【論文】世界金融システムを不安定化する欠陥論理

2002年3月29日

mosler_w020222.jpgウォーレン・モスラー
Warren B. Mosler

1949年生まれ。米国証券会社AVM,L.P.アソシエイツの創業者で、現会長。コネチカット大学で経済学の学士号を取得。82年に自社を設立するまで、約10年間、確定利付き証券のトレーダーを経て、最近は、エンタープライズ・ナショナルバンクをはじめとするいくつかの企業の取締役及び株主。主著『Soft Currency Economics』(1994)。マクロ経済、金融政策に関する講演など活動範囲は広い。

概要

米国の大手格付機関は日本の国債格付けを、先進国では最低水準まで下げている。金融システム不安を主な理由としたこの格下げによって、海外の機関投資家による日本売り圧力が高まっている。しかし、格付機関による日本国債格下げの論理には欠陥があると、モスラー氏は指摘する。日本の自国通貨での支払い能力は、理論的にも現実にも無限であり、債務比率の悪化は支払い能力を制限するものではないからである。

要約

大手格付機関のムーディーズ、スタンダード&プアーズは、共に日本国債を先進国中ではイタリアを下回る最低のレベルにまで格下げしており、さらに一段の格下げもありうるとしている。格付機関は、日本の支払い能力を理由に格下げしているが、その論理には重大な欠陥があるとモスラー氏は結論づけている。

天文学的な債務を抱えながらも、高いインフレ率によって見かけ上の債務比率上昇を抑えているトルコでさえ、自国通貨での支払いに支障はない。また、債務不履行を選択したロシアでさえ、実際にはルーブルによる支払い能力を有していた。こうした事例は、自国通貨での支払い能力が理論的にも現実にも無限であることを極めて明確にしており、「債務比率の悪化」や同種の事態が主権国家の発行通貨での支払い能力を制限しないことを意味している。したがって、支払い能力に疑問の余地がない日本の円建債務は、AAA格付に相当するものである。日本が支払い意思を持つことは、最近の格下げを行った格付機関によってさえも問題とされたことはない。

世界金融システムを不安定化する格下げは欠陥論理から導き出されたものであり、日本が対処すべき真の金融問題とは、格付機関が持ち込んだ「人為的な」金融問題とモスラー氏は主張する。


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