【論文】視点・英国におけるマニフェスト

2003年11月07日

概要

我が国で言われているマニフェストは英国のものを意識しているとされるが、英国のマニフェスト政治の実態を見ると、それは我が国とは相当異なった背景の上に成り立っている。首相のリーダーシップのあり方、選挙の形態や議会運営など、政治の行われ方が日本と英国とでは根本的に異なる中で、むしろ日本型のマニフェストは無党派層を取り込む選挙戦術の面が強い。日本でマニフェスト政治をどう機能させるかを考えるに当たり、英国との違いは十分に認識しておく必要がある。(霞ヶ関官僚会議)

要約

最近注目されているマニフェストは英国のものを意識しているようだが、それは我が国で言われているものとは相当異なったものである。

まず、マニフェストの背景には「首相統治制」とも呼ばれる英国首相の強力なリーダーシップが存在する。それを可能にしているのは、首相(野党の党首)の地位の安定性、人事権、政策形成の主導権に加え、選挙が与野党の党首の掲げた政策(マニフェスト)のぶつかり合いの中で実質的に首相を国民が選ぶという直接選挙に近いものとなっていることから来る首相の強いカリスマ性だ。与党には政府とは独自の事前審査機関も存在せず、党のマニフェスト以外に個人の候補の公約も無い。候補者は政党の各地区の委員会が決め、組織的な党営選挙が行われる。選挙で与党が負ければ、野党のシャドー・キャビネットがそのまま内閣となるため、議会審議を背景として出てくる野党のマニフェストの持つ意味は極めて大きい。翻って、日本型のマニフェストは、英国のように党内での意思統一を前提に与野党間での議会における侃侃諤諤の議論を背景として出て来るものではなく、むしろ、無党派層の動向が選挙の帰趨の鍵を握るという政党政治衰退現象の中で、無党派層を取り込む選挙戦術の面が強い。

また、かつての「派閥」の方が強い「政策」立案能力を持っていたことにも留意すべきである。しかし、我が国の首相のリーダーシップが決して強くない中にあっては、マニフェストは、首相になる者の政策面におけるリーダーシップを強化し、我が国の議会制民主主義に新たな局面を開いていく契機となる可能性を秘めているものといえる。


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