急速に広がるESG投資は、資金、企業行動の変容でもまだ不十分

ESG投資は世界の企業行動を本当に変えたのか

出席者:白井さゆり氏(慶應義塾大学総合政策学部教授)

    德島勝幸氏(ニッセイ基礎研究所研究理事)

    根本直子氏(早稲田大学経営管理研究科教授)

司会者:工藤泰志(言論NPO代表)

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工藤:言論NPOの工藤です。私たちが行っている言論フォーラムは、世界や日本の最先端の課題について議論していきます。(今回のテーマである)ESG投資とは、社会環境に配慮する企業に対する投資のことで、社会的な責任を問う投資家の行動が企業に対するプレッシャーになっています。3500兆円を超えているという話もあります。また、本当に資本主義や地球の未来に積極的な役割を果たせるのかという問題があります。

 そこで今日は3人の方と議論を行います。まず、白井さゆりさんです。慶應大学総合政策研究学部の教授です。次に、根本直子さんです。根本さんは早稲田大学の経営管理学部で教鞭を取られています。最後に、ニッセイ基礎研究所ESG推進室長の徳島勝幸さんです。

 まず伺いたいのは、ESG投資額が世界の中で急増していることについてです。その理由は何なのか、またこの投資が地球環境を考えるために企業の行動を変えようとしていますが、どのように変わってきているのかについてお聞きしたいです。

投資額は急増だが、SDGsやパリ協定を達成するにはまだ不十分

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白井さゆり:ESGの金額は確かに急増しています。欧州では以前からESG投資はあったのですが、SDGsやパリ協定があったこと、そして2018年にIPCCが「2050年前に温室効果ガス排出量をネットで0にすることが地球温暖化を1.5度に抑える」ということを示したことで、多くの国が2050年ネット0を意識し始めて、野心的な排出目標を出し始めました。それとESG投資が一緒になって、政府などのコミットに対して企業に行動を迫る動きが強まりました。

 ただ、金額が3500兆円くらいあるといっても、一般のローンに比べてグリーン関係の資金はものすごく小さいです。ですから、SDGsやパリ協定を達成するには資金が足りないのが現実です。

 また、グリーンボンドなどをみてもそうですが、今のところは投資家の方が多い状態で、需要超過になっています。グリーンボンドを安く調達できる状況、つまり企業側のグリーンプロジェクトなどが少ないということです。

 最後に、確かに企業の行動は変わってきています。少しずつ変わってきているのは事実ですが、SDGsやパリ協定を達成するには、まだ足りない状態です。

工藤:企業が温室効果ガス排出にどう関わっていて、それをどう減らしていくかに関して分析と評価をする、企業行動やガバナンスが変わっていると言われています。世界の企業はどう変わっているのでしょうか。

投資家が企業を変えたが、本当に行動を変えたのかは濃淡がある

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根本直子:根底には、格差問題や気候変動など、社会の負の外部性が拡大して、今の仕組みではどうにもならない、という問題意識があります。それは良い面です。

 もう一つには、政治の動きがあって、バイデン政権になり、ESGを後押しする政策が取られるようになってきているので、そこで利益を得たいという意図を持つ人々が多いこともあるのかと思います。アメリカの経団連に類する団体が、「短期的な株主至上主義を脱却します、もっと社会に貢献します」ということを2019年に明らかにしたということもありますし、ブラックロックに代表される大きな投資家が表明している。株主第一主義から、多様なステークホルダーを考え、それに対する株主提案に賛同するようになったということが大きな変化です。ですから、投資家がまず変わり、その後に企業が変わったということです。

 しかし、姿勢は変わっているが、本当に行動にまで変化が及んでいるのか、そしてそれが社会全体に波及しているのかというところには濃淡があります。

工藤:徳島さん、世界の企業行動はどう変わったのですか

強い信念に支えられたESGは短期的なブームでは終わらない

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徳島勝幸:ESGは新しい概念であるようで、決して新しい概念ではないのかなと思います。日本でも1970年代くらいから、「宇宙船地球号」というような表現もされたと思います。地球という一つの星の上にいる企業・自然が暮らしていくためにどうあるべきか、という考えから出てきたものです。確かに1970年代には日本では公害という形での外部不経済が顕著になりました。それを反省して、やっぱり環境を意識する系のものが出てきています。

 すなわち、資本主義で収益だけを追求していくと、株主だけの利益を追求することの弊害がありますから、幅広くステークホルダーの利益を考えるのがESGだと思っています。ここ数年顕著になってきていますが、大きな流れで、高度経済成長のあとから出てきている資本主義の負の部分を是正する動きであると私は理解しています。それをやらないと、誰かが不幸になる。それではいけないんだと。やっぱりみんながより良く、より幸せになる道を探していく、といったことがESGの基本的な思想であると思います。

 ヨーロッパではESGに関して、強い信念、信仰的なものがあると思います。私も社内のレポートで「狂信的だ」と書くとチェックが入りました。「みんなのため、地球全部のため」というのがESGの強いところですので、ESGという概念が、ただ短期的なブームで終わるものではないと考えています。

工藤:ESG投資の意味が、これまでフリーライドしてきた外部性に対して対応することで、企業行動のあり方を変える、ある意味で革命的な大きな展開が始まっていることが分かりました。

 一方で、この問題が加速したのは地球温暖化という問題があります。IPCCのレポートでも、1.5度はもう上回ってしまうという話が出ました。こうなってくると、地球は持たないという考えの中で、企業投資を構成し直さないといけないという問題があります。グローバリゼーションやマーケットを将来に向けて見直していくことが必要だと思います。地球温暖化という問題でESG投資は加速しましたが、温暖化のスピードが早い。果たして間に合うのでしょうか。

企業をESGだけで変えるのは無理、まずは政府が本気を示すこと

白井:まず前提として、CSRとESGの違いを言っておきます。江戸時代から日本企業には「お客様、社会のため」という意識があります。利益の一部を社会的なものに奉仕する、例えば、植林をするとか地域の運動会をするとか企業が色んなことをやっていますよね。

 ESGは少し違っています。ESGは利益の一部を還元するより、企業のビジネスモデル自体を見直す。温室効果ガス排出量が多くないか、プラスチックを作りすぎていないか、森林破壊をするような原材料を使っていないか、というようにビジネスモデルそのものの改革を迫るものなので、いままで日本の企業が持っていたCSRよりもはるかに根底から企業の行動を変えなければいけないという厳しいものです。

 その上で、企業の行動はあまり進んでいません。だからこそ、グリーンボンドというものはありますが、発行額は少ないままです。その中で投資家の方の意識が先に高まっているので、グリーンボンドを発行すると超過需要の状態で、企業行動を変えるところまで行っていないのです。

 ではなぜ気候変動などで企業行動が進まないかといえば、コストがかかるからです。例えば、日本の電力料金は世界の中でも高いのですが、その高い中で再生可能エネルギーを増やすとなると、風力発電などの莫大なコストがかかります。企業の方も太陽光パネルを設置するとか、お金がかかる。それから大豆やパームオイルを輸入しなければならないとなると認証を得ないといけない。となればどうしても短期的にはコストがかかります。企業は自らの利益が短期的に減ることを躊躇します。

 それから投資家はESG投資だけではないです。短期的な投資家もたくさんいます。当然彼らは毎年企業がROE等の十分な利益をあげてほしいと思っています。そういうときに企業が「再生エネルギーは大切だからその設備投資をどんどんする」と言っても、短期的な利益が下がるとなると、投資家はそれを許しません。 だから企業は毎年利益をしっかりと出さなければいけない。しかしその一方で企業は新しいエネルギーに変えないといけない中で、なかなか思い切った投資ができません。これが現状です。

 欧州の場合は、EUなどの政府のリーダーシップが強く、そのなかで企業を引っ張っていく状態になっているから企業の行動が変わっているのです。ESG投資だけで企業の行動を変えるのは無理がある。まずは政府が約束したネット0を真剣に達成するという意欲を見せて、政策をやっていることを示さないと、ESG投資だけで企業行動を変えるのは難しいのが現状です。

工藤:国連のイニシアチブで見ると、社会的責任の原則というものに署名した機関投資家が世界では4000社ある。4000の投資家がいるわけです。根本さんが今関わっているGPIFもそこに署名していますよね。そうした投資家が企業の行動を変えていこうとしているのですが、そこで対話をするプロセスが進んでいると聞いています。それは世界的にみてどこまで進んでいるのですか。

 直接的な排出だけでなく、間接的なものやサプライチェーンといったものまで把握して、それを表に開示して、場合によってはパリ協定と連動する目標を立てて動いている企業もあると聞いています。日本ではまだそこまで行っていないと白井さんはおっしゃいます。根本さんはどう思われますか。

リスクを開示することが第一歩、そこから徐々に変えていくべき

根本:機関投資家がどう動いているのか、GPIFではインデックス投資をやっていて、これは2020年度末で11兆円ですが、炭素効率性が良い企業とか、女性活躍をしている企業とかESG要因で優れた企業を選んでそこに投資しています。それはすごくアナウンスメント効果があるので、企業はそこに選ばれたいと思います。そして継続的に株を買ってもらえれば、株価が上がり、評判も良くなる。投資家がイニシアチブをとって企業行動を変えてきた例だと思います。

 もう一つ、日本企業の開示や対応が十分かと言えば、TCFDという気候変動のリスクを開示する世界的な基準があるのですが、そこに賛同した企業は、日本が一番高く、製造業の企業が多く賛同していて、すでにいろいろと情報を開示しています。それをアセットのある機関が評価しているのですけど、完璧を求めてしまうとパリ協定に沿った計画ではないので、判定することが難しいという批判はあります。開示している企業ほど実質、CO2削減が連動しているという分析もあります。開示して何もしないではなく、開示すること・リスクを認識することが一歩でそこから徐々に良くなってきているということはあるのかなと思います。

工藤:日本企業は登録している企業は多いのですが、欧州の企業のようには動いていません。それをどう判断すればいいのでしょうか。

日本企業もESGを意識した経営への転換はもはや避けられない

徳島:グローバリゼーションは企業にとっても投資家にとっても進んでいます。つまり、ESG投資という意味では、例えばGPIFというのは世界最大の機関投資家の一つと言われていますし、ヨーロッパに子会社が進出しているところは、EUのESGタクソノミーを遵守するだとか、サステナビリティにも今回指針が出ていて、そういったものをしっかりとやっていかなければいけません。ヨーロッパ市場に関与している企業は当然全部やっていかなければなりません。

 それと同時に、アメリカのESGはスコアリングのESGであり、ESGといっても色んな指数の評価があって、それをもとに投資家が進めていくという感じです。そういった意味では、投資家がESG投資を進めることによって、企業もESGを意識した経営をやらされているといった方が正しいかもしれません。

 政府やそういったところのコントロールも必要ですが、ルールベースのみではなく、投資家が市場で動かしているというところが現在あるESGの特徴だと思います。日本の大手上場企業の方もかなり真摯に向き合っています。彼らにとって、日本の株式市場は、三割が海外投資家なので、このような状況では、海外のESG評価が良くないと投資先から外されてしまうのです。なので、専門の部署を作り、サステナビリティレポートを出すなどの動きがどんどん進み、日本のESGは、企業側からも投資側からも遅まきながら進んでいるし、進まないといけない状態にあります。

工藤:白井さん、先ほどはCSRとESGの違いを説明いただきありがとうございます。その上で、日本の企業はCSRの頭から切り替わっていないという風に見ていますか。それとも頭は切り替わった状況なのでしょうか。

日本企業は上場企業でも大手と中堅以下では温度差がある

白井:上場企業でも、大手のところと中堅とありますが、大手のところは世界の投資家が見ていますから、しょっちゅう直接会って対話をし、また投資家は書簡を送って、回答を求めるとかやっている。大きいところには圧力がすごいのでやっています。

 そうではない中堅以下のところは、投資家の姿勢が直接わからなくて、「環境が重要になっているな、やらないと」いう漠然とした問題意識になっています。そこは政府が情報開示を行わなくてはいけないところです。コーポレートガバナンスコードなどはイギリスのやり方を参考にして金融庁が導入したもので来年の東証のプライム市場に、気候変動の情報開示を入れています。

工藤:政府は2030年度の温暖化ガスの排出量を13年度比で46%削減する、という目標を出しています。一応、目標は出たのですが、それが実現できるのかという問題もあります。白井さんはそれをどう見ていますか。

白井:すでに多くの専門家がそれに対してコメントをだしているのですが、46%の目標は2050年で排出量をネットで0にするという意味では良かったのですが、再生エネルギーが今18%しか電力でないのを、38%までやると書きました。しかし、20%は原子力発電となっています。これは現在稼働している9基の原発を27基まで再稼働するのが前提になっています。それができないと、再生可能エレルギーもさらに上乗せしなくてはならない。その先が見えないというのが課題です。

工藤:削減目標が先にあって、その後、エレルギー目標で調整したため実現性が見えていないという話ですね。

徳島さん、ESG投資に話を戻しますが、企業が外部性としていた自然環境とか社会環境を考えないと、企業も経営ができない状況になり始めている。地球環境はその最大の限界なのですが、こうした外部性の対応するために経営モデルを抜本的に変えるとなると、これまでの企業モデルを変えることになる。つまり、株主だけを見るのではなく多様な利害当事者を意識した経営であり、これは資本主義のあり方を変えることに大きな意味があるとおっしゃっていました。

ESG投資は、企業が誰のものか、資本主義のあり方を変えるというきっかけになると考えていますか。

ESGは米国型の収益第一の資本主義を変質させていく

徳島:単なる収益とは全然違うところ。白井先生はコストを払ってまでESGをやるべきだということをおっしゃいましたけど、私もそのように考えています。企業経営を、利害関係人を含めて考えていくわけですので、米国型の収益第一主義からは変質していくと思います。そうでないと、今の日本だけではなく、世界的な社会・経済の仕組みが持続可能ではないのではないか、と考えるのがESGだと思います。

工藤:根本さん、先ほどアメリカの経団連のような団体の話をされていました。株式資本主義の牙城と見られたアメリカでも、ステークホルダー的な展開に企業経営が変わろうとしているということですか。

格差を背景に米国の投資家も変わりつつあるが、揺り戻しはあり得る

根本:そう思います。長年アナリストをやっていますが、経済団体の発言にしろ、投資家団体の発言にしろ、コロナで経営が厳しくなったときに、「外部流出よりも従業員の福祉安全を考えろ」と投資家が団体として発表するのは初めてで、これは大きな転換点だと思いました。その背後には社会問題や格差問題が無視し得ない状態になっていることがあると思います。

 注意するべきことは、現在はバイデン政権なので少し違うのですが、トランプ政権の時期は、アメリカの年金に対しても、リターン重視というような解釈・流れがあったので、揺り戻しというか、全ての人が一枚岩ではないと思いますが、方針が行ったり来たりということがありますよね。アメリカは気候問題や貧困問題に企業が関わるのはいかがなものかと考える人もいますので、それも念頭に置く必要はあります。

工藤:今まで企業がフリーライドできていたものがフリーライドできなくなったと。この状況が進めば資本主義のあり方についても大きな一石を投じることになるのではないでしょうか。

 ただ分からないのは、地球環境というのは世界共通の課題で、現に危機が迫っているのですが、ESGのSというのは社会の問題で、例えば人権問題が入ってくると、価値観が異なる国が現れてくる。中国では新疆ウイグルの問題があり、非人道的な労働があったということで、ESG側が企業に圧力をかけましたが、それを支持した企業が中国の消費者の反発があり、企業は中国市場を認めざるを得ない状況があります。Eはわかるのですが、ESGのSにおいて、世界の大きな価値観の分断などがぶつかってくるように思いますが、それがこの投資の成長制約にはなりませんか。

人権問題では国の名前を出して批判をすることが難しくなっている

白井:社会の問題の前に資本主義のことについて申し上げてもいいですか。実はですね、ESG投資を考える時に、投資家以上に活躍しているのは、世界のNPO・NGOです。彼らはお金を持っているわけではないので、少数株主となって、色々な企業の株主提案をします。日本でもメガに対して去年と今年行われましたが、その役割が重要です。彼らが非常にアクティブで、自分たちで企業に、銀行に気候変動を頑張るように迫る、ということをやっています。

 日本はせいぜいこうした株主は30%の支持率なのですが、アメリカや欧州は50%から70%くらいまでいきます。外国投資家の株主比率の違いがあります。欧米の方が株主を通して企業の行動を変えやすいというところがあります。

 もう一つ、資本主義を突き詰めていくと、過剰消費・過剰生産をするな、過剰投資をするなということで、成長を抑制します。ここにESG投資の担い手である保険会社や年金基金とNPO・NGOの大きな違いがあります。機関投資の方はリターンが必要なので、そこまで言いません。突き詰めるとそこに異なる意見が併存しているのが現実です。

 世界第2位の国の人権問題は難しい問題です。大きな企業はどこも中国に進出しています。これまでも積極的に人権問題に介入してきましたが、大国の方も名指しされるのは嫌なわけです。今までは欧州企業やアメリカ企業が名指しして、その問題には関与していません、と言っていましたが、最近は名指ししません。だからといって人権に関心がなくなったわけではなく、デューディリジェンスが行われています。とりあえずESG投資家は、そういった進出企業に対して、「強制労働に関与していないかのチェックをしてくださいね」ということは言っています。なので、なくなったわけではありませんが、全面的に名前を出して批判するのは難しくなってきています。

工藤:根本さん、ESG投資ではなく、EG投資に変えた方がこの投資は増えるようには思いませんか。やはり、Sは大切ですか。

Sは人権問題だけではなく幅広い社会問題、中国も否定はしていない

根本:人権という政治的に使われている、ないしは政治的な問題がESGを難しくしているのはわかります。しかし、Sは人権問題だけではなく、inclusivenessやdiversityなども含まれています。中国もSを否定しているわけではないのです。中国でもESG投資は奨励されています。ただ、人権の部分は確かに弱いというか、真っ向からは否定していません。一方ウイグルの強制労働問題など世界の投資家や購買者もそれを気にしていて、政治的にも言われているというのは、政治問題となっているのは事実だと思います。

工藤:みなさんはESG投資の今後になにを期待しているのでしょうか。この実験というのは、地球の未来にとっても非常に大きい問題だと思っています。徳島さんはどのようにESG投資の将来について期待されていますか。

Eを突出させず、sustainableのSを重視すべき

徳島:ESGに関して、私は「E」というのが目立ちすぎていると思います。確かに、北米の西海岸で熱波が出たり、ギリシャやトルコで山火事が発生していたりします。しかし、私は一番大事なのはSだと思っています。Sは人権等の文脈もあるのですけど、Eの部分も含んでいるんですね。SはSocial だと思われる方が多いと思いますが、私はSはsustainableであるべきだと思います。ESG投資とSDGs投資を考えたときに、Eも含めたSが前提だと。そう考えると、ESG投資というのは一時的なブームではないし、市場主義経済にとって必要なものであるべきだと思います。

 Eについてはこの後なにが起こるのか分かりません。ここ数年温暖化などの現象、熱波や干魃は見えています。例えば、1991年に、フィリピンのピナツボ火山が噴火したあとに冷却化したんですね。そのように今後地球が冷却化する可能性もあるんですね。ただそれは一時的な現象です。14世紀からLittle Ice ageを向けて、テムズ川が凍結したり、NYのマンハッタン島の海が凍結したりということがあるので、Eの変化に一喜一憂することなく、sustainabilityを突き詰めていくことがESG投資の将来を考えていく上で必要だと考えています。

EもSもバランスを取り、主体的に取り組む必要がある

根本:徳島さんがおっしゃったようにEが強調されすぎているのは事実かと思います。今年、住友商事が株主提案を受けてパリ協定に準じたものを定款に入れました。しかし、会社の根幹ではないのではないかなと思います。経営者はSもGもいれて、バランスをとって行うべきだと思います。受け身的なものではなく、主体的であるべきだと思います。そのように変わっていく必要があると考えます。

 主体的に自分の企業の価値をどう創造し、発信するのか、日本の企業は下に見られていることもありますが、環境面の技術、安全面の良い技術を持っているので、それを積極的にアピールし価値創造を伝えていけるといいのかなと思います。

工藤:根本さんは、企業は主体的に価値を創造していくべきとおっしゃいました。白井さんはどう思われますか。

内実を備えたグリーンでなければ意味がなく、データ開示は必須

白井:ESG投資はこれからも増えてきますが、多くの投資家が気にするのはグリーンウォッシングです。パリ協定に合わないようなものもグリーンと言われています。だから実際は先ほど3500兆円と言いましたが、それがどれだけインパクトがあるかというと、それは別問題です。

 そうした問題を解決するには、グリーンが何なのか、トランジションが何なのか、活動を明確にする必要があって、それがあってこれは信頼できる、となってくるので、データをしっかりと開示する。グリーンが何を意味しているのか、例えば、それがパリ協定とどういう関係があるのか、そこをはっきりしないと必要な要項に満たないということが起こると思います。ESG投資自体は増えても、必要な額に満たないという現状が続くと思います。みんなそれがわかっているので、日本もコーポレートガバナンス行動の中で少しずつ言っていっていますが、義務付けていく方向で行かないと、投資家の信頼も高まらないのかなと思います。

工藤:私がこのESGの関心を持つのは、私たちが取り組む国境を越えた民間外交の動きに似ていて、投資家が国境を越えて資本主義や企業行動、Globalizationの在り方を変え、地球の未来に企業が責任を持つという大きなチャレンジだと思っています。これが今、強まる米中対立とかの国家主義というものにどうぶつかり、乗り越えるのかに興味があります。これについては私たちもウォッチしていきたいと思います。3人の先生方、ありがとうございました。

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