民主主義の崩壊を止めるため、政治と主権者の緊張関係を取り戻すプランを社会に提起する
「言論NPO創立18周年フォーラム・パーティー」開催にあたって

2019年11月05日

言論NPO代表・工藤泰志


 私たちは、世界を代表する多くのシンクタンクと連携して、世論調査を行っています。そこで明らかになったことは、民主主義を取り巻く環境に様々な問題があるということでした。これは海外の現象にとどまらず、日本でも同じ傾向で、特に若い世代で、政治に対する不信が構造化してきています。

 私たち言論NPOは、この5年間、「民主主義」というものをかなり議論してきました。世界では左右のポピュリスト政党が台頭し、一方で既成政党が市民の信頼を失って凋落し、統治そのものが揺らぎ始めています。既成の政治やそれを取り巻く知識層は、グローバリゼーションに伴う富の偏在や、自分たちの将来に対する不安にきちんと向かい合っていません。「今の既成政党は、若い世代の将来を全く無視している」。ヨーロッパでは、若い環境活動家グレタさんの怒りに満ちた動きで、既成政党が支持を失い、ドイツでは社会民主党の党首が退陣に追い込まれています。


 そして、私たちは、この日本にも全く同じ現象、つまり政党や政治家、国会への圧倒的な不信が存在することに気づきました。言論NPOは今年、3ヵ月ごとに、日本の国民を対象とした世論調査を実施してきましたが、そこで浮かび上がったのは、自分たちの将来に不安を感じ、一方でその解決を政治に期待できない、という明確な国民の意識です。特に、私たちが気になったのは、若い世代の間に、こうした状況に無関心で、政治をほとんど信頼できないという見方が強まっていることです。

 参院選を前に行った調査で明らかになったその結果に、私たちは驚きましたが、日本のメディアはほとんどそれを取り上げませんでした。その代わりに多くのメディアが行ったのは、「若い世代の多くが安倍政権を支持している」という、全く違う報道でした。我々の世論調査では、その傾向は全くありませんでした。メディアは二択によって民意を問い、表層的に政治を見るために、今起こっている本質的な現象が見えなくなっているのです。しかし今、間違いなく、若者をはじめとした市民は日本の政治に失望し、政治から離れ始め、民主主義そのものに疑いを持ち始めています。

 おそらく、政治にかかわる人たちは、その怖さを痛感しているはずです。ひょっとしたら、ポピュリズムが若者の声を集めたとき、今まで投票に向かっていなかった人たちが今ある政治のシステムを壊してしまう危険性があるということです。


 だからこそ、私たちは、今、民主主義の議論を始めなければいけないと思いました。我々が10月から、若い政治家も招き、今ある民主主義の全ての仕組みを診断しているのは、そのためです。しかし、私たちが行いたいのはそれだけでなく、その診断をベースに民主主義を修復し、今の時代に合わせてバージョンアップするための案を社会に提起することです。私たちは2004年から、各党のマニフェスト評価を一貫して行ってきました。しかし今、全ての政党の公約は形骸化し、国民に向かい合う政策を出さなくなってしまっています。私たちはその修正を政党に求めてきましたが、選挙は自分たちが当選するためのショーであり、本質的な課題を選挙が終わるまで提起しない、という手法が当たり前になっています。

 この状況を変え、主権者と政治との緊張感ある関係をつくっていかないと、民主主義が壊れる。私たちはそう考えています。言論NPOはそのための議論を開始し、多くの人たちに参加を呼び掛けたいと思っています。