日本の民主主義が危ない(学生インターンとの対話)

2008年12月07日

学生: 2008年も終わりに近づいていますが、言論NPOでは来年に向け、今どんなことに取り組んでいるのですか。

工藤: 議論の「仕込み」をしているところです。私は今まさに言論側の役割が問われていると思っています。最近、言論NPOを応援していただいている人にお会いした時にもそれを、よく言われのですが、私にもここで議論を始めなくてはという強い思いがあります。

オバマ氏は来年の1月20に新大統領になります。アメリカの危機は世界的な金融危機に広がり、実体経済にも大きな影響が出ています。ただ、今回の事態はこうした経済の問題に限らず、戦後のドルを軸とした世界経済の構造に変化を迫っているように見えます。経済の危機に対応するだけではなく、その先にある国際社会での日本の進路を考えなくてはならない、という局面に今の日本はあります。

私がとても気になっているのは、そうした世界経済の変化だけではなく、民主主義の問題です。金融危機の背景にはアメリカの対外債務のドル化というべき借金資本主義の破たんという問題がありますが、資本主義の暴走と言うべき金融偏重や競争至上主義で弱体化した民主主義の復権ということがもう一つのテーマにありました。それがオバマ現象につながったと思います。


ところが、世界がこれほど大きく変わろうとしているときに、日本の進路を問う議論がこの国には全く出てこない。あるのは選挙意識した相手を攻撃するだけの議論ばかりです。

当事者意識を持ってこの事態に向かい合い、日本の課題解決に取り組もうというのではなく、この局面になっても人ごとのように、または誰かの批判をするためだけの議論が見られる。それが最近出ている様々な社会的な驚くべき事件や、政府の役人でいながらそれに反することを発言しても、言論の自由と開き直る風潮を許す何かがある。

これはとても危険な状況だと思うし、こうした状況下だからこそ、健全な議論が日本の政治を動かす民主統治の流れは守る必要がある、と思うのです。

言論NPOが7年前に立ち上げた時に主張したことも、健全な議論の舞台を広がることで強い民主主義をつくりたい、ということでした。今まさにそれが問われている、と思うのです。僕が今、「仕込んでいる」と言うのは、そのための議論を始めようと思っているからです。


学生: 具体的には何を考えていますか。

工藤: 今の政権は、政策決定に関してもスピード感がなく、党内や官庁をまとめきれないことが、首相の発言の混乱という形で表面化しています。

選挙を前に自民党の混乱も新聞報道などでは見えており、日本の政治はある意味で言えば自滅というような状況にも感じます。ただ、そうであるならば、野党の民主党などの政策が対案としてしっかりとしているか、といえばまだそうではない。

ここで共通しているには、今の政治はバラ撒きの競争でしか、ないということです。その内容が足りないとか、やり方が下手であるとこか、ある意味でそれだけの選挙のためだけの議論のために国会が使われている。そうした政治をただ私たちは見ているしかないという事態なのです。

現時点でいえば、日本の政治はしっかりした経済対策を早く出して決定し、その上でこの国の未来に向けての課題解決で本当の政策競争を行い、国民に選挙で信を問う段階にあると、私は思っています。

ただ、その内容がただのバラ撒きの競争でしか、ないというのであれば、それは私たち側の有権者側の責任であり、そういう政治を私たち自身が求めているということになってしまう。それでいいとは私は思いません。

ポピュリズム的な風潮は、この国の可能性を壊してしまう、と私は思います。それを、変えるためにも、政治を有権者の間に緊張感を取り戻し、監視を基に組み直す必要があります。今年もわずか20日ばかりですが、私たちが行っている政府や政党の政策やマニフェスト評価の議論を公開して行うつもりですし、それに現政権の評価を開始しないとなりません。

率直言えば、約束に基づいた政治ということが機能していない状況下でその政策の評価を行うことは本質的には困難であるわけです。ただし、そうした状況を変えるためにも政策を不断に監視し、議論し、それを政治に迫っていく努力が必要になるのです。

2009年はまさに日本の進路が問われる年になると思います。これからの日本の進路に関する議論が始まっていないことに僕たちは強い危機意識を抱いているわけで、それに向けた議論も今準備をしています。言論NPOのウエッブを活用したチャネル、「ミニ・ポピュラス」や公開フォーラムなどいろんなしくみを使って徹底的にやっていきたいと思っていますので、皆さんにもぜひ参加していただきたいと思っています。