第7回エクセレントNPO大賞 「市民賞」講評

2019年12月12日

IMG_9797.png山岡義典
第7回エクセレントNPO大賞審査委員、法政大学名誉教授


1. 審査の視点

 市民性は、あらゆるNPOに問われます。しかし組織における市民性とは何かを問うと、限りなく深みに嵌ってしまいます。組織によっても論者によっても、その意味も内容も異なるに違いありません。だからと言って、その議論を回避すべきではないでしょう。それはあらゆるNPOが問い続け、また執拗に論じ合わないといけない深い問いでもあると思います。

 そのような宿題を承知の上で、このエクセレントNPOでは市民性を、広く市民の社会参加の意識をどう高め、どう受け入れているかという問いに置き替え、明示的にはボランティア受け入れに関する4項目と寄付受け入れに関する1項目の審査員評価を基本に審査しています。

 審査員評価は、提出された5項目の自己評価をベースに、同時に提出された「組織のストーリー」とWebサイトの内容を参照することによって補足・修正したものです。その結果をもとに、審査委員が一同に会して議論を重ね、疑問点を確認しながら、ノミネート団体や市民賞を決定してきました。

 活動現場を視察するわけでもありませんし、リーダーに直接インタビューをするわけでもありませんから、提出された書面とWebの内容表現が、審査の全ての情報源ということになります。ボランティアと寄付という行為のみを対象としたことも含め、そのような審査に基づく限定的な意味での「市民性」であることも理解しておいていただきたいと思います。
 

2. 審査結果

 以上のような経過を経て、下記の5つの団体が「市民賞」にノミネートされ、その中から1つの団体が「市民賞」に決定しました。


(1)ノミネート団体

「認定特定非営利活動法人 こまちぷらす」

 「子育てを、まちのプラスに」というミッションに由来する「こまちぷらす」。横浜市戸塚区を拠点に子育てママたちが孤立することなく楽しく集う団体です。居場所としての「こまちカフェ」の運営と子育て情報の提供を中心に、多様性・働き方・つながり・まちづくりにこだわりつつ様々な活動を展開しています。160人を超えるボランティアが「こまちパートナー」として登録され、イベントの事業企画または1-2時間の軽作業に携わります。重い参加と軽い参加の機会を用意した点は重要でしょう。その登録の機会を説明会などで公開しているのも大切なことです。収入源の14%を寄付によっていますが、月に一度は寄付者を対象とした交流会を行い、理解者の輪を広げています。設立後8年に満たない団体ですが、市民性のアイデアがいっぱい生まれています。


「認定特定非営利活動法人 ジャパンハート」

 「医療の届かないところへ医療を届ける」をミッションに、海外・国内双方で活動しているのが「ジャパンハート」。海外では、ミャンマー、カンボジア、ラオス等を支援、国内では、僻地や離島の医療と災害時の緊急救援と小児がんの子どもたちの心のケアを行っています。ボランティアは当初は医療者が圧倒的だったそうですが、近年は医療者以外の受け入れも促進し、学生を含む一般ボランティアが年間20%以上参加しています。募集は、医療者、社会人・一般、学生の3つ分けて参加者の主体性を尊重しながらきめ細かく行っているのが特徴です。寄付者に対しても、敬意と感謝をもって対応する他、海外支援国への「支援者ツアー」を開催するなど、寄付者が活動に親しめるような取り組みをしています。


「認定特定非営利活動法人 Ⅾ×P」

 「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望をもてる社会をつくる」ために、「Ⅾ×P」はさまざまな生きづらさを抱える通信・定時制高校の高校生たちに「つながる場」と「いきるシゴト」を届けています。具体的には、通信・定時制高校での独自授業プログラム「クレジット」、学校や地域の中に居心地のよい場をつくる「いごこちかふぇ」、いきるシゴトをつくる「ライブエンジン」です。これらの展開のため、有償ボランティアと無償ボランティアが明確な目標をもって参加しています。有償・無償を問わずボランティアは説明会を通じて募集、応募すると、有償には6回、無償には2回の研修を行っています。寄付者には丁寧なフォローを行うとともに、寄付者限定のFacebookグループを組織し、定期的な活動報告を行っているのも特徴的です。


「特定非営利活動法人 にじいろクレヨン」

 被災直後に避難所の一角で立ち上がった「にじいろクレヨン」のミッションは、「東日本大震災の被災地を、子どもたちとともに居場所づくりを通して心豊かなまちにする」こと。被災者が仮設住宅から復興公営住宅へと移転を続ける中で常に子どもとアートの視点からコミュニティづくりに関わり、5000回以上の居場所づくり活動を行い55,000人の子どもが参加してきたそうです。当初は県外からのボランティアが中心でしたが、地域住民の理解と共感を得ることで子育て当事者がスタッフやボランティアに参加するようになったとのこと。ボランティア参加の流れは大変よくできています。Webのカレンダーで活動の日程と場所をみて、参加を決めたらその日程をFAXかメールで連絡し、活動現場を見学して説明を受けた上で参加する、といった仕組みです。


「特定非営利活動法人 二枚目の名刺」

「組織や立場を超えて社会のこれからを創ることに取り組む人がもつ名刺」。それが「2枚目の名刺」で、それを「持つきっかけをつくる」ことをミッションに、このNPOは生まれました。複数の組織に所属して活動することの制度的な制約を改善すべく、行政や業界団体とも取組んでいます。中心的な事業は、社会人とNPOの出会いの場を用意し、社会人が期間限定でNPOの事業推進に取り組む「サポートプロジェクト」で、すでに延べ5000人近い社会人が100団体を超える協働NPOに参加しています。無償で運営に携わる人や社会人として参加する人が、ここでは広い意味でのボランティアと言えます。運営費用は助成金の他、関連企業からの資金は寄付ではなく委託費として確保しています。企業の主体的な参加を考えた、戦略的な対応であるとも感じます。


(2)市民賞

 以上5つのノミネート団体の中から慎重に議論を重ねた結果、「認定特定非営利活動法人ジャパンハート」を市民賞に決定しました。ボランティアの受け入れにおいても寄付の受け入れにおいても、審査員評価で最も高い評点が得られ、Webに見られる活動内容も、実に豊かな市民性を感じさせるものだったからです。15年前に途上国医療にかかわった小児科医の、まさに世界市民としての強い思いから設立され、医療専門家や市民・学生の幅広い支持や参加を背景に、アジアの途上国とともに日本における医療問題にも取り組んでいます。合計で4500人もの多様なボランティアを受け入れ、うまくマネジメントされている点は評価に値しますし、その過程で培われたボランティア・マネジメントのノウハウを今後も体系的に整理しながら刷新されることを期待しています。


3.今後に向けての期待

 今回ノミネートされた5団体は、設立年からいえば2004年(15年前)から2012年(7年前)、年間の活動規模では1300万円から4億2,000万円と多岐にわたりました。市民賞に輝いた団体は、結果的に見れば、この範囲の最古・最大の団体でしたが、だから選ばれた訳ではありません。特にこれまでの市民賞は、課題解決賞や組織力賞に比べ、若くて小規模な団体が受賞しています。今後も、そのような団体の多数の応募を期待しています。

 組織の市民性とは何かについては、ボランティアや寄付のありように限らず、多様な要素があると思います。今回の審査を通じて実感したことは、創設者がいかに強い市民社会への思いや志しを抱き、それに拘って活動を進めてきたかということです。また事業内容そのものが、市民社会の根幹を強化するものであることもあります。これらの視点を、どう市民賞に反映すべきかについても、受賞者とともに議論を続けていければと思っています。

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