【座談会】エコノミスト会議 「小泉政権はマクロ政策をどう組み立てたか」(会員限定)

2003年11月07日

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takahashi_s030822.jpg高橋進 (日本総合研究所調査部長)
たかはし・すすむ

1953年生まれ。76年一橋大学経済学部卒業後、住友銀行に入行。90年日本総合研究所着任。98年立命館大学経済学部客員教授、2000年より早稲田大学大学院アジア太平洋研究科客員教授に。現在、財務省アドバイザリー・グループ・メンバー、公正取引委員会金融研究会委員、法務省出入国管理政策懇談会委員を務める。

sheard_p031008.jpgポール・シェアード (リーマンブラザーズ証券東京支店マネージングディレクター・チーフエコノミスト)
Sheard, Paul

1954年生まれ。リーマン・ブラザーズ証券会社東京支店経済調査部マネージング・ディレクター、チーフエコノミスト。オーストラリア国立大学にて博士号取得。スタンフォード大学、日銀金融研究所、大阪大学等に在籍。経済審議会部会委員等歴任。著書は『メインバンク資本主義の危機』等。

feldman_r031008.jpgロバート・フェルドマン (モルガンスタンレー証券調査部長・チーフエコノミスト)
Feldman, Robert A.

1953年生まれ。イェール大卒、MITでPh.D.取得(経済学)。NY連銀、IMF勤務など経て現職。著書に『日本の衰弱』『日本の再起』。 Institutional Investor誌「The All-Asia Research Team Poll」で第1位 を獲得。

koll_j031007.jpgイェスパー・コール (メリルリンチ日本証券チーフエコノミスト)
Koll, Jesper

ジョンズ・ホプキンス大学卒。OECD調査統計部、京都大学経済研究所研究員、SGウォーバーグ証券、JPモルガン調査部長、タイガー・マネジメントを経て、1999年メリルリンチ証券入社。日本経済の調査に携わり、経済産業省の産業金融小委員会等、政府諮問委員会にて政策提案策定に参画。内外の雑誌・新聞に多数寄稿。

概要

小泉内閣は画期的な経済政策の転換を図った。中期的な経済再生に向けた構造改革に焦点を据えるとともに、政策決定プロセスの改革に取り組んだ点は高く評価できる。しかし、その効果は未だ不十分であり、マクロ経済は再生への出口を描けていない。不良債権処理、財政構造改革、デフレ対策など山積する課題への優先順位づけは正しいのか。市場規律の問題、公的資金や国民負担の問題はどう考えるのか。4人のエコノミストが小泉内閣の経済政策の評価を巡って議論をぶつけ合った。

記事

工藤 今回のエコノミスト会議では小泉内閣の経済政策の評価を議論していただくわけですが、まず、その際の基本的な考え方を高橋さんから説明していただいた上で議論に入りたいと思います。

高橋 基本的に、小泉内閣が従来の内閣と違うとすれば、旧来型の財政・金融政策による景気対策はもう限界であり、構造改革を進めなければ今後も0.5%程度の低成長を続けざるを得ない。このままでは財政も破綻していくという基本認識に立っているというところだと思います。その政策のベースにある考え方は集中調整期間ということで、特に不良債権の処理など、負の遺産の処理を二、三年でやる。そしてこの間に、経済の脆弱性を克服して成長基盤を確立したいというものです。もう1つが、技術革新と創造的な破壊によって中期的に供給力を強化する、同時にその中で需要も創出していくということを狙っています。

具体的な政策手段としては、構造改革が必要だという認識がベースにありますので従来とは政策がかなり違う。はっきりしているのは、まず不良債権処理を優先させるということを打ち出し、それと同時に、前向きの構造改革を実施することで民間の活力を再生するということです。

大きな目標である財政改革では、長期的に見てプライマリーバランスを黒字化するということを目標に据えています。また、金融政策では、当初から一貫して政府と日銀が一体になって機動的な金融政策をということでしたが、具体的にどうするというのは政府のペーパーの中ではほとんど出されていない。


経済政策の実施と基本評価

高橋 以上の考え方と政策の基本認識のもとでの実績ということですが、ポイントは幾つかあると思います。まず、改革をした当初の年に、実質GDP成長率でマイナス1.2%と実体経済が非常に悪化した。その中でデフレが深刻化し、株価も大幅に下落して、金融不安の台頭、あるいは雇用情勢・企業倒産の悪化、こういったマクロパフォーマンスが著しく悪化しました。これは恐らく想定以上の悪化だったと思います。ただこれは改革が進んだからと言うよりは、外部環境が大きく悪化したということが大きい。したがって、この深刻化するデフレに対処するという意味から、補正予算を組むといったような措置も余儀なくされた。これが第1段階だと思います。

そして、改革に着手して丸2年が経過した現時点ですが、足元の実体経済を見てみると、回復の兆しが見られるということは間違いないと思います。しかしながら、これをもってデフレ脱却の展望が開けたということはまだ言いがたい。デフレ脱却の展望が開けるかどうかというところが、ある意味ではその実績を評価する上で大きなポイントになるということだと思います。

その評価ですが、まず第1点は、やはり従来の政権と違って、厳しい経済認識、それから構造改革の必要性を打ち出したということは非常に評価すべきだと思います。また、構造改革に焦点を据えて、中期的な経済再生を念頭に置いた政策運営に転換したということも評価できます。

2つ目のポイントとして、構造改革を進める上で、経済財政諮問会議という新しい政策決定の場を活用して政策決定プロセスを政府主導に変えようとしたこと、中期的な視野から構造改革のビジョンと具体的な方向性を明示したということも高く評価できます。私は中期的に見た日本の成長率の引き上げと、それからより長期的な観点での財政再建の双方、この2つをターゲットとする政策運営、これは妥当であり、かつもう不可避の選択であったと思います。しかし、デフレ圧力を過小に評価して、結果的に財政赤字目標の修正だとか、改革テンポの調整ということをせざるを得なかったことも事実だと思います。そういう意味で、当初からの財政赤字の目標だとか、そういった数値目標の設定の仕方に課題があったということは間違いないと思います。

総合的に見て、改革開始から2年たっているわけですが、現時点で改革の成果ということについて、経済成長面から評価を下すことは、ちょっとまだ難しい。

シェアード 私は、小泉政権を評価するに当たって、まず小泉政権が誕生したときに日本経済や日本の政策の枠組みがどういう状況にあったのかということを点検するところから始めないと、評価できないような気がします。実は日本では暦年ベースの2001年第1四半期に非常に重要な政策転換が行われている。一言で言うと、日銀の量的緩和の実施と4月にできた緊急経済対策です。つまり、これが森政権の末期にようやくでき上がった政策的な枠組みでした。ITバブルは2000年にはバブルが破裂して、株価が大きく下げ、危機的な状況になっている。2002年11月あたりから皮肉なことに亀井政調会長が株価対策とか資産デフレの問題を取り上げるようになった。それが四、五カ月の政策論争の過程を経て、緊急経済対策という形で取りまとめ轤黷スわけです。

実体経済の方で見ると、実は2000年を通じて、株式市場の動きに反して鉱工業生産高はどんどん上がっていった過程ですが、ITバブル崩壊タイムラグが実体経済に出てきており、それが9カ月ぶっ続けで下がり、もう大不況に突入したころでした。その中で、資産デフレ、バランスシートの調整が経済成長にとって大きな重石であり、この問題の解決なしには景気回復に向けた力強い歩みを期待することはできない、そのためにも不良債権問題の解決を初め金融システム改革などなどの進展が不可欠の条件であるという認識を出てきたわけです。

高橋さんと私の評価が少し違うのは、この枠組みは、小泉さんが総理大臣になったときには既にできていて、それを実施するかどうかということが問われていたことです。小泉さんが就任直後の所信表明で、小泉内閣の第1の仕事として、森内閣のもとで取りまとめられた緊急経済対策を速やかに実行に移す。それを受けて、3つの経済財政の構造改革を断行すると言い出したのはそのためです。ここでの優先順位は第1に、2年から3年以内に不良債権の最終処理を目指し、第2は、21世紀の環境にふさわしい競争的な経済システムをつくること。第3番目は財政構造の改革です。そこで30兆円の国債発行のキャップを打ち出すわけです。その後にプライマリーバランスを目指すという順序です。


経済政策の優先順位は適切か

シェアード 私が小泉政権に厳しい評価を下している理由は、その優先順位を代えて、不良債権問題を曖昧にし、むしろ、新しい政策項目を重要視してしまった、それが財政構造改革なわけです。財政再建は非常に重要な課題ですが、それはデフレを阻止してから臨むべきであって、第1年目からそういうマクロ的なかじ取りの転換をするということは大失敗だったと思います。また、郵貯の民営化とか道路公団の改革とか財投改革とか、これは長期的な課題として大いにやるべきだと思います。しかし、それが政策的なエネルギーの焦点となって、短期的に喫緊な不良債権問題の解決を後回しにしたことは大変な失敗だと思います。

もう1つ思い出していただきたいことは、2001年3月末に、本来なら橋本政権で始まった金融安定化5カ年計画で、不良債権問題の最終処理という政策的な目標があったのに、それができずに、大変な失敗になった。そしてペイオフが延期された。金融再生委員会が1月に、3月末には資本増強の枠組みがそれぞれ廃止され、金融危機対応枠組みが新しくできた。そこで、即座に大がかりな公的資金導入をするべきだったのです。政府がペイオフを延期するたびに、実は銀行は過小資本だということを証明づけているに等しいわけですが、小泉政権は、また2年たって、さらなるペイオフの延期をした。

当初言ったことは正しかったのですが、違うことをやり出し、ますます脱線してしまった。さらに、そのツケが回ってきたときに、原点に戻って対処せずに、今度は従来型の政策、つまりペイオフの延期をし、5月には、りそな銀行の資本増強ということになったのですが、非常に遅きに失しているという感じです。

高橋 最後のマクロ政策の整合性の中で、財政のスタンスはどう考えらますか。

シェアード 今、財政は引き締めの方から中立的なところまで戻っていますが、私は悪くても中立ぐらい、でも、本当にデフレから脱却するのであれば、恐らく非常に総合的な、積極的な政策的なパッケージが必要だと思いますね。つまり、ミクロベースでは不良債権問題の解決、いろいろな規制緩和の断行、それから公的分野の改革ですが、マクロベースでは積極的な金融政策と財政政策が必要です。


経済政策プロセス改革と政策評価

フェルドマン 私は、政策策定プロセスとはどういうものかを忘れて評価してはいけないと思います。そもそも自民党は矛盾するいろいろな利益の塊です。民主党もそうですが、矛盾のある塊2つが一緒に国会に有る中で、どのように政策の方向を正しくするかが大切です。例えば不良債権を優先すべきだったのに、できなかったから失敗だと言うことは、政策策定プロセスの分析から見れば、私は少し甘いと思います。これは政府全体の欠陥だと思いますが、政府は首相主導の組織となっているという前提で評価してはいけないと思います。しかも大臣は事実上、自分の官庁の人事権を持っていない。だから、自分の政策を実行しない者は首だということはできない。政党も矛盾を抱えているとなれば、どうやって敵を味方にするか、これはやはり取引、妥協が必要になります。

もう1つは、優先順位はシェアードさんの考えと同じですが、実際問題として小泉政権は同時にいろいろな問題に取り組まなければいけなかった。財政問題、不良債権問題、企業再生問題、政治改革。立法改革問題、つまり法律をどのようにつくるか、外交問題もたくさんあった。北朝鮮問題とか中国をどうするか。そして規制緩和問題、特区問題も同時にあった。これはジャグリング(やり繰り)する必要がある。

その上で、それぞれの項目の中で進歩があったのかなかったのか、どういう段階であったのかということを見てみないといけないと思います。

まず財政ですが、財政赤字が多少増えているのは事実です。しかし、GDPベースで見てみると、公共事業がしっかりと減ってきています。国民が要らないと思っているものをつくっていないということは1つの成功だと思います。国の赤字が増えてはいますが、肝心な財政再建の1つ、すなわち公共事業を減らすという目標はある程度まで達成している。財政政策は、改革が十分進んでいるとは思いませんが、成果が全くないとか失敗だということはとんでもない間違いだと思います。ある程度まで成果があった。それに加えて自民党の矛盾、民主党の矛盾の中で政策をつくったということを考えると、かなりうまくやったなという感じがします。

次に、不良債権処理ですが、私はシェアードさんの意見とある程度同じです。銀行は過小資本だということをはっきりと認めた方がよかったと。ですから、不良債権処理に関しては、小泉政権が満点だということは、残念ながら言えないのですが、進んでいるということは事実だと思います。特に竹中大臣になってから加速している。

企業改革については、これは不良債権処理と裏表関係ですが、これもかなり進んでいると思います。例外もあったが、国は助けないよというメッセージがきちんと送ったから、自助努力が始まった。もう1つは、まだはっきりした形では成果が出ていませんが、産業再生機構は結構よいものだと思います。基本的に銀行が困っている企業貸出に対して、自分の債権が戻ってくるような行動をとるということだけでなく、企業の再生のための仕組みをつくっている。

企業の指標などを見てみると、収益もよくなっているし、マージンもよくなっています。いわゆる負け組企業の財務事情を見てみると、二、三年前に比べてよくなっています。悪いものがよくなっている。これは環境が厳しくなっても起きたことです。規制緩和に関しては、特区は十分進んでいない。小泉さんは言うことを聞かない官僚の首を切るということをもう少しやればよかった。規制緩和に関する自分の意見を、もう少し貫く必要があると思います。

政治改革は、私は余り進んでいない感じがしますが、抵抗勢力が非常に弱っているということの意味が大きいと思います。ポピュリズムが行き過ぎることはよくないのですが、ちゃんと国民の声を聞いて政治をやるということは、政治改革の1つの大きなポイントだと思います。外交問題ですが、小泉さんになってから日本人の外交意識がぐんと上がったと思います。小泉さんがきちんと自分の決定すべきことを決定したということもあるので、これも大きな成果だと思います。

最近はマニフェストという話がよくありますが、多分これは小泉さんも管さんも、自分の政党内の矛盾を整理するために出している手段だと思います。このように公約したい、私がリーダーになるならば「こういうことをやります」と言えば、どういう政策を実行するかという政治になるわけです。これは多分、小泉政権の一番大きな日本文化に対する貢献ではないかと思います。すなわち、国民不在の政治ではなくなってきている。そういう意味で、失敗はいろいろあったということは認めないといけないと思いますが、かなりの成功もあった。

工藤 コールさんはいかがでしょうか

コール 私は、全体としての評価は非常に高いのですけれども、施策の実行スピードにはやや問題があったと思うのです。確かにシェアードさんや高橋さんが言ったとおり、いろいろ約束したことで実行できていないことがあります。

経済への一番の大きな影響は、マイナス成長とデフレが加速してしまったのですけれども、小泉政権になって2年半が経過して、根本的な部分で日本のマクロ政策は変わったと思います。これは、緊縮金融政策と緩和財政政策ですけど、これは、小泉政権になって完璧に変わりました。財政を引き締め、金融を緩和した。また、これはやはり私は一番評価する点ですけれども、財務省と金融庁、それと官邸そして日本銀行、これらがみんな協働して政策を行うようになった。これは、大変よいことだと思います。日本の構造問題はどうやって解決するかというと、これをやれば全てがよくなるといった魔法のような政策はないわけです。財政の問題か金融の問題か、銀行の問題か構造の問題か、山ほど議論したわけですけれども、結論としては、小泉さんはいい判断をとったのではないかと思います。

時間は確かにかかりましたが、関係官庁・機関が、協力して解決しなくてはならないという結論になったわけです。日銀の福井総裁と財務省・金融庁が、積極的に毎日話し合いをして共同政策をとっていると思います。小泉政権の前には、日本の政策決定は、どうしても派閥の力関係で決められていた。この構造をつぶして、新たな政策の枠組をつくるのに2年半かかったのです。スピードは遅いものの、着実に進んでいると理解すべきです。

工藤 小泉政権は何を優先すべきだったのでしょうか。

高橋 日本経済は今の構造を変えない限り、長期低迷から脱却できない。では、その構造を変えるために何が必要かと言ったときに、不良債権の処理、財政赤字の削減、それからもろもろの経済活性化、幾つか大きなポイントがあって、その組み合わせの仕方が非常に難しいと思う。

評価として、フェルドマンさんがおっしゃったように、プラスの動きはもちろん出てきている。国民全体もそのことは承知しているからこそ支持もまだ高いわけです。しかしながら、それが十分でない、改革の成果が十分上がっていないということも事実で、旧来の自民党政権に比べて改革が進んでいるのは間違いないけれども、経済を活性化するために十分な成果が上がっているかと言えば、足元上がっていない。2年半では無理だったかもしれない。では、4年、5年この政策を続ければ成果が上がるのかどうか。そこもまだ意見が分かれていると思う。

シェアード フェルドマンさんがおっしゃっていることはある意味で正しいと思いますが、政策的な枠組みとかは、もう少し中立的に見るべきだと思います。何をベンチマークにとっていくのかということです。当然ながら私は、何も動いていない、あるいは小泉政権は何もいいことをやっていないというふうには評価していません。いいこともあれば悪いこともあると。問題はネットで見た場合、目指していることに比べて十分な成果を上げているかどうかということが正しいベンチマークだと思います。

小泉政権を評価するときには、恐らくほかの政権よりも多少ハードルが高い。これはちょっとパーソナリティーにかかわってくると思います。つまり小泉さんが物すごく強いレトリックで、もう構造改革を断行するのだと言い出し、そこで高い国民的な支持率があったわけで、小渕さんとか森さんが総理大臣だったときよりも、恐らく成果に期待ができた。その分だけ、またがっかりする要素も大きくなってくるわけです。

どうも構造改革なくして景気回復なしというスローガンが、不良債権問題が急務というところから化けて、いつの間にか道路公団とか郵貯とか、そういう方へ行ってしまった。郵貯とか道路公団も構造改革として日本経済にとってぜひとも必要なことです。ただ、今のデフレ状況から脱却するために一番急務な構造改革かと言うとそうではない。やはり不良債権の処理を早めることがもっと大事だと判断しています。

財政問題を論じるときに、ちょっと異なった2つの観点があります。1つはミクロ的な問題、財政のミックスを変えることによって、いわゆる乗数効果が上がる。これは大賛成です。ですから、非効率な公共投資を減らして、もっと効率のよいところへ財政の支出を回すべきだと思います。そういうことも大賛成です。


なぜ効果は十分でなかったか

しかし、今の局面でマクロ的な財政引き締め、あるいは出動、どっちが必要かというと、やはりデフレが続いている環境においては、私は緩目の方がよいと判断しています。どうも構造改革イコール財政構造改革、イコール財政引き締めという一筋の論理が、2001年、2002年には非常に失敗したと思います。

高橋 そこは橋本さんのときにも失敗したわけです。そういう意味で、長期的に見た財政再建の必要性はだれも否定できない。しかしながら、足元でデフレ脱却の展望が開けないうちに、行き過ぎた財政緊縮をすることは、プライオリティー(優先順位)として間違っているのではないかという議論はありえる。

フェルドマン 理論的にはやはり需要曲線と供給曲線は同時に考えなければいけない。不良債権問題というのは過剰供給ということですので、それを解決するには、供給曲線を左へシフトさせないといけないということです。何が起こるかというと、もちろん失業率が上がります。失業率を大きくしないためには需要を増やさないといけない。少なくとも需要を減らすのは間違いだと。では、構造改革政策をとるときに、もちろん供給曲線が左へシフトしていきますが、それと同時にある程度まで需要が喚起されるということもあると私は思っています。例えば小売業で、もし必要のない企業がつぶれた場合、今まで設備投資を控え目にしていた企業が、ようやく設備投資を始める。ですから、ある政策は需要政策、ある政策は供給政策という分け方はしない方がいい。ただし、全体として構造改革をやりながら、需要が創造されるようなことをしないといけない。

そういう意味で、規制緩和イコール需要喚起だ、すなわち受ッ皿企業をつくろうよということが大切になっている。官庁が規制緩和を遅くさせよう、特区を抑えようとすることは、需要創出や不良債権処理の障壁になっている。需要喚起イコール財政という考え方は違うと思うわけです。

コール 第一の目標は、やはりどうしてもデフレに対する政策を実行するということです。従ってデフレをインフレへ、具体的には名目GDPを、これから伸びるような政策をとることが優先されるべきですが、そこは金融政策の問題だと思っています。

また、そのプライオリティ・不良債権に対する政策は今年の5月に入って完璧に変わりました。りそな銀行の国有化は今年の政策の面からみると、一番大事なことでした。どうやって国有化したかというと、全部国民の負担になるということになった。これで、日本の銀行の不良債権の償却政策は完璧にかわったと思っています。

以前は、銀行の破綻のリスクは必ずあったわけです。国有化できるかできないか、国民の反発があるかないか、さまざまな議論がありましたが、でも今は思い切った決段で実行したわけです。


不良債権問題脱却の判断基準

シェアード 問題は、銀行システムが十分な競争原理の環境の中に置かれていて、信用創造メカニズムが働いているかどうかという試金石が、不良債権問題から脱却できたかどうかの判断基軸だと思います。ペイオフ、イコール市場原理の導入ですから、ペイオフが実施できているかどうかが、不良債権問題がどこまで行っているのかということを判断するための基軸だと思います。

しかし、ペイオフは2001年3月末の機会を逃し、2003年、今年の3月末の機会も逃してしまった。次は2005年です。この機会は、今度は恐らく決済性預金を永遠に保護するから、ちょっとどうなるのか不安ですが、私はそれさえやれば、あとは実は個々の企業のガバナンスの問題、あるいは金融機関そのもののガバナンスの問題、これは市場任せでできると思います。私が一番心配しているのは、いつまでたっても次善策を実施することによって、いろいろなところにゆがみが来ることです。

RCCや産業再生機構に関しては、私はかなり批判的です。なぜかというと、このRCCが公的資金を積極的に投入するための道具立てとして使えるのであれば賛成なのですが、時価で買い取るということになっているため、そのように機能していない。それは政府が異常な介入をしており、ペイオフも実施していないためです。これは何をする機構かといいますと、様々な企業を処理(ワークアウト)するための機構で、これは本来、官僚ではなく、民間のインベンストメントバンカーがやるべきもので、国の組織が行うことにも疑問がある。

フェルドマン それは市場の失敗がたくさんあるからで、市場が機能していない。

シェアード いや、それは政府が異常な介入をし、ペイオフも実施していないから機能していないということです。

フェルドマン だけど、政府系金融機関を残しておくということになっている限りは、それはできない。政府系金融機関がセーフティネットとして存在しないなら、多分RCCは必要ない。その問題に手がつけられていない。政府系金融機関は幾らでも安い金利で貸す。これはセーフティーネットにならない。これはむしろ問題を悪化させる、モラルハザードの機構ですね。

高橋 実体経済から判断する限りは、セーフティーネットとしての役割が政府系金融機関の役割として非常にクローズアップされてしまっている。だから、どうしても政府系金融機関を活用せざるを得なくなっている。そのよい悪いは別として、その役割縮小どころか、むしろ大きくなってしまっているということはあると思います。

不良債権の処理を考えるときにも、どういう政策を一緒に組み合わせていくかが非常に重要だと思うわけです。不良債権の問題を早く処理することにコンセンサスがあるとしても、では、それをどういう環境のもとでやっていくのか、そのためのマクロ環境をどう整えるかということについて、誤りがあったのではないかと思います。


不良債権問題と不明朗な国民負担

工藤 結果として見れば、小泉改革は民間側の雇用創出などの前向きなことは規制緩和を含めてやったのですが、それは時間がかかってしまって、官庁の壁もありようやく動き始めたという段階です。当初、小泉さんが描いた民間の自立や市場化は、方向は正しいのですが、むしろ実態は厚いセーフティネットの中で公的管理と政府保証の経済になってしまっている。これは、政府が依然として発生しているロスに対して国民の負担の問題を避けているからではないか、と思います。

高橋 特に前向きの改革は、項目は挙がったけれども、ほとんど進んでいない。前向きな動きを引き出すための政策が非常に弱い。一方で、短期的に需要が落ち込むことを覚悟の上での改革措置をやろうとした。そうすると、下手をすると縮小均衡に陥っていく可能性もある。その意味では設定した優先順位にも誤りがあるだろうし、実際に進んでいくそれぞれの分野のペース配分、整合性が非常に欠けている。

シェアード 財政で、1つ強調しておきたいのは、いわゆる不良債権問題、銀行問題を納得がいくような形で最終的な解決をするのに、私は工藤さんが言われるように大がかりな、いわゆる財政出動が必要だと判断しています。これは今までの議論の中で考えている財政と切り離して考えるべきだと思います。例えば、この5月のりそな銀行への2兆円の資金投入で、日銀はほぼ同時に3兆円の量的緩和を打った。これは私の理解では、間接的には、政府が出しているおカネを、いわゆる金融の面からモニタライズしているという解釈ができる。

フェルドマン これは失業保険基金も同じことだと思うんですね。これから、不良債権を処理すると、かなりの失業者が出る。その時には失業保険基金はおカネがなくなってしまう。借り入れ機能はありませんから、やはり今働いている人たちからもっとおカネを取らなければいけない。つまり増税となる。これはとんでもないことで、失業保険基金に借り入れ機能をつけていくということが1つ。それをやると同時に、日銀がそういう失業保険基金が発行する債券を「我々は100%買います」という約束をする。こういうのが、財政政策、金融政策を合わせた、構造改革を進める組み合わせだと思います。

高橋 それは重要ですが、そうした構造改革を進めるために非伝統的マクロ政策というか、小泉内閣はそれをやる覚悟があるかと言えば、それはないのではないか。

工藤 これまでの日本の政党は、政権をとるための政策作りはしてこなかったため、パッケージ的な政策を就任当時にすぐ出すということは、現実論としても、非常に難しいという状況があります。その意味では、今回は、小泉政権の経済財政諮問会議の中でその作業をやりながら、同時並行的で政策を生み出す過程をとったわけです。だから党内や霞ヶ関の従来型のプロセスの齟齬もあり、時間はかなり経ってしまった。しかし、その延長で考えてもどうしても踏み込んでいないのは、今の異状時の出口が示されていないことです。その決断はやはり負担の問題だと思われます。政治が、国民負担を認めたくないというのは分かりますが、その曖昧さが政策の意味を失わせているという気がします。銀行は資本が足りずにロスができないから、産業再生機構に出したくない。こうしたことで決断できない反面、一方で、多くの中小企業にさまざまな形で政府の保障がつき始め、マーケットが健全に機能できなくなっている。その中でデフレが続いているのは事実だと思われますが。

シェアード りそな銀行の例を見ても、一応タテマエとしては入れた公的資金の2兆円は全部回収できるという前提で、15年間もかけて回収する計画です。まるで、これは先送りの制度化です。

フェルドマン なぜそうなっているかと言うと、金融庁は自分の検査が正しいという前提を守りたいからです。新しい監査法人を入れて、もう1回見てみた結果、実は不良債権が思ったより断然に大きかったということになったら、金融庁は自分の数字が違っていたということに関して責任をとるのかどうか。

シェアード 所信表明を読めば、この金融問題でいかに失敗しているのかということがはっきり出てくると思います。第1の目標としては、2年から3年以内と言っていたのが、その2年というのはもう終わってしまった。3年めが来年の3月末で、不良債権の最終処理を目指しますと。まあ、目指しますというアリバイが入っているのですけれども、小泉さんは後退しているなどとは1回も認めていない。その後、なぜうまくいかなかったかの説明もなくその目標の時期すら延期している。

もし、小泉さんが再選されて内閣改造をするときに、原点に戻って、竹中さんを留任させるだけではなく、とにかく全部一任して、その時点においてもう本当にやれと。それができるかどうかが、1つのポイントだと思います。それで、竹中さんは首相に、「金融危機の勃発を回避するなら、大がかりな公的資金投入が必要です。実は60兆円ぐらいの予算がついているので、これを私の判断でフルに使ってもいいですか」という政治的な約束を得ればいいと思います。そしてそのときに日銀が協力をする。そうでもない限り、状況を立て直せない。

日銀総裁の福井さんのレトリックというのはかなりよい方向に進んでいるのですが、「信用創造メカニズムが破綻している、これを直すこと、磨くことが何よりも政策的なプライオリティーだ」とおっしゃっている。ですから、恐らく大がかりな公的資金投入に関しては、福井さんは物すごく肯定的なはずです。今はもう10年間もデtレが続いているから、これはもうまたとないチャンスだと思います。

高橋 今のような政権構造を前提とする限りは、私は必要な改革ができないのではないかという危惧を非常に抱いています。公的資金導入を無理やりマニフェストにしたとしても、それを党のマニフェストとして出すことについては非常に無理がある。したがって、党内の支持が得られない。


経済再生の出口を描けたのか

シェアード 私は、一番の優先順位は、「経済再生の第1歩・不良債権問題の抜本的解決、経済の重しを除く」だと思います。これが前提条件ですから、公的資金の投入を一番やるべきだと思います。公的資金を投入するときに、入れたおカネが返ってこないという前提をはっきりすること。そしてそれを国民に説明するときに、いや、今はデフレだから、日銀がそのおカネをファイナンスすれば財政負担にはならない、この負担は、むしろデフレからインフレという形の中で、そういう負担が必要なのだということを説明する必要があります。

もう1つは、公的資金を大がかりに投入する目的は経済再生ですが、その着目点というのは、市場原理を導入することです。市場原理を導入すれば、もう竹中さんも要らないし、RCCも要らないし、つまりマーケットにある程度任せることができるんです。これが本当の市場型の経済です。このミクロ的な不良債権の問題の解決と、マクロ的なデフレ政策がうまいぐあいに経済再生に効いてくるだろうというピクチャーを描けばいいと思います。

コール これからの施策で優先すべきなのは、やはり何と言ってもデフレ対策だと思います。ただ、時間はかかったが、その方向が描かれた。それ以上に評価しているのが、政策プロセスの変更です。もちろん十分ではありませんが、この方向は定着させる必要がある。経済諮問会議の功績として、第一に挙げられるのは、新しい内閣で予算編成の仕事に積極的に取り組んだこと。そこで戦後初めて、公共投資をカットした。これで、公共投資と予算編成が、根本的に、微調整ではなく非常にうまく、ドラスティックに変わりました。2つ目の経済諮問会議の大きなポイントは、2002年の税制改正であったと思います。残念ながら、税制改正に関しては非常に中途半端であった。これは経済諮問会議が、建設的な税制を作ろうという目標があったのに、根本的には政府税調の言い分に負け、小泉ノミックスをつくるべきであったのに、そうではなくて財務省主導になってしまった。その意味では税制改革が今後も必要と思う。

工藤 最終的にはデフレの問題に行き着いたということは分かりますが、国民負担を最小限に抑えながらもなんとかなるというフィクションは今なお、続いている。これを現実的なものに変えることが必要だが。

フェルドマン フィクションをもとに政策をやっていたということは同感です。ただし、説は2つあって、1つは金融庁が本当の数字をよくわかって、余りにもひどいから、国民をだました方がよいと思ってやったという説。もう1つの仮説は、しっかりしたやり方をもとにして数字をつくったから間違いないと本当に信じていたというもの。うそをどこまで許容するか、危機を避けるために、どこまでうそを認めるか、そしてだんだんと、パニックを起こさせないようにうそを少なくするか、これは非常に難しい綱渡りです。

工藤 でも、それでは出口が見えない。

フェルドマン だけど悪化はしてない。

高橋 悪化はしていないけれども、脱却の展望も開けない。それが今の状況だと思う。実質成長率で見ると1.5%とかいう世界はだんだん定着し始めているように思いますが、名目成長率がうんと低いわけで、これは小泉内閣の目標と全く違う。実質の世界では経済成長は一応プラスになり始めているけれども、名目の世界でプラスになる展望はまだ全く開けていない。2年後なのか3年後なのかはまだわからないという状況であると思います。そういう意味では、デフレが続けば不良債権の問題も終わらない、あるいは不良債権があるからデフレだという部分もあるかもしれないが、そうすると結局、不良債権の問題を処理することに非常に高いプライオリティーがあることは間違いない。

その処理を進めるためには、政策転換しなければいけない。公的資金の投入も含めて、非伝統的な政策に踏み込むべきなのに小泉さんはその構えを見せていない。

シェアード 政策転換の必要性については、構造改革が必要かどうかという議論と同じで、中身によって大分違ってくる。私は政策転換はやるべきだと思います。

政府が公的資金を投入すれば、トップ経営者の首が飛ぶ。だから、そんなことは不当な介入だと銀行が反対する。でも、それ以上に国家保護が続くというペイオフの延期になったときに、反対する声は1つも聞こえてこなかった。ペイオフを延期してしまうとプレッシャーがなくなる。プレッシャーがないからなかなか積極的な行動がとれない。このような図式から、それこそ脱却する必要があると思います。2つの大きなアイデアがあります。公的資金投入、これは日銀がファイナンスする、もう1つは雇用保険を厚くする。これは1つは金融市場、もう1つは労働市場の方から構造改革ができるような環境を推し進めるということです。構造改革の促進を最優先の政策に置いたにもかかわらず、それを進めるためのマクロ政策をとってこなかった、あるいは環境整備の手段をとってこなかったというところに最大の問題があるのです。

フェルドマン 私は、やはり雇用や失業保険のセーフティーネットに日銀の融資をつけることを優先すべきだと思います。

再生機構がやりたい案件に関して金融庁がバックアップすべきです。銀行がどうかなと言ったときに、参加しなければ、その債権の区分を悪化させますよと。だから、あめも十分ありますけど、あめがもし効かなければ、時にはむちを使うことが必要かと思います。

シェアード 私はむしろ、整理回収機構は仕組みを変えて、時限を据えておいて、例えばその間に不良債権の今の残額の半分ぐらいを処理するとか、それをやれば、不良債権問題が解決できるというところから逆算しておいて、それを進めるために必要な予算をつけて時価以上、あるいは適当な価格で買ってもいいよというふうにフリーハンドを与えれば、一気に動き出す。今のRCCでは機能しないわけです。こんな提案を出すと、すぐに銀行救済だからだめだという世論になるが、それくらいしないと不良債権処理は動かない。

フェルドマン それは反対です。問題を解決するためにいい手段ではない。資本注入すれば、それはそれでいい。それで経営責任と株主責任をはっきりさせる。

シェアード もちろん、私の考えも条件付きだが、ただ、時価でしか買い取れないような状況なら、何のためにRCCはあるのか。それは市場で売却すればいい。

高橋 将来的にも価格が低下するという市場展望しか開けないような環境をつくっておいて、銀行に非常に厳しくやるというのはやり過ぎだと思います。やはり銀行は不良債権を放せと言うのであれば、同時にデフレから脱却するための環境を一緒に整備していくことが必要です。

フェルドマン りそな銀行はその点で結構いい例だと思います。もうかなり経営者責任をとっています。ただし、株主責任は余りとっていない。

高橋 銀行は、経営者責任をとることは、今さら何も別にためらってはいないと思う。経営者がかわることで解決するならば、それでいい。だけど、経営者がかわったからといって、マクロ経済状況全体が変わらなければ何の意味もないわけです。不良債権処理については、要するにフェルドマンさんはむち、むち、と言っていると思うのですが、私はあめとむちの両方を使わなければ解決しないのではないかと思います。

工藤 本日はどうもありがとうございました。


(司会は工藤泰志・言論NPO代表)