【国と地方】 石原信雄氏 第3話: 「交付税の誕生の経緯と財源保障」

2006年7月05日

石原信雄氏石原信雄(財団法人地方自治研究機構理事長)
いしはら・のぶお
profile
1926年生まれ。52年、東京大学法学部卒、地方自治庁採用。84年から86年7月まで自治省事務次官。86年地方自治情報センター理事長を経て、87 年から95年2月まで内閣官房副長官。1996年より現職。編著書に、「新地方財政調整制度論」(ぎょうせい)、「官かくあるべし」(小学館)他多数。

交付税の誕生の経緯と財源保障

 シャウプ勧告で導入された地方財政平衡交付金では、不足分の計算は、あるべき財政需要を団体ごとに計算しなさいというものでした。しかし、当時、1万くらいある市町村の財政需要を個別に計算することは事実上不可能で、総司令部と折衝して、「地方財政計画」を使うことにしました。これは既に昭和23 年から存在していましたが、それは計画ではなく、トータルとしての収支見通しを計算するためのもので、それによって地方財政全体としてどれだけの財源不足が出ているかのマクロ計算をし、その額を、地方財政平衡交付金として国の予算に組んでもらい、その額を配るときに、団体ごとの財政需要、財政収入を計算することにしました。

 財政需要の方は、地方配付税のように人口一本ではなく、主要な行政項目ごとに、その行政項目に係る団体ごとの財政需要をどういう数値で測るのが一番いいか数学的な手法で検証しました。府県の場合は、当時の全国平均だった人口170万人の岡山県をモデルにして、標準単価、単位費用を算定しました。他の小さな県は、コストが割高になるので、その割高部分を少し補正し、大きい団体は少しコストダウンになるので割り落す。単位費用にそれぞれの団体の測定単位の数値をかけ、それに段階補正係数をかけて計算するという方式です。財政収入の方は、その当時、シャウプ税制によってできた新しい税金について、徴収実績では各団体の課税努力による差が出るので、それは使わず、国税統計、すなわち税務署で府県ごとのデータを集め、それで府県ごとの収入見込みを計算しました。

 こうして算出された基準財政需要額と基準財政収入額を差引計算して不足が出る団体について、不足額を全国で積み上げるわけです。これと、地方財政計画で用意した総額とをつき合わせてみると、合いません。こうした計算を当時、私たちは手計算でやり、大蔵省と折衝をしました。毎年、平衡交付金をいくらにするか、その根っこになる地方財政計画の歳入、歳出をどう見積もるかは大論争でした。この論争の勝負がつくまで、地方にすれば、平衡交付金をいくらもらえるかわからないわけで、これではかなわないということになり、昭和29年に、昔の地方配付税のように、地方への配分総額を特定の国税収入の一定割合でまず決め、それで足らない分だけ議論しようということにしたわけです。

 それが地方交付税法です。平衡交付金制度を廃止して交付税制度を作った理由は、毎年度、総額決定で国と地方が血みどろの議論をやるという不安定な状況から抜け出すためのものでした。それは、所得税、法人税、酒税という3つの税金の概ね2割ということでスタートしました。足りても足らなくてもこれでやろうという話になり、大蔵省は、これっきりということでした。しかし、自治庁にしてみれば、当時まだインフレが続いており、実際は25%必要だということがわかってきました。そこでまた大蔵省との大論争になり、交付税法の中に、引き続き2年も3年も交付税総額の1割以上も不足が生じるときには、交付税率の見直しをするか、あるいは税財政制度を改正するという規定が入ったのです。

 これには大蔵省は大反対だったが、我々とすれば、地方団体がやっていけなくなるようなことでは困るので、細かい数字なら言わないが、2年も3年も1割以上も不足するという事態を放ってはおけないではないかということで入った規定です。この規定が、交付税制度が財源保障かどうかのひとつのポイントなのです。要するに、足らないときは保障するという根拠です。財源調整というのは、豊かな団体と貧しい団体についての税収の格差のデコボコ調整であり、戦前の地方配付税はそうでした。ところが、財源保障というのは、足らない分は中央政府として責任を持ちますという制度なのです。

 我々はそもそも初めから、大蔵省とは考え方が食い違っていました。たとえ25%であっても、将来どうなるかわからない。大不況が来ればそれでも足らなくなることもあるし、逆に余ることもあります。単に、引き上げろというだけではなく、食い違いが起こった場合には、交付税率を上げることもあるし下げることもあるという規定です。


※第4話7/7(金)に掲載します。

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 シャウプ勧告で導入された地方財政平衡交付金では、不足分の計算は、あるべき財政需要を団体ごとに計算しなさいというものでした。しかし、当時、1万くらいある市町村の財政需要を個別に計算することは事実上不可能で、総司令部と折衝して、「地方財政計画」を使うことにしました。