安倍政権4年実績評価「社会保障」

2016年12月29日

第2セッション:持続可能性のない年金制度

c6dd8e0f38aeb31a09125418246176135ef9cb04.jpg工藤:現状のままでは、既に始まっている人口の大きな変化の問題に対応ができない可能性があるし、今行われている様々な仕組みの持続可能性そのものに関して疑わしいということが皆さんの頭の中にあるということが分かりました。ということであれば、なぜ持続可能な社会保障の大きな転換を今の政権は取り組もうとしていないのか、しているのかもしれませんが、どこに問題があるのかということをまず皆さんから話をお聞きしたいと思います。

国と民間の棲み分けも踏まえた、社会保障制度の哲学を明らかにすべき

2016-12-28-(14).jpg亀井:1つは経済成長と全てリンクさせてしまっていることだと思います。この国は全体で見たら人口が減っていて、かつ生産者年齢に働き手世代の人口が減っている中で全体のパイとしてはそんなに大きくならない。にもかかわらずそれで経済成長にドライブをかけようとしても無理が出てくる。社会保障は経済成長の道具ではないわけですから、ここを切り分けて考える必要があります。

 もう1つは財源問題に真正面から向き合っていないということだと思います。これはいくら足りないという話ではなくて、なぜか消費税アレルギーが物凄くあるのですが、なぜ消費税を選択するべきかと言えば、所得税を今上げますと言った瞬間に現役世代が痛むわけです。もちろんそこで、ある種の格差是正もしなければいけないので所得税の改革も必要です。なぜ消費税かと言えば、受益者自身もやはり比較的世代別で見ると余裕があるのは高齢者です。その高齢者を含めて負担をしていく税制にしていくということがすごく大事で、そこが世代間の負担の格差を是正していくことにつながる。この2つに取り組めていないというのが大きな原因ではないかと思います。

小黒:今のお話に加えて、あえて言うとすると、哲学が結構重要で、社会保障というもので経済成長にドライブをかけるのは難しい。経済成長は経済成長ですれば良くて、うまくいくこともあれば失敗することもある。今までの政治の考え方で社会保障がどういうふうに位置づけられたかを整理する必要があって、経済のパイがどんどん大きくなっていて、そのパイの増分で社会保障を分配して社会保障費を大きくしてきました。しかし今後は人口減少なので、ある意味で生産性があがったりして、GDPを大きくするのは難しい。一例で言えば出生率ひとつとっても、ただちに出生率が2になったとしても、人口減少は2070年まで続く。これは誰が推計しても分かることです。そのように考えると、人口が減っていくというのを前提に考えないといけない。人口が減っていくということは財源を長期的に確保しなければ社会保障は成り立たなくなる。しかし負担にも限界があるので、そう考えると社会保障の中の医療、年金、介護、どこまでが国が責任を取って面倒を見るのか。軽い部分の社会保障は民間で供給するような仕組みを考えるとか、まず哲学をきちんとすることが一番重要だと思います、

工藤:国としてどこまで社会保障のサービス体系を国民に提供するのか。そのためにどういう負担の在り方があり得るのか、という合意が必要です。選挙で誰も政治家はそんなことは言いません。世代間の問題など本来であればそういうことも含めて提案しなければいけないが全くそれが見えない。

 ただ、1つ分かるのは、安倍政権は2050年に人口規模を1億人で維持するという話をしており、1つの将来像の立て付けが見えてきました。それが実現できるかどうかという問題もありますが、中身の問題に関してはほとんど見えない状況の中で、今ある現実に対する不安を抱えているという状況ですよね。

政治主導であるがゆえに、給付抑制・負担増が提案できなくなった

2016-12-28-(13).jpg西沢:1億人という目標は政党のポリシーとしては別におかしくない。しかし、分母を増やすだけで今の借金が帳消しになるわけでは全くないし、合わせて給付抑制、負担増という話もダブルトラックでやらないといけないのですが、一点豪華主義でパイの減少を食い止めるということに行き過ぎだと思います。なぜ長期的な負担増、給付抑制という課題に向き合わないのか。私の見方では、官僚の人がそういう嫌な仕事を引き受けてメニューを作って政治にお伺いを立てて、政治もそれをある程度受け入れる度量がこれまではあったと思います。しかs、政治主導になったから、皮肉なことに官僚がせっかくメニューを作っても選挙に不利だからという形で全部捨て去ってしまう。今でも経済財政諮問会議の下に社会保障ワーキンググループがあって、改革メニュー44項目、去年の今頃作って、大和総研の鈴木準さんも入って議論をしていました。それが来年いくつか法案として出てくるでしょうが、どんどん落ちてしまうと思います。必要であっても、政治主導であるがゆえに、落としてしまうという皮肉な状況だと思います。

工藤:政党政治が課題解決よりも自分の当選を考えているという、極めてポピュリスティックな日本の政治構造になってきていることを改めて考えさせられました。そうなると、選挙で出された政党の公約の意味を、公約に書かれていることだけではなくて、その後ろにある課題を抽出し、読み直して評価をしなければいけないという段階にきていると感じています。

 私たちは、今回の実績評価にあたり、自民党の政権公約に出されている項目から社会保障制度について8項目選びました。全てに一つひとつ答えてもらうというよりも、この中でこの評価はこうしたほうがいい、という形でコメントをいただければと思います。社会保障制度の問題、世代間の公正さも考えた上での年金制度の確立、健康保険の運営の持続性の問題、医師の偏在や知識医療の問題、介護、子育て、希望出生率、介護離職者、これらの項目についてどう評価すればいいかというところに話を進めたいと思います。

世代間だけではなく世代内の問題の議論も必要

2016-12-28-(11).jpg小黒:年金制度で一番トピックになったので最初に話をしたほうがいいと思いますが、自公政権が出した年金改革の法案の中身自体は、私は悪くないと思います。年金制度が抱えている問題というのは、冒頭のほうで西沢さんも言われていましたが、1つは世代間の問題があります。年金は基本的に世代間の所得移転になっていて、若い人たちが負担したものが高齢者に流れていき、それを繰り返していく仕組みになっています。しかし、だんだん人口が減っていけば支え手が少なくなり、他方で高齢者が増えていくのでバランスを取らないといけなくなる。今のままでは何が起こるかというと、若い人たちの賃金が下がっているケースでも物価が下がっている場合には、年金を物価にスライドさせて下げてもいいのですが、一時期凍結していたり据え置かれています。しかし賃金は下がっています。そうすると、どうしても若い人たちの負担が重たくなるので、この部分について賃金スライドみたいなものを強化して改革するという点では悪くないと思います。しかし、年金制度は長期的に見た場合に、世代間の問題も非常に重要ですが世代内の問題も重要です。例えば2020年、2030年に年金をもらっている高齢者の人たちの分布がどうなっているのかというのを本来であればきちんと見た上で制度設計する必要があります。厚生労働省出身の稲垣誠一先生などがやっているマイクロシミュレーションでは、貧困高齢者が急増することが分かっているわけです。そういう意味では、元々年金改革のメニューに載っていたのですが、最低保障年金とかクローバック、かなり年金をもらっていたり年金外の所得がある人については年金の国庫負担を切っていって、支えられる高齢者の人が貧困の高齢者、年金が少ない高齢者を支えてあげるような財政中立的な仕組みを入れることも検討項目に入っていましたが、議論が進んでいないのが現状です。

 もう1つは、亀井さんが最初に言っていた話と関係するかもしれませんが、そもそも今の年金方式自体が賦課方式になっていなくて、一部国債で穴埋めされています。その結果、どんどん借金が増えている。ここをまず閉じないといけないのですが、そうした話もありません。何が言いたいかというと、年金財政の持続可能性の話もそうなのですが、財政の持続可能性を考えないといけないし、世代間の問題も考えないといけないし、今の世代内の問題も分布を見ながら改革をしなければいけませんが、議論がされていないので、本来であれば経経済財政諮問会議でやるべきだと思うのですが、こういうことをちゃんとやっていくような会議体を作っていくことが必要だと思います。

工藤:確かに臨時国会で公的年金問題の2つの法案が一応成立しているわけですよね。これもやはり評価をきちんとした上で、実際に年金という全体像を考えたときに何が問題として残っているかを整理したほうがいいと思います。

政府は国民に社会保障制度の実情を示し、早急な改革を行うべき

西沢:今喫緊の問題は、人口減少していく中で将来世代に負担をつけ送りしているということ。今回の法案も野党は年金カット法案と呼んでいますが、私からすると法案自体が生ぬるくて、もっと踏み込むべきだし、今の法案に対して若い世代は怒り狂うべきです。そこにきちんと踏み込んでいない与党はだらしないし、そこを突かずに年金カット法案という野党はもっとだらしない。

工藤:改めて今の公的年金の仕組みが一般の若い世代も含めた形で信任されているのか。今の若者が怒るということに関しても自分の問題と関係ないと思っている人たちが結構いると思います。それから、昔は100年安心プランとか言っていましたが、それは壊れたのでしょうか、それとも残っているのでしょうか。私はうまくいっていないような感じがしているのですが、政治の世界では今まで自公で決めたことについて駄目であればこういうふうに変えたという話があり得ると思いますが全く見えない。社会保障制度の持続性ということで我々は日本国民として何を考えなければいけないのか、まさに年金を送るべき財源である年金基金がリスク運用されていて赤字が出るという問題があります。さっきの成長戦略の問題と連動しているかもしれませんが、この在り方が良いのかどうか分かりません。

西沢:政府の情報公開に、年金に過度な不安を与えないようにというバイアスがあって、うまく実態が伝わっていないと思います。本当は年金の給付水準を表す所得代替率で2004年改正の時は59.3だったものがマクロ経済スライドによって足元では54ぐらいまで下がっているはずでした。ところが実際には62まで上がってしまっていて、本当は極めて深刻な状況です。ですから、虚心坦懐に実情を明らかにすべきなのですが、政府は逆に不安を煽ると言う。ですから、亀井さん、小黒さん、私みたいな人がそういうふうなことを言うと不安を煽るだろと言われるわけですが、そうではなくて実情を示して改革に向かわなければいけないのにそれができていないし、GPIFは安倍政権発足早々成長戦略の10項目の1つとして成長分野に投資しますと言ってしまっていますが、あれも被保険者の意思を踏まえない独断だと思っていて、非常に良くないと思います。

収支の合わない年金制度に持続可能性はない

亀井:財政検証が5年に1回行われますが、今回の法案の論点は既に出ていたわけです。この3人が共通して言っている「手ぬるい」とか「生ぬるい」という話は、一言で言えば、デフレ下でもマクロ経済スライドをやる、ということが入るかどうかが試金石だったわけです。これが入らなかったことで手ぬるいとなる。つまり、これからもデフレ社会が続くかもしれない中で、結局マクロ経済スライドとか実質給付抑制が進まないまま、次世代に負担を先送りしてしまうというのが最大の問題なのです。ただ、この問題は厚労省の財政検証では既に出ていたにもかかわらず、政治が抹殺しました。ここの問題は非常に大きいと思います。さらに、与党が抹殺し、もっと言えば、東京財団でフォーラムをやった時に、自民、公明、民主の責任者に来てもらって、「それは大事だよね」と彼らが言っていたのに、それでもやらなかった。これは結果的に3党合意を反故にしているわけです。ここら辺がまさに、政党政治としてあなたたちは何をやっているのか、という話ですし、民進党に至っては何を考えてカット法案と呼んでいるのか全く意味が分かりません。彼ら自身が政策を語る資格は無いなと率直に思います。

小黒:一番コアの部分は、年金財政の持続可能性が担保されている最大の原因は、国の一般会計からお金が入っていることで、何とかもっているのが実状です。しかし、その一般会計自体が火の車になっていて、今は半分弱ぐらいを借金で賄っているわけです。本来であれば年金の入りと出だけでちゃんと収支が合う形にしないといけない。極論を言うと、支出が100あるのに収入が80しかない状態、残りの20ぐらいを国債から調達している。給付を100にするのであれば、足りない20は増税しなければいけないし、もし入りの分が80しかないのだとすると、速やかに80に支出をカットしなければいけない。その辺の議論がしっかりなされていません。西沢さんが言われたように、本来であれば政府は見えない形でなるべく給付を抑制するために所得代替率を下げていくことを予定したわけですが、マクロ経済スライドが発動されなかったので、全然収支と支出が合わなくなっているというのが現状です。

工藤:ということは「若者も高齢者お安心できる年金制度を確立する」これが自民党の2016のJファイルの表現だが、それは5点満点で何点ですか。

小黒:今の状況では1点ぐらいです。微修正はしているのですが、根っこのところで、バケツのところで穴が開いているので全然塞がっていない。

西沢:1点か0点です。今出ている法案はやらないよりやった方がいいのですが、全く不十分だと思います。

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健康保険制度における保険者自治が必要

工藤:健康保険の問題もありましたよね、都道府県に移すとか。これはプライオリティとしては高いのでしょうか。この持続性、保険制度の問題は、色々な形でずっと昔からやっていて、国民健康保険を都道府県単位に広域化する、本当にそうなったのかという問題もあります。それから、共済組合と協会けんぽの統合、いつも公約に挙がるのですが、実際何もやっていない可能性があります。このあたりの進展はいかがでしょうか。

亀井:基本的には県単位にしていく方向にはなっています。ただ、ここの根本の課題は何かというと、僕らが1番お金を使うことになるかもしれない医療費について、今は年金の方が大きいですが、医療費の価格とかについてガバナンスがきいていていないということが大きな問題です。本当は保険者機能が働いて、ここは高すぎますとか、ここはこうです、という本来は「保険者機能の強化を図るため」の強化とは何かということをもっと議論しなければいけない。もっと言うと、中医協のガバナンスの問題があると思います。

小黒:小泉政権期の前までは、中医協でも医療予算の全体を議論することが少しありましたが、小泉政権期に医療予算の全体像は諮問会議で行うということで整理をしました。それ以降中医協で何をやっているかというと、点数をどうするかという個所付けだけで、ミクロのマネージメントだけになってしまって、全体を議論していません。全体を議論するのはどこかと言うと、本当は諮問会議なのですが、諮問会議はやっていない。本来であれば中医協でそういう状況だとやらないといけないのだが、そういう議論になっていないということも大きいと思います。

西沢:今、1年間で120万人ぐらい死んでいますが、そのうち、病院で亡くなる方が8割以上となっています。もう少し在宅で亡くなった方が低コストだし、本人の希望にも適う。在宅で死ねるようにするというのが政府全体の思惑なのですが、そうしたときに診療所が受け皿になってくれないといけない。また診療所が受け皿になるために、夜中も居てくれる、あるいは緩和ケアをやってくれるというスキルが必要になってきます。ですから、診療所のお医者さん、全国に10万カ所ぐらいありますが、そうした人たちに行動変容を促さないといけない。ところが、行動変容を促さないといけないのに、そこがどうも口に出せないのか、今やっている地域包括ケアとか地域医療構想とか、色々仕掛けはあるのですが、うまく機能していません。それを言うのは誰かというと、やはり政治家で、そこで初めて促されて今ある政策全体が完結するわけですが、そこを言えないままに官僚の人が色々仕掛けを作ってやっていて、今後どうなっていくのか不透明なところです。

工藤:国民健康保険の運営の安定化とか保険者機能の強化、財政支援の拡充、運営単位の広域化、官民格差を是正する観点から共済組合と協会けんぽの統合はどうですか。

西沢:共済強化は全然やっていません。

保険者自治の強化が必要

小黒:保険者機能の強化は重要で、ただ失業保険とかもそうなのですが、フランスだったら政府が全部ガバナンスはしない。政府は少し離れたところにいて、その人が収支を見て保険料を上げ下げするのです。医療も本来であれば全体のフレームの制度設計は政府がやってもいいわけですが、財源の保険料を上げたり下げたりとか、点数をどうするかというのは保険者自治という言葉もありますし、もう少し権限を保険者に投げてあげて、保険者が自律的に決めれば良いと思います。

工藤:協会けんぽと共済組合の統合はやっていないのになんでいつも公約に出るのですか。やっぱり公務員に対する何かがあるのですか。

亀井:これは極めて政治的です。労組に対しての牽制球だったりするのだと思います。極めて質の悪い公約で、これは何が大事か、この裏にある問題というのは、本当はさっきの保険者自治が大事で、保険者が本来保険料を決めないといけないわけです。そうすると、例えば地域の中で冒頭申し上げた、貧しい人が相対的に高い保険料を要求されているという現状をどう変えますかということを、地域単体でこうしますということを自分たちで決めていく、うちの地域の医療費はこうなっていきますということを決めて行くことがこれから大事になってきます。

工藤:地方もそういう形でやる気になればいいのに。何かみんな逃げようとするでしょう。

亀井:でも地方から来ないといけないと思いますね、こういう話は。

工藤:この話は5点満点で何点ぐらいですか。

亀井:2点ぐらいではないでしょうか。

小黒:色々医療改革を今の大臣もやられていて頑張ってはいるのですが、2点ぐらいでしょうか。

西沢:これは評価2025年がゴールなので。でもそんなに高くはないと思います。

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