なぜ言論NPOは「非政治性、非宗教性」に関わる自己評価を公表したのか

2006年7月03日

この度、私たちは日本のNPOの活動にとって大きな意義があると考える、ある提案を行いました。

私たちが行っている言論NPOの様々な活動について自己評価を行い、その評価結果をウエッブ上で公開したことです。今回はそれを少し説明させていただきます。

なぜ自己評価を公開するのか

私たちはこれまでも言論NPOの経営や活動内容などについて公開してきましたが、今回公表したのは、私たちの言論活動が特定の政治な立場や特定の宗教団体のために行っているのではないこと、つまり、広く社会一般に質の高い議論の場や、多くの人々に様々な判断材料を提供するという、自立的なミッションにもとづいた公益的な性格の活動であることについての、自己評価です。

言論NPOは、そのための評価手法をこのほど新しく構築し、それに従って行った自己評価の結果とそれに対する第三者的立場からの有識者(言論監事)の意見を公開しました。NPOが自分たちの行っている活動を自ら評価し、その内容を広く社会に公開することは日本のNPOでは多分、初めてのことだと思います。

私たちが今回、こうした取り組みを行ったことには、いくつかの理由があります。ひとつは、非営利活動、NPOの有り方についての私たちなりの考えがあるからです。

日本には現在、2万6000団体のNPOがあるとされていますが、その大部分がクラブ組織のような共益を目的としたり、あるいは行政の下請け化しているケースも多いように思えます。このような状況は本来、NPOに求められている期待からみても、正しいものとは私は思いません。


パブリックを自発的に民が担う

私たちが目指しているのは、官がこれまで独占していたパブリックの領域を民が自発的に担うことであり、それを利益の分配ではなく、ミッションの実現を目的とした非営利組織で担おうとすることです。
国では「小さな効率的な政府」の実現を目指し、官の仕事のアウトソーシングの動きなどが始まっています。私はこうした動きでは「効率的な政府」はできても、本当の意味での「小さな政府」はできないと考えます。

税金を負担してもらい、その見返りとして公共サービスを提供するのがこれまでの官と公共の役割でした。その領域を民が自発的に担うところに、非営利組織の理想があったと私は考えます。そのためには、税金でまかなわれるサービスのアウトソーシングではなく、民が自らお金を集め、パブリックを担う寄付市場が広がる必要があるのです。

残念ながら、日本の寄付市場はそう大きなものとはいえません。しかし、公益的な活動とは社会一般にその必要性が支持されることで存在するのです。そのためにはより多くの寄付でその活動が賄われる必要があります。

私たちが、言論NPOの活動の自己評価結果をこうした寄付市場にも開かれた社会一般に公開したのは、自らの活動が公益的であるかどうかの判断を市場に委ねることが必要と考えたからです。

この点で、国の公益法人改革では、これまで国が判断していた公益性を有識者が判断するという形に変えています。しかし、有識者は判断材料となる意見は言えても、公益性そのものを客観的に判断することはできないと考えます。

それを判断するのは、その活動が必要と考える寄付者(お金を提供する方だけではなく、労働を提供する方や知的な支援者も含みます)だけだと考えます。その数が多いほど、公益性は増すのです。
 

アドボカシー型NPOに求められる一層の自己規律

もうひとつの理由は、政策議論や政策提案も行うアドボカシー型の非営利活動の場合、さらに一層の自己規律が求められていると、私たちは判断したからです。

私たちのNPOが誕生したのは、今から5年ほど前です。私たちのそのときの思いは、日本の民主主義の発展にとって言論や議論の役割がとても大きいのにも関わらず、既存の営利メディアはその役割を十分果たしているのか、ということでした。

有権者は投票を通じて政治を選びます。そのための質の高い判断材料を提供するのが本来メディアの役割ですが、それがなされていないと判断する人たちはかなり多く、その人たちが参加、あるいは支援をしたということも、私たちの非営利組織が誕生した大きな背景でした。

私たちの活動は、その意味で民主主義のインフラの役割の一つを担おうとしています。ユーザーである有権者のために、質の高い議論や政策評価などの判断材料をどのくらい提示できるかが私たちに求められた仕事となるのです。

そのために、私たちが提供する様々な判断材料から、特定の政治的、あるいは宗教的な立場からの恣意性が排除されることが、最低限求められます。議論である以上、それは何らかの価値の提唱につながるものであり、その意味での中立性をそこに求めることにはそもそも無理がありますが、これらの議論がその形成プロセスにおいて、特定の政治家や政治団体、あるいは宗教団体の利益のために行われていないことがきちんと担保されていなければなりません。

私たちは、それを、言論活動の公益性の条件として求められる「非政治性、非宗教性」と捉え、私たちの活動がそれを満たしているものであることを説明する義務を負っていると考えました。そして、この2年間、海外の事例を幅広く詳細に研究し、評価手法を新たに構築して評価を行ったのが、今回公表した「非政治性、非宗教性に関わる自己評価」なのです。


「非政治性、非宗教性に関わる自己評価」の手法とプロセス

この手法の詳しい説明は添付資料などを参考にしていただきたいのですが、まず米国の内国歳入庁(IRS)のガイドラインに即して「非政治性、非宗教性」に反していないかの禁止項目(ネガティブチェックリスト)による客観的な基準を日本で通用する形に再構築し、言論NPOの全ての活動をまずその下に評価します。

この禁止項目は例えば、「公職選挙において選挙候補者のための政治活動に参加、あるいは介入する活動を行っていない」「公職選挙とは無関係な活動においても特定の政党や政治的な立場、政治家、あるいは候補者を、公職選挙の際に支援、または反対する効果をもたらすことになる活動を行っていない」など約30項目で構成されています。

この基準は、言論活動をできるだけ客観的に評価するための工夫として、まず、外形的事実からYesかNoかが明らかな場合に、その判定を下すものです。外形的事実からは判定しきれない場合も当然、多々あり得ます。その場合についての判定のために、私たちは、コンテンツ判定基準(言論活動の目的の明確性、立場の明確性、方法論の明確性、方針決定のガバナンスのおよび透明性など)というさらに追加の基準も設けました。それによる判定に委ねられた活動内容については、その基準で判断し、その結果、言論NPOとしての最終的な自己評価結果が確定します。

加えて、この評価結果について第三者の言論監事がさらに判定を加えます。そして、言論NPOの自己評価結果と言論幹事の判定意見は総会で報告されると同時に、インターネットなどで市場に公開することにしたのです。 

私たちが今回、言論NPOのウエッブサイトで公開したのはその自己評価結果と、二人の言論監事(本間正明大阪大学教授田中弥生東京大学助教授)の判定意見です。あわせてご覧いただければと思っています。
 

非営利組織のガバナンスのあり方を重視したい

私たちがこうしたガバナンスの問題を重要と考え、実行しているのは、言論NPOの活動が日本社会に健全で質の高い言論や政策論議を作り出し、その内容を有権者に提供するという自立的で公益的なミッションに基づいていることを、ガバナンスの面でも裏付けるためです。一方で日本の非営利組織のガバナンスのあり方にも一石を投じたいという思いもありました。

日本のこれからの社会のあり方を考える上で、非営利組織の役割はとても重いものだと考えているからです。