次の日本をつくる言論

「2008年 日本の未来に何が問われるのか」 / 発言者:佐々木毅氏(全3話)

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第3話:改革を再評価し、政府と市場の関係の新たなモデルをつくる

 私は日本の改革が終わったとは思ってはいない。改革のとらえ方にもよるが、誰が見ても改革しなければいけないのはまず官僚制だろう。今、話題になっている様々な問題はすべてそこから生み出されている。年金から始まって防衛省も、建築許可の問題もそう。国民生活を意識的に破壊しているとまでは言わないが、そういうことを平気でやるようになった。これは間違いなくどうにかしなければならない。つまり、能率が悪いという問題ではなく、積極的なマイナス効果を及ぼしているのが、今の官僚制だ。

 建築業界の人が行政不況と言っているが、行政が国民に役に立つのではなく、役に立たない。これは、明治以来の非常に大きな転機で日本政府は何者かと問われている。つまり、小さな政府か大きな政府かという議論よりもことはもっと深刻である。小さな政府にして能率を上げようとしたら、何もしない政府になり、やがてはマイナスの影響を及ぼす政府になってしまった。

 小さな政府論が文字通り何もしない政府論になってしまったのは、非常に大きな問題だと思う。強い小さな政府論は、いままでやっていたことを止めたら、そこからアイデアが他に広がるということが前提となっていた。そうでなければ、アイデアが何もない小さな政府論は要らないという話になる。官僚制や霞ヶ関と国民の関係がにっちもさっちもいかなくなったのは、政府を小さくはしても、官僚が自分だけ守り、国民との関係は何も広がらなかったからだ。

 いまの日本には次のビジョンがない。福田政権だからということではなく、日本全体のビジョンがものすごく劣化していて、若手のエコノミストなどの話を聞いても、マニュアル的な話しかでてこない。この国の政府も税金を取る以外は何も考えていないのではないか。こうした状況では政策自体を全体として立て直さないと非常にまずい。現在はどこかへ飛んでいけみたいな感じの政府になってしまっている。

 企業の経営者もかわいそうだと思う。一生懸命努力しても、株式市場はさっぱり評価せず、何やかやと文句を言われる。雇われている人間たちもそうした状況に全く無関心。だから、政治と市場のいい意味でのコミュニケーションが完全にぶつぶつに切れたままになっている。これを改革の成果だと言われると、未来が見えなくなる。

 極端に言えば、日本の政府は市場を全く利用もせず、自分たちのことしか考えていない。グローバル化の中では、政府と市場がいい意味で協力し、利用し合う関係を新たにつくらないとならないが、日本はこれまで癒着していたから、ただ関係を切れという話になった。しかし、ただ切ったままにして、「後は、おれは知らない」という話になってしまい、これが結局コストを高いものにしている。官僚制の話はその一つの悪い例で一番分かりやすいから申し上げたが、民間企業にとっては政府なんて全く何の役にも立たないと思っているに違いない。

 ところが、海外では政府とビジネスが結びついていろいろなことをやっている。いい意味でのビジネスと政治との協力関係をつくらなければいけないが、このままだと関係が切れたままになり、国民としてはどこかに逃亡するか、何か考えないと危なくてしょうがないという状況になりかねない。

 公務員改革も政治が決意しない限り、改革は何もできない。いままでの公務員とは違うものを一部、あるいはある程度入れて活性化しないとこの状況は変わらない。そもそも政府には優秀な人が集まらなくなっている。

 改革問題を整理するなら政治が積極的に、グローバル化の中で政府と経済、市場がどのような新しいコンビネーションをつくりつつあるかモデルを考え、次のステップに行かないといけない。そこに向かえないことが、改革モデルの低迷の原因となっている。

 政治は霞ヶ関からくるメッセージには依存できないことがはっきりした。自分でやるしかないが、どうしていいかわからない。だから、新しい意味で、市場と政治、政府と市場との関係、政治と経済との関係について新しいモデルを政治が積極的につくっていくようなことをやる必要がある。

 言論NPOにもお願いしたいことだが、小泉改革を一度整理する、整理して実はこう読み換えれば、新しい意味で改革の肉付けができるということを民間側から提示してもらいたい。それがないと、もう日本の政治も動きが取れなくなっている。今のように言論が細った中で二大政党を争わせても、たいした話にならない。もっと政党のアイデアや構想力を大きくして、そこで競争する。凍え死にそうな雰囲気の議論ばかりではおもしろくないし、新しい議論が必要です。それが新しい年の言論NPOの役割でもあると思う。

発言者

佐々木毅氏佐々木毅(東京大学前総長・学習院大学教授、21世紀臨調共同代表)
ささき・たけし
profile
1942年生まれ。65年東京大学法学部卒。東京大学助教授を経て、78年より同教授。2001年より05年まで東京大学第27代総長。法学博士。専門は政治思想史。主な著書に「プラトンの呪縛」「政治に何ができるか」等。

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