁、首相に登りつめていった。ヘイトスピーチだとか、嫌中嫌韓のような右派的な言説に乗る層というのは、私は日本国民の中にも1割程度はいると思いますが、この人たちは政府が合理的な意思決定をすればするほど、政治システムから疎外されて、もっと暴れる方向に行く可能性がある。

 これからそういう潜在的な分断の要素が噴き出るかどうか、というところを注視していく必要があると思います。安倍さんはそういう層を吸収していましたから、不信感を持たれながら決定的な分断を生まなかったということも言えるかもしれません。

国会に経験が薄い論破型の政治家が急増し、国会が対決の場と化したのは、小選挙区制の弊害と思わざるを得ない

伊藤:私は政治部長の前には国際部長をやっていたのですが、その頃に在京大使館の人や、海外メディアの人によく言われたことは、「安倍政権は長期政権でいいね。日本にはポピュリズムがないからこうなった」と。彼らはそう分析しているわけです。それを聞いていて、若干違和感がありました。よく考えると、我々新聞が「ポピュリズム」という単語を書く時、カッコ書きで大衆迎合と付け加えるのですが、安倍さんも大衆迎合はしているわけです。

 選挙の際には増税など嫌なことは言わない。欧米では、トランプさんなどが象徴的なように不満や不安を煽って、それこそ積極的に分断を図るような大衆扇動型のポピュリズムがありました。日本では確かにそうした動きはなかったのですが、別の大衆迎合はあったので、そこは分けて考えなければならないのでないでしょう。

 それから、民主主義に関して、これは個人的な意見ですが、小選挙区制の完成が今の状況を作り上げたとの発言が先程来出ていますが、小選挙区制というのは実は良くないのではないか、と思うことが多々あります。特に、国会がコンセンサス型から対決型になったと言われますが、これは議論の上でそうなるのであればよいのですが、そもそも議論になっていない。ですから安倍さんも嫌になって国会に行かなくなっている。国会が言論の府として機能しなくなってきている。その一つの要因として、国会議員でそういうマネージメントができる人が減っている、ということがあります。私が若い記者だった頃に、取材した大物議員は、私みたいな若造に対しても「君の言っていることは全部間違っている、勉強不足だから出直してこい」などとは絶対に言わないわけです。「君はなかなか良いことを言っている。分かるけれど、俺はこう思う。どうだ?」などと言ってきて、上手く説得されてしまうわけです。昔はそういうチャーミングな国会議員が多かったように思います。

 ところが、民主党政権ができて以降、「何も分かっていない、出直してこい」という論破型の政治家が急増したんですね。これは今の自民党の当選三回の議員の中にも非常に多い。なぜかと考えたのですが、自民党の当選三回組というのは、実質的には2012年初当選組と言ってもいいキャリアの人たちであるわけです。2005年に小泉首相が郵政解散をして、小泉チルドレンがたくさん当選した。その後、2009年には民主党が政権を取った時には、四人に一人くらいしか再選できなかった。若手が小選挙区で皆落ちたわけです。 

 この2009年には民主党では小沢チルドレンと呼ばれる議員が大量に誕生しましたが、この人たちは2012年に安倍さんが政権を奪還した選挙では十人に一人しか再選できなかった。当選一回生が二回生になれない。キャリアも経験も積めない。国会の中で、経験値が上がらないものだから、どうしても論破型の政治家ばかりが蔓延って、国会が対決の場と化してしまった、という気がしてならないわけです。ですから、この選挙制度自体も、若干見直す余地があるのではないか、と最近は思っている次第です。

工藤:今のお話とつなげていくと、我々は毎年の世論調査で、様々な日本のシステムに対する信頼度を尋ねています。「天皇・皇室」に対する国民の信頼が突出していて、9割くらいの人が「信頼している」と回答しています。それに対して、「政党」を信頼しているという人は1割台。「国会」も2割から3割程度です。「メディア」も低い状況です。これは日本だけではなく、世界でも同じような傾向が見られます。

 政党に対する信頼が非常に低い中、その中で次期首相を選ぶという作業は国会議員だけで行ったので、政党への国民の信頼を見直す、重要な機会を失ったと私は非常に残念だと思っています。ただ、そこでスタートした政治が、まさにこれからの日本が抱える色々な政治課題、民主主義という課題も背負っていくことになります。

 次の政権にはどういう政治を実現してもらいたいと考えているのか、ということを最後にお聞きしたいと思います。

後半に問われたのは内閣の責任であり、次期政権に問われるのも政治の責任をどう全うすべきかである

牧原:内閣の責任とは何か、ということを与党と政権は考えなければならないと思います。やはり責任ある政治というものが安倍政権の後半では問われていましたから。この政治責任の問題をどう全うするか。これは単に辞めるか辞めないか、という話ではなく、合理的な意思決定を専門知に基づいてすることができるか、ということです。

 最後に、今の伊藤さんの話にもう一つ付け加えると、安倍政権の中でほとんど聞かれなくなったけれど、かつてはよく聞かれた言葉として「世代交代」があります。政治の中では世代交代というものが本当になくなりましたが、今後は必要です。特に情報化の進展で社会が大きく変わっていますから、若い世代がどんどん声を出していく。そのツールは様々なものがあるわけですから、是非、世代交代を進めてほしいと思います。これは与野党ともにです。

民主主義政治で大事なのは「信頼」でり、政治がどう「信頼」を回復するかは、今後の日本政治に突き付けられた課題

吉田:工藤さんが言われた「信頼」というキーワードですが、やはり民主主義政治においてはこの信頼は非常に大事です。代表する者とされる者の間での信頼は不可欠です。それがあると、例えば国会でも互いに言質取りをしたり、揚げ足を取ったり、あるいは伊藤さんが言われたように論破したりということなくなり、説得し合うという関係性が出来てくる。信頼がないと、政治家同士、あるいは政治家と有権者の間で、どうしても丁々発止でやり合ってしまう。相手のミスを許すことができず、いつまでも「あの時こう言ったじゃないか」と罵倒し続けてしまう。そうすると、民主主義全体が痛んでいく、ということになってしまいますので、信頼をどう回復していくのか、ということは、個々の政治家が考えなければならない仕事になると思います。

 もうひとつは、ポストコロナです。ポストコロナの社会をどうあるべきか、という社会構造、国家構造を考えてほしいですね。おそらく、今の日本では、様々な社会慣習や、現状維持志向といったものは、ポストコロナを乗り越えるためには障害になって行くと思います。安倍政権が長期政権になったのはそれなりの理由があって、何となく皆が考えていたところにうまく乗っかった、問というところがあったと思います。

 ですから、そういった社会の旧来的な慣性、モーメントみたいなものをどういう風に政治の力で変えていけるのか。それによってポストコロナの時代において、強靭でレジリエンスある社会をつくっていけるのか、という構想を示していただきたいと思います。

新政権は、着実に実績を重ねながら、将来像を示して、その上でしっかりと国民に信を問うべき

伊藤:菅義偉さんが次期首相になりましたが、安倍政権がやってきたスタイルのど真ん中にいた方ですし、しかも彼がやってきたのはトラブルシューティングが主で、あまり表では大きな声では言えないようなことをしっかり処理してきた人が、今度は表に出てきた。

 出馬の記者会見では「国民の信頼を得る」ということをおっしゃっていましたが、そのために必要なのはまず透明性ですよね。それから公正であるということ。「利権の政策化」等と言われないような、きちんとした佇まいが必要です。政治姿勢としては、そういうことをしっかりとまず示していただきたい。

 それから、来年の9月にはまた総裁選があります。とりあえず1年の暫定政権だというようにも言われますが、おそらく菅さんはそんなことは考えていないのではないかと思います。ただ、そのわりにはこれまでの記者会見なり、討論を見ていても、言い方は悪いですが、小さな政策や小さな実績をたくさんお話になっているのですが、長期的にどうしたいのか、あるいはポストコロナはどうあるべきか、という話はほとんど語られていない。ですから、まずはそこを語っていただきたいところです。

 菅さんが長期政権をつくろうとするのであれば2つしか方法はない。すぐに選挙をするか、それとも実績を挙げた上で、来年もう一回総裁選で勝って、それから選挙をすることです。今選挙をすれば投票率か下がりますから、自公には有利ですよね。もしもそういう発想で動いてしまったとしたらそれは残念ですよね。そうではなくて、着実に実績を重ねながら、将来像を示して、その上でしっかりと国民に信を問う、というようなスタイルを見せてくれたら、期待できる政権になるのではないか、と思います。

工藤:7年8カ月という非常に長期になった安倍政権をどう全体として評価していくべきか、という大きなテーマに今日は取り組みましたが、最終的には、時間軸だけではなく、民主主義も含めた、幅広い統治構造の課題について議論ができたと思います。今日はありがとうございました。

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