日本は、民主主義の強さを世界に示すことができる
ラスムセン氏(前NATO事務総長)が講演

2019年11月19日

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 デンマーク首相や前NATO事務総長を務め、バイデン前米大統領やブレア元英首相らとともに「コペンハーゲン民主主義サミット」を立ち上げたアナス・フォー・ラスムセン氏が11月19日、言論NPOの「東京会議2020」プレフォーラムで講演しました。このフォーラムのためだけに来日したラスムセン氏は、自由と民主主義を守り推進する上で、「日欧の強力な連携」「世界の民主主義国による強固な同盟」「民主主義国が新技術においても世界のリーダーとなること」の三つが必要だと主張。そして、安定した民主主義国である日本は、民主主義がいかに前進と繁栄、平和をもたらすかを示しているとし、「日本は、世界全体に民主主義の強さを示すことができる」と期待を示しました。

 冒頭でラスムセン氏は、自身が2006年にデンマーク首相として、2013年にNATO事務総長として来日し、それぞれ安倍首相と会談したことを紹介。そして、NATO事務総長として取り組んだ、域外の民主主義国とのパートナーシップ強化の一環として、2013年の来日時に署名した、日本とNATOの共有利益、価値についての「共同政治宣言」は、「自由を愛する民主主義国がともに立ち上がり、専制主義との闘いを行うべきだというメッセージだ」と位置付けました。


米中対立が深まる中、欧州にとって日本以上の同盟国はない

 その上で、ラスムセン氏はまず日欧関係について「欧州は志を同じくする同盟国が必要であり、その点で日本以上にふさわしい同盟国はない。この絆は自由、民主主義、開かれた市場という共有する価値の上に立っている」と発言。その背景として米中対立に言及し、「米国は価値によって世界をリードすることよりも、取引による外交を選んだ。一方、中国は近隣諸国の民主主義に挑戦し、そして平和と世界の安定を維持するための国際的な規則を書き換えている。そういう中で、ヨーロッパには、ルールベースの多国間秩序を守るために、米国に取って代わるだけの地政学的な強さも、結束もない」と懸念を表明し、そのために日本のような友好国が重要だと強調。日EUEPAをはじめとした日欧連携は、既に日欧相互に利益をもたらしており、多国間主義と互恵主義を体現する枠組みだ、と語りました。

 そして「欧州は中国とも貿易をしたいと思っているが、それは公平かつ対等な条件で行うべきだ」と語ります。ラスムセン氏は、「中国がどのように他国の戦略的な資産、技術的なノウハウを買い付けているかをきちんと認識した上で、貿易をするべきだ」とし、「この点において、欧州は中国のリスクにやっと気付き始めた」と説明。「中国に経済的に依存しすぎることの危険性について、日本はヨーロッパよりも早くからはっきりと認識している」との見方を示しました。


世界の自由民主主義国家の同盟が必要

DSC02480.jpg 次に、ラスムセン氏は、「世界の自由民主主義国家の同盟が必要だ」と重ねて強調。30年前にベルリンの壁が崩壊した際、私たちは「歴史の終焉」、つまり民主主義と資本主義の最終的な勝利を確信していたが、当時のそうした楽観的な見方は今、現実主義に引き戻されている、と述べました。

 そして、同じ1989年に起きた二つの出来事、すなわち、ティム・バーナーズ=リーによるワールド・ワイド・ウェブの概念の考案、そして天安門事件に言及。まずインターネットについて「当初、インターネットがもたらすのは開放だと信じられていたが、今、選挙介入やフェイクニュース、サイバー攻撃などにより、ネットに流れるのは無害な情報だけではないと知らしめられている。米国政府はかつて、中国がインターネットを支配することはありえないと考えていたが、現に中国はサイバー空間の遮断と顔認証による国民の支配に成功している」という認識を提示。そして、天安門事件により、「中国共産党は権力維持のためには、民主主義の排除も含めて手段を選ばないことが示された」と述べました。そして、今、中国やロシアは独裁体制に向けて、ますます強く舵を切り、他国の民主主義に介入するという考えを強めている、という見方を語りました。

 だからこそ、「私たちは自由と民主主義へのコミットメントを新たにし、民主主義国家の同盟を強化しなければいけない」と強調するラスムセン氏は、「自由主義社会が、貿易やインフラ、5G、AIに至るまで、21世紀のあらゆる基準を設定していかなければいけない」とも発言。このように自由と民主主義を守り、台頭する独裁主義に対抗するためには、米国の決意と指導力が不可欠だとし、米国の要人も参加し毎年開催するコペンハーゲン民主主義サミットの趣旨はその点にもあると説明。「来年6月のサミットには、日本からも多くの参加者を迎えたい」と期待を示しました。


民主主義国は、新技術を巡る競争にも勝利しなくてはいけない

 第三にラスムセン氏は、民主主義国による「技術同盟」の必要性をも協調。ロシアのプーチン大統領の「人工知能のリーダーは世界のリーダーとなる」という言葉に同意している、と述べ、米国の国家安全保障委員会で講演した経験から、米国の政財界はこの分野でも中国との覇権争いをしているという認識になっている、と紹介。「民主主義国が協力関係を強化し、人工知能を巡る競争に勝利しなくてはいけない」と強く訴えました。


 その一方で、AIに関するグローバルな規範をつくり、AIがもたらす最悪の結果を回避しなくてはいけない、とも主張。具体的には、人工知能の戦争への活用において、殺傷判断を自動システムに委ねることへの規制に多国間合意が必要だ、と述べました。

 加えて、ラスムセン氏は、技術競争で勝者になるために、民間セクターから政府への協力を進めること、そして、NATOを強化するために、欧州からの研究開発投資への増加や、デジタル技術も用いた意思決定の迅速化を進めることも必要だと指摘しました。


 さらにラスムセン氏は、「自由社会で生きる私たちには、自由社会をつくった原則を守るだけでなく、この原則を、抑圧に苦しみ、人身の自由のために戦う全ての人たちに広げる責任がある」と主張。

 そして最後に、ラスムセン氏は日本の役割に言及。「自由と民主主義を守る戦いに日本が必要だ。日本は強固で安定した民主主義を確立している。日本は、自由がいかに前進と繁栄をもたらすものか、そして、民主主義国が隣国と平和に生きることが可能であることを示している。日本は世界全体に民主主義の強さを示すことができる」と強い期待を述べ、講演を締めくくりました。

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