【論文】構造デフレ下での経済政策とは何か

2003年1月04日

sakakibara_e020222.jpg榊原英資 (慶応義塾大学教授)  
さかきばら・えいすけ

1941年生まれ。64年東京大学経済学部卒業。65年大蔵省入省。69年ミシガン大学経済学博士号取得。94年財政金融研究所所長、95年国際金融局長を経て財務官就任。99年退官後、慶応義塾大学教授就任。「グローバルセキュリティ・リサーチセンター」を設立しディレクターを務める。アジアを中心に世界の市場分析を行う。

概要

現在のデフレが金融的で現象であり、また需要不足に基づくものという議論に榊原英資慶応大学教授は真っ向から異を唱える。榊原氏はそれをグローバリゼーションの中で世界的に進行している構造的な現象とし、世界経済は構造デフレの時代へと大転換しており、政策目標は激しいデフレの阻止に置かれると主張する。その視点にたって、同氏はデフレ下での不良債権処理は一種の徳政令であり、国が企業再生ファンドを組成するなどの提案を行い、産業や業界の再生の視点から取り組むべきだと語る。

要約

デフレは一時的な需要不足や金融的現象によるものではなく、グローバリゼーションの中で世界的に進行している構造的な現象である。日本ではこれに社会主義的な規制が絡んで、潜在的な高い収益機会が実現しないことが、デフレをより深刻化させている。投資も消費も構造的要因で出ないのであり、マネーをいくら供給しても資産に回りバブルが発生するだけで、インフレにはならない。インフレの時代からデフレの時代へと質的な大転換があり、政策も経営も人々の考え方も大きく変わらなければならない。従来のマクロ経済学に基づいた政策論議は無意味であり、理論の前提もフレームも変わっている。構造デフレは阻止できるものではなく、むしろ緩やかなデフレを許容し、激しいデフレを阻止することを政策目標とすべきだろう。デフレ下での不良債権処理は徳政令の形をとらざるを得ない。今の日本は30年代のアメリカの大恐慌の局面にあり、問題解決は恐慌によってなされるところであるが、それを避けるのであれば、政府が相当思い切った対応を行わねばならない。国が自ら企業再生ファンドをつくり、そこに各界から人材を集めて、産業や業界をどう再生するかという視点から取り組むべきだ。その機構を預金保険機構の下に置けば、政府保証債券で莫大な資金を調達できる。他方で、銀行は民間企業として利益を上げることを考えるべきで、金融監督機能は政治から独立させることが必要だ。経営者には退陣以上の責任追及をしたり、銀行を叩くポピュリズム的な風潮からも脱しなければならない。公的資金は最初にありきではなく、企業再生の努力の結果として出た損失に充てるべきだが、そのために50~60兆円のオーダーの公的資金が必要となる。それは、1 回限りの政府紙幣の発行で賄うべきだ。日本経済はこれから5年程度をかけた大手術を本当の名医によって覚悟をもって取り組まねばならない。それに向けた本気の議論はようやく始まったばかりである。


全文を閲覧する(会員限定)

 現在のデフレが金融的で現象であり、また需要不足に基づくものという議論に榊原英資慶応大学教授は真っ向から異を唱える。榊原氏はそれをグローバリゼーションの中で世界的に進行している構造的な現象とし、世界経済は構造デフレの時代へと大転換しており、政策目標は激し