フォーラム全日程を終えて

2009年11月04日

 フォーラムを終えてまず感じているのは、ようやく折り返し地点に来たなということです。日中関係が最悪のときにフォーラムを立ち上げて、当面は10回開催することを中国側と合意しています。これを軌道に乗せるまでに5年かかりました。次の5年はこの成果の上に立って、さらにこの対話を前進させなくてはなりません。これからは抽象的な議論でお互いの考えをぶつけ合うのではなく、具体的な課題解決や、日中やアジアの未来に向けて具体的な何かが動き出すような対話をつくっていかなければいけない。これは「大連宣言」にも盛り込まれたことです。

 一方で この対話が何かの価値を生み出していくようにするためには、議論のあり方や方法について、いろいろな改善しなくてはなりません。たとえば、この対話を年に1回で終わらせるのではなく、継続的な議論を経て、このフォーラムに結びついていくようなかたちにできないだろうか、あるいは言論NPOや中国日報社の発信媒体を利用して、そうした議論をつくれないだろうか。いろんな可能性があると思います。

 私が嬉しかったのは、まさに予算委員会が行われている大変な時期に、日本の政界から、渡部恒三さんを含め4人の政治家の皆さんが参加してくれたということです。かなり困難な局面であったにもかかわらず、それを乗り越えてこのフォーラムを発展させなければいけないという思いが、両国の中にきちんとある。それを今回は再確認できたということも、嬉しかったですね。

 もうひとつ、私が説明しなくてはならないのは、このフォーラムは手作りで行っているということです。北京での大雪が原因で、政府関係者が来られなくなったり、しかしそんな中、通訳の方々が深夜にマイクロバスを乗り継いで駆けつけてくれたり。大連市からもたくさんの市民ボランティアの方々にご協力いただきました。日本人留学生も参加してくれました。皆さんの思いに、今回のフォーラムは大きく支えられたのだと実感しました。

 それから、もうひとつ、今年のフォーラムのタイミングが私たちの思っていた以上に歴史的なものだったということです。建国60周年を迎えた中国が経済大国として台頭しつつある中、日本では政権交代によって政治が大きく変わりました。しかし、一方で私たちが行った世論調査では、この5年で政府間関係は改善したにもかかわらず、お互いの相互理解が進んでいない、つまり、変わらないものと変わったものが共存しているのです。

 次の5年ではこの問題に取り組みながら、このフォーラム自体が未来志向でアジアの将来や課題の解決に取り組む必要があります。これはチャンスだと思います。実際、大会期間中の議論を聞いていて、このフォーラムが新しい日中関係やアジアの未来に向けて具体的な議論を始めるためのきっかけになるのではないかと思いました。

 鳩山政権が提唱した「東アジア共同体」についてはフォーラムでも活発な議論が行われていて、このメッセージが中国社会に想像以上に伝わっていることがわかりました。中国側は明確な発言を避けるようなところもありましたが、中国のメディアは高い関心を示しており、記者会見での質問もこの話題に集中しました。

 共同体の議論は始まったばかりで、まだまだ見えてこないところも多いですが、これまで過去を議論してきた日中が、新たな関係に向けて同じ土俵で議論していこうという動きが始まっているのだと感じました。また「気候変動の問題には取り組まないのか」と中国の記者から聞かれた時には少し驚いたのですが、このフォーラムがアジアや世界の課題の解決に取り組むことへの要望や期待は、かなり高いわけです。次の5年ではそれに応えないと、と思ったわけです。


 皆さんにはインターネットを通じてこの議論を見ていただいたと思います。議論は毎日、公表しましたが、これは30人を越す、現地の日本人留学生や日本からのボランティアが、議論を一刻も早く伝えたいという思いで徹夜で努力した結果です。皆さんに知っていただきたいのは、アジアの将来に向けた議論が民間の力で動き出していると、いうことです。

 また大連理工大学で行われた「政治対話」には300人以上の学生が駆けつけ、会場に入りきらなかったと聞きました。次々に質問が出たと。中国の若い層が日本の政治の変化や、アジアの未来に向けた対話に強い関心を持っている。私たちはこの勢いを来年の東京大会に結びつけたいと思います。東京でもぜひこのような学生との対話の機会を設け、若い人たちの熱気にも支えられた対話をつくりたいと思います

 言論NPOでは今回のフォーラムの報告書も発行する予定ですので、ぜひご期待いただきたいと思います。