日韓国交正常化50年、日韓関係に未来はあるのか

2015年6月19日

2015年6月19日(金)
出演者:
奥薗秀樹(静岡県立大学国際関係学研究科准教授)
小松浩(毎日新聞論説委員長)
向山英彦(日本総合研究所調査部上席主任研究員)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

 6月21日に東京で開催される「第3回日韓未来対話」に先駆け、6月19日放送の言論スタジオでは、「日韓国交正常化50年、日韓関係に未来はあるのか」と題して、奥薗秀樹(静岡県立大学国際関係学研究科准教授)、小松浩(毎日新聞論説委員長)、向山英彦(日本総合研究所調査部上席主任研究員)をゲストにお迎えし、現在の日韓関係について、今後の日韓関係を未来志向でどのように考えていけばいいのか、ということについて議論を行いました。
(「第3回日韓未来対話」は6月21日(日)13時30分からインターネット中継を行います


日韓関係の懸案事項を詰めようという動きが出始めた

工藤泰志 冒頭、司会の工藤から、6月22日の日韓国交正常化50周年の記念日に向け、日韓の外相会談が予定されるなど、日韓関係の現状について質問が投げかけられました。

 これに対して、小松氏は日韓の外相会談、内閣官房国家安全保障局長の谷内氏が訪韓する話があることを挙げ、「日韓両国政府の中にも、『国交正常化50年を何もしないまま素通りしていいのか』という意識があることは間違いないが、日韓関係の根底にある慰安婦問題など、具体的な懸案事項が前進するかどうかは不透明だ」と指摘しました。しかし、「今回の節目をきっかけに、懸案事項に両国政府が具体的に詰めようとしている事実があることは間違いない」と語りました。

 奥薗氏も、「両国関係が平行線を辿り、長引くことで、両国に『対立疲れ』が出てきたり、中国の海洋進出による危機感から、日米韓連携の重要性を改めて感じるなど、両国政府が『今のままの日韓関係ではいけない』という問題意識が双方に高まりつつある状況だ」と指摘し、小松氏の意見に賛同を示しました。

 向山氏は、「日韓関係が改善に向かって少しずつでも動き始めたことを両国政府が示す必要がある」と小松氏、奥薗氏と同様の認識を示した上で、「慰安婦問題などについて実質的な合意が両国間でできるところまでは至らない」と指摘しました。


「放っておいてもいい」という日本の空気と、頑なな態度で孤立化する韓国

 こうした日韓関係の現状の背景にどのような問題があるのか、について議論が及びました。工藤から、両国の相手国に対する印象が「悪い」という状況が続いていること、韓国では9割、日本でも7割の人が「両国関係は重要だ」と回答している一方で、中国という変数を入れると、韓国では「韓中関係がより重要」(44.8%)という回答が、「どちらも同程度に重要」(46.6%)との回答に並び、「日韓関係がより重要」との回答は5%しかないという日韓共同世論調査結果が紹介されました。そして工藤は、「こうした世論と実際の現実的な交流や関係が別次元で動いているのか」と投げかけました。

 経済的な観点から向山氏は、日韓関係の悪化による影響によるものとは言い切れないとしながら、日本から韓国への観光客はピーク時の半分になったこと、ドルベースの貿易額も3年連続でマイナスになっていること、今年になって日本から韓国への直接投資が減り、全体的に経済関係は縮小していると紹介しました。そして「半年間の間に経団連会長が訪韓する等、日本の経済界はこの状況に、危機感を強めている」と指摘しました。
小松氏は、昨年と今年の調査結果に変化がないことの背景に、日本国内で韓国に対する関心が高まらず、「韓国のことは放っておいてもいいのではないか」という空気があることを指摘しました。こうした状況について日本政府は、「日韓関係は日韓両国で考えて議論するのは大変なので、アメリカや中国という大きな枠組みの中で考えていけば、日韓関係は前に進むだろう」と考えているのではないかと語りました。

 奥薗氏は、「韓国は慰安婦問題が解決しなければ首脳同士は会わない、という頑なな姿勢で日本に臨んできたが、日中首脳会談が実現し、安倍首相がアメリカ議会で演説をするなど、米中から梯子を外され、気が付いたら孤立していた。これは朴大統領の失態だというメディアの論調が一致してきており、韓国は非常に焦り、追い詰められた感じがある」と述べました。こうした状況を打開するために、「朴大統領は対日関係について政治決断を下すことができるような環境を、メディアが作ってくれるのを待っている側面もある」と指摘しました。

首脳会談の再開が日韓関係改善の始めのステップ

 これまでの話を受けて工藤は、「歴史問題や慰安婦問題など、課題を解決するというのではなく、首脳会談を実現するための動きではないか」と語りました。
これに対して小松氏は、「日韓両国首脳が就任以来、約3年も首脳会談を行っていないことは、世界中から異常だと思われており、双方にとって首脳会談を速やかに行うことはメリットだ」と述べ、首脳会談が日韓関係改善の始めのステップであり、そこから個別の懸案の解決を図っていくという共通認識を持つことが重要だと語りました。

 奥薗氏は、「安倍首相と朴大統領との対立は両国のトップ同士の対立であり、互いにメンツがあり、あげた拳を下げるための環境づくりが必要であり、トップの政治決断がないと動かせない状況にある」とこれまでの日韓関係の対立とは違う点を指摘しました。一方で、朴大統領もこのままの強硬路線でいくのは潮時だと感じているものの、強硬路線を変更するためには、慰安婦問題に関する何らかの前進がないと首脳会談の実現は難しいと述べつつ、「近いうちに首脳会談があってもおかしくはない」と指摘しました。
経済的な観点から向山氏は、「以前は、政府間関係が悪くても、経済関係は緊密化するという『政経分離』が成り立ったが、今は、徴用工の問題など政治的な問題が経済関係にも影響が出始めており、経済界が韓国でのビジネスを拡大していくのが難しくなってきている」と厳しい見方を示し、今後の経済的な関係を考えた上では、政治が動かなければ進まなくなっていると語りました。

 これに対して工藤は、「日韓国交正常化50周年という節目の年を、アジアの未来や両国の将来を考え、両国が次のステージに向かって考えるべき年にするべきだと思うが、首脳会談の実現ということだけを目的にしていいのか」と問題提起しました。


韓国との対中認識を共有することの難しさ

 小松氏は、「日韓関係の未来を考えた時に、もっと長期的な視野で、首脳同士が議論することは沢山ある。そして、東アジアはこれまでの100年、日韓関係もこれまでの50年とは全く違う次元に入っていくという前提で、どのように両国の連携を深めていくべきか、本来は首脳同士が深い議論をするべきだが、現状を鑑みれば『とりあえず会いましょう』というのはしょうがないが、リーダーは世論に影響されるが、世論を変えることができるのもリーダーである」と語り、こうした状況を変えることができるのも首脳同士だと指摘しました。

 その後、奥薗氏に対して工藤から、「中国の大きな台頭に関して、日米で勢力の均衡を図っていくという仕組みだったのですが、そうした日本のスコープの中に、韓国はどのように入っていて、政治はどう描こうとしているのか」と投げかけました。
奥薗氏は、今後、アジアにおけるアメリカの影響力は低下していくと述べた上で、「アメリカの提供力の低下を放置しておくと中国がその隙間を埋めてしまうために、その隙間を同じ価値観を共有している日韓が埋め、日米韓トータルで、中国の台頭とバランスを取ろうという大きなグランドデザインがあるのだ」と指摘しました。一方で、韓国にとって中国は北朝鮮半島の安全保障を安定的に維持するために必要であるという意識だが、日米にとって中国の台頭は安全保障上の安定を乱す脅威であるという認識であり、日米が韓国と対中認識を共有することの難しさを指摘しました。

 続いて工藤は、経済的な視点から「韓国はどういう将来像の中で日本と中国を見ているのか」と問いかけました。向山氏は、「かつて中国の経済発展が韓国にプラスの効果をもたらしたが、中国自体の成長率が低下し、ここ数年、韓国がマイナスの影響を受けている」と指摘し、今後、韓国は中国との距離感について捉え直していくのではないかと語りました。


両国は「同じ側」にいるのか

 最後のセッションに入り、まず、工藤は、「『日韓は同じ価値を共有している』と言われてきたが、最近はそれが揺らいでいるように見える。世論調査でも、例えば、日本は韓国を『民主主義』の国とする見方は1割程度にすぎなかった。両国は『同じ側』にいると言えるのか」と問いかけました。

 これに対し、奥薗氏は、当初は安倍首相自身が韓国とは基本的価値を共有していることを、度々強調していたにもかかわらず、外務省のホームページや外交青書から「基本的価値の共有」の文言が抜け落ちた、という経緯を紹介しつつ、「対馬仏像盗難や靖国神社放火犯への対応、そして、産経新聞ソウル支局長起訴事件などを見て、『韓国は法治国家ではない。もう付き合っていられない』という意識が出てきて、官邸からのメッセージとして文言削除に至ったのではないか」と解説しました。

 小松氏は、韓国はれっきとした民主主義国家であり、法の支配が浸透している国である、と前置きしつつ、「しかし、日本のみがその適用対象外となっている。しかも、外交カードとして使ってきている節もあるので、それに対する大きな不満が文言削除につながったのではないか」との見方を示しました。
これを受けて、奥薗氏も「韓国は日本に対しては何をしてもいいと考えているところがある」と述べました。

 ただ、奥薗氏は「それでも日韓関係は重要である」と述べ、その理由として、中国の台頭に伴う北東アジアのパワーシフトへの対応や、アジア太平洋における平和で安定的な秩序を維持するために、日米韓の連携は不可欠であるが、日韓関係が現状のような状態では、その連携に綻びが生まれる」と主張しました。

相手国の実像をしっかりつかみつつ、自らのことも省みる必要がある

 最後に、工藤が、「互いに相手国に対する認識がずれたまま、基本的価値や利益を共有しないままでいることは問題なのではないか」と問いかけました。

 向山氏は、「両国の企業同士には強いつながりがあるが、経済の結びつきだけで全体の関係改善につながるかは疑問。最近は、第3国におけるプロジェクトが多かったり、日中韓FTAも進んでいなかったりして、共通利益を見出しにくい状況になっている」と指摘しました。

 小松氏は、「互いに相手の無知・無理解をあげつらうのではなく、なぜ、このような認識の相違が生じたのか、そこから議論をしていくべき」と語りました。

 奥薗氏は、まず、「この誤った認識のまま世論が形成されると、関係改善に向けた両国の手足を縛ることになる。まずは、相手の実像をしっかりつかむことが大事」と語りました。その上で「さらに、自らのことも省みる必要がある。日本は『米中とうまくいけばどうせ韓国もついてくるだろう』という上から目線がある。韓国にも経済成長に伴い、『もう昔のようには好きにはさせない』とやや自信過剰なところがある。双方が冷静に自らを見つめ直してから、さらに互いの重要性を見つめ直す必要がある」と述べました。

 議論を受けて工藤は、21日から始まる対話への意欲を語り、白熱した議論を締めくくりました。


 言論NPOは、6月21日(日)13時30分より、日韓両国の識者約30名による「第3回日韓未来対話」の模様をインターネット中継いたします。日韓両国の未来について、両国の識者は何を語るのか。ぜひご覧ください。
 また、「#日韓未来対話」をつけてtwitterでのコメントもお待ちしています。