「日本の『民主主義』の未来を考える」と題して22日開催された言論フォーラムは、有識者3人が、再選を目指していた米民主党のバイデン米大統領が11月の大統領選からの撤退表明をはじめ、政権与党が苦しんだ英仏の下院選挙結果、先の東京都知事選で2位に入った石丸伸二・前広島県安芸高田市長のSNS選挙スタイルなどを事例に挙げて、若い世代に顕著な「政治不信」と社会の分断状況をはじめ、あるべき「リーダーの選び方」と選挙制度の関係性などについて活発な議論を交わしました。
出演したのは野口雅弘(成蹊大学法学部教授)、吉田徹(同志社大学政策学部教授)の両氏と、長年この議題の重要性に着目してきた言論NPO代表の工藤泰志です。司会は読売新聞元政治部長の伊藤俊行編集委員が務めました。
国際協調か、自国主義かという米国の分断が、他の民主主義国に影響を与えている
昨年、ポーランド出身の米比較政治学者、アダム・プシェヴォスキ博士の話題作『民主主義の危機』(白水社・2023年)を翻訳刊行した吉田氏は、2大政党が争う米大統領選、2回投票制の仏下院選挙、労働党が地滑り的勝利を収めて政権を奪取した英下院選挙を比較分析。「どのような選挙制度によって、どういう民意が出るかは変わってくる。我々はよく見て民主主義の議論をしなければならない」と指摘しました。
昨夏までドイツ・ミュンヘンで研究していた野口氏は、「分断と民主主義」の関連について、イデオロギーの異なる複数政党による比例代表選挙結果に基づく連立政権交渉が行われるドイツの選挙制度について「連立協定書を作る段ではどういう論点で、どこで折り合いがついて、どのような結論を出すのかをメディアが追う。選挙後に妥協してまとめていくことを国民はその過程を見ることができる」形式だと説明。これに対して1990年代に導入した衆院小選挙区を柱にした日本の選挙制度改革の結果は「政策の議論が深まらないうちに決まってしまう」不透明な政治状況にあると分析。その上で、このタイミングで選挙制度を考えるのであれば、従来の制度を「かなり組み替える形を検討した方が良い」と述べました。
選挙結果を受け入れないトランプ氏の行動は、民主主義の大原則を無視する危険行為
こうした「民主主義の危機」を迎える中、何が一番の問題なのかを問われた工藤は「トランプ氏は前回、大統領の結果を認めずに、支持者を国会議事堂に突入するような人物。自分たちが正しければ、他は間違っているという論理という状況がまた成り立ってしまうのか。民主党側がきちんとした対応を取れずに、トランプ氏勝利に向かって動いていることを、世界は気にしている。自由や人権など国際秩序の規範を作っていた国が分断し、自国主義に走っている」と問題提起。さらに国際協調か、自国主義かという米国の分断が、他の民主主義陣営の政治潮流に暗い影を落としていると懸念を示しました。
同時にトランプ氏の再来は「他の民主主義国家がどのような立ち位置でどう挑むかという世界史的な課題だ」との認識を示しました。かつて実施した世界55カ国対象の世論調査結果に触れて「日本は世界に比べて異質だ。国民が『自分の意見を代弁できる政党はない』という意見が7割もあった。米国民の7、8割の意見を代弁できる政党が民主党、共和党だが、今度は社会的な分断、対立、亀裂という大変な試練に直面している」と語り、引き続き米大統領選の行方を注視する考えを示しました。
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