【インタビュー】終わりの終わりが、始まった

2002年9月11日

宮内義彦氏言論NPOアドバイザリーボード
宮内義彦 (オリックス代表取締役会長兼CEO)
みやうち・よしひこ

1935年生まれ。58年関西学院大学商学部卒。60年 ワシントン大学経営学部大学院修士課程(MBA)卒。60年日綿實業株式会社(現 ニチメン株式会社)入社。64年オリエント・リース株式会社(現オリックス株式会社)入社。取締役、代表取締役専務、副社長、社長を経て、2000年より代表取締役会長兼グループCEO。

工藤 この間、なんどか政府は経済対策を発表したのですが、経済危機の雰囲気が和らぐと、それが骨抜きになり、また市場が厳しくなると慌てて経済対策に動き出すということを繰り返しています。最近ではむしろ株式市場の落ち込みの中で、ペイオフの延期などこれまでの流れを逆転させることが表面化しています。

宮内 当面、逆向きの議論が出てくるでしょうね。経済危機がいよいよ深化したから、何か手を打たないと、ということなのでしょう。いつも政府はこの発想で政策を打ち上げ、市場がそれに反応するとまた動きを曖昧にするようなことをやっている。

今まで、過去失われた10何年、何を政府はしてきたかというと、経済対策と景気対策とを混同してきたわけです。こういう問題が起こってくると、景気対策の話をし始める。そして景気対策で終わってしまう。本当の意味での経済対策は何一つやってこなかった。ついに来るところまできたかなと、というのが私の実感です。

これまでは「終わりの始まり」が始まったと思っていたけれども、「終わりの終わり」が近づいてきたかなと思います。最後にみんなが分かるのは、小手先の景気対策なんかやっていたら、未来永劫だめだということ。結局こういう局面になったのは構造問題にたいしてほとんど改革が進んでいないことだ。やっと小泉さんになって、テーマがでてきて、これから動き出そうという構えは見せましたが、実際、過去10数年は必要な動きに対してほんの数分の一の動きしかしてこなかった。このギャップがついに出てきたのだと私は思います。

ここはもう構造改革を早め、やらなければならないことを全部やっていくしかない。答えはそれしかないと私は考えています。だけど今は外科手術をやると麻酔が効かないから痛いということを覚悟しないとならない。過去の景気対策の時にそれを一緒にやって手術するのならよかったんですが、その時期はもうとうに逸してしまった。そうすると痛いけれども、耐えて、必要なことを全てやっていくしかない。これしか僕はないと思います。

工藤 先のペイオフの問題の延期の問題なんかを見ると、政府にはまだ腰が据わっていないことがよくわかります。曖昧にしていても、経済は依然、厳しい。だから政府は小手先でごまかすような動きをしてしまった。

宮内 痛みを回避しようと思ったら、どこかに打撃を与えるような政策はとりにくい。銀行が潰れて国民が騒ぐのは嫌だなと、主要な自治体の金が動かなくなるのは困るなと、だから決済性預金というようなものを取り出して、これは別だというような話が出てくる。僕はいま問われている政策全体からみるとペイオフの問題は決して深刻な問題ではないと思います。むしろ、それを進めることが、構造改革の流れを押し進めることになる。期限は分かっていたのですから、それに対する準備を怠っていて、また延期ではあまりに情けない。構造改革には今すぐやれるものとやれないものといろいろあるのは分かっています。ただやはり今までやらなければならなかったことはやらないとしょうがない。金融システムの問題、不良債権の問題、それからこれから市場経済を目指すということになると、中小企業には退出が出来やすいシステムにしてあげないとならない。そういうようなものを含めて、マーケットが退出を望んでるものは、退出していただく。それから新しいものにはインセンティブを与える、それから国が、国営産業が民間の邪魔をしない。これでまあ、メニューは全部出揃っているわけです。

工藤 小泉改革を見ると、道路公団とか、特殊法人改革とか、そういうところは結構動いているわけですが、いま言った構造改革のプログラムのなかでの組み合わせ、優先順位、そうした発想は政府の動きからなかなか読み取れませんが。

宮内 ある人の弁だけど、今の政治は、経済問題でも政治がらみなことには非常に熱心にやる。だけれども経済問題になるとしらけてしまう。経済を活性化させることや活力ある税制にしようとかというとしらっとしてしまい、企業優遇だとか国民切り捨ての話にすりかわってしまう。しかし、それをやらないと、本当は日本の経済は立て直せないわけです。

工藤 小泉さんは昨年5月の所信表明では、経済の立て直しに踏み込んでいく、不良債権処理が最優先だといっているわけです。だから集中期間の間にそれを正常化する。またデフレ阻止ということも言った。ところがその方向で政府の足並みがなかなか揃わず、むしろ不良債権がどんどん積み重なっている。ここでペイオフが延期になると、小泉さんは政策を実行できないんだ、まだ不安定が続いているのだ、とマーケットは判断します。これではみんな株を買おうと思わない。

宮内 この間、経済同友会はそれに対する提言を出しています。公的資金を投入し、またガバナンスのある形で銀行経営を変えていくという事をぜひやれという提言です。もはやスマートな逃げ道はないんですよね。逃げたいという気持ちはよく分かるが、逃げ道はない。それが刻々とはっきりしてきたというのが現状ではないでしょうか。

日本は自分で自分を保護出来ない国ですから。自分で力を蓄えないと強くならない。皆でもたれあっても、食ってはいけない。元気出さないと。外に向かって動かないと。保護で走っている経済なんて先進国ではないですよ。アメリカなんて企業をたたいて、強くさせて、再生しようとしている。

工藤 私も、民間経済をマーケットの規律を入れながら立て直すことが、もっとも大事な対策だと思います。アメリカのブッシュは、エンロンをはじめとした民間のガバナンスなどで前面に立って建て直しを進めようとしています。

宮内 ところが、日本の企業は、企業の経営改革をしていかなければいけない。それに対してプレッシャーは全然ない。まったくない。

工藤 やさしい社会ですね。

宮内 株価も皆一緒にされてしまう。企業によって区別してもくれないというおかしなマーケットです。

工藤 つまり管理された、まったく信任がくずれてしまった市場。これを一回戻さなければだめですね。

宮内 先の危機はから売り禁止で助かったのだが、それで今完全に逆転です。マーケットは奈落の底に落ち込んだが、誰も救う人はいない。

工藤 市場は縮小し、市場管制が強まってますね。

宮内 そういう動きがちらほらちらほら出ていますね。こうなれば国が全部抱えていくという、出来ないことをしようという話である。小泉さんは政治がらみの経済分野に切り込んできている。これはこれで正しいが、その他のこともしなければならない。民間部門に鞭を当て、活力を与えるための施策をやらないといけない。これをやらないと経済は立て直せない。証券税制から不動産税制からこれまでやったことはすべて小手先で、しなければならないことが出来ていない。不動産なんて売買したらペナルティで、証券税制は誰も分からないほどややこしいものをつくった。こんな時に税制改革は11月から議論するなんて止めてほしいといいたい。党税調は機能麻痺して誰がリーダーシップをとっているのか分からない。党税調は、古い世界にどっぷり漬かって、政府税調は財務省の言いなりになっている。われわれの求めているのは、元気の出る税制だ。

工藤 なぜ、こんな状況になったのでしょうか。

宮内 知りません。小泉さんが経済に強くないということはあると思いますが、ただ、竹中さん、柳沢さん、塩川さん、平沼さんに話を聞いたら頭が混乱するだけです。私がかねて言っているように経済担当副総理を作るべきである。竹中さんを信用するのなら、もう全部まとめろと。そういうふうにならないと経済政策はまとめられない。

(聞き手は工藤泰志・言論 NPO代表)

宮内 当面、逆向きの議論が出てくるでしょうね。経済危機がいよいよ深化したから、何か手を打たないと、ということなのでしょう。いつも政府はこの発想で政策を打ち上げ、市場がそれに反応するとまた動きを曖昧にするようなことをやっている。