【メディア評価】横山禎徳氏 第6話「ソリューション・スペース(前編)」

2006年7月12日

0606m_yokoyama.jpg横山禎徳/よこやま・よしのり (社会システムデザイナー、言論NPO理事)

1966年東京大学工学部建築学科卒業。建築設計事務所を経て、72年ハーバード大学大学院にて都市デザイン修士号取得。75年MITにて経営学修士号取得。75年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社、87年ディレクター、89年から94年に東京支社長就任。2002年退職。現在は日本とフランスに居住し、社会システムデザインという分野の発展に向けて活動中。言論NPO理事

「ソリューション・スペース(前編)」

 先回は記者のプロフェショナルとしてのあり方、特に学問的体系に基づいた高度技能の必要性とクライエントとして扱うべき「大衆」の期待値について述べました。今回は特に高度技能についてもう少し敷衍してみようと思います。それはロジックの組み立て方に関わることです。私は優秀な記者であるためには「ソリューション・スペース」を定義できる高度技能を身につけるべきではないかと思っています。

 「ソリューション・スペース」とはあまり聞きなれない表現でしょう。日本語にしてみても「解のある空間」、あるいは「解空間」であり、ほとんどこなれた表現ではないことは確かです。しかし、記者の方々にこの表現を理解してもらいたいと思っています。なぜなら記者の責任として読者に妥当な「ソリューション・スペース」を提供する責任があるからです。そして、現実の答や解決策はただひとつしかないのではなく、「ソリューション・スペース」の中にあるものはすべてがある種の答でありうるという説明がされることを期待しています。そうでないと「横並び社会」と「縦並び社会」のような典型的二元論に陥り、その二つの「社会」の間を振り子のように振れるだけであり、結局、どこにもたどり着かない不毛な結果になりかねません。

 河合隼雄氏のいうような「中空構造」の議論とはちょっと違いますが、現実の世の中は二元論で成り立っているわけではありません。白か黒かとか善か悪かという問題提起は一見、議論を明快にするようですが、現実の生活とは違うことは明らかです。「一日一善」を実行している人は「一善」以外は悪を実行しているのではなく、善でも悪でもないことをやっているはずです。また、例えば、消費者金融においても白でも黒でもない灰色の人に融資するのが一番難しいからこそそれが彼らのノウハウなのです。これが現実の社会というものです。

 その伝でいくと、「縦並び社会」の発想の裏にある「持てるものと持たざるもの」という二元論は課題の提示の仕方が単純すぎるのです。従って、解決の方向、あるいは解の存在する「ソリューション・スペース」が極めて狭くなってしまうと思います。要するに格差をなくすように政府は何とかしろ、規制緩和や自由化はほどほどにしろ、金持ち優遇をやめろという程度の極めて「痩せた」発想しかでてきません。このような結論を毎日新聞は新しい小泉政権の構造改革路線に代わるべき「時代を開く答」だと思っているわけではないでしょう。

 これに比べると三浦展氏の著書、「下流社会」はかつては自分が「中の下」と思っている人が今や「下流」と思っているという指摘は二元論ではない上に時代の流れをダイナミックに捉えているという意味で課題提示の枠組みは「縦並び社会」とか「格差」という発想より明らかに優れています。本の内容を詳しく説明しませんが、結果的に暗示されている「ソリューション・スペース」も広がりがあり、「豊か」なのです。すなわち、いろいろなこれまでになかった新しい解を考えることができそうに思います。

 すでに読者である「大衆」は理解力もあり賢いということを述べました。しかし、それは長期的にはそうであるということであり、短期的にはだまされやすく、状況に流されやすいいともいえます。多くの場合、「大衆」は意外とせっかちでも怠惰でもなく、時間がかかってもが自分なりの多様な情報を集めながら自分の直感を大事にし、段々と妥当な判断に立ち戻る傾向があると思います。しかし、そのことを阻害するのが各社共通ともいえるワンパターンの報道、多様な視点の欠けている報道です。そして痩せた「ソリューション・スペース」しか提供できない特集報道なのです。しかし、もっと重大な問題があります。それについては次回に説明したいと思います。


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 先回は記者のプロフェショナルとしてのあり方、特に学問的体系に基づいた高度技能の必要性とクライエントとして扱うべき「大衆」の期待値について述べました。今回は特に高度技能についてもう少し敷衍してみようと思います。それはロジックの組み立て方に関わることです。私は優秀な記者であるためには「ソリューション・スペース」を定義できる高度技能を身につけるべきではないかと思っています。