【インタビュー】緊急発言「日本は危機に入ったことを、総理は認めるべき」

2002年9月26日

kobayashi_y020926.jpg言論NPOアドバイザリーボード
小林陽太郎 (経済同友会代表幹事、富士ゼロックス代表取締役会長)
こばやし・ようたろう

1933年ロンドン生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートンスクール修了後、富士フイルム入社。富士ゼロックス取締役販売部長、取締役社長を経て、92年に代表取締役会長に就任、現在に至る。その他、経済企画庁経済審議委員会委員、文部省大学審議会委員、社団法人経済同友会代表幹事などを兼任。

工藤 日銀は株の買い取りを決断することで、日本経済は危機だという認識を示しました。あとは政府がそれにどう応えるかですが。

小林 日本は今、経済の問題について、小泉さんが非常に重要な政策決定を行なう、節目に来ていると思います。その最大の焦点は、不良債権処理。ここで思い切って決着をつけることが必要です。日銀が銀行の保有株のある部分をともかくも買うと発表したことについて議論はありますが、それをなぜ決断したのかを今は考えるべきでしょう。ああいうことについては日銀自身がいままでずっと抵抗して、やるべきではないと言ってきたからです。

今年2月の例の3月危機の前にも日銀総裁が思い切って公的資金で、次の注入をやるべきだと小泉さんに進言をしていて、(公的資金投入は)実現しなかったけれど、とりあえず3月危機は回避しました。ただ、依然として金融機関は先行き不安定な問題を抱えているわけです。しかも、特にここのところアメリカ経済が不安定さを増して、リスクが増してきた。それに対して今まで(金融庁は)ずっと特別検査その他をやってきて大丈夫だと言っている状況でした。これに対して、非常に限られた条件の下でしか大丈夫ではないという判断は日銀の中にはあったのだと思います。だから思い切って政府に決断を迫っている。

僕はそれは正しかったと思うし、経済同友会もまったく同じ見解です。いま公的資金を注入する法的根拠が無くなっているから、18日からの臨時国会で新たに法律を通して、公的資金を注入するための体制を整える。強制ということはないけれども、問題は政府が公的資金注入についてのいろんな条件をつけない、これは銀行側がそのまま受け取って、みずからの責任で基本的には将来のリスクに備えて自己資本比率をきちんとする、ということが基本になります。

問題は中小企業その他で、本来つなぎができればいけるところは、言われているような貸し剥がしその他で実際に経済に金が入っていってないという状況を解決していかなければいけない。それから確かに金融機関の責任をここらできちんとはっきりさせて、残る銀行と残らないところのけじめをきちんとつけていくことが大切だと思いますね。

小泉さんがきちんとした意思を表明するというようなところに来ていると思います。日銀のアクションがあれだけで終わって、政治の方がこれをバックアップする体制を取らなかったら、本当に何のために日銀はあれだけのことをやったのか、まったく日銀のアクションが無駄死になってしまう。ここはぜひ、小泉さんがそこのところをきちんと理解を示して、やるべき方向にアクションを取っていただきたい。

同時に、税制のほうも、これはいろいろありますが、法人エゴの話ではなくて、法人税そのものを思い切って5ポイントくらい下げる、それによって国際競争力の点で、同じレベルに並ぶということは最低限、必要なことだと思います。いろいろやって単に実効税率が下がるというようなことではなくて、思い切って法人税をスパッと下げると、原資はどこかというと歳出カットを思い切ってやるしかない。そこもやはり政治の決断を示していただきたい。これは非常に重要な領域だし、さっきのような公的資金の問題やそれ以外の歳出カットについても来年度の予算についてある程度の方針が出ていますが、ただ公共投資3%カットくらいでいいのかどうかという話もあるので、総理が言っておられるように今年度の補正はしない、という初志貫徹はしていただきたい。しかし、来年度の予算については歳出カットを思い切ってして、それを原資にした法人税の減税によって元気付けをする。そういうことを抜きにして、たとえば証券税制云々で証券市場の活性化といっても、やはり投資の対象となる企業のファンダメンタルズが強くならなければ、小手先で証券市場の活性化と言っても何もならないので、このあたりを総理がもう少し決断をしていただきたい。もちろん政府税調、党税調の問題があることは知っていますが、それを超えて小泉さんがまさにリーダーシップを発揮する、そのための環境というか、支持率も上がってきているので絶好のチャンス、正念場に来ているというふうに考えています。

工藤 言論NPOではマーケット関係者を含めていろいろな議論をしてきました。かなり認識が厳しくて、アメリカの株が下がる中で、日本がここで決断をしないと、多分10月の株価はもうもたないと。とくに日本の場合は総崩れになるだろう、というくらい皆さんかなり厳しい見方を示しています。その状況の中で小泉さんが本当に決断していかないと、大変な事態になるという不安があるわけです。宮内さんは日本は「終わりの終わり」という言い方をしていましたが、小林さんもこういう認識でしょうか。

小林 公的資金の注入に際しては、現在の法律では総理が危機宣言、危機認識をしなければいけない、それがどうだこうだという話がありますが、今、お話の10月の市場の問題を含めて、とくにアメリカの先行き不安定という状況は今年の年初とはまったく違います。ですから、その様変わりの状況をきちんと認識した上で、もう危機に入っていると小泉さんはもうはっきり認めていいと思います。むしろそれはきちんと認識していると、その認識に伴って思い切ってアクションをとる、ということは結果的にマーケットの日本に対する評価をプラスに転じることになると思います。このままずるずるとやっていたら、ファンダメンタルが悪くなって株価も悪くなるだけではなくて、それに対して政府も含めて日本が思い切って対処するという政治的決断力に欠けているという意味でのもうひとつのマイナス評価を......。

工藤 クレディビリティですね。

小林 まさにクレディビリティ。オーバーなことを言えば、さらに格下げにつながる。そういうところに行く。そこに来ていると思いますね。

工藤 まさに正念場ですね。

小林 本当に正念場ですよ。正念場だけれども、その他外交のいろんなこともあって支持率は上がっているわけだから、小泉さんは思い切った行動に出るべきだと思います。

(聞き手は工藤泰志・言論 NPO代表)

小林 日本は今、経済の問題について、小泉さんが非常に重要な政策決定を行なう、節目に来ていると思います。その最大の焦点は、不良債権処理。ここで思い切って決着をつけることが必要です。日銀が銀行の保有株のある部分をともかくも買うと発表したこと