「第7回言論NPOメンバーフォーラム/ ゲストスピーカー:黒川清氏」報告

2006年2月21日


 2月7日の言論NPOメンバーフォーラムは、日本学術会議会長の黒川清氏をお招きして開催致しました。

 黒川氏は、医師として日本とアメリカで活躍してこられましたが、現在は、日本の科学技術戦略に関わる立場から、国の政策立案にも関わり、医療制度改革などにも取り組んでおられると同時に、将来に向けた日本のあり方についても様々な問題提起を行っている論者です。同氏は、現在の世界の大きな潮流変化の中で、日本は、明治維新以降その国是としてきた富国強兵や経済成長などから脱皮し、「品格ある国家」を目指すべきであること、そのためには、世界やアジアの「知」のネットワークの中核となれる指導的な人材を輩出していくことが特に重要であることなどを主張されています。

 こうした立場から、このフォーラムでは、同氏は、「日本人以外には理解できない日本の習慣」として、次の4点の問題提起をしました。


 第一に、「自殺」についてです。自殺はどこの国でも起こっていることですが、日本でこの7年間に、2万5千人から3万3千人と3割も増加しているのは異常で、しかも、キャリアを積み家族も持つ40代・50代の男性が大きな割合を占めています。近年の景気悪化がその背景として挙げられてきましたが、そのようなことが原因で自殺が急増するのは日本以外では考えられないとしました。

 第二に、「過労死」です。「過労死」という言葉は日本特有のもので、仕事をしすぎて死んでしまうのはどうしてなのか、仕事上の目標を達成するために死んでもいいと思っているのか、なぜそのようなことが日本では起こるのかという問題提起です。

 第三に、「天下り」についてです。「天下り」という言葉は、新聞などでも、カッコつきで使われておらず、当たり前に使われているが、日本ではどうして官僚が「天上」の存在と位置づけられるまでに特別な偉い存在として扱われているのかという問題提起です。

 第四に、パーティーにおける日本人の振る舞いです。お互いを紹介するときに、アメリカでは職業名で紹介しあいますが、日本では、会社名、組織名で紹介する習慣があります。この点について、黒川氏は、日本人はお互いがどちらが上位かということを認識しなければコミュニケーションができない、お互いの身分が定まっていない状態で話していると非常に不安になるためであると指摘しました。


 このように、戦後61年目となっても、日本にはアプリオリに受け入れられている特異な点が大変多い状況であり、戦後、年功序列、終身雇用が続く中で「個」が評価されてこなかったことが、日本が国際社会の中で存在感を形成する上でも、大きな足かせになっています。しかし、世界のパラダイムは大きく変化しています。国家ビジョンを持ったことのない日本も、根本にまで遡って、日本をどうすべきかを考え、特に、アジアをどう作り、そこに技術や教育をどう活用していくのかを戦略的に構築していく必要があります。

 今回のフォーラムで黒川氏が投げかけたのは、こうしたメッセージでした。

 その後、参加メンバー全員が発言する形で、活発な意見交換が行われました。そこで議論の中心になったのは主として教育の問題でしたが、全体として、このフォーラムが提起したのは、「個」の自立と、パブリックを担える「民」のあり方をどう構築するかという論点でした。
この点については、言論NPOとして今後様々な場で、さらに議論を深めていくこととしています。


※次回のメンバーフォーラムは、王毅中国大使をスピーカーに迎え、3月23日に開催の予定です。

2月7日の言論NPOメンバーフォーラムは、日本学術会議会長の黒川清氏をお招きして開催致しました。