安倍政権の100日評価 / 成田憲彦氏(全4話)

2007年2月23日

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成田憲彦(駿河台大学学長,元細川政権首席秘書官) なりた・のりひこ

1946年6月札幌市生まれ。東京大学法学部卒。国立国会図書館調査局政治議会課長を経て、細川内閣で総理大臣秘書官(政務)。退任後駿河台大学法学部教授となり、2007年から学長。著書に『日本政治は甦るか』、『官邸』など。専攻は比較政治、日本政治論。


第2話:「ホワイトハウスモデルの 『官邸チーム』 では機能しない」

安倍政権は官邸主導でチームを組んでいますが、チームという概念が成功するための条件が整っていません。官邸主導は良いのですが、最初の間違いはアメリカのホワイトハウスをモデルにしたということなのです。しかし、日本の政治はイギリスモデルで、政治改革も小選挙区制という議院内閣制をモデルにしたイギリスモデルから来ています。

この問題で言えば自民党国家戦略本部時の塩崎ペーパーがありますが、それと今度の安倍さんの官邸機能の強化は根本的に違います。塩崎ペーパーはイギリスの官邸をモデルにしていますが、安倍政権論はホワイトハウスをモデルにしています。そこで、日本版NSCという話が出てくるのです。

こうした発想に陥ったのは、安倍さんのキャリアの問題があります。従来は、官房長官は要するに番頭役で汗を流して走り回る役でした。主要閣僚は大蔵大臣、外務大臣、通産大臣であり、それを経て総理になるのがこれまでの常でした。ところが、官邸機能の強化が言われるようになってから、官房長官は非常に重要なポストになり、今、総理の臨時代理というと、自動的に官房長官がなるほど、ナンバーツーのポストになってしまっている。やはり主任の大臣をやっていないことは制約になります。

官房長官だけやった安倍さんが、なおかつ日米同盟に入れ込んだため、アメリカのホワイトハウスモデルということを意識したのですが、アメリカは大統領制ですから、行政権は大統領一人しか持っていません。そこには主任の大臣はいない。またアメリカ大統領は国民からの直接選挙ですから、与党が存在基盤ではありません。つまりモデルが全然違うのです。そこに形だけは、ホワイトハウスモデルで総理補佐官を5人つけても、みんな政治家ですから自分の手柄を立てるために、ばらばらに動いているだけの話です。

イギリス型モデルと大統領型モデルとの基本的な違いは、議院内閣制と大統領制との違いです。議院内閣制は国民が議会選挙をやって議会の多数党が政権を形成する。だから政権の存在基盤は議会にあり、そして議会の多数党の中、つまり与党にある。ところが、大統領というものは議会とは関係がなく、国民から直接選挙されるため、大統領の存在基盤は国民にある。だから国民だけを見ておけばよい。そして議会には与党、野党というカテゴリーがない。

もう一つは、議院内閣制は議会に基盤があると同時に内閣制だということです。内閣制というものは大臣の合議体なのです。それに対し、大統領制では行政権は大統領一人に帰属し、補佐官や長官などはいますが、それはみんな大統領のアドバイザー、あるいは自分が事務を委託している相手ということです。そこで、大統領制の場合には大統領補佐官がたくさんいることになるわけです。これはみんな大統領にくっついています。

ところが日本の場合は、総理にくっついても総理はオールマイティーではないのですから、閣議で決めなれければならない。内閣を通さなければならない。これに対し、大統領補佐官は大統領の補佐官であることによって全省庁に号令をかけられるわけです。内閣制は分担管理の原則ですから、総理補佐官は各役所を動かすことはできません。

自分はある担当の首相補佐官だと言っても、それには主任の大臣がいるのですから、例えば財政担当の補佐官といっても財務大臣でなければ財務省を動かすことはできないのです。

安倍さんは、日米同盟に入れ込んでしまい、官房長官の時にハドリー(大統領補佐官)と話して、自分は彼のカウンターパートナーだと思った。そこで、ハドリーのようなものをこちらにもつくろう、今度は小池さんを日本のハドリーにしてカウンターパートでやらせようと考えたのでしょう。向こうは大統領制でこちらは議院内閣制と決定的に違うものが動くはずがないということは当たり前のことです。だから総理補佐官は今、みんな浮いてしまっている。

安倍さんはホワイトハウスモデルをどうつくるかということで、結局、官邸機能強化ということになり、石原信雄さん(元内閣官房副長官)に検討してもらっています。しかし、官邸機能を強化と言っても今度、防衛庁は防衛省に昇格し、防衛長官は防衛大臣になりました。防衛大臣になったということは主任の大臣になったということです。これまでの防衛長官だと主任の大臣が内閣総理大臣ですから、まだ総理の補佐官が色々とやる余地がありました。しかし、今度は要するに省にしたのです。防衛大臣は主任の大臣ですから、総理補佐官は全く手を触れることができない世界になりました。

つまり、やりたいこととやっていることが違うわけです。

そこで、補佐官をどういう位置づけにするかの整理がつかない。それはそうだと思います。主任の大臣が別にいるのですから、補佐官が号令をかけるようになったら各省庁は混乱するだけです。官邸運営の問題には、基本コンセプトの誤解、トップリーダーの誤解などボタンのかけ違いがあちこちに見えるわけです。

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