【論文】日本のグランド・ビジョンを考える

2001年12月27日

yokoyama_y040316.jpg横山禎徳 (社会システムデザイナー)
よこやま・よしのり

1966年東京大学工学部建築学科卒業。設計事務所を経て、72年ハーバード大学大学院にて都市デザイン修士号取得。75年MITにて経営学修士号取得。 75年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社、87年ディレクター、89年から94年に東京支社長就任。2002年退職。東北大学、一橋大学大学院で非常勤講師も務める。

概要

マッキンゼー・アンド・カンパニーの横山ディレクターに日本の改革のグランド・ビジョンについて聞いた。構造改革とは生産性の向上であり、旧来型社会システムの設計変更であると語る横山氏は、改革のグランド・ビジョンとして「豊かなる衰退」というコンセプトを提唱する。人口減少・高齢化時代を見据えた国家像が「豊かなる衰退」であり、それを実現するためには「産業立国」から「観光立国」への転換が必要だと語る。

要約

構造改革とはなにかその具体像が見えないとの指摘があるが、マッキンゼーの横山ディレクターは、生産性向上と社会システムの設計変更が構造改革であると明確に述べる。

輸出産業を除く日本の国内産業、具体的には建設、食品、流通などは米国に比べその生産性は3分の2のレベルにとどまる。これは規制による参入障壁もさることながら、補助金や保護行政により低生産性企業が延命される退出障壁に原因があると指摘する。あるいはプライス・バリュー(サービスの価値に対する価格)の情報が提供されない産業、つまり医療や金融でも競争が起こらず、生産性が低いままになっている。したがって、退出障壁撤廃とプライス・バリューの情報提供が進めば、日本の生産性は回復すると結論づける。

また、日本は発展途上国型の社会システムをいまだに引きずっており、豊かな成熟社会を迎えた現在の日本では、その社会システムが機能しないばかりか、改革の阻害要因になっている。発展途上国型システムとはすなわち、特殊法人や政府系金融機関、破綻必至の医療保険・年金制度などである。たとえば、エンド・ユーザーの立場に立てば、医療機関だけでなく、病院の設計・施工会社、生命保険会社、医療に関する情報提供サービスなども含めてトータルでのヘルスケア・システムが求められている。そうした豊かな社会に適合する社会システムの再設計を急ぐ必要がある。

小泉政権には構造改革後のビジョンがないとの指摘もある。そのビジョンとして横山氏は「豊かなる衰退」というコンセプトを提唱する。右肩上がりの時代が終わり、高齢化社会、人口減少に直面する日本では、一律横並び成長の発想は通用しない。産業や地域によって衰退セクターと発展セクターが混在するこれからの時代には、サービス業を核とする「観光立国」型の産業構造と、拡大東京圏を核とする巨大都市国家の形成が必要だと説く。


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マッキンゼー・アンド・カンパニーの横山ディレクターに日本の改革のグランド・ビジョンについて聞いた。