世界のシンクタンクと共にグローバルガバナンスをめざす

2012年4月21日

「ON THE WAY JOURNAL WEEKEND」において、工藤がゲストとして、「カウンシル・オブ・カウンシルズ」「エクセレントNPO」について語りました。

(JFN系列「ON THE WAY JOURNAL WEEKEND」で2012年4月21日に放送されたものです)



世界のシンクタンクと共にグローバルガバナンスをめざす

谷中:ON THE WAYジャーナルweekend、谷中修吾です。これから2週にわたって、後半は、言論NPO代表 工藤泰志さんにお話しを伺っていきます。工藤さん、よろしくお願いします。

工藤:よろしくお願いします。

言論NPOが新設のCOCのメンバーに

谷中:さあ、まずは、一番大きなニュースと言って良いと思いますけども、先日、アメリカの外交問題評議会が主催する、世界の名門外交政策機関による「カウンシル・オブ・カウンシルズ」(COC)が発足、その常設メンバーとして、日本から言論NPOが選出されました。COCはどんな目的で設立された組織なのか、教えていただけますか。

工藤:この組織を提案した外交問題評議会というのは、あの「Foreign Affaires」という、戦後の国際政治の秩序作りに大きな影響力を持っていた雑誌をつくっていたところですね。あのキッシンジャーも、若い学者の時に、この外交問題評議会のForeign Affairesに原稿を書くことによって、ああいう世界的な学者になった。だから、まさにアメリカの名門っていうか、老舗っていうか、そういう外交関係のシンクタンクなのです。そこが世界に呼び掛けて、G20に対抗して、20カ国のそれぞれの有力なシンクタンクのトップに集まってもらって、国際社会の、国際政治の問題を今後議論していこうよ、ということでこのCOCができたのです。日本では言論NPOが選ばれたのですが、正直に言うと当初は何で選ばれたのか良く分かりませんでした。

谷中:これは、先方からコンタクトがあったわけですか。

工藤:そうですね、去年の6月くらいに、メールと手紙で、創設メンバーに入ってほしいと言われて、ひょっとしたら、言論NPOは中国との民間対話をやっているので、それで選ばれたのかなと思ってワシントンに行ったのですが、状況は違っていました。要するに、世界でいうシンクタンクというのは、政府とか、特定の企業とか、特定の団体から距離を置いて、中立で、独立で、その代わり、国民に対してきちっと議論をし、政策形成に対して影響力を持っている。それがシンクタンクなのですが、残念ながら、日本にはそういうシンクタンクっていうのは少ないのですね。


国連など国家間の交渉では解決できない時代

国際政治の舞台では、今どんなことが起こっているかというと、たとえば、国連という組織の中の安全保障理事会がほとんど機能しない。それから欧米諸国に対して、今、中国、ブラジルとかの新興国が台頭しているので、議論がぶつかって何も決められない状況が結構ある。この前の地球環境問題もそうでしたし、それから核の問題もそうなのですが、なかなか議論ができない。ということは、グローバルなさまざまな統治っていうか、ガバナンスが今揺らいでいる。それに対して、市民側が、民間側が、しかも影響力のあるこのシンクタンクがきちっと発言していこうという流れなのです。僕もびっくりしたのは、会議に出ていると、みんなが自分たちはNGOで、われわれは非営利だと。したがって、われわれは市民に支えられている、と。そして、国際社会に対して発言をしているのだと、みなさん言う。

僕は、このCOCのメンバーになったシンクタンクはすごいシンクタンクなので、市民とつながっているなんて思っていなかった。えっ?と思ったのですが、みなさん、そういう自負を持っていました。考えてみると、リビアの春という、まさに中東とか、エジプトもそうだったのですが、やっぱり市民が統治を変えていくような大きな動きが始まっている。だから、国際的なグローバルガバナンスだけじゃなくて、それぞれの国でもやっぱり市民の革命が起こっている。その動きに、今回のCoC設立はぴったり合っていて、議論をする舞台が世界で初めてできたということです。そこに私が参加したということです。

谷中:非常に期待される役割が大きい、と。


新しいチャレンジが始まった

工藤:ええ。で、どうするのだろうかと若干心配なのですが。年に一回集まるというものじゃない。もう、恒常的にインターネット会議をやっていく。たとえば、今、イランの核の問題で、イスラエルがどうするかとか、すごく緊迫している、中東のホルムズ海峡がどうなるかとかですね。これに関しても今回のCoCもすごい議論になりました。中国の台頭の問題とか、環境の問題、いろんな問題がありますが、それに対しても、インターネット会議でとにかく議論しようよと。ただ、私たちだけが議論をするのではなくて、私たち自身はそれぞれの国内で、やっぱり有権者とか市民に問題を訴えて議論する、その議論の結果を国際社会にぶつける。そういう、今までにないようなチャレンジが始まったっていう感じなのですね。

谷中:非常に面白い。当然これまでの発想で考えると、国の政治、行政が最初に窓口としてあってということじゃなくて、もうパラダイムがシフトしていますね。

工藤:そう、変わってきたということですね。確かにですね、僕も会議に参加して思ったのですが、ヨーロッパとアメリカはかなり発言しますが、それに対して、ブラジルとか、南アフリカとかがボンボン意見を言う。世界は全然、先進国だけで議論がまとまるという局面ではないですね。驚いたのは、イスラエルのシンクタンクもメンバーに入っているのですが、イラン問題で議論があって、イスラエルが発言すると、それに対して他の国が、イスラエルだって核を持っているじゃないかと、もう本気の議論なのですよ。


民で国境を超えた議論が始まる

この前のリビアの問題でも、NATOとか、ヨーロッパの国が介入しましたね。その結果、リビアのカダフィ大佐はああいう状況になった。つまり、リビアの国の市民をサポートしたわけです。でも、その後どうなったか。介入という言う言葉をみなさんちょっと嫌がっていましたけど、介入したあと、その後に対して責任持たないのか、とか。新興国は、だったら、われわれがルールづくりをしたいという議論まで出ていました。

たぶん国と国との議論でいけば、こんな議論にはならないと思いますが、民間側とか、市民側であれば、自由に発言できるとして、国際的な、世界の課題に対してみんなで答えを出そうということですから、たぶん国を超えた、国境を超えた議論がこれから始まるのだなという気がしました。

谷中:おもしろいですね。やっぱりその対話の中っていうのは、当然いろんな意見が出るわけですけれども、どうやって議論がまとまっていくかに非常に興味があります。


日本人は世界に発言し、議論する力をつけるべし

工藤:そこに関しては、まだ見えないのですが、今回は設立総会だったので、かなりの言い合いになりました。ただ感じたことがあります。世界で発言するって結構大丈夫だなと。僕もちょっと困ったのですが、みんな発言のスピードが早い。司会者が意見ありますかっていうと、みんなすぐネームプレートを縦にする。次々に発言するので、そのリズム感に追いつかない。日本には国際社会で活躍している人がいっぱいいると思うけれど、こういうふうな議論の中で通用する力をつけていかないと、なかなか存在感を出せない。


民主主義や市民社会こそが世界で通用する

それからもうひとつ感じたのは、民主主義とか、それから市民社会というのが、もう当たり前で、それを前提に議論が進められていることです。みんなの意識は、政治をつくっているのは市民じゃないか、民主主義で有権者じゃないか、と。だからこそ、この議論は有権者に支持されないとだめだということが、徹底しているわけです。言論NPOは、まさに10年前に日本の民主主義とか市民社会を議論の力で強くしようということで登場したNPOなんですが、日本の中では、なんでそんな青くさいことを言っているんだということで冷ややかに見られることもあったのですが、グローバルではそれが当たり前でしたね、本当に。なので、国際社会では、みんなどんどん自分たちを主人公として、この時代に参加するという動きが当たり前だなという感じました。

だから、その立ち位置に立てば、世界と議論はできると思いましたね。みんな、自分たちの団体の利益とか、国の利益で発言していなかった、やっぱり、世界のこういう新しい脅威に対して、何を僕たちは考えればいいのかとか、そういう共通の意識があるのです。核の問題も議論していましたし、環境の問題でも、地球的な環境の制約があるわけなのに、全然、世界はもう動かない。それに対しても、きちっと僕たちは議論しなきゃいけないってことを言っていました。自分たちの個別の利益、小さなナショナリズムじゃなくて、大きな世界的な発想を、やっぱり日本も持たなきゃいけない。そう感じて日本に帰ってきました。

谷中:真に市民に支えられた意見を、そういう国際的な舞台で発していく、その接点になる存在は実はこれまで以上に、非常に高い能力が求められるような気がしますけど、いかがですか。


世界の問題に対し、地球市民の1人として考える

工藤:僕は日本の外交というか、日本の将来をきちっとどういうふうに生きていくのかがわからなければ、世界で主張できないと思ったので、日本の国内で議論づくりをこの10年やってきたのですが、それだけではだめだと思いましたね。つまり、世界のさまざまな問題に関して、地球の1人の市民として、同じように当事者意識を持って、自分も考えなくてはならない。そういう点で言えば、まだ僕も発展途上で、やっぱりこれから勉強しなきゃいけないなと思ったし、そういう舞台が国際社会にはあるというのを知ったことが嬉しかったですね。日本にいたら世界の変化がなかなかわからないじゃないですか。全く閉塞感だらけですから、この国は。なので、非常に良かったなと。

谷中:今お話伺っていますと、各国の代表が自信を持って発言しているという裏には、おそらく各国で市民のみなさんとしっかり対話されている経緯があるからということなんですね。

工藤:その通りで、やっぱりどんな議論も、市民に支えられない議論は空論っていうか、議論のための議論なのです。僕も議論形成をずっとやってきたのですが、評論家は自分の意見を言っているから、参考になるかもしれないけど、その議論が何かをつくるわけではない。やっぱり、僕たちが直面している社会は、答えを出さなきゃいけない。

ちょっと話が変わりますが、僕たちの言論NPOのメンバーで、企業経営者だった人が、急に会社を辞めて、イギリスのクリントン財団というNGOに転職したのです。1年振りに会うと、その人はもう顔が変わってしまいました。イギリスに行ったら、大学のトップクラスの世界の若者がそこに集まって、たとえばアフリカの医療支援のための仕組みをつくりたいとか、世界のための食糧問題をやりたいとか、世界の若者はそうやって世界で動いているわけです。参加できる非営利組織があり、シンクタンクがあって、そういう人たちが、そういう議論をし、市民の支持を得て、そしてそれが国それぞれの政策に反映し、課題に答えをだしている。

日本はどうでしょうか。なんか非常に弱いですよね。たぶんそういう受け皿がなかなか機能しない。個人ではすごい人がいると思うのですが、課題に向かい合う部隊が少ない。そういう中で、言論NPOはCoCのメンバーに選ばれたわけですから、僕は日本の中で市民の議論のひとつのプラットフォームを作り上げて、そしてその議論を世界に反映させなきゃと思っているのです。そういう流れをようやく僕たちは感じているし、言論NPOは設立10年にして、ようやくそれが実現できるなっていう、今そういうチャンスを得た思いです。

谷中:時代の変化の早さを感じます?


世界は世界の問題を自分の問題として解決しようとしている

工藤:感じます。これはですね、何て言うか、世界では問題を自分の問題として考えて、その課題解決をしようとしている人がいっぱいいるわけです。つまり、議論の力で課題を解決したいと。課題はどんどん起こっているわけだから、それに関してかなりスピードアップした意志決定を求められているし、その中で発言も問われている。日本はなかなかそういう動きが目に見えないじゃないですか。見えないというか、そういう動きをつくりきれていなかった。そういうことについて、僕も反省点があるので、やっぱりそれくらいハイスピードで課題に答えを出していかないといけない状況になっている。

考えてみると、日本はこの10年間、世界に何を発信したのだろうか。日本の政治は日本国内のことで頭がいっぱいで、何も決めきれない。というか自分たちの政治ゲームをしているだけです。日本はそういう状況なのに、世界はどんどん動いて行って、大きな変化が始まっている。僕たちはこの時代の社会に生きている以上、この変化に僕たち自身が当事者として参加していかないと、もったいないじゃないですか。

谷中:最後に、日本が震災からちょうど2年目に入りまして、まさに市民レベルの対話がいろんなところにありますね。実際に私も現場に行ってみますと、その対話を探りながら前進しようとしている姿勢をすごく感じる。一方で、どうやって対話していったらいいかわからないという方がすごく多い。やっぱりどうしても、自分の意見だけ言って、終わってしまったというケースが多い。先ほどのお話のように、真に市民の議論が形成されて、それが世界に発信されていく、その一番の土台作りのためには、どうやって一歩を踏み出したらいいのでしょうか。


時代を変えられるチャンスに恵まれている

工藤:広島でこの前講演してきたときに、同じ話をしました。つまり、地域にもさまざまなニーズがいっぱいあるわけですよ。お年寄りの問題とか、地域の衰退の問題、被災地の問題だったら、被災地の復興とか。誰かが、そのなかで、議論を形成する役割をつくっていく必要がある。みんなが良い意見を持っていても、それを討議する仕組みを誰かがプロデュースしていかないと、それが議論として展開できないと思う。だから僕はそういう地域社会で、やっぱりちゃんと課題を評論家として議論するのではなくて、解決するための討議をしていくっていうやり方に挑むような若い世代が、地域にどんどん出てくるべきだと思うのです。

言論NPOはまさに討議をするためのNPOなので、チャンスがあれば、いろんなかたちで一緒に繋がることはできると思うのですが、そういうふうに繋がって、課題に向かって議論していっくような動きが始まっていない。僕たちが直面している課題は、非常に大きい。地域の発展から、自立というかたちになると、制度的な問題まで変えていかなきゃいけないし、その地域が競争力を持つということになると、もっと挑戦が必要になるわけです。だから、いろんな人たちが、質の高いレベルで繋がり合わないと、たぶんそういうふうな議論ができないと思っているわけです。

僕も震災は初めから議論していましたけど、やっぱり行政はなかなか機能しない。それは、やっぱり、行政という枠組みで、なんとなく平等で、なんとなく今の制度を前提としてやるという状況だけでは、非常時に人の命を救えない。いろんな専門的な人たちを集めたり、それでいろんな人たちの力を借りないといけないし、立法的な対応が必要となると、まさにポリシーメークをしていかなきゃいけない。そうなってくると、やっぱり勉強しなきゃいけない。そういう時代に自分たちがあるということをチャンスと思うのか、大変だと思うのです。僕は、僕たち自身が時代を変えられるというチャンスにあるとぜひ思ってほしいし、そのために、みんなで繋がっていくしかないなと思っているので、そういうふうなきっかけというか、そういうチャンス、時代が始まったんだなと思っていますね。

谷中:結びになりますけども、この度、COC、カウンシル・オブ・カウンシルズに常設メンバーとして選出されまして、今後の言論NPOとしての抱負、工藤さんの抱負を最後に一言お聞かせください。


アジアにおける議論のプラットフォームを

工藤:僕はまず、国際社会に関して、日本が主張していくこと。声もない、存在もない国というのはダメだと思う。やっぱり、国際的な問題に関してどんどん挑んでいく、僕はその触媒になろうと思っているので、日本のなかで議論をどんどんつくっていく。と同時に、もうひとつ考えているのは、アジアには、日本と、そして中国という大きな、しかもいろんな社会的な矛盾を持っている国が隣の国なわけです。そして、アメリカのアジア重視に伴い、アジアにおいてのパワーバランスで、国際政治が動いているという状況がある。僕はあまりこれは良くないと思っています。国と国との対立ではなく、市民が、民間が国境を乗り越えて対話をつくっていかなきゃいけないと思っています。だから、国際政治における課題に対する議論のひとつの触媒になると同時に、アジアにおける、議論のプラットフォームを実現したいなと思っています。

谷中:翌週もぜひ、さらに深めた話をお聞かせください。ありがとうございます。

工藤:ありがとうございました。

「ON THE WAY JOURNAL WEEKEND」において、工藤がゲストとして、「カウンシル・オブ・カウンシルズ」について語りました。
(JFN系列「ON THE WAY JOURNAL WEEKEND」で2012年4月21日に放送されたものです)