アンケート結果 「小泉改革の評価と参院選で描かれるべき争点・対立軸」vol.1

2004年6月28日

img_pencil.jpgアンケート結果報告

(2004/6/14~6/24実施、回答数166)


小泉首相の改革はもはや限界との見方広がり、評価は様変わり

今回の参院選は、日本の政策選択にとって極めて重要な国政選挙である。

小泉改革がどこまで進み、日本の将来選択に向けて、それがどのような意味を持つのかを評価すると同時に、参院選では何が日本の本質的な争点で、国民にとって対立軸は何なのかの見極めが必要になる。それを踏まえて、有権者は、参院選の候補者たちに、当選後6年間の政策への明確なコミットメントを求めることが必要になってくる。

そこで、言論NPOは今回、上記のような問題意識から、参院選公示直前の6月中旬から下旬にかけて、小泉改革を現時点でどう評価し、参院選で描かれるべき争点や対立軸は何かについて、緊急アンケート調査を行った。

調査は、インターネット上で行ったものだが、有識者ら166人から回答をいただいた。

ここで明らかになったのは、小泉改革の進展に限界を感じ始めていることで、4割近い人が「小泉改革の限界が明らかになった」と回答し、具体的改革でも「積極的に評価できる点はほとんど見られない」という回答は5割を越した。

言論NPOでは昨年総選挙の前にも同様のアンケートを行ったが、この時には「改革の動きを定着させたことは評価するが成果は不十分」が最も多い回答だったが、わずか6ヶ月の間に小泉改革への評価が激変していることが明らかになった。

回答結果のポイントは以下のとおり。


I 昨年の総選挙後の小泉改革の全体的な評価
 ――35%は「小泉改革に限界見える」、24.7%は「改革に関する説明不足」指摘

昨年総選挙までを小泉政権第一期とすれば、その第一期の小泉改革には、日本の構造改革に向けた諸課題を設定し、「自民党を壊す」とのスローガンを掲げて世論の支持を集め、それを背景に強力なイニシフチブで改革を進める姿が見られた。しかし、総選挙後の第二期に入り、小泉改革の動きが停滞しているという指摘が見られるようになっている。

そこで、アンケート調査は、第二期の小泉政権の構造改革に関する総合判定をどう行うかに置いた。その結果、全体の4割近い(35.5%)回答が、「総選挙後の第二期の状況を見ると、改革は様変わりしており、小泉改革にはそもそも限界があったことが明確化してきている」という見方であった。

こうした小泉改革「限界説」に次いで回答を集めたのが、小泉総理自身の改革への真摯さを問う見方や、そもそもそこには改革の実態がないという見方であった。すなわち、第2位が「小泉改革はポーズだけであり、中身も改革戦略も欠き、評価の対象となり得る実態そのものがほとんど見られなかった」(32.3%)、第3位が「改革についての説明が不足していることが問題。特に最近の小泉総理からは改革に向けた真摯さよりも、開き直りとも取れる発言が目立ち、改革の主体としての信頼が問われる」(24.7%)であった。

これに対して小泉改革を評価する見方は、回答数全体の1割にも達しなかった。

具体的には、「小泉改革は正しい方向を歩んできたが、問題は、進捗のスピードが遅く、成果が未だ不十分なことである」は3.6%、「全体としてみれば、この3年間の小泉改革は日本を正しい方向に改革する上で概ね適切に機能し、成果を上げてきたと評価すべきである」がわずか2.2%にとどまった。

次に、小泉改革が全体的に評価できないとしても、部分的には評価できる点があるはずであるとの観点から、アンケートでは、小泉改革について積極的な評価を行うとした場合に特にどの点が評価できるかを問うてみた。

しかし、その結果を見ると「小泉改革には積極的に評価できる点がほとんどみられない」が5割を超える(51.5%)最多の回答数となった。

ただ、小泉総理が従来になかった政治手法を示したことや、逆戻りできない改革の流れを生んだことについては、評価できる点であろう。

アンケートでは、この評価できる点に関しては、「改革の成果は不十分だとしても、構造改革に向けた明確な言葉での課題設定やイニシアチブ、意思決定過程の改革や、従来タブーとされてきた問題への取組み、国民世論に巧みに訴える政治手法など、少なくとも歴代総理には見られなかった高いパフォーマンスを示してきたこと」(22.5%)、また「現在の景気回復の動きは、小泉改革が少なくとも方向として間違ってはいなかったことを示しており、各分野での改革も、まだ道半ばではあるにせよ、逆戻りできない改革の流れを生んだことは間違いないと判断されること」などを指摘していた。

小泉内閣は内政よりもむしろ外交で得点を稼いでいるという指摘もあるが、アンケートでは、小泉首相-ブッシュ大統領の間の緊密な関係やイラク問題、北朝鮮問題での思い切った決断など、外交・安全保障政策面で評価できるとする見方は4.9%と少なかった。

また、守旧派を壊すという点についても、「自民党や官僚の利権構造にメスを入れるなど、日本の改革を大きく阻んできた旧来システムを破壊することに成功していること」を評価する見方は3.9%にとどまり、構造改革に着実に成果を上げていると評価する見方も全体のわずか2.9%だった。


●小泉改革の限界とは何か

このように、小泉改革への評価が全体として低く、特に、回答した多くの有識者が小泉改革には限界があったとしたことは、このアンケート調査から浮かび上がった重要な論点である。

では、ここに来て「小泉改革限界説」が出てきた背景は何だろうか。確かに、小泉改革は世論の支持を背景に進められてきたにもかかわらず、特に第二期に入ってからはその停滞現象が指摘され、道路公団改革でも自民党の族議員に歩み寄るなど、小泉政権が当初の期待を裏切って改革へのイニシアチブを低下させているのではないかとの見方が台頭してきている。

そこで、アンケートでは、小泉改革には限界があるとした回答者に対してその理由を、また、それ以外の回答者には、もし小泉改革に問題があるとすればそれは何かという点を聞いてみた。

それによると、小泉改革とは名ばかりで、実際には何も動いていないという見方が多かった。具体的には「この3年間の小泉改革を見ると、改革の雰囲気を匂わせながらも実際には何も動いてこなかったというのが実態。人気取り的なキャッチフレーズで国民の支持を受けるための政治的な道具として改革が使われてきただけであり、現実の政治は「改革ゲーム」というフィクションに過ぎなかった。このように正直さを欠いた小泉改革は明らかに限界に直面しており、今や、本当の改革派が目を覚ますべき段階である」(30.8%)という見方である。

また、少子高齢化社会への移行に向けた大きな制度設計が必要な現局面において必要なのは、日本のシステム再設計のビジョンであり、そもそも小泉総理が、単に旧来システムを壊すだけで、日本をどう作り変えるかについてのビジョンも戦略も持ち合わせていないという見方も、これに並ぶ27.9%という回答数となっている。

他方、現状を小泉改革そのものの限界と見るよりも、むしろ、「改革の停滞は、これまでの構造改革の進展によって、改革が今や、日本の様々な制度の本丸へと切り込んでいかなければ進まない地点に至っているためであり、新たなシステム再設計のビジョンを明確化していかなければ改革は今後進展しない」とする見方も11.7%に及んでいる。

また、小泉改革の問題は、その中身よりも、政策立案や実行のプロセスの問題であり、大きな改革を進めるためには、総理の下でそれを実行する優れた政権チームが政府に入り込まなければ難しく、そうした体制の不備が改革の停滞を招いているという見方も9.5%にのぼった。

加えて、小泉総理の本音は、本質的には、自民党の中での旧派閥間での主導権争いの中で旧橋本派の利権構造を崩すことにあり、こうした「体制内改革」の限界が如実に現われているという見方もある(13.0%)。

アンケートで回答が上記の5点に分散したということは、小泉改革の限界の背景や問題点は、これら5点にあると言える。

いずれにせよ、このアンケート調査でも示されたのは、単なる政治的な「改革ゲーム」ではない真の日本の改革は小泉政権の下では進んでいないという見方が多く、それを進めるために今回の参院選で問われているのは、政党が各分野の重要な論点を回避せずに、将来ビジョンや理念を明確に提示し、改めて国民の支持をとりつけた上で、その後の改革を加速化させていくことであろう。


II. 参院選で争点や対立軸は何か
 ――「システム再設計の理念」「年金保険料など負担の在り方」などが上位

言論NPOが今回行った緊急アンケートでは、参院選で提示されるべき選択肢の軸についても、回答者に答えていただいた。その結果を回答数の多い順位で並べると、以下の通りとなった。

この9つの論点の選択肢は、言論NPOが今年5月にマニフェストの実行評価に関するアンケート調査を行った際に浮かび上がった論点で、今回のアンケート調査では、それをもとに順位付けをしていただいた。

第1位  日本の様々な分野におけるシステム再設計の理念や哲学。[18.7%]
第2位 世界の中における日本の国家路線と外交・安全保障政策の基本スタンス。[18.4%]
第3位 日本が追求すべき国家理念と、その下での憲法改正のあり方。[17.2%]
第4位 税制や年金保険料など国民負担のあり方とその水準。将来の日本の経済社会や 社会保障制度のビジョンと、その下で描かれる適正な政府の規模。[11.2%]
第5位 現在の構造改革路線の是非や今後の改革のあり方についての基本路線。[10.5%]
第6位 所得分配の問題。すなわち、都市と地方、高齢世代と若年世代、高額所得者と中低所得者等の間で、生産性の高い層をさらに引き上げていく路線(経済効率の追求)か、あるいは、分配の公平や平等をより重視する路線(社会的公正の追求)か。[9.5%]
第7位 地球環境問題や経済のグローバル化などの国際環境の変化と、超少子高齢化社会や人口減少という国内的な趨勢の下で、日本の経済社会がどのような方向を目指すべきかの選択肢の提示。[7.2%]
第8位 各地域における地域活性化のビジョン。[3.0%]
第9位 有権者の身近な問題についての生活者の視点に立った具体的な対応策(治安、教育、福祉、環境など)。[2.7%]

これを見ると、第1位から第7位までの7つの論点に回答が分散している一方、第8位と第9位は回答が大幅に少なく、これら9つ以外に重要な論点があるとした回答も2%に過ぎなかった。このため有識者の多くが考える対立軸は、概ね上記7つの論点に集約される。

ここからうかがわれることは、参院選で問われているのは、地域や住民にとっての身近な問題よりも、構造改革路線を前提にしつつ、日本の各分野のシステム再設計の理念や、国家の基本路線、経済社会の将来ビジョンなどについて、大きな対立軸を描くことであるということである。

なお、言論NPOとしては、これを踏まえて、来たる参院選においては日本の本質的な争点が明らかにされ、その下で、政党側から有権者に対し適切な対立軸が選択肢として提示されることを求めるとともに、それによって、参院選には、日本の改革の進展に向けて、本格的な政策論議が進められていくことを期待したい。


以上