「自民党×民主党 政策公開討論会」5日目 【外交・安全保障政策】 議論要旨

2009年7月13日

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2009年7月9日

 【テーマ】外交・安全保障政策
 【出席議員】
  自民党:山崎拓(衆議院議員 外交調査会会長 元防衛庁長官)
  民主党:松本剛明(衆議院議員 安全保障委員会筆頭理事 行政改革調査会長 前政策調査会長)
 【司会者】
  工藤泰志(言論NPO代表)
  国分良成(慶應義塾大学法学部長)
 【コメンテータ】
  会田弘継(共同通信社論説委員)
  西原正(財団法人平和・安全保障研究所理事長 元防衛大学校長)
  古川勝久(安全保障問題研究家)

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議論要旨

工藤泰志 まずは国際社会における日本の役割と、その役割を具体的にどう果たすかについて、それから日米安保の役割について説明していただきたいと思います。


山崎拓 経済の発展や資源・環境問題において国際社会に貢献していくというスタンスです。軍事的には憲法9条という制約がありますから、できる範囲での役割を果たしていきます。主力はソフトパワーです。ODAの支出に関しては選別的に見直す方針でやってきましたが、今後は新たなあり方を模索して拡充していきたいと思います。

 安全保障分野でどのような役割を果たせるか考えたときに、ひとつは国連中心主義があります。それから日米安保の堅持、そして北東アジアを中心とする平和と発展に貢献するということだと思います。民主党の政策は今の日米安保に対して懐疑的だと受け止められる部分がありますが、我々はこれまで日米安保の堅持によって国の安全を守ってきました。来年は安保締結50周年を迎えるということもあり、新たな共同宣言を出すことを提案しているところです。見直すべきところは見直しをして、今後もこの方向性を堅持していきたいと思います。


松本剛明 外交の目的とはまず、その国の平和を確保するということです。それに伴い、暮らしや経済に関わる外交上の利益を確保することも重要となってきます。しかし同時に、国際社会の中で自立と尊厳を守ることもまた、ひとつの重要なテーマだと考えております。民主党が主張する「友愛」とは、自由と平等をつなぐ概念です。自由主義・市場主義と、平等主義というものにそれぞれ限界が見え始める中で、それらをつなぎ、各々の良さを生かしていくという意味で、友愛というものが重要になってくると思っています。ODAの話が出ましたが、本当のソフトパワーとは人間の安全保障など、それぞれの地域の人々に届かせるようなかたちであろうと思います。それから、日本が大きな役割を果たせるのはやはり軍縮です。世界が動いていく流れの中で、強い意志と行動力を持って先頭に立っていくことが重要です。それから、外交・安全保障問題においては特に、内閣にその権限が集中しがちですが、二大政党制の場合には、守秘義務を前提としつつも、もうひとつの政党に対しても情報提供を行うしくみが必要なのではないでしょうか。

 我々も、日米安保を日本の外交の基軸だと考えてまいりました。しかし、これまでの自民党政権は日米・国連・アジアというものを3本柱として掲げつつ、実質的にはそれが3本の柱になっていなかったように思いますので、そこは後ほど述べさせていただきます。米軍基地についていろいろと申し上げているのは、両国民が納得のいくかたちでマネジメントを行わない限り、同盟の維持発展は難しいと考えるからです。グアムの問題についても、国民の税金を使うということにきちんと説明がなされていないという判断のもと、賛成できないという結論に達したということです。海賊対策については我々も必要だとの観点から議論をしてまいりました。与党の方々には、こういった問題を政争の具にはしないでいただきたいと申し上げたいと思います。現に、多くの自衛官が遠く過酷な任務に派遣されている中では、与野党の建設的な議論が求められていると考えております。


山崎 特に北朝鮮の核開発などが問題となっている中で、「友愛」の精神でこれに取り組むという説明はちょっと成り立たないのではないかと思います。我々は自由と民主主義という価値観を有しています。「自由と繁栄の弧」を広げていくことも重要ですが、それだけではなく、外交というものはやはり相互の主権を尊重するかたちで進められるべきものだと考えます。自衛隊法の改正により国際協力業務を本来任務としましたが、今後とも国際平和協力に前向きに取り組んでいく必要があります。


松本 我々も、過去60年の平和というものを評価するという思いは変わりません。ただ、今までやってきたことをそのまま続けるのではなく、絶えず改善の努力を行うことが必要だと考えているということです。北朝鮮に関しては国際社会の中でも明らかに問題であるとされ、また北朝鮮の国民にとっても全くプラスになっていないわけですから、そこは友愛の精神に反するものとして抗議されるべきだと考えます。山崎先生のお話をうかがってひとつ、「自由と繁栄の弧」を推進していくのかどうかについて、立場が明確ではないように思いました。多様な主権国家が存在する中で、最初から、いわば線引きをしてしまうような外交が日本にとって本当にプラスになるのでしょうか。


山崎 あくまで相手国の主権を尊重することが基本としながら、自由と繁栄の弧を広げていくということです。


国分良成 3点おうかがいします。まず両先生とも、日米同盟と国連中心主義あるいは国際協調主義、そしてアジア外交という3つの軸についてお話しされましたが、日米同盟と国際協調主義とのバランスをどう考えているのかについて、少し曖昧な点があったように思いますので、もう一度確認させていただきたいと思います。2つ目は、中国やBRICsなどが台頭してくる中、日本は世界第2位の経済大国という地位を享受できなくなっていきます。しかし、この国の社会を豊かなものに保ち続けていくためには、やはり一定の経済大国であり続けなければならないわけですが、経済連携や市場の開放などについてどう考えておられるのか、コメントしていただければと思います。3つ目に、外交政策を今後はどこを中心として進めていくおつもりですか。官邸なのか、政党なのか、外務省の役割をどこに置くのかという意味で、お答えいただきたいと思います。


山崎 国際協調主義は我が国の伝統的な外交・安保方針である国連中心主義と軌を一にするべきものだと考えます。日米同盟は、あくまで日本の平和と安全のために機能すべきものです。国際情勢が変化する中、日米安保を引き続き機能させていくためにどのような役割分担が必要なのかについては、今後十分に協議していく必要があります。市場開放というお話がありました。農業などについては自国の産業をどう守っていくかといったデリケートな部分もありますが、基本的には市場開放を進め、各国とFTAやEPAなどを結び、各国の経済が閉鎖的とならないようリードしていきたいと考えています。それから外交はやはり官邸主導で行うべきものと考えます。


松本 日米同盟の相対化と国際協調がトレードオフの概念になってしまったことは、非常に残念な状況だと思っています。この間を見ていても、短期的対米追随よりも長期的日米同盟を模索して動くべきだったと思います。国連中心主義ということについては、我々もこれまでずっと主張してきました。イラク戦争については、開戦の時期については国連の了解が取れなかったという判断です。国連の意思決定も万能ではありませんが、この間のアメリカの行動に対しても、国際協調の枠組みの中でもう一度考える必要があるということを、日本が主張できる関係をどこまで構築できるかということだろうと思います。外交政策の主体はやはり官邸であろうと考えます。防衛庁が省に昇格されましたら、特に情報収集という点に関しては、我が国のしくみは依然として縦割りです。足元の官邸の部分での機能強化が求められると思います。

 今後の方向性ということについては、民主党がかねてから主張しているように、広い意味での知的財産権が大きな柱になります。技術や頭脳、それをかたちにした知的財産というものが今後の日本の大きな強みになっていくと思います。


西原正 民主党は現在の日米同盟に対してずいぶんと批判的であるように感じます。しかし仮に政権を取った場合に、基地の問題など、そのような観点から修正していくとすれば、それが日米関係を悪化させるかもしれないという可能性についてはどうお考えですか。それから、山崎先生は「悪い点は修正して、役割分担を見直す」とおっしゃいましたが、具体的にはどういったかたちでの役割分担が望ましいとお考えですか。「日本が憲法解釈を変更して集団的自衛権を行使するようになれば、日米同盟は強化される」などという議論もありますが、そういう方向性についてはいかがでしょうか。


会田弘継 非核三原則のうち、「持ち込ませない」ということについて密約があったという外務省元幹部の発言が大きな問題となっています。これを機に非核三原則というものをもう一度考えてはどうかという議論もありますがいかがですか。それから拡大抑止についてですが、アメリカによる「デタランス」に頼らないような構造をアジアで模索するべきなのではないかと思います。


古川勝久 外交・安全保障については、アジアという地域を越えた非常にグローバルな問題が多いように思います。地球規模の課題に取り組んでいくためには外務省や防衛省だけではなく、厚生労働省や文部科学省、農林水産省などの役割が求められる時代になってきているのではないかと思います。そう考えたときに、このような分野における意思決定プロセスの統合がまだ不十分であるという指摘があります。地球規模の課題に対して日本がリーダーシップをとっていくというときに、省庁間の連携や協力をどのように行っていくことが望ましいとお考えですか。また、96年の日米共同安保宣言においても、グローバルな協力ということが言われましたが、現在の日米安保においては比較的希薄なのではないかと思います。アジア、アメリカに加え、ヨーロッパとの外交・安保関係についてどう考えておられるのかも、お聞きしたいのですが。


山崎 重要なご指摘だと思います。核の拡大抑止については、真剣に議論すべき段階に来ていると考えます。北朝鮮の核の脅威に対して、日本も核を持つべきであるとする見方には私は断固反対ですが、そうなると、日米安保におけるアメリカの抑止力が有効に働く必要がありますので、協議を進めてまいります。

 集団的自衛権については、国会の場でなされた伝統的政府解釈答弁は変更すべきではないと考えます。4つの類型として、米艦船の護衛、ミサイル防衛、PKO、後方支援がありますが、後者の2つは集団的自衛権とは切り離して議論されるべきものであると思います。前者の2つですが、ミサイル防衛については、飛んできたミサイルを撃ち落とすということは、技術的に可能か不可能かということは別にして、ごく自然な行動ではないかと思っております。給油活動を行っているときに米艦船が襲われたらどうするかということに関しては、個別的自衛権の解釈の範囲内で対処できると思います。

 非核三原則ですが、核兵器を保有した米艦船が寄港するということについては、核抑止力の観点から見ても、容認されてしかるべきではないかと思います。

 古川先生からは、グローバルな課題へ対処する際、行政の縦割りによる弊害があるとの指摘がありましたが、これはその通りであると思いますので、今後改善に努めてまいります。官邸主導を申し上げましたが、外交は総理が責任を持って行うべきものであり、官邸の要員はスタッフに過ぎません。外交上の責任は総理大臣に凝縮されるべきものと考えます。ヨーロッパとの関係ですが、特に中東問題などに関してはヨーロッパのコミットを促すことが日本の役割であるように思います。


松本 日米同盟については思いやり予算など、国民の理解が得られないところについては見直していく必要があるということです。ただ我々も革命を起こそうと思っているわけではないので、政権を取ったら今までの条約を破って、ということではありません。アメリカとは十分に協議をして、今後のあり方を考えていくつもりです。外務省の密約の件は、相手国の中ではすでに公開情報となってしまっているものが、我が国の中で混乱を呼びそれについて議論を行うというのは、無駄な労力に近い部分があるように思います。「実はこうだったのだ」と説明を行い、もつれた糸をほぐすのが政治の役割なのではないでしょうか。核の問題については、世界が核廃絶というゴールに向かっている中で、非核三原則を見直すというメッセージを発することが本当に重要なのかどうかということを含め、議論する必要があります。

 集団的自衛権については、国際的な取り決めに基づく集団安全保障、自国が攻撃を受けたときに発動する自衛権、同盟国が攻撃を受けたときに発動する集団的自衛権という3つに分けて議論を行ってきました。ところが海賊という一定の国に属さないものが出てきたときに、国会では「主体が何であろうと海賊行為には対処すべきだ」ということになったわけです。私自身はそれでいいと思っていますが、北朝鮮のミサイルなどについても集団的自衛権をどう位置づけるのかも含めて、もっと整理をしていくべきではないかと思います。

 ヨーロッパとの関係については、やはり国際社会における日本のポジション取りということに常に気を配っていくことは重要であろうと思います。

 それから省庁連携のお話がありましたが、多様な事態が生じているときに、部署を固定したままで対処しようとすること自体が異常です。省庁縦割りの原因となっている「~省設置法」というものをやめるということも考える必要があります。テーマごとにプロジェクトで動けるようなしくみも必要ではないかと考えています。


山崎 グアム協定がいかにも悪であるかのようにおっしゃいますが、沖縄海兵隊をグアムに移転させる動機は、沖縄の基地負担をできるだけ軽減させたいということです。それから普天間基地をキャンプ・シュワブに移転させるというのは、普天間基地は非常に危険な基地でもありますから、一刻も早く移転させるというのは極めて現実的な対応であると考えます。確かに財政的な負担は伴いますが、効果のほうがはるかに大きいと申し上げておきます。


松本 基地の移転については、効果について納得のいくご説明をいただきたいということです。応分の価値があるということがわかれば、我々もそこから評価することができます。


国分 最後にアジア外交についてお聞きしたいと思います。中国の存在感が高まっている中で、今後の日中関係の運営をどうお考えですか。それから北朝鮮の核とミサイルの問題への対処についても、おうかがいしたいと思います。


会田 確かに日本は日米安保のもとで戦後60年、平和と安定を築いてきましたが、一種の一国平和主義的なところもありました。多くのアジアの血の犠牲の上に今日の繁栄を築いているも言えるわけです。その意味で今後はアジア全体の平和をどう築いていけばいいのか。核抑止の要らないアジアというのも可能なのではないかと思いますが。長期的に見て、アジアの平和のための安全保障のしくみをどう考えていけばいいのでしょうか。私が最も危惧しているのは、日本か中国のどちらかを選ばなければいけないような状況がアジアの中に出てきてしまうことです。そういう意味も込めて、今後のアジアの平和構築についてどう考えておられるのかうかがいたいと思います。


西原 中国の力が拡大していく中、日本の発言力はどんどん低下していくのではないかと思いますが、将来の日中関係についてどうお考えですか。


松本 北朝鮮の核問題については、外交的解決を模索するスタンスは保ちつつ、やはり毅然とした立場をきちんと維持していくしかないと思います。山崎先生は、アメリカの核抑止力の有効性を確認する必要があるとお話しされましたが、もし効果があるのだとすれば、我々はもっとそれを堂々と主張して、頼るということがあっていいのではないでしょうか。それは核廃絶の方向性と矛盾するものではないと思います。


国分 会場から質問が来ていますが、核軍縮を進めるためにアメリカに対して先制不使用の宣言を求めるべきだという議論について、党としてどうお考えでしょうか。


松本 アメリカに対してそのように話していくべきではないかというのが、民主党の基本的な考え方の方向になっていくと思います。それがアメリカにとってもプラスになるという考え方で議論をしていくつもりです。

 それから中国との関係についてですが、経済などの問題に引きずられて言いたいことが言えないというのは非常に危険だと思います。出すべきところできちんと声を出せるような外交努力が必要です。


山崎 核の先制不使用については、アメリカにだけ求めるのではなくて、核保有国の全てが同時に宣言し、しかもそれが担保されることが必要だと思います。冷戦が終わって20年というお話がありましたが、私は、冷戦は終わっていないと思います。朝鮮半島38度線というアジアのフロントがまだ解決されていないわけです。1990年に韓国はソ連と、92年には中国と国交を結びました。しかし米朝と日朝の間にはまだ国交が結ばれていません。これが解決されなければ、何の進展も望めません。99%は北朝鮮側の問題でしょうが、こちら側にも1%の努力の余地があるのではないかと思います。架け橋となっているのは6者協議ですから、今はしっかりと5者協議を続けて、6者協議を実際上継続する必要があると考えております。


松本 今の北朝鮮問題のお話はその通りであると思います。しかし結果として平壌宣言は日本にとって必要な言葉が入っていない部分が多いということがありますので、非常に難しい問題だとは思います。アジアについては歴史や価値観など困難な問題が数多くありますけれども、我が国がここにある以上、乗り越えなければなりません。


工藤 今日は日本の将来に向けた安全保障上、外交上の課題がかなり鮮明になったと思います。これからぜひ選挙戦の中で論争を深めていってほしい。ありがとうございました。

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Profile

090709_yamazaki.jpg山崎 拓(衆議院議員 外交調査会会長 元防衛庁長官

1936年生まれ。早稲田大学商学部卒業。1972年に衆議院議員初当選以後、12回当選。防衛庁長官、建設大臣、自民党政務調査会長、幹事長、副総裁などを経て、現在は自民党外交調査会長を務める。著書に『2010年日本実現』『憲法改正』など。


090709_matsumoto.jpg松本 剛明(衆議院議員 安全保障委員会筆頭理事 行政改革調査会長 前政策調査会長)

1959年生まれ。東京大学卒業。民間金融機関勤務などを経て、2000年、衆議院議員に初当選。現在3期目。民主党ネクスト防衛庁長官、政策調査会長などを歴任し、現在は行政改革調査会長、安全保障委員会理事などを務める。