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【朝日新聞】 論壇時評 ポピュリズム「プロの評価低い現政権 『悪』との戦い支持呼ぶ」

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2003/10/27 朝日新聞夕刊

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自民党総裁に再選された小泉首相のもとで総選挙が行われる。論壇雑誌にもたくさんの文章が並んだ。だが、それらを読むかぎりでは、どうしてこの首相が支持されるのか、まるでわからない。

工藤泰志+政策評価委員会は、細目にわたって小泉改革に評価を行っている(「小泉改革を採点する」論座11月号)。この工藤グループは小泉改革の目標には好意的だが、現在の成果については厳しい。目標はともかく「首相の指導力は必ずしも十分ではなく」、経済改革についても「中小企業に対する過度の信用保証や政府系金融機関の関与などが進められ」、「金融の国有化が広範に進んでいる」。これでは良い成績といえないだろう。

 


「首相には哲学がない」

小泉改革に好意的な学者ばかりではない。たとえば竹森俊平は、景気回復は構造改革の成果だという議論に対し、「コンビニで医薬品が買えるようになったといった改革案を……目玉商品としてあげる程度で、日本経済の回復の決め手となるどういう構造回復がなされたというのか」と言い放ち、デフレ傾向を強める世界経済について小泉政権の認識が足りないと批判している(「小泉再選の恩人、その人の名はグリーンスパン」諸君!11月号)。

佐和隆光も、「構造改革が景気回復の必要条件」だと考える小泉政権は間違っており、「景気回復が構造改革のための必要条件」だ、改革を急ぐとその痛みがひどくなると指摘する(「改革の手順とテンポが間違っている」世界11月号)。紺谷典子はさらに激しく、「小泉政権が続くなら、日本経済がぶっ壊れるのも時間の問題であろう」とまで言い放っている(「『ぶっ壊した』のは日本経済だ」世界11月号)。

政治業界のプロを見ても、小泉首相を評価する声は少ない。朝日新聞出身で、政治記者の長老ともいうべき国正武重は「郵政三事業や道路四公団の民営化も大事かもしれないけれども、枝葉末節だ。二十一世紀の日本をどうするのか。首相には哲学や理念がないのではないか。ただぶっ壊せばいいとしか聞こえてならない」という古賀誠の発言を引用して、「これは正論だ」と持ち上げている (「座談会 頂点を極めたポピュリズム政治 小泉自民党よ、政策で勝負しろ」中央公論11月号)。この古賀発言について、国正に続いて毎日新聞の岩見隆夫は「いいこと言うね」といい、読売新聞の橋本五郎も「その通りだね」と賛成している。代表的な政治記者三人が揃って、小泉首相には哲学がないと判断したことになる。

こうしてみると、小泉改革の議論は、目標はよいが成果は不十分だという指摘と、目標は不適切で成果もないという主張の二つしかないようだ。経済のプロも政治のプロも、この政権への評価は、ごく低い。

 


善玉・悪玉の二原元論

それでは、その首相がどうして支持を集め、自民党総裁に再選されたのか。これを説明する概念として論壇雑誌に溢れているのが、ポピュリズムであり、劇場政治である。

ポピュリズムとは、国民大衆への迎合を優先する無責任な政治指導を指す言葉として用いられることが多い。だが政治学者の大嶽秀夫は、アルゼンチンのペロンやアメリカのマッカーシー、レーガンなどの例を引きつつ、「政治を利害対立の調整の場としてではなく、善悪の対立という言うモラリズムの観点から、しかもドラマとしてみるという特徴」をこの概念から引き出している(『日本型ポピュリズム』中公新書)。

ポピュリズムの下では、政治争点が単純化・道徳化され、善悪の二元論に基づいた争いが展開される。このポピュリズム概念は、政治記者による小泉政権の捉え方と重なるものといっていいだろう。特権や既得権益を手にした「悪者」に対して、国民のモラルを体現した指導者が戦いを挑むという構図である。

大嶽は、小泉政権を「日本におけるネオ・リベラル型ポピュリズム」と呼びつつ、アメリカのポピュリズムを体現したレーガン大統領と比較して、二つの重要な違いを指摘している。まず、新自由主義思想を背景とするレーガンと異なり、小泉首相には哲学や思想よりも官僚や公務員への批判が中心にあるという。また、「テレビを通じた大衆へのアピール」を使う「劇場型政治」では同じでも、小泉首相は「ワン・フレーズで同じことを繰り返す」スタイルをとっている、と大嶽は指摘する。

こう書き写していると、レーガンだったら良かったのか、などと意地悪を言いたくはなる。だが、やはり大嶽のポピュリズム論は現代民主主義における政治指導を捉えた指摘として注目すべきだろう。但し、この本の末尾には賛成できない。「マスメディアによって、あまりに『道徳主義』化し、善玉・悪玉二元論に固まってしまった有権者の判断を、成熟した大人の『現実主義』によって、克服すべきときがきている」と大嶽は指摘するのだが、ポピュリズムから脱却する道は果たして「現実主義」なのだろうか。

 


エリートの信用喪失

ポピュリズムは政治権力への不振によって広がる現象である。伝統的利益配分の仕組みが幻滅しか与えないからこそ、この仕組み全体の破壊に賛成する国民も生まれるわけだ。とすれば、ワイドショーをはじめとしたマスメディアの姿勢を問うだけでは問題は解決しない。

ポピュリズム批判には、「愚かな国民」に対するエリートの優越感を感じさせるものも少なくない。そのエリートたちが国民から信用を失ったという現実に取り組まなければ、現状破壊を訴えるだけで支持を集めるようなポピュリストがなくなることは期待できないだろう。

(国際政治 東京大教授 藤原帰一)

 


私が選んだ3点

北田暁大 東京大助教授(社会学)
▽ 姜尚中「恩讐を越えて」(情況10月号)
▽ 雪竹太郎「東京都・ヘブンアーティスト制度についての私の見解」(現代思想10月号)
▽ ダグラス・ラミス「国家と戦争」(技術と人間10月号)

時に「健全な」とも形容される市民・国民主義と、そこから排除されるオルタナティブな市民主義との対立を、姜は鋭く剔出。深刻なのは、国家を触媒として擬制される市民vs市民の対立なのだ。雪竹は 市民・都市の「間」に位置する大道芸人を、官を介して「健全化」せんとする欲望への徹底抗戦を呼びかける。ラミスは市民/国家の外部に位置する無法の場=グワンタナモ基地の創出が、アメリカ的「帝国」の基本戦術であると説得的に論じる。市民・国家・外部の捩れた関係が、新たな政治的アジェンダを形成しつつある。

 


斎藤誠 一橋大教授(経済学)

▽ 工藤泰志+政策評価委員会{小泉改革を採点する}(論座11月号)
▽ 藤本隆宏「『ものづくり日本』国家戦略論」(文芸春秋11月号)
▽ 大朏博善「中国がトイレ紙を使い果たす日」(文芸春秋11月号)

有権者による公約の綿密な検証があってはじめてマニフェストの実効性も担保される。工藤氏らの検証作業は日本におけるこうし嚆矢的な試みといえる。藤本氏は「統合型組織」による「擦り合わせ型製品製造」という得意分野を後押しする産業政策を提唱している。優れた実証的蓄積のある論者による地道な政策努力の薦めである。大朏氏は、中国の紙需要急増で古紙市場がひっぱく逼迫する様を伝えている。それにしても、最近の商品市況全般の上昇は気にかかる。こんとん混沌の時代で「平和の配当」を享受できない日本経済は苦しい。

 


吉澤夏子 日本女子大教授(社会学)

▽ 田口亜紗「岩月教授は、女のどこを見ているか」(諸君!11月号)
▽ 柳田邦男「精密検証『小泉以前』と『小泉以後』」(文芸春秋11月号)
▽ 赤瀬川原平{おっかなびっくり『きれいな死体』を見てきた}(現代11月号)

ここ数年、男/女の単純な二分法によって性差や恋愛を論じるハウツー本の類がベストセラーになっている。田口はその急先鋒である岩月謙司氏の論考を周到に批判。若い女性の生態をめぐるクールな社会分析としても説得力がある。柳田は日本を覆う「漠然とした不安」のありかをグラフや数値で淡々と検証し、小泉政権2年半の深刻な社会状況を浮き彫りにする。赤瀬川は東京国際フォーラムで開催中の「人体の不思議展」リポート、人を哲学的な思考に駆り立てる身体の物質性の「凄さ」を実感させられた。

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