アンケート結果 「与党マニフェストと小泉政権に対する政策評価」

2004年6月03日

img_pencil.jpg (2004/6/4)

(2004/4/20~5/20実施、回答数102)




言論NPOでは、今年7月の参議院選に向けて政権与党のマニフェストの評価作業を行っています。その中間的な評価結果については、5月12日の民間臨調の主催による「マニフェスト検証大会」で公表し、インターネットでも公開したところです。

こうした評価作業を進めるに当たって、私たちは、有識者の方々にもマニフェスト評価にご参加いただきたいと考え、そのためのアンケート調査を実施いたしました。現在のところ、102名の方々からご回答をお寄せいただいています。

現在、言論NPOでは、先に公表した中間的な作業結果をさらに精査し、近くその全体を公開することとしています。そして、今回のアンケート調査の結果も踏まえて、今の日本に問われている本質的な論点は何かを提示し、参院選に向けて的確な争点を形成できればと考えています。

国民が選挙を通じて政策選択を行い、選ばれた政権が公約を実行するというマニフェストサイクルは依然中途半端なままですが、そうした関係を実現させるためにも、政権公約の実行状況を継続的に厳しく監視し、政治との間に緊張感ある関係を構築しなくてはなりません。

私たちは評価に当たり、以下の3つの評価基準を採用し、その上で、それぞれの基準毎に点数をつけ、それらを合わせた数字で100点満点の数字をもって採点を行いました。

1. [50点満点] マニフェストの妥当性=目標、理念が明確に描かれているか。またそれが適切であるか。その目標を実現するための手段と達成時期がマニフェストに描かれているか。
2. [30点満点] マニフェストの実質的な進捗度:選挙後、マニフェストに提示された目標実現に向けて、具体的な政策対応がどの程度進捗しているか。
3. [20点満点] マニフェストのアウトカム:マニフェストで示された理念、あるいは望ましい方向の実現に向けて、現実が動いているか。


この私たちが行ったマニフェスト評価の採点結果は、自民党マニフェストについては、36.1点(マニフェストの妥当性:18.9点、実質的進捗度:12.7点、アウトカム:4.5点)、公明党マニフェストについては、31.9点と、大変厳しいものとなりました。これは、マニフェスト型政治という観点からは、与党マニフェストが未だ評価できるものとはなっていないことを示しています。私たちは、日本で真のマニフェストサイクルが実現するためには、あえてこの厳しい結果を公表しなければならないと考えました。

今回のアンケート調査の結果については、それがこれと同じ採点基準で見れば、与党のマニフェストを何点と評価していることになるかについても併せて採点を行いました。その結果も極めて厳しいものとなりました。

すなわち、100点満点で採点したところ、下記Ⅰでみるように、日本でのマニフェスト政治の確立度合いについては35.3点、自民党マニフェストの全体的なイメージについては28.1点、同じく公明党マニフェストについては23.4点となりました。また、下記Ⅱでみるように、自民党マニフェストのうち12の分野について回答者に行っていただいた分野別評価については、各分野毎の採点の全体の平均値は、35.6点(うちマニフェストの妥当性については14.0点、実質的進捗度については14.0点、アウトカムについては6.4点)となりました。

以下は、このアンケート調査を通じて私たちが日本の有識者の方々に行っていただいた、政権与党の自民党と公明党のマニフェスト(政権公約)の評価作業の結果です。


I.総論


■ 日本におけるマニフェスト政治の確立度合い [採点:35.3]


日本の政治風土の下では、マニフェスト政治は一過性のブームに過ぎない。少なくとも現状は、マニフェスト・サイクル定着に向けた動きになっているとはいえない。

先の総選挙に向けてマニフェスト論議が盛り上がり、各政党はマニフェストを国民に提示しましたが、果たして「マニフェスト・サイクル」は日本でも確立しつつあるのかどうかについては、かなり悲観的な見解が出ました。4割近い最も多数の回答を集めたのが、「先の選挙で見られたのは、一種のマニフェスト・ブームともいえる現象であり、その流れに乗った民主党に対抗して、自民党もやむを得ずマニフェストの策定に追い込まれたというのが実態である。こうした中で、マニフェストは、いわば選挙対策の手段として使われ、その内容も各党が有権者の耳に心地良い願望を羅列し、できるだけ多くの票を取り込もうとしたものに過ぎない。日本の政治風土の中では、マニフェスト政治は、ブームが去ればいずれ見放される一過性の現象である。」という見方(37.3%)でした。「マニフェスト政治は形だけであり、実質を伴った動きになっていない」(23.5%)も合わせると、6割以上の方が現状を評価していないことになります。

「マニフェスト・サイクルに向けた一つの前進」(27.5%)という評価もありましたが、「日本でもマニフェスト・サイクルが確立し、政策本位の民主政治の実現に向けた動きが定着し始めていると評価できる」としたのは2.3%にとどまりました。なお、そもそも「マニフェスト・サイクルを民主政治の進歩のメルクマールとするが如き考え方自体が疑問である」という見方にも7%近くの回答がありました。

■ 自民党のマニフェストについての全体的なイメージはどうか [採点:28.1]

自民党マニフェストは、党内対立のある問題は避け、各省庁の既定路線を追認しているだけであるなど、政治主導的な決断を欠いた選挙対策向けのスローガンの羅列であり、国民に本質的な論点を提示するに至っていない。

自民党が総選挙に向けて昨年秋に提示したマニフェストである「自民党政権公約2003」についての全体的なイメージについても、有識者の方々の捉え方は厳しいものでした。

4割近くの回答を集めたのが、「与党と政府との間のねじれた関係の中で、小泉改革を盛り込んだマニフェストは、党内で対立などがある分野はほとんど抽象的なスローガンに終わっている。本来の政治主導的決断が公約の中に見られないなかでは、抜本改革や自民党を壊すなどの勢いも消えている。マニフェストは選挙対策としてのスローガンに過ぎず、実質的には政府のこれまでの政策を追認したという面が強いのではないか。」という見方(37.3%)です。次いで、「政府としてこれをオーソライズするシステムが何ら確立していない現状の下では、政府がこのマニフェストに即した形で政策を立案し遂行するという形になっていない。マニフェストを軸に党内の議論をまとめ、それを実行するという形にもなっていない。」という見方も2割(20.6%)の回答を集めました。これに、「自民党のマニフェストそれ自体が、理念や目標についての踏み込み不足や不明確性が目立ち、とても評価できる内容とは言えない。」(9.8%)、「マニフェストそれ自体が間違っている」(3.9%)も合わせると、7割以上の多数が自民党マニフェストを相当厳しく見ていることになります。概ね評価できるとする見方は極めてわずか(2.9%)でした。

また、上述の見方に加え、「従来からの既定路線のもの、あるいは、各省庁が予算を獲得する上での目玉を羅列したものに過ぎない」とする見方 (13.7%)も合わせれば、多くの方が、党内対立や政府との関係の中で、マニフェストがほとんど機能していないということを問題視しているといえます。

■ 公明党のマニフェストについての全体的な見方はどうか [採点:23.4]

公明党マニフェストでは、本来自民党とは相容れない要素の強い同党が、どのような共通理念の下に自民党と連立を組んでいるのかという最も肝心な点が読み取れない。内容は確かに具体的で分かりやすいが、責任ある与党として問題を直視しておらず、単なる選挙対策との批判は免れない。

公明党マニフェストについても、厳しい見方が示されています。最も多い約4割(41.7%)の回答を集めたのが、「構造改革や対米重視の自民党の現在の路線と、どちらかといえば住民へのバラ撒き的なサービス重視で平和志向のイメージの強い公明党とは、本来、本質的に相容れない側面が強いはずであるが、それがどのような共通理念の下に連立を組んでいるかが、このマニフェストから明確になっていない。今の自民党体制が続いていることのカギを公明党は握っているが、その説明はここにはない。」ことを問題視する見方です。

次いで回答を集めたのが、「キャッチフレーズ的なスローガンを並べられているだけであり、現実と建前との乖離も大きい。責任ある与党としては、もっと問題を直視し、そのための現実的な方策を盛り込んだマニフェストにしなければ、単なる選挙対策との批判は免れないのではないか。」(16.5%)でした。また、「具体的な措置の記述に走りすぎた結果、この国をどうしたいのか等についての理念が不明確であり、政策についての政党としての論理的な説明が対外的になされているとはいえない」も約1割の回答を集めました。

なお、3位となったのが、「内容を仔細に検討しなければ何ともいえない」という回答で、13.6%を占めました。これは、自民党(同じ項目が 5.9%)に比べ、公明党マニフェストが、与党でありながら日頃有識者の方々から関心を持たれていないことを反映していると思われます。

II.自民党マニフェスト分野別評価

以下は、各分野の政策について、アンケート調査で得られた、自民党のマニフェストに基づく小泉政権に対する政策評価です。

■ 外交政策・日米同盟とイラク問題について [採点:51.6]

  (マニフェストの妥当性:16.7、実質的進捗度:22.7、アウトカム:12.2)

日米同盟やイラク問題を巡る小泉政権の外交路線に対する基本的な反対論も根強いが、有識者の多数は、自民党マニフェストが日米同盟を基軸にしつつも、国際平和協力という「国際」安全保障の理念を打ち出してイラク問題に対応したことを評価している。但し、その論理的な正当化や政策体系の提示が不足していることは今後の課題である。

自民党マニフェストに掲げられた小泉政権の日米同盟と平和外交という基本路線や、その後のイラクなどへの対応といった面での外交政策については、評点が50点を上回るなど、有識者の方々が一応合格と見ていることが分かりました。それにも関わらず、最も多くの4分の1の回答を集めたのは、「そもそも、日米同盟を基軸に謳い、対米追随路線をむやみに走る小泉政権の外交・安保政策そのものに、マニフェスト以前の基本的な問題がある。また、こうした姿勢について納得できる説明がマニフェストには書かれていない。」(25.0%)という考え方でした。これは、現在の日本の外交路線について、有識者の間に基本的な意見の対立があることを如実に示しているといえるでしょう。

全体として、この分野のマニフェストの妥当性については、「9.11以降の国際情勢の中で、「国際国家」、「国際協調」の理念が出ており、「国家安全保障」ではなく、「国際安全保障」へと進化している点は評価できる。その文脈の下で、イラクへの自衛隊派遣がなされ、「国際平和協力のための基本法の制定」の議論が打ち出されているのは極めて正しい。」として、その基本的な方向性については評価する見方に回答が集まったものの、「大きな状況認識から論理的に政策を体系化する上で、マニフェストにはもっと書くべきことがあった。」、あるいは、「大きな状況認識から論理的に政策を体系化する上で、マニフェストにはもっと書くべきことがあった。」として、より高次の理念や、政策体系の提示などに対する踏み込み不足を指摘する見方も多くの回答を集めました。

評点を上げたのは、むしろ、マニフェストの進捗度やアウトカム(成果)でした。イラクへの自衛隊派遣など、マニフェストに謳われた日米同盟や「国際」安全保障に即して現実が進んでいることや、たとえ論理的な正当化は不足していても、一旦戦争が起こった以上、その後の復興支援や戦後処理は国際平和協力路線に沿った成果であるとして評価する見方に回答が集まったことによるものと思われます。

■ 外交政策・北朝鮮問題への対応 [採点:42.2]

  (マニフェストの妥当性:22.6、実質的進捗度:13.8、アウトカム:5.9)

専ら拉致問題の解決を強調する自民党マニフェストは、政策の優先順位付けや論理的説明に失敗しており、リアリティーも欠いているが、政府が最大限の努力を払っていることや、日本が日米関係の中から多くの国益を引き出しているという意味での外交的成果など、評価できる面がある。

北朝鮮問題への対応については、見方はより大きく分かれました。マニフェストの妥当性への疑問を中心に評価できないとする見方が6割弱に達した一方で、小泉内閣の対応を概ね評価する見方も4割弱を占めました。

前者については、最も多くの回答(26.7%)を集めたのが、「マニフェストに掲げられた「拉致、核、ミサイル」がこの順番で良いのか疑問。北朝鮮問題に関する記述のほとんどが拉致問題となっており、日本が拉致問題しか関心がないとの印象すら与えるものとなっているが、核問題の解決が進まなければ何も進まないのが現実である。これでは、外交政策というより、内交対策のためのマニフェストと言われても仕方がない。」とする見方です。また、「日朝平壌宣言と6カ国協議の両立は、外交的には疑問であり、日本はこの問題での主体的な当事者たり得ず、米朝関係を飛び越えた日朝関係はあり得ない。こうした点についての状況認識や論理的説明が自民党マニフェストでは曖昧になっている。」との見方も2割の回答を集めました。他方で、日本は北朝鮮に対するより強硬な姿勢を示すべきで、マニフェストの基本的なスタンスには疑問という見方も8%の回答を集めています。

これに対し、後者の評価する見方については、「マニフェストには具体的な対策が明示されている。外交は国際情勢の中で相手のあることであり、それを直ちに評価しようとするとは必ずしも適切ではないが、日本政府はこの方針の下に最大限の努力を傾注しているのは事実。」とする見方が21.3%の回答を集めています。他方、「小泉総理とブッシュ大統領との緊密な信頼関係の下で、イラク問題などアメリカをサポートする外交路線が、核を持たない日本の安全保障の確保に大きく貢献し、アメリカによる拉致問題への言及も引き出すなど、日本は日米同盟を基軸とする日米関係の中から多くの面で自国の国益を引き出している。」という、外交全体でのアウトカムを評価する見方も17.3%の回答を集めています。

■ 安全保障政策に関するマニフェストの妥当性について [採点:36.4]

安全保障問題は、集団的自衛権など憲法問題を避けて論じることはできないにも関わらず、マニフェストでは、この国の基本路線をどうするかの議論は曖昧であり、憲法草案づくりと言いながらその方向性は全く示していない。戦略的な改憲論議を提起し、それに基づいて議論が進められるという形を早く実現すべきである。

安全保障政策については、専らマニフェストの妥当性に絞って回答者に評価して頂きました。興味深いのは、安全保障の基本路線の選択は改憲論議を避けて通ることはできず、そこを曖昧にしている点が評価できないとする見方が合わせて4割近く(37.4%)を占めたことです。

例えば、最も回答を集めた(18.4%)のは、「日本の防衛力の整備強化や弾道ミサイル防衛システムは何のためのものなのか、アメリカのグローバル戦略にコミットするものなのかどうかという基本論が不明確であり、そこに踏みこもうとすれば集団的自衛権との関係を整理することは避けられない。しかし、マニフェストでは、憲法問題でもそれへの言及が全くなく、国家選択の提示がなされていない。」という見方です。また、これに次いで回答を集めた (13.8%)のは、「マニフェストに安全保障政策や新しい憲法草案づくりに向けた理念や目標が盛り込まれ、それに基づいて戦略論の中で改憲論議が進められているという実質的な成果が現われてきている姿は、未だ見えていない。」という見方でした。

他方で、マニフェストは日本の安全保障全体についてそれぞれの課題を的確に捉えており、評価できる点が多いという見方も、この分野の自民党マニフェストについての10項目の選択肢の中でも第3位の回答比率(10.3%)を示しています。しかし、「自民党マニフェストでは「国家」安全保障が十分体系化されておらず、国民に思考停止を要求している」という厳しい意見(8.0%)も、第4位の位置を占めています。

なお、この項目については公明党のマニフェストについての選択肢も用意しましたが、これについては、「その内容は当面こうしたいという分かりやすい願望に過ぎず、危機管理の概念がなく理想を掲げるのみで、優しさだけで全てが解決できるかのような幻想を振り撒き、問題設定の角度を欠いている。ハードは自民党に任せ、自らはソフトな部分だけで「平和の党」であることをアピールする方が選挙には有利との思惑が見え透いており、与党としての責任や政権担当能力が問われかねない。」との厳しい見方に回答が集まりました。

■ 財政分野・プライマリーバランスに関するマニフェストの妥当性について [採点:37.0]

財政のプライマリーバランスの達成目標については、その実現可能性の可否について見方は分かれるとしても、重要なのは、それが実際に公的債務削減につながる道筋を描くことであり、そのための国民負担を含めた手段の選択肢を政治として国民に問うことである。マニフェストがその点を曖昧にしている点は評価できない。

ここでは、国全体の財政収支、特にプライマリーバランス(基礎的財政収支:元利償還費や公債金収入を除いた財政収支)の黒字化を2010年代初頭に達成するという自民党マニフェストの妥当性に絞って回答者に評価していただきました。評価のポイントは、小泉政権が財政赤字をコントロールできているか、あるいはコントロールしようと取り組んでいるかといった点に置かれました。

4割を超える最も多くの回答(43.7%)を集めたのが、「プライマリーバランスの達成は、制度の抜本的な改革を伴う大幅な歳出削減か、増税、あるいは、名目経済成長率の大幅な上昇による増収によってのみ達成される。重要なのはこれらの措置をマニフェストとして明示することである。それによって国民に公共サービスの削減か、負担増か、あるいは、当面は財政よりも経済活性化を優先するのかといった選択を迫るところに、マニフェスト政治の意味があるはずである。」という考え方です。財政負担のあり方について国民に選択肢を示すべきマニフェストが、この点で争点を示すことができず曖昧になっていることに批判が集中しました。

その次に回答を集めたのは、「「プライマリーバランスの黒字化を達成する」と「公的債務の削減をめざす」ということは別の目標であり、その関連性や実現の道筋はみえない。プライマリーバランスは公的債務削減に至る中間目標に過ぎず、公的債務の削減を打ち出すのであれば、財政収支を黒字化させなければ不十分である。プライマリーバランスの黒字化では、財政健全化の目標は描き切れていない。」という見方でした(15.3%)。

他方で、2010年代初頭のプライマリーバランス黒字化目標を、「結果的に政府長期債務残高のGDP比引下げにつながり、財政の維持可能性は増す」ものとして妥当かつ現実的と評価する見方も、12.5%の回答を集めています。このように、目標の妥当性や現実性についての見方は分かれました。

■「国から地方へ」について [採点:25.5]

  (マニフェストの妥当性:12.7、実質的進捗度:8.8、アウトカム:4.0)

国から地方への議論で本来求められているのは、分権という「形」の議論ではなく、地方が真に自立的な再生を展望できる地域になるための機能的な本質論である。そのためには、国と地方との適切な役割分担と相互依存関係を構築できる全体システムの設計こそが重要である。現在の議論にはこうした基本理念が欠如している。

「国から地方へ」は、「官から民へ」と並んで、小泉改革の大きな柱の一つと位置付けられており、自民党マニフェストでは、(1)「三位一体改革」による地方分権の推進(2006度までに約4兆円の補助金の廃止・縮減、交付税を見直し、地方へ税源を委譲する等)、(2) 地方改革の徹底(地方の構造改革:地方財政の健全化、市町村合併の促進など)、(3)「地域の再生」(地域再生プログラム、都市再生と中心市街地活性化、「都市と農山漁村の共生・対流」等)、(4) 道州制導入の検討と北海道における道州制特区の先行展開という4つの柱が立てられています。

しかし、こうした改革についての回答者の判定は厳しいものとなりました。その最も大きな理由が、国全体のシステム再設計という大きな理念が不足している下では、地方の自立が現実に進展することは困難だということです。すなわち、「道州制までを睨んだ地方分権の前提となるのは、地方にある程度拮抗し合う自立的な経済圏が形成されていることであり、そもそも地域間の経済力の格差が大きい日本の実態の下では、地方分権には大きな限界があるというところに問題の本質がある。グローバル化や世界大競争時代の中で、「集積のメリット」を競わなければならない東京と、これとは異なる論理で独自の価値を追求すべき地方とが、適切な役割分担と相互依存関係を構築できる全体システムの設計こそが重要であり、地方の「自立」や「再生」のあり方や、それにふさわしい行政体制は、その中から自ずと見えてくるはずである。「分権」や「自立」といった形の議論より前に求められているのは、国と地方との関係についての、こうした機能的な本質論である。」という見解に、最も多くの3割の回答(30.2%)が集まりました。

また、これに迫る多数の回答(26.4%)を集めたのが、「国と地方との役割分担のあり方や地域再生、あるいは道州制などのビジョンが十分に描かれていないなど、理念の中身への踏み込み不足が目立つ。補助金削減が前面に出過ぎており、地方交付税制度をどう改革するのか、地方の自主財源の拡充をどう図るのかなど、肝心な点が不明確である。地域再生策は、各省庁の既定路線を並べた感が強い。」という見方でした。

■ 不良債権処理と金融再生について [採点:32.3]

  (マニフェストの妥当性:15.6、実質的進捗度:10.8、アウトカム:5.8)

金融の現状は依然として危機管理の範囲内に過ぎず、現状は景気や株価に支えられているだけであり、もう一段高いハードルを設定して不良債権への実質的な取組みを強化すべきである。今問われているのは、日本経済の新たなシステム設計の中で金融機能をどのような理念の下に位置付けるかという、全体的な金融の将来ビジョンの提示である。

不良債権問題への取組みについて自民党マニフェストでは、2004年度末に主要行の不良債権比率を半減させて不良債権問題を終結し、日本経済再生に不可欠な金融機能を健全化させることが明記されています。この不良債権比率半減という目標は、景気や株価の回復もあって、達成がほぼ確実な情勢とされていますが、回答者の評価は極めて厳しいものでした。その理由は、この不良債権問題についても、金融再生に向けた全体的な将来ビジョンの不足を問題視していることです。また、金融機関の実態は問題の終結からはほど遠く、見かけ上の改善も危機管理の継続に支えられたものに過ぎないという厳しい現状認識を、多くの有識者の方々が持っていることも示されました。

すなわち、最も多くの4割以上の回答を集めたのが、「不良債権処理や金融機関の健全化は、銀行というビジネスモデルが大きく転換しなければならない構造変化への対応の中で捉えていくべき問題であるが、小泉内閣にはそのような視点が不足している。間接金融から直接金融への移行が既に言い古されている中で、日本は依然としてオーバーバンキング状態を続け、世界的な競争力を誇る強力な金融機関も未だに誕生していない。日本経済の新たなシステム設計の中に、金融機能をどのような理念の下にどう位置付けるかといった全体的な将来ビジョンこそが必要であり、マニフェストはそれを提示していない。」という見方 (41.2%)でした。

また、現状については、「自己資本が税効果に依存している面が強いなど、銀行の資本の質は欧米に比べ依然として脆弱である。現状は景気や株価に支えられたものであり、それも、ゼロ金利政策や、新たな決済性預金の導入による骨抜き的なペイオフ解禁の動きの中で生じている動きに過ぎない。」(22.5%)、「不良債権問題の終結とは、債権を実際に売買できるところまで価格付けを落とした上での健全化が実現した状態を指すのであり、現状はそこからはまだほど遠く、依然として危機管理の範囲内に過ぎない。3年間の「集中調整期間」の出口が未だに展望されていない状態のままでは、再び同様の危機が繰り返されるだけである。」(18.5%)という厳しい見方にも、両者を合わせて約4割(40.7%)の回答が集まりました。

■ 地域金融の強化(リレーションシップバンキング)についてのマニフェストの妥当性について [採点:32.8]

地方の中小企業の再生と地域金融機関の強化の両者を目指したリレーションシップバンキングは、目標設定が不明確かつ矛盾しており、これでは地域でのオーバーバンキングの是正につながらないどころか、保護救済型行政を招きかねない。大切なのは、地域社会の再生ビジョンの中に地域金融機能を位置付け、より広域の経済圏でのリスクテイクにふさわしい強力な金融機関へと再編していく理念や見取り図を描くことである。

自民党マニフェストでは、中小・地域金融機関について、「今後2年間で貸出等の金融サービスを行う機能(リレーションシップバンキング)を強化し、中小企業の再生と地域経済の活性化を図る」とされています。マニフェストでは、このマニフェストの妥当性に絞って評価を行っていただいたところ、半分以上の回答が、理念や目標設定の不明確性や不適切性、あるいは目標相互間の矛盾を指摘する見方に集中しました。

すなわち、最も多い4分の1の回答を集めたのが、「リレーションシップバンキングが目指そうとする理念が不明確である。今求められているのは、地域の再生を産業再生と結びつける新たなシステムの構築であり、どのような地域社会を目指し、その中に地域金融の機能はどう位置付けられるかを明確にした上で、地方の金融機関をより広域の経済圏でのリスクテイクにふさわしい強力な金融機関へと再編していく見取り図を描くことであって、こうした理念や思想が曖昧なままでのリレーションシップバンキングは、脆弱な地方の金融機関への救済型行政や、地方企業に対する保護型政策に結びつきかねないという危険を内包する。」という見方(25.0%)です。

これに、「リレーションシップバンキングが目指すものは、地方の金融機関の再生なのか、その貸出先である地方の中小企業の再生なのか、いずれにプライオリティーを置いているのかが明確でない。地方の金融機関の健全化のために本来求められているのは、適正な金利によって利ざやを稼ぎ、収益力を強化することであり、貸出金利を採算ベースにまで引き上げなければならないが、優良貸付先に乏しい地方でそれを行えば、取引先が減少し、貸出規模が縮小するのは必至である。地方の中小企業にカネを貸し続けることを求めるのは、金融機関の再生と矛盾する。目的設定そのものが不明確、あるいは不適切である。」という見方(13.2%)、及び、「地方の金融機関の道行きはオーバーバンキングの是正しかなく、その点では大手銀行と何ら変わりない。そもそもあえてダブルスタンダードを設定する必然性は乏しく、政策としての妥当性に大きな疑問がある。」(13.2%)を加えると、過半数(51.4%)の回答者が前述のような目標設定の問題を指摘する見方を示しています。

これに、さらに、「大切なのは、金融機関の経営改善のために、金利の引き上げ、コスト削減、一時的な資産規模の縮小などの基本的な努力を積み重ねることである。この点、リレーションシップバンキングも、新たな公的資金注入の枠組みの整備も、問題解決に向けた前進にはつながらない。」(14.5%)を加えると、3分の2近くの回答者(65.9%)がリレーションシップバンキングの政策としての妥当性に否定的な見解を持っていることになります。

他方、「地域経済の活力を損なうことのないよう一方で貸出を維持しながら、他方で地方のオーバーバンキングの是正を図るべく金融再編を進めていくというえ考え方は、方向として正しい。」(18.4%)という見方も第2位の回答を集めており、見方はやや分かれているともいえます。

■ 産業再生について [採点:33.7]

  (マニフェストの妥当性:5.4、実質的進捗度:24.4、アウトカム:3.9)

産業再生機構は、あくまで市場の呼び水役であり資本効率のメッセンジャーであって、そこに大きな期待を抱くべきではなく、重要なのは、企業再生市場の拡大による新陳代謝の自立的なサイクルが生まれることである。今求められているのは、高齢化社会や地域再生といった今日的な文脈の下に産業再生を意味付ける大きな理念の提示である。

金融機関の不良債権の処理と表と裏の関係にあるのが、企業や産業の再生です。自民党マニフェストでは、金融問題と並んで、「企業・産業再生への取組み強化」という目標を位置付けています。その具体的な手段については、「不良債権問題を企業・産業の過剰債務問題と一体的に解決する。過剰債務企業が有する優良な経営資源は極力生かして再生するため、産業再生機構、中小企業再生支援協議会、改正産業活力再生特別措置法等を活用し、企業の事業再構築を支援する。」とされています。

アンケート結果で注目されるのは、産業再生機構に大きな期待を抱く見方、すなわち、同機構について「企業再生の上で現実的かつ実効性のある仕組みを整備している。その活用を企業・産業再生の手段として設定したことは極めて適切である。」と評価する見方を選択した方がゼロだったということです。それに対して最も回答を集めたのが、同機構に過大な期待を抱くべきではなく、重要なのは企業再生市場全体の拡充であるという見方でした。

すなわち、「政府の役割は企業再生に向けて市場メカニズムが円滑に働くべく、その補完役としての機能にとどまる。産業再生機構は、企業再生市場の呼び水役、あるいは日本経済における資本効率向上のメッセンジャーとして機能するにとどまるのであり、そもそもそこに過大な期待を抱くべきではない。政策対応は、中小企業再生支援協議会の実績や改正産業活力再生特別措置法の適用状況を見ても進展している。特に、最近では民間の企業再生ファンドが数多く設立されており、こうした企業再生市場の拡充こそ、大きな実質的な進展として評価すべきである。」という見方(35.1%)に回答が集まりました。

他方、この分野でも、理念の提示が不足していることが強く指摘されました。回答数の第2位は、「マニフェストは、企業の再生が産業の再生につながっていくための理念を示していない。何のためのどのような産業再生なのかが現状に即して語られていない。例えば、超高齢化社会への移行や経済の二極分化の中での地域の再生という課題に応える形で産業再生を再定義しなおすと言う発想も考えられる。今日的な文脈の下での意味付けが明確化しないかぎり、適切な目標や手段は構築できない。」(26.9%)という見方です。

なお、そもそも産業再生という供給面の政策よりも優先されるべきなのは需要面の政策であるという、政策の基本路線の問題を強調する見方も回答を集めました。すなわち、「供給面の政策のみでは、過剰な生産能力を有する日本経済の過剰供給構造を拡大するだけであり、むしろ、今日において求められているのは、需要面の政策である。デフレを克服しなければ産業再生はあり得ないのであり、デフレ克服のために産業再生を行うという課題設定や、不良債権問題の解決の文脈の中での産業再生という位置付け自体が、そもそも本末転倒している。」(22.8%)という見方が2割以上を占めています。

■郵政事業改革(郵政事業の民営化)について [採点:34.9]

  (マニフェストの妥当性:17.8、実質的進捗度:10.2、アウトカム:6.9)

郵政の民営化への流れができているのは評価できるが、問題は、何のための民営化なのかなどの理念が明確に示されておらず、それが議論の混迷を招いていること。4月の中間報告でも重要問題は先送りされており、参院選に向けて争点を示さない姿勢は議会制民主主義の上でも大きな問題。今最も必要なのは、将来の日本の経済・金融システムについての理念や思想を提示し、その実現の中に
郵政改革を位置付けるという営みである。

郵政事業の民営化は、小泉内閣の最大の政策課題であるとも言われています。自民党マニフェストは、郵政事業改革を、「官から民へ」の中の「1.「民間にできることは民間に任せる」-民主導・自律型の経済社会へ-」の理念の下に、マニフェスト全体の第一番目の項目として掲げています。その上で、「郵政事業を2007年4月から民営化するとの政府の基本方針を踏まえ、日本郵政公社の経営改革の状況を見つつ、国民的論議を行い、2004年秋頃までに結論を得る。」としています。4月26日には、経済財政諮問会議は、2007年4月から、郵政三事業を5~10年の移行期間を経て段階的に民営化し、新規の郵貯・簡保の政府保証は打ち切ることなどを盛り込んだ中間報告を決定しました。

この郵政事業改革についてアンケートで最も回答が集中したのは、「民営化」についての理念や、その中で優先すべきものは何かを提示しなかったことが議論の混迷を招き、問題先送りが続いていることへの批判でした。

すなわち、最も多くの回答を集めたのが、「同じ民営化でも、郵貯については、例えば、地域での強力なリスクテイク機関へと再編し地域再生に資するという発展的な民営化案もあり得れば、他方で、郵貯の全国的なネットワークを決済機構として活かし、運用は国債など債券に限定したローリスク、ローリターンの「ナロウバンク」の道を歩ませる縮小的な民営化案もあり得るところである。こうした民営化後の新たなシステム設計の具体像を選択肢として提示するところまで至っていないのは、将来の日本全体の経済・金融システムについての理念や思想を提示した上で、その実現の体系の中に郵政事業改革を位置付けるという営みが欠如していることによるものである。」(26.1%)という見方です。

次に回答を集めたのは、「問題は、1. 何のための民営化なのか、2. 貸出業務を含む新しい総合金融機関の誕生を国が支援するのか、3. 雇用と組織の維持にどの程度のウェイトを置くのかなどの点について明確にされていないことにある。このため、「民営化」の具体案づくりが混迷しており、このままでは、民営化の挫折か、名前だけの「民営化」となり、日本が新たな構造問題を抱えてしまう恐れなしとしない。」(19.6%)という見方でした。

そして、「4月の中間報告でも、重要問題のほとんどが今後の選択の余地を残しており、このような実質的な意味での進捗度の遅れは、7月の参院選で争点となることを回避しようとするもの。大切な構造改革問題について国民の賛否を問わない姿勢は、議会制民主政治のあり方としても問題である。」(17.4%)という見方が第3位に入りました。

■道路関係四公団改革について [採点:25.9]

  (マニフェストの妥当性:13.4、実質的進捗度:8.8、アウトカム:3.7)

道路関係四公団改革のスキームを見ると、民営化後の姿は企業ガバナンスの仕組みを欠いており、45年後の債務完済スキームによって新規建設のハードルも下がるなど、民営化は、その本来の目的である不採算道路の建設の防止のための適切な手段にはなっていない。本来は手段に過ぎない「民営化」が自己目的化しており、日本の国土全体のシステム再設計の下で道路をどう位置付けるかという基本理念の議論をこそ先行させるべきである。

道路公団改革はこれまでも小泉内閣の特殊法人改革の大きな柱の一つと位置付けられてきました。民営化推進委員会からの意見提出を受けた政府での具体的な法案の検討、2004年度予算編成、民営化法案の国会提出と、このところ道路公団改革はめまぐるしい動きを見せてきたところです。自民党マニフェストでは、「民営化推進委員会の意見を基本的に尊重し、2005年度から四公団を民営化する法案を2004年の通常国会に提出する。」とされています。

この分野については、本来は手段に過ぎないはずの道路関係公団の「民営化」が自己目的化し、国土全体のシステム再設計に関する基本理念が欠如しているとの考え方に4割近い回答が寄せられました。

すなわち、「本来、道路公団の改革とは、何らかの理念を実現するための手段に過ぎない。道路公団の民営化の前に、そもそも日本の国家目標をどう設定し、その下で国と地方との関係や地域間の役割分担をどう描き、そこからどのような国土計画を立て、それを実現する手段としてどのような道路計画を立案し高速道路のあり方をそこに位置付けるかという順番で議論が進められるべきである。道路というものは基本的に公共財であり、そのコストが税負担で賄われるのが世界の大勢である中で、日本の場合は、高速道路はどこまで有料を続けるべきなのか、あるいは、日本では既に多極分散型のナショナルミニマムは達成され、今後のインフラ整備のあり方は経済合理性であるとしてギアチェンジを図る段階に至っているのかといった基本的な問題は、こうした国土全体のシステム再設計の議論の下で初めて解が得られるものである。こうした基本理念の議論を欠いたまま、本来は理念実現の手段に過ぎない道路公団改革が自己目的化してしまった結果、改革の方向が定まらず、混迷が続いている。」という見方(38.8%)です。

これに次いだのが、「民営化」が「不採算道路建設の防止という目的を達成する手段として位置付けられている」としつつも、実際の法案化では、民営化後の姿が「永続的な経営の観点から、自らのバランスシートをマネージしつつ、民間企業として健全な意思決定を行うインセンティブはなく、公的関与を排除するだけの企業ガバナンスの仕組みが存在していない。」ことから、「目的達成の最適な手段にはなっていない。」とする見方です(14.0%)。また、「一連の改革の進捗状況と成否が10年後に明らかになるスキームから、45年後まで分からないというスキームへと後退した結果、高速道路の新規建設へのハードルが下がった。今回の改革の理念や目的が達成に向かい、成果を上げるかどうかは、今後、情報開示や経営監視などについて適切な対応がとられるかどうかにかかっている。」という見方も同数の回答を集めています(14.0%)。

■年金改革について [採点:21.8]

  (マニフェストの妥当性:12.1、実質的進捗度:7.1、アウトカム:2.6)

今回の年金改革案は、持続可能な制度設計を描けていないだけでなく、現行方式を前提にしているため辻褄合わせが目立ち、抜本的改革になっていない。むしろ、税金で基礎年金や最低保障分を賄い、所得比例の年金と組み合わせるなど、現行制度を抜本的に見直すことが必要。政治に本来求められているのは、将来の超高齢化社会の姿と社会保障の全体ビジョンを提示することであり、政党側からその説明は未だになく、争点を避けている。

先の総選挙でも年金問題は主要な争点となり、持続可能な年金制度への抜本改革が問われました。選挙後は、自民、公明の与党の合意で年金改革の関連法案が提案されましたが、この法案で描かれた年金制度の主な制度変更は以下の通りです。

1. 保険料率はこれまで人口推計が下方修正されるたびに引き上げられてきたが、今回は上限を18.3%に固定する「保険料固定方式」を導入する。

2. この保険料の上限設定に連動して保険料収入により年金給付を調整する仕組みを導入したが、将来の給付水準はモデル世帯でも現役世代の50%を上回るものとする。

3. 基礎年金の国交負担割合は2004年度から2009年度にかけて現行の3分の1から2分の1に引き上げる。財源はまだ具体的に決まってはいない。

4. 一定水準の積立金を維持し将来の全ての期間で給付と負担の均衡を図る「永久均衡方式」から期間を100年とする「有限均衡方式」に移行し、積立金は給付の1年分まで圧縮する。

こうした年金改革については、自民党マニフェストでも「抜本的改革」が掲げられながら実際はそうなっていない、将来ビジョンの説明が不十分との批判に回答が集中しました。

すなわち、最も回答を集めたのは、改革は「現行方式を前提にしているため、辻褄を合わせるような様々な無理が出ている。世代間の助け合いの賦課方式は経済変動には強いが、人口の変動には弱く、しかも超高齢化が進む中ではその制度の前提が崩れている。現役世代が高齢世代への給付という助け合いのために保険料を払うというのは、税金を払っているのと余り区別がない。むしろ税金で基礎年金や最低保障分を賄い、所得比例の年金と組み合わせるなど、現行制度を抜本的に見直すことが必要である。持続可能でない今の政府案を抜本改革ということには無理がある。」という見方(24.4%)です。

これとほぼ同数の回答を集めたのが、「日本の超高齢化は日本が取り組むべき最優先の課題のひとつであり、年金だけではなく、介護、医療問題を一体的に取り組むことが必要である。ところが、超高齢化に見合った日本のビジョンが未だ、政府や政党側から説明されていない。高齢化社会の姿をどう描き、国が保証すべき社会保障の水準、規模はどの程度なのか、そのために国民はどの程度、負担をすべきなのかといった思想や具体的なビジョンこそ、マニフェストには書かれるべきであり、政党側の説明は不十分だけでなく争点を避けているように思える。」という見方です(22.2%)。

回答数の第3位は、今回の改革が「保険料の将来の上昇に歯止めをかけた点では評価できが、この制度が100年も持つというのは疑問。出生率などいくつかの前提は楽観的であり、それが崩れるとこのスキームは見直しになり、見直しを繰り返すという可能性もある。保険料率も見直される可能性は高く、持続可能な制度設計にはまだなっていない。」という見方です(16.7%)。

■構造改革路線について(経済運営全体) [採点:37.2]

  (マニフェストの妥当性:10.7、実質的進捗度:13.9、アウトカム:12.6)

日本経済は未だ自立的な本格回復には至っていない。むしろ、現実に採られている政策は構造改革に反し、金融危機対応型で管理的色彩を強め、社会主義的な経済へと後退している。構造改革の先にあるのは二極化問題であり、格差拡大の中で活力ある経済社会をどう描くかについての理念や
日本全体のシステム設計の思想が描かれていない。こうした中で、為替介入による対米資金供給で景気や株価を持ち上げるマクロ政策が、何の説明もなく行われている。小泉改革の手法についても、スローガンやキャッチフレーズで流れだけは作るというやり方は限界に来ており、それを続ければ国民の不信を強める懸念もある。

日本経済はバブル崩壊後既に3度目の景気回復循環に入っています。相変わらずゼロ金利政策や金融の量的緩和は続いていますが、2003年度は景気対策のための補正予算の編成を行わない緊縮路線の下で、実質GDPは伸びを続け、足元では株価も持ち直すなど、特に今年に入ってからは日本経済はいよいよ自律回復の局面に入ったとの楽観論も強まるに至っています。自民党マニフェストでは、マクロ経済については、様々な改革努力の結果、2004年度末には不良債権比率は半減し、デフレが克服され、2006年度には名目2%以上の経済成長を達成することや、財政健全化路線の下で2010年代初頭にはプライマリーバランスが達成されるなどの目標が明示されています。

しかしながら、アンケート調査結果は、多くの有識者が、現状を未だ自立的な本格回復とは見ていないことを示しました。むしろ、管理型経済が強まっていることへの問題意識や、為替介入によるアメリカへの資金供給が日本の景気や株価を持ち上げている姿についての説明責任を問題視する傾向が強く、一方で、小泉改革のキャッチフレーズ型の手法などへの不信感が強く示されました。

最も回答を集めたのが、この改革手法の問題です。すなわち、「小泉改革の問題は、スローガンやキャッチフレーズで改革への流れは作りながらも、その具体的な検討過程は民間有識者等に「丸投げ」して総理自らは十分なイニシアチブを取らないうちに、官僚や利害関係者との妥協がいつの間にか重ねられ、得られた成案は中途半端な改革か、改革の趣旨が換骨奪胎されたものと化してしまうところにある。一つの極論を唱え、それと現状との中間に現実的な落とし所を探る政治手法は、その分野の改革に国民の関心を引きつけ、結果として既得権益の実態を白日の下にさらし、後戻りできない流れを作ってきた点については評価できるものの、マニフェスト政治のあり方としてどうかという問題があり、かえって国民の政治への不信を煽ることにもなりかねない。」という見方 (18.1%)です。

同じ回答数を集めたのが、経済運営について、「小泉政権は市場メカニズムによる自律的な調整を標榜しつつも、現実にとられている政策は構造改革路線に反し、逆に金融危機対応型で管理的、統制経済的な色彩を強めてきたのが実態である。ゼロ金利政策の継続や、度重なるペイオフ延期、その下でのりそな銀行の国有化や、金融庁による金融機関への介入の強化、あるいは、株価の維持、債券市場における極端な国債管理政策、為替市場への極度な介入なども含め、市場原理に背を向けた無原則性が日本の金融市場を統制主義の下に置く結果をもたらすなど、社会主義的な経済へと後退している。資金循環は、「民から官へ」の様相を強めており、政府によるリスクの吸収、政府信用の異常な肥大化が続いてきた。本来は、一定の時間軸の下での一時的な危機対応だったはずのものが、出口が描かれないまま継続していることは、資本主義経済のあり方としても、日本経済の効率性や生産性の上でも大きな問題である。」とする見方(18.1%)です。

次に回答を集めたのが、日本の二極化問題でした。すなわち、「特に問題なのは、グローバル展開で利益を得ている一部の勝ち組みと、その他大勢の負け組みとの格差が拡大しているという二極化現象である。日本が今後、超高齢化社会に突入していく中で、努力をしても報われない人々の塊をどうしていくのか、全体として活力ある経済社会の姿がその中でどう描かれていくのかについての理念こそが今最も問われている。こうした日本のシステム設計全体についての思想や哲学が構造改革にもマニフェストにも描かれていないことが最大の問題である。」という見方です(17.0%)。

加えて、「前例を見ない規模での為替介入こそが、小泉内閣が採った最大の経済政策であり、それによって得たドル資金のアメリカへの供給が世界に流動性を供給していることが、アメリカなどの景気を支え、外国人による日本株買いを促進しており、これが日本の輸出産業の活況と日本の株高につながり、日本での景気回復の動きをもたらしている。それは、政府の方針にも自民党マニフェストにも一切書かれていないことであり、こうした大規模なマクロ政策が構造改革路線の中でどう位置付けられるのかの説明が全くなされていない。」とする見方も回答を集めました(12.8%)。

III.参議院選挙で問われるべき争点は何か

来たる本年7月の参議院選挙を過ぎれば、衆議院の解散がない限り、その後3年間にわたって大きな国政選挙が予定されていない一方で、日本が大きな転換期にあるにも関わらず、参議院選挙までは多くの分野で具体的な議論が先送りされている傾向があるとも言われています。そのような意味でも、今度の参議院選挙は将来の日本の行方を決める極めて重要な選挙になると考えられます。

このアンケート調査では、回答者の皆さんに、今度の参議院選挙で最も問われるべき争点は何であるかについて、58項目の選択肢を設定し、複数回答可を前提にお答えいただきました。

その中で第1位になったのは「戦後システムの抜本的見直しと、超少子高齢化社会を見据えた21世紀の成熟先進国にふさわしい新たなシステム設計に向けたトータルな理念や構想」です。第2位は、「社会保障に対する国民負担の問題(年金問題、給付と負担の問題等)」、第3位は、「世界の中での日本の国家路線の選択(日米一体化路線か、アジアとの連合か、独自路線か等)」が占めました。

以下は、第4位から第10位です。
第4位: 少子高齢化時代に対応した年金、医療、介護のシステムをどう再構築するか
第5位: 小泉構造改革路線の是非
第6位: 憲法改正問題
第7位: 「大きな政府」か「小さな政府か」、国民負担率は将来どの程度にすべきか、そのための政府の機能のあり方をどう考えるか
第8位: 外交路線をどうするか(日米同盟か、国連中心主義か等)
第9位: イラク問題
第10位: 北朝鮮問題


― 以上 ―