政治に向かいあう言論

民主党政権9ヶ月の実績評価(総論)

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経済政策 :  29点 /100点
実  績
実行過程
説明責任
18点 /40
8点 /30
3点 /30

【実 績】

 民主党はマニフェストにおいて、「家計の可処分所得を増やし、消費を拡大」し、「日本の経済を内需主導型へ転換し、安定した経済成長を実現」すると述べている。子ども手当、農家戸別所得補償などはこの政策手段としても位置付けられたが、それらが実現したのは2010年4月であり、その実現時期から見ても目下の高い成長率はこれらと無関係である。政権交代はすでに景気の底打ち後であり、民主党の09年10月の「緊急雇用対策」、12月の「緊急経済対策」(国費7.2兆円、事業規模24.4兆円)の2回の対策に意味を見つけるとすれば、前自公政権の4回の矢継ぎ早の経済対策路線を継続し、底割れを回避し下支えをしたという点であり、その点で一定の評価は可能である。民主党政権になってからの経済成長は、欧米経済の回復と中国を中心としたアジア・新興国経済予想以上の成長と輸出(外需)の復調によるものである。22年度の予算でも歳出削減が2兆円に上る一方で新規政策は3.6兆円に留まり、景気効果という点では効果は乏しかった。さらに菅副総理(当時)のデフレ宣言も宣言によって何を政府は克服すべきか、を国民に説明できず、デフレを公的に認めたに過ぎない。作年の総選挙時から指摘された成長戦略もなかなか示せなかったことも評価を下げるポイントである。政府が「新成長戦略」の基本方針を閣議決定したのは予算編成が終了した12月30日であり、その内容も予告編程度で具体的な対策や工程を欠いている。つまり、22年度の政府予算にはそうした成長戦略が反映されていない。ただ、その後、菅新政権が、「強い経済、強い財政、強い社会保障」の3点を課題設定した点は、家計への所得再分配しか提起できなかった経済対策の修正を意味しており、財政、社会保障という日本が直面する課題に向かい合う姿勢を示した点も評価はできる。問題はそれらを一体的にどう実現するかだが、この時点では納得できものが伝わってこない。6月18日には「新成長戦略」が閣議決定され、そこでは法人実効税率の引き下げにも踏み込んだ。菅政権の「強い経済」への道筋を示すものであるが、内需主導から外需利用も含めて従来の家計重視の経済政策からの転換を図る要素が強い。そうであるならば、マニフェストの修正を含めこの転換についての合理的な説明が求められるが、現時点でその説明がなされた形跡はない。

【実行過程】

緊急雇用対策と緊急経済対策においては、民主党のマニフェストの政策が一定程度反映されている。また、経済対策の取りまとめ役として国家戦略室、そして税制調査会が新たに政府内に一本化されて発足するなど、政治主導で政府の経済対策を策定し実行する体制は形式上整えられた。しかし、国家戦略室は戦略ビジョンの司令塔として機能はしておらず、政務三役や政治家同士の意見調整が延々と続いて結論が迷走し決定が遅れたり、党のマニフェストを政府の約束として確定させて実行する段階になると、政治家が各省庁の立場を代弁するなど、政策決定過程として評価できない点が目立つ。また、実行過程における連立与党と政府の関係も、金融モラトリアムや補正予算の規模、郵政改革を巡って政府内の混乱を助長した点は評価を下げる。そもそも郵政改革や郵貯の限度額引き上げは民主党マニフェストには明記されておらず三党連立合意にもない。郵政法案は廃止になったものの、マニフェスト政治の根幹にかかわる問題である。

【説明責任】

 まず、自公政権下で透明性が確保されていた経済財政諮問会議のような、経済戦略などの説明責任の場が失われてしまった。民主党政権では国家戦略室にその機能が期待されたが、前述のように内閣との連携も乏しく、司令塔的な役割は発揮できず、政策の議論、立案過程の公開の度合いも極めて低い。政府税制調査会でも、議事録や資料の公開は行われているものの、専門家を交えた具体的な検討プロセスを知ることはできない。政治主導の政策決定によって政治の裁量性が強まり、国民に対する政策実行プロセスについての情報開示や説明責任がおろそかになった点は否めない。

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