米・イラン戦争はなぜ終わらないのか――機能不全に陥った和平合意と中東秩序の行方
言論フォーラム「機能不全に陥った暫定和平合意、米国・イランの今後はどうなるか」

617日に米国とイランの間で暫定和平合意が成立した。しかし、その後も攻撃は止まらず、戦闘は再燃した。合意はなぜ機能しなかったのか。そして、米国、イラン、イスラエルはこの戦争をどこまで続けるのか。

731日の言論フォーラム「機能不全に陥った暫定和平合意、米国・イランの今後はどうなるか」では、笹川平和財団和平調停センター主任研究員の青木健太氏、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授の田中浩一郎氏、東京大学大学院総合文化研究科特任准教授の鈴木啓之氏がこの問いをめぐって議論した。

3氏の見方が一致したのは、6月の暫定和平合意が戦争を終わらせるには不十分であり、今後も戦闘が長期化する可能性が高いという点だ。合意は重要な論点を先送りし、履行方法も曖昧なままで、米国とイランの根本的な対立を解消するものではなかった。また、軍事攻撃によってイランが弱体化していることは確かだが、それが直ちに体制崩壊や降伏につながるとの見方も3氏は取らなかった。イランには抵抗を続ける力が残る一方、米国側にも軍事力だけで決定的な勝利を実現する展望はなく、双方が決着をつけられない状態が続く可能性がある。

さらに3氏に共通していたのは、この戦争を米国とイランだけの問題として捉えるべきではないという認識だ。米国が圧倒的な力で地域秩序を形成する時代は揺らぎ、中東各国がそれぞれの国益に基づいて動く新たな秩序への移行が始まっている。その中で日本にも、米国の同盟国という立場だけに依存しない主体的な外交戦略が必要だとの認識で一致した。


参加者:青木健太(笹川平和財団和平調停センター 主任研究員)

    鈴木啓之(東京大学大学院総合文化研究科特任准教授)

    田中浩一郎(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)

司会者:工藤泰志(言論NPO代表)



I「合意」は最初から合意になっていなかった

 

暫定和平合意がなぜ崩れたのか。田中氏の説明は「そもそも合意すべきような内容でないところで、トランプ大統領が署名してしまった」と明快だった。さらに田中氏は、「そもそも折り合っていないものを折り合ったかのように署名したことも問題」だったと指摘。双方の主張がすれ違ったままなのに、合意が成立したかのような形をつくってしまったとの見方を示した。

青木氏も、覚書は「多くの不安要素を抱えている内容」であり、「重要な決定事項を先送りしていた」と分析。内容を見ると、経済制裁の解除、レバノンを含む全戦線での戦闘終結、在外凍結資産の解除、3000億ドル規模の復興計画など、イラン側にとって有利な項目が並んでいた。一方、米国が得た中心的な項目は、イランが再び核兵器を調達・開発しないという趣旨の文言だが、元々イラン側も「核兵器の開発はしないと言っていた」と青木氏は指摘。イラン側から見れば「完全勝利と言ってもいいような内容」だったと評した。

しかし、より大きな問題は、書かれている内容が実際にどう履行されるのか、その核心部分が詰められていなかったことだ。例えば復興資金について、田中氏によれば、米政府は自ら資金を拠出するのではなく、民間や湾岸諸国が出すという説明をしていたが、「誰からどこから出てくるかなんてこともまるっきり分からない」状態。仮に資金が出なくても、米政府の責任ではないという余地が残されていた。

ホルムズ海峡の扱いでも認識のずれが表面化した。覚書の文言から、イラン側は自国が海峡の管理を担うと理解した。一方、米国は国際海事機関やオマーンを関与させ、別の航行ルートを設定した。これをイラン側は合意違反と受け止めたという。