【国と地方】斉藤惇氏 第4話:「中央から地方へ」は本当に正しいのか(2)」

2006年5月08日

saito.jpg斉藤惇 (株式会社産業再生機構代表取締役社長)
さいとう・あつし
profile
1939年生まれ。63年慶應義塾大学商学部卒業後、野村證券株式会社入社。同社副社長、スミセイ投資顧問顧問を経て、99年住友ライフ・インベストメント社長兼CEOに就任。2003年より現職。主な著書に『兜町からウォール街─汗と涙のグローバリゼーション』 『夢を託す』等。

「中央から地方へ」は本当に正しいのか(2)

 こうした現実を考えた中で地方の再生を考えるには、幾つかのアプローチがあると思います。1つは、地方は何もできないということを前提に、国家公務員による、利己的ではない人間によって日本の長期のビジョンを持ち、ローカルも開発しなければいけないという考え方です。国家が計画して予算も握り、集中してやらない限り、地方の利権代表者を調整できないというものです。

 2つめは、県の役人が中央に知恵を求めて進めるものです。県庁の職員にはデザイニングの発想はないから、やはり国に助けてもらわないと、という考え方です。3つめは、地方が自ら活性化のために何とかしようという考え方です。地方が経営主体となるということです。

 現在の日本ではこれらの幾つかの勢力がぶつかろうとしているわけです。その1つが、地方のことは地方で行うという勢力ですが、これもすごく欠点がある。大体地方ではバスやデパートを経営している人たちが町を牛耳っていて、これが選挙につながっていますから、知事はこれにほとんど抵抗できない。そういう構造の中で、三位一体であろうが、地方に財源を渡して本当に予算が適正に使われるか。これに大きな疑問を持っている人がたくさんいます。その人たちは、やはり中央の強制力でやらなければ地域や日本の将来はないと考えているわけです。

 日本の人は、個人個人に問えば理想的なことを主張される方が大勢いる。しかし、それが具体的なアクションに入るときに、色々なことにぶつかるわけです。

 ただ、それだからだめだとは私は言いません。やらなければいけないのですが、相当パワフルなシステムをつくっておかなければ、それは大変なブロックに遭うわけです。それは最終的に利権に行きつきます。民主主義であるがゆえに利権が地方の権力につながっているわけです。そこが現実ですから、現実を踏まえて何かを考えなければならない。例えば、モニター制度とか情報公開制度など、民衆のチェック機能を樹立する必要があるでしょう。

 「こうあるべきだ」という議論に地方の方も入れれば、我々と同じことをおっしゃると思います。日本はどうしなければいけないかということは、よくわかっているのです。しかし、それがなかなかできない。
北海道はあれだけの土地でアメリカ式農業をぴしっとやらせてくれとおっしゃる人はたくさんいます。しかし、それは本州の全農業団体の意見で計画的にブロックされている。その中で、皮肉なことですが、北海道開発局や農水省はきちんとやっています。魚を採る量も米の生産量、肥料の生産までも、ものすごい計画経済をやっているのです。


※第5話は5/10(水)に掲載します。

こうした現実を考えた中で地方の再生を考えるには、幾つかのアプローチがあると思います。1つは、地方は何もできないということを前提に、国家公務員による、利己的ではない人間によって日本の長期のビジョンを持ち、ローカルも開発しなければいけないという考え方です。