成立目前、休眠口座活用法の実態とは

2015年7月31日

2015年7月31日(金)
出演者:
小関隆志(明治大学経営学部公共経営学科准教授)
田中弥生(独立行政法人大学評価・学位授与機構教授)
服部篤子(社会起業家研究ネットワーク代表)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

 超党派の国会議員連盟の議員立法による「休眠預金等資金活用法案」が、開会中の通常国会に提出され、成立する見通しとなっている中、7月31日放送の言論スタジオでは、「成立目前、休眠口座活用法の実態とは」と題して、小関隆志氏(明治大学経営学部公共経営学科准教授)、田中弥生氏(独立行政法人大学評価・学位授与機構教授)、服部篤子氏(社会起業家研究ネットワーク代表)の各氏をゲストにお迎えして議論を行いました。


国民的な議論が展開されないまま、法制化が進んでいる

 まず冒頭で、田中氏からこの法案が提出された経緯及び法案の骨格についての解説がなされました。

工藤泰志 続いて、司会を務めた言論NPO代表の工藤が、今回の議論に先駆けて行われた有識者アンケートで、「『休眠預金等資金活用法案』の存在を知っていたか」という質問に対して、有識者レベルでも約4割が「知らない」と回答したという結果を紹介すると、パネリスト各氏からは休眠預金をめぐる報道やオープンな議論が展開されていない現状を指摘する声が相次ぎました。

 まず、服部氏は、「これまで市民セクターにおける活発な議論については、多くの報道がなされていた。しかし、この休眠預金に関しては報道が実に少ない。(すでに休眠預金を活用している)イギリスでも長い間、慎重に議論がなされた上で導入された。そのプロセスが大事だ」と述べました。

 これを受けて小関氏も、「預金は私たち預金者の財産であるので、自分たちの預金がどう使われるのか『知る権利』がある。かつてNPO法も議員立法で制定されたがオープンな議論がなされていた。しかし、今回は国民的な議論には至っていないのが現状だ。パブリックコメントもなされたが期間が短く、周知も徹底されていなかったなど国民からのアクセスも不十分だった。海外のサクセスストーリーだけでなく、課題についてもしっかりと直視した上で、預金者の立場からどういう制度にしていくか、という議論がなされるべきだ」と主張しました。

 さらに、同法案が超党派で推進されていることに関して、工藤が、「前回の言論スタジオ『新国立競技場の迷走の問題点とは』でも、超党派だからこそ、その動きを誰も止められない、ということが明らかになったが、今回も似たような構図がある」と指摘すると、田中氏は、「政府も遠慮してしまっているので、本当に止められなくなっている。特に今回は与党幹部が熱心に進めているので尚更だ」と語りました。


使える休眠預金を増やしたいがために、置き去りにされた預金者保護

 次に、同法案には「預金者保護」の視点から大きな問題点があることが明らかになりました。これに関し小関氏は、「(より多くのお金を配分できるようにするために)『休眠預金をできる限り増やす』ということと、『預金者を保護する』ということは相反することだが、諸外国では後者、すなわち保護が第一となる。ところが、今回の法案は前者の方ばかり考えているのではないか。実際、自分の預金残高を確認するための検索システムの構築は必須であるにもかかわらず、法案では言及されていない」と指摘しました。

 これを受けて服部氏も、「アメリカでは社会投資家のリストがあるなど、「公益のためにいかに社会の中でお金を循環させていくか」ということを考える風土があり、休眠預金もその中の一つの歯車でしかない。日本の場合は、目的の前にまず『休眠預金を使いたい』というのが制度の出発点になってしまっている」と指摘しました。

 さらに、休眠預金の配分についても、田中氏が、「NPO法では、公益の分野は多様としているにもかかわらず、今回の法案では配分される分野が狭く限定されている。公益とは何か、ということに関するこれまでの議論の蓄積が全く生かされていない」と批判すると、服部氏も、「社会は多様化し、どんどん広がっているのに、なぜこのように限定しているのか疑問だ」と応じました。


法案にはガバナンスやコンプライアンスに関する規定が盛り込まれていない

 続いて、同法案では、預金保険機構に収納された休眠預金を主務大臣が指定する指定活用団体に移管し、指定活用団体から助成機関や金融機関に委託をし、これらの受託機関から民間公益活動に従事する団体に配分あるいか貸付がなされることを想定されていますが、こうした管理・運営体制には重大な欠陥があることが浮き彫りとなりました。
まず工藤から、有識者アンケート結果では、こうした管理・運営体制が機能すると思うかを尋ねたところ、「機能すると思う」が15.3%にすぎず、多くの有識者が懸念を抱いていることが紹介されました。

 これを受けて田中氏が、「その懸念はもっともだ」とした上で、同法案で重要なカギとなる「指定活用団体」について、「ガバナンスやコンプライアンスについて、法案中に何ら規定がないため、適切に機能するとは思えない」と指摘すると、「指定管理団体の権限は大きいにもかかわらず、それをどう監視、統制するかという視点がない」(小関氏)、「指定活用団体という単語が唐突に出てきて、明確なイメージが持てないし、透明性にも疑問がある」(服部氏)と、各氏からも懸念が相次ぎました。


現状を打破するために、当事者である自分たちが声を上げなければならない

 最後に、工藤が「法案の成立は確実視されているが、これから私たちは何をしていくべきなのか」と問いかけると、服部氏は「法案が通っても、詰めるべきところはまだたくさん残っているので、議論をし続ける必要がある。(言論スタジオのような)議論を聞いて、考えた人たちが声を上げ、それを連鎖させていくしかない」と訴えると、田中氏もこれに賛同し、「ごく一部の中で議論が進んでいるが、これは民主主義のプロセスとしても良くない」と注意を促しました。小関氏も、預金者すべてがステークホルダーであることを指摘した上で、「ラウンドテーブルを開き、休眠預金をどう使うべきかしっかりと議論し、皆が納得した形で使われるようにしなければならない」と主張しました。

 議論を受けて工藤は、「新国立競技場と同様に、この問題でも民意と政治の距離感があるが、この現状を変えなければならない。デモクラシーの現状をどう考えるか、という問題にもかかわってくるので、引き続き議論していきたい」と今後の議論の展開に意欲を示し、白熱した議論を締めくくりました。

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