『NPO新時代』 (田中弥生氏著) 出版記念パーティー 報告

2009年1月30日

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 1月30日、言論NPO監事の田中弥生氏(独立行政法人大学評価・学位授与機構准教授)が昨年出版した『NPO新時代―市民性創造のために』の出版記念パーティーが都内で開催されました。

 NPO関係者や研究者など約150名が参加したこのパーティーでは、懇親会に先立って田中氏の著作に関するトークセッションが行われました。参加したのは田中氏のほか長紀枝氏(認定NPO法人難民を助ける会理事長)、多田千尋氏(NPO法人日本グッド・トイ委員会理事長、東京おもちゃ美術館館長)、三宅隆史氏(特定公益増進法人シャンティ国際ボランティア会企画調査室長)で、言論NPO代表の工藤泰志が司会を務めました。


 まず冒頭で工藤が挨拶しました。そのなかで工藤は、「NPO法ができて10年たってNPOの数は増えたが、はたして日本に強い市民社会をつくってきたのか。自分たちの生存だけを目的として市民から離れた存在になってしまってはいないか」と問いかけたうえで、田中氏の本は「「日本のNPOは原点に戻れ」という強いメッセージであり、私たちに強い市民社会を作れと迫っているのだと思う。今日という日を、そのための議論を始めていく日にしたい」と述べました。

 つづいて田中氏が、NPO法の施行から昨年で10年がたち、日本のNPOの現状と総括をしたかったのがこの本を書いた理由だと述べました。田中氏はNPOの現状について「量的にはかなり増えて活動も幅広くなったが、財政的な問題が顕著になっている」と指摘するとともに、総括という面ではNPOの生活の質の向上と市民性創造という基準を示して、「サービスの面では一定の成果を上げたものの、市民性創造という点では途上段階」と評価し、資金を得やすい行政からの委託事業に傾斜することで「ダイナミクスを失い、立ち位置を見失っているNPOが多い」と指摘しました。


 長氏からは、この本を読んで感じたこととして「(社会的に)いいことをする、ということだけを目標としていると、行政の下請けになってしまう。お金をもらうということは大きな制約を受けることであり、NPOがNPOであるためには自立性が必要」といった指摘がなされました。そしてそのためには、寄付金の使途を「地道に誠意をもって(寄附者に)報告していくしかない」と長氏は述べました。

 多田氏は、田中氏が著作の中で寄附者とボランティアを「参加者」ととらえたことに触れ、「参加者をどうデザインするかという資質がなければならないことを自覚した」と述べました。また寄附についても、より戦略的に集めていくために「アメリカスタイルではなく、日本の土壌に合った寄付文化を考えていかなくてはならない」と指摘しました。

 三宅氏は「団体の持続性について真剣に考える必要がある」とし、経営や人事といったNPOのマネジメントをすることが社会的な価値を持つようにならなくてはならないという認識を示しました。さらに本の中の「支援市場」という考え方に触れながら、「(サービスの)受益者と支援者に対する説明責任を果たしていくことが市場で勝っていくポイントであり、できているところに寄付も集まっている」と指摘しました。
 これに対して田中氏も、「非営利組織と寄附者と支援者が競い合う市場が形成されないとこのセクターの成長はない」と考えて「支援市場」という言葉を使ったと述べ、今後は「不当な活動をしているNPOはドロップアウトしていくというマインドも求められる」と指摘しました。

 工藤からは、「NPOが競争力を持って市民社会に結果を出していくという循環がなければ市民社会は育たない。そして市民の側に公的なサービスとNPOという選択肢が提供されるようになっていくのが、自由な社会ではないか」という指摘がなされました。田中氏もこれに応じ、「日本では受益と負担の感覚が麻痺しているが、市民自身がサービスを生むという選択肢が増えることでより自由な社会になると思う」と述べました。


 その後はゲストからの挨拶がありました。このなかで衆議院議員の辻元清美氏はNPO法の10年をふり返り、「派遣切りの問題など、先進的な活動に取り組むNPOも増えてきている。この10年間、NPO的な価値による活動の実態が社会に新しい分野を切り開き、市民性の創造によって社会のかたちを変えていく原動力になってきた証だと思う」と評価しました。


文責: インターン 水口 智(東京大学)