「新政権の課題」評価会議・安全保障問題/第6回:「集団的自衛権と、『ともに汗をかく日米同盟』」

2006年11月13日

mani_061031-1.jpg
言論NPOは「新政権の課題」と題して、各分野の専門家を招き、継続的に評価会議を行っています。第二回目の評価会議は、先日発足した安倍政権に問われる「安全保障」問題について、倉田秀也氏(杏林大学教授)、道下徳成氏(防衛研究所主任研究官)、深川由起子氏(早稲田大学教授)を招いて、議論を行いました。

「集団的自衛権と、『ともに汗をかく日米同盟』」

工藤 集団的自衛権と日米同盟の問題はどう考えるべきでしょうか。

道下 アフガニスタンは、アメリカが個別的自衛権でやりました。イラク戦争は国連決議でやっており、集団安全保障であって、集団的自衛権ではないのです。小沢一郎さんの言い方で言えば、集団的自衛権はだめでも、国連のマンデートがある武力行使はいいという考え方で行くのも1つの行き方です。また、集団的自衛権の問題がクリアされても、結局、どこまでできるか、どこまでやる気があるのかという話をある程度考えておかないと、どういう自衛隊の整備をするかも明確にならない。
 テロ特措法的な任務を行うときは、周辺事態法的な任務をより色々なところでできるという恒久法をつくるという決断になる。イラクでやった復興支援は、どちらかというと国際平和協力活動と呼ばれるものに近く、軍事的な任務というより人道任務に近い。それを恒久的にできる恒久法をつくるという話になります。

倉田 イラクの例というのは、微妙なのですが、国連安保理事会によるマンデートがあったとされている。しかし、実際に決議に従ってアクションを起こすのは個別の国家であって、直接攻撃を受けていないにもかかわらず何らかの武力行使をするならば、個別の国家においては集団的自衛権の行使だと思います。

道下 ただ、それを小沢さんは分けて議論している。また、集団的自衛権が通れば集団安全保障というか、コレクティブセキュリティー(collective security)も当然通る。

倉田 でも、その逆は成り立ちますか。小沢さんは、日本は国連の加盟国なので、国連の加盟国として、集団安全保障の名のもとに何らかのマンデートが出たときに日本の自衛隊がそれに従うというのは、加盟国である以上、日本の集団的自衛権の論議とは別に考えましょうという発想でしょう。

道下 正当な武力行使は3つあります。1つは、国連のマンデートがある集団安全保障活動で、自衛権による武力行使というのは、個別的自衛権と集団的自衛権というものに分かれています。これは国連のマンデートがある集団安全保障の武力行使とはまた別のものです。ですから、小沢さんが言っているのは、日本は国連憲章を遵守して国際の平和に貢献すると言っているのだから、そこを読めば、集団的自衛権というのはかなり暫定的なものなので、それぞれの国が判断して、国連が助けに来てくれるまで行使できるというとりあえずのものなので、行使していいかどうか疑義がある。しかし、その後の正当な、国際社会で、国連安保理で武力行使できるという決議があれば、それは一番正当性の高い武力行使で、それはできるという話です。

工藤 それは今の憲法のままでもできると言っているわけですね。

倉田 ただ重要なことは、国連安保理が正当な武力行使と認めるには、7章の国連軍をつくらなければならないのです。しかし、国連憲章の42条、43条の正当な手続に従ってできた国連軍は1回もないのです。つまり、集団安全保障に基づく武力行使がマンデートとして最も正統性があるのですが、そういう手続を経て生まれた国連軍は未だない。そういうものに我々はそんなに信頼を置いていいのかということです。

道下 言っているのは多国籍軍です。国連が、こういうミッションが必要ですから軍隊を提供してくださいというマンデートを加盟国に与えるのです。しばしばアメリカに司令部機能を担ってくださいと言って、司令官を任命してもらうのです。

倉田 イラクの場合でも、42条、43条を経ていませんから、武力行使の形態とすれば実際には有志連合ですね。

工藤 そうなると、日米同盟と集団的自衛権の関係はどうなるのですか。

道下 集団的自衛権とは必ずしも関係ないという議論があるのは、アメリカが直接攻撃されたから自衛権を発動するという形でやる戦争というのは、そんなにあるものじゃないからです。

倉田 しかし、アメリカがテロ攻撃を武力行使とみなすかどうかは別として、実際にアメリカが何らかの軍事活動を行っているときに、日本が日米同盟の名の下に何らかの支援を行うとして、そのミッションはいかなるものであるにせよ、米国の艦船が武力攻撃をおけたとき、今の政府解釈ですと、日本が応戦できない。見過ごすしかないわけです。それでいいのですかという議論はできると思います。

道下 ですから、集団的自衛権と言っても、いわゆる普通の世界で言っている、他国と共に武力行使を行うという意味での集団的自衛権と、隣で一緒にミッションをやっている外国の兵隊さんが襲われたときに助けられるかどうかという文脈における集団的自衛権とは分けて考えなければいけない。

工藤 そのような状況は新政権の課題として、今日本に問われているのでしょうか。

倉田 それがまさに今回の北朝鮮のケースなのだと思います。

道下 日本が国際社会から多大な安全保障上の貢献を求められているかどうかといえば、必ずしも求められていません。日本がもっとやらないと損すると思っているから、国内を説得するために言っている。アメリカの一部で、もっと日本の軍事的資源を使いたいという人たちが言っているのは事実ですが、アメリカ全体として、あるいは国際社会全体として、日本は今やってくださいと言っているわけではなく、日本が自分の国益を高めるために色々な資源を投入しているわけです。

今、どういう資源配分をしているかというと、日本はソフトパワーが非常に弱くハードパワー偏重の国ですから、経済力というハードパワーと軍事力というハードパワーがあるとすると、経済力という財を投入していて、軍事力という財を投入していない。すると、この状態は、アメリカにとって美味しいところもあり、軍事でやらないなら金を出しなさいというので、結構金を引き出せるわけです。

国際社会が、もっと貢献しろと言って日本を批判しているのは、日本の軍事的貢献が必要不可欠であるからではなく、日本が軍事的にやれないことを強調することで、経済的な支援を復興支援に出しなさい、湾岸戦争をやるから金を出しなさいと言うために言ってきている面が非常に強いのです。

1つの財で同じ効果を出そうとすると、経済学的に非常に損する。やはり色々な財を適度に組み合わせるのが一番いい結果に結びつくわけで、そのような資源のシフトをするか、しないかというのは、日本の国益から考えるべきです。日本人の生命が絶対の価値であるというのであれば、安全保障上の貢献は現在のレベルにとどめ、お金で問題を解決するというのは1つの行き方ですし、そこは自分たちが考えるべきで、経済力が次第に落ちていく中にあって、どうしていくかという話です。

工藤 ということは、軍事的貢献しなければいけないという意見を言う人たちが日本側にこそいるということですね。

道下 1つの財だけを突っ込んで、ほかの財は全く使えませんというのは余り賢いやり方ではない。今のやり方は日本以外の諸国にとっては好ましいことかも知れません。お金には色がついていないですから、好き勝手に使えます。日本がもし人を派遣したり、直接的に人的にコミットしたりしたら、日本人の発言力は向上し、他国の行動の自由は相対的に減りますから。

深川 しかし、湾岸にあれだけお金を出したのに、誰にも感謝されませんでした。

道下 経済力という財のみの投入が最良のリターンを生み出さなかった好例です。また、それはPRの問題であったとも言えます。

深川 130億ドルですよ。1億ドルとか2億ドルではありません。世界のキャッシュ・ディスペンサーにされたくなければ、戦略を持って認められる人的・知的貢献が必要なのは間違いないと思います。

倉田 侵略された国にとって重要なのは、どれだけの額を出したかよりも、やはり実際に軍事的に貢献したかどうかなのでしょう。

工藤 世界とアジアのための日米同盟を強化しろといっているのは、そこに向かって突破を図っているからなのでしょうか。安倍さんも小泉さんと同じで、私は世界とアジアのために日米同盟をやっていきますよという決意は総裁時のマニフェストに書いています。

道下 好意的に読めば、世界のためとか日米同盟のためとか言っていますが、実はそうした方が日本の国益上、最も好ましいという意味で言ってくれていることを期待します。

日本のリーダーの問題は、外国にやってくれと言われているからやるという説明をする癖がついているということです。しかし、そこには何らかの国益観があるはずです。

倉田 日米安保条約以外の部分というのが肥大化している。それはアジア地域全体、あるいはグローバルな次元になっている。これから日米協力が必要な事態が日米安保条約で読めるとは限らない。

工藤 ということは、これは純粋に言えば、憲法改正も含めてきちっと対応しましょうということを言っているわけですね。

倉田 だからこそ、集団的自衛権の政府解釈を変えるべきだ、あるいは憲法を改正すべきだという話が出ているわけでしょう。安倍さんのお考え方は、かつて中曽根さんがいった「戦後政治の総決算」にも通ずるところがあるのではないでしょうか。

profile

061031-michishita.jpg道下徳成(みちした・ なるしげ)
防衛庁防衛研究所 研究部第二研究室 主任研究官

1990年筑波大学第三学群国際関係学類卒業、防衛庁防衛研究所入所。1994年ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)修士課程修了(国際関係学修士)、2003年同大学博士課程修了(国際関係学博士)。2000年韓国慶南大学校極東問題研究所客員研究員、2004年安全保障・危機管理担当内閣官房副長官補付参事官補佐等を経て、現在は防衛研究所研究部第二研究室主任研究官。専門は、戦略論、朝鮮半島の安全保障、日本の安全保障。

061031-fukagawa.jpg深川由起子(ふかがわ・ゆきこ)
早稲田大学 政治経済学部 国際政治経済学科教授

早稲田大学大学院商学研究科博士課程修了。日本貿易振興会海外調査部、(株)長銀総合研究所主任研究員、東京大学大学院総合文化研究科教養学部教授等を経て、2006年より現職。2000年に経済産業研究所ファカルティ・フェローを兼任。米国コロンビア大学日本経済研究センター客員研究員等を務める。主な著書に『韓国のしくみ』(中経出版)、『韓国・先進国経済論』(日本経済新聞社)などがある。

061031-kurata.jpg倉田秀也 (くらた・ひでや)
杏林大学総合政策学部教授

1961年生まれ。85年慶應大学法学部卒、延世大学社会科学大学院留学、95年慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得。91年より常葉学園富士短大専任講師・助教授を経て2001年より現職。その間、日本国際問題研究所研究員、東京女子大学、東京大学などで非常勤講師。主著『アジア太平洋の多国間安全保障』等多数。

言論NPOは「新政権の課題」と題して、各分野の専門家を招き、継続的に評価会議を行っています。第二回目の評価会議は、先日発足した安倍政権に問われる「安全保障」問題について議論を行いました。