エクセレントNPOで強い市民社会に向けた変化を起こそう

2012年8月02日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、今年から創設された「エクセレントNPO大賞」とはどういうものか、そして、どんな基準で対象NPOが選ばれたのかなどから、今後のNPOと市民社会について議論しました。

ゲスト:
相馬宏昭氏(NPO法人ぱれっと」理事長)
田中弥生氏(日本NPO学会会長、大学評価・学位授与機構准教授)

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で8月1日に放送されたものです)
ラジオ放送の詳細は、こちらをご覧ください。


エクセレントNPOで強い市民社会に向けた変化を起こそう

工藤:おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティが、自分達の視点で世の中を語るON THE WAY ジャーナル。今日は、「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。
 さて、毎日暑い日が続いていますが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。私は、この暑いのが苦手で、毎日困っているのです。今年の7月は非常に忙しくて、中国との民間対話である「東京-北京フォーラム」、そして「エクセレントNPO大賞」の表彰式という2つの大きなイベントが終わり、今、一息ついているところです。


市民が当事者意識を持って、「今」に向かい合う

 この7月は大きなイベントが重なって非常に大変だったのですが、実はこの2つのイベントには共通したテーマがあります。それは何かと言うと、市民が当事者意識を持って今に向かいあおう、ということです。その積み重ねが、強い市民社会をつくりあげていくことだと思います。「東京-北京フォーラム」は多くのメディアでも取り上げられましたが、日中関係が最も深刻だった2005年から私たちは本気の対話に取り組んでいます。日中関係は尖閣問題も含めて今も非常によくありません。その中で日中の有識者100人が話し合いました。やはり、外交も政府だけに任せるのではなくて、国民の理解がないとうまくいかない。そのためには、自分達もその時代や課題に向かいあっていく、そういう風な状況をつくっていかないと、やはり駄目だな、と思うのです。

 実はその時にもう1つ大きな事業として「エクセレントNPO大賞」を今年創設しました。この「エクセレントNPO大賞」は、私がやっていた中国との対話以上に、市民社会にとっては非常に重要な動きだと思っています。市民が地域や国の問題に対して自発的に課題解決していく。その活動が広く市民に支えられていく。そういう状況になっていかないと、日本の社会はかわらない、と私は思っています。

 しかし、非営利組織はそうした市民の受け皿に本当になっているのか、それが私たちの問題意識です。非営利組織が市民の受け皿とし機能するために、切磋琢磨できる大きな変化を生み出すような何かをつくりたかった。それが、「エクセレントNPO大賞」でした。既にこの番組でもお伝えしていますが、「エクセレントNPOの評価基準」を3年前に私たちは開発し、その評価基準に挑んでいこうよ、という話を進めてきたのですが、これが7月に「エクセレントNPO大賞」という形で、いよいよ誕生しました。

 そこで、今日はこの「エクセレントNPO大賞」について、皆さんに報告しつつ、それを通じて、日本の強い市民社会の可能性について、みなさんと一緒に考えてみたいと思っています。


 今日はスタジオに、この賞の選考委員で審査委員会の主査を務めた、また日本NPO学会会長で、私のNPOの理事でもある田中弥生さんと、今回の賞で最終選考まで残ったのですが、NPO法人、ぱれっとの理事長である相馬宏昭さんにも来ていただいております。

 このぱれっとは「障がいのあるなしにかかわらず、当たり前にみんなが暮らせる社会を」という強いメッセージを発していまして、知的障害者のための様々な支援事業を行っているNPOです。

 ということで、今日は田中さんと相馬さんを交えて、「エクセレントNPO大賞で、強い市民社会に向けた変化を起こそう」についてみなさんと議論し、考えてみたいと思っています。
 ということで、田中さん、相馬さんよろしくお願いします。

田中・相馬:よろしくお願いします。

工藤:最初に、田中さん。第1回目の「エクセレントNPO大賞」の表彰式が7月11日に行われましたけど、今回の審査はどういう状況だったのでしょうか。


「エクセレントNPO大賞」の審査にあたっての4つの視点

田中:全部で163団体の応募があったのですが、この応募書類を8人で4つの工程を経て審査を行いました。こんな厳しい審査をするところも、なかなかないと思うのですが、そこで問われたのは、やはり4つのことです。1つは「市民性」です。これは寄付やボランティアなどの参加に対して、きちんと対応しているかどうか。それから、「課題解決」です。これはきちんと課題を解決するための認識があって、それに伴ってきちんと計画をつくってリーダーシップを発揮しているか。さらに「組織力」です。組織の透明性や収入の多様性とか、活動を支える組織力。そして、「震災特別」という震災で活動した団体を選ぶ、という4つの視点で選ばせていただきました。

 今回は、エクセレントNPOの年間大賞で受賞者はありませんでした。各部門賞ですが「市民賞」にYouth for 3.11、「課題解決力賞」については高木仁三郎市民科学基金、そして「組織力賞」にはスペシャルオリンピックス日本、東日本復興支援奨励賞に関しては、全部で5つの団体が選ばれました。


組織評価に耐えられる非営利組織こそ、市民社会の受け皿に

工藤:私は審査員委員会に入っていないので、傍聴していただけなのですが、本当に厳しい審査でした。応募書類は、全て裏付けをとっていましたし、かなり厳しい議論をしていました。今までも市民社会には色々な賞があるのですが、それらの賞とは2つの点で性格を異にしていると僕は思っています。

 1つは、この賞の組織評価をやっているということです。よく、NPOはいいことをやっているね、ということで賞が多くあります。こういうのは事業評価と言います。ただ、僕たちはいいことをやっているだけではダメで、そういうことが継続的に行われたり、本当に課題に対して答えを出しているのかとか、その活動が多くの市民が参加や支持を得ているのかとか、色々な評価基準で問われるのです。

 これは組織評価そのものです。このハードルはかなり高いと思います。つまり、日本の非営利組織も組織評価に耐えられる団体が出てこないと、本当の意味での市民社会の強い受け皿にならないのではないか、という考えが、この賞の背景にあるのです。

 今回表彰の応募に際しては、評価基準についてすべての団体に自己点検してもらいました。ここまで選考を厳しくした理由は何なのでしょうか。

田中:これは、元々何かいいことをやっているところを表彰する、という賞はあるのですが、自己点検、自己評価を普及したいということがあって、その一貫での表彰なのです。ですから、まず自己評価を適切にしてもらったら、それをフィードバックしたい、がんばったところは褒めようよ、というところでこれを広げたところがあります。

工藤:そうですね。さっき田中さんがおっしゃったように、市民、課題解決、組織というのは、実を言うと、それ自体が日本の非営利セクターが抱えた課題なのですね。やはり4万5000団体もNPOがあるのですが、寄付を集めていないとか、ボランティアはいらないとか、本当に趣味の延長でやっているような団体とか、本当に市民とつながっていないところは沢山あるわけです。

 しかし、それではダメで市民社会、市民がかなり大きく動き始めている中で、やはりそれに耐えられるような非営利組織を、みんながきちんと評価していくという流れをつくっていかないといけない。そして非営利の世界に質の向上をめざす循環が起こらないといけないのです。そのための自己点検作業なのです。審査委員会もそういう流れをこの日本の市民社会に作り上げたいと、思うから真剣なのです。非常に凄いなと、端から見ていて思いました。

 さて、今回、ぱれっとの方に来ていたいのですが、僕は審査委員ではないのであまり言えないのですが、ぱれっとが最終選考まで残っていました。田中さん、ぱれっとの良さというのは、一言で言うとどういうところなのでしょうか。

田中:もう30周年を迎えるのですが、障害を持った人も普通の生活ができるように、その居場所を提供する、ということだったのですが、最初は、本当に居場所だったのですね。そこから、社会参画というのは働くことではないのか、ということで活動をどんどん深化させているのです。のみならず、自己評価をかなり厳しく自分達に課していまして、その中で自分達の次の30年の課題が何であるか、ということも明確に説明されたというところで評価がとても高かったです。

工藤:なるほど。相馬さん、今回、応募にあたって結構大変だったと思いますが、自己診断しながら応募してみてどうでしたか。


自己診断を通じて、自分達の組織への客観的な自覚度が明らかに

相馬:今回の賞の応募の情報を頂いたときに、これは単なる賞金のための応募をしよう、ということではなくて、先程おっしゃられたように、自分達の組織がいかに公的な意義を持って活動してきているか、またはしてきたか、さらにこの先どうしていけばいいのか、という自己分析をする意味で応募しようという判断をしました。団体を評価する上で、あながちトップの人がやりがちですが、そうではなくて、スタッフ自身がどういう風に組織を自覚しているのか。要するに、自覚度ですよね。それをまず勉強のつもりでやってみようと。

工藤:ということは、みんなで議論したわけですか。
相馬:そうです。議論というか、この評価を一人ひとりやったわけです。
工藤:僕たち言論NPOも合宿してやりました。これ、色々なことを考えさせられますよね。

相馬:考えさせられますし、かなりハードでした。つまり、経験年数も違いますし、いかに客観的に自分の組織をみられるか、ということも試されます。特に、トップはそういう意識が必要ですし、経験年数の違いから自分の評価基準があって、甘く見てしまう人もいます。うちの組織というのは、5つセクションがありまして、障がい者の余暇活動や就労支援、生活支援などがあるのですが、それぞれのセクションのトップが評価を行いました。

工藤:今の話は、田中さん、嬉しいですね。まさに、この賞がめざしていること、そのものですよね。

田中:そのものですね。
工藤:逆に言えば、今回、選考に残った人達というのは、本当にそういう人達ですよね。
田中:実は、自己評価の適切性というのも、私たちの評価基準に入っているのです。

工藤:甘いやつはダメなのですよね。でも、満点出しているところが結構多かったですよね。

田中:そうなのです。実は、オール5が結構多かったです。
工藤:そこは分かっていなかったから外したということですか。
田中:その点については、私たちももう少し明確に伝えるべきでしたね。

工藤:なるほど。さっき相馬さんが言った通りで、この賞は単純にお金とか...僕たちも、どこかの特定の団体から頼まれてやっているわけではなくて、自分達で寄付金を集めて賞金は出しますが、やはりみんながこれを通じていいNPO になってもらう。それから、そのがんばった、いいNPOが社会に知られていく。その中で「見える化」して、やはり市民社会が「この団体はいいね」とか、そういうことが当たり前のように語り合えるような社会になれば、かなり強い市民社会に向かうのではないか、という意識がありました。
 そういう風な、僕たちの考え方とか、相馬さん自身が感じている今の日本の非営利組織や市民社会に対する認識、可能性についてどういう風にご覧なっていますか。


大きな課題を乗り越え
非営利セクターが社会の信頼を獲得していくエネルギーが重要

相馬:そもそもNPO組織を組み立てているのは「人」だと思います。結局、そこにかかわる人間が、どういう意識を持って、NPO組織を形作っていくか。または、公的な意義を持って社会に働きかけていくか、というところだと思います。結局は、組織をつくる人間の意識の問題だと思います。組織ありきではなくて、そのかかわる人間の意識。その点で見ると、今4万5000団体あるNPOが、どれだけ社会的意義を持って活動しているのか、ということは、私は全然見えません。

工藤:それは、もっと激しく言って欲しいという気持ちがあります。実は、僕たち、この評価基準をつくるために5年かかりました。田中さんが中心になって、色々なNPOのヒアリングや調査を行いました。今、ここまで市民社会が大きく変わろうとしてる中で、非営利セクター、NPOの役割が大事なのですが、その中で大きな課題を乗り越えて、非営利セクターそのものが大きく社会の信頼を獲得して動く、という非常に大きなエネルギーを感じないような気がしていて、凄く危機感を持っていました。

 そこで、やはりこの基準をつくらなければいけないと思いました。この前の表彰式で、これは本当に表彰なの、とある審査委員長が言っていました。つまり、これはプロセスではないのかと。僕たちもこれは表彰式なのですが、課題を共有し合うような場をつくっているのだ、これからがスタートだ、という思いを持ったのですが、どうでした。

相馬:賞金ありき...すみません、言い方が厳しくて。応募する団体も、お金に困っている団体がほとんどだと思います。特にNPOは。そういう意味では、表彰でお金が欲しいということで応募したところが多いのではないかな、と思います。

工藤:それから見ると、僕たちも貧しいので、賞金の額が少なくて申し訳ないと思っているのですが、ただ、この賞を見て、企業を始め色々な人達が、こういう風な評価基準があるのかと。だったら、こういうことをきちんと自分たちの選考に使いたい、という声がきています。ということは、市民社会の中に、そういうきちんとした規律というか、色々な物差しがないまま、みんな勝手にこの団体いいねと、自分の自己満足だったり、そういう状況だったということに、1つ大きな石を投げた、という段階になったのではないか、と僕は思っています。いかがでしょうか。

相馬:その通りだと思います。NPOを評価するだけではなくて、これは企業にも当てはまると思います。

工藤:ぴったりです。今の話は、僕たちとぴったりですね。僕たちは、市民という視点から企業の評価という問題もいずれやっていかなければいけないと思っています。ただ、その前に非営利組織がきちんと考えていかなければいけない、ということを思っています。だから、評価基準もかなり厳しい体系にしています。

 田中さん、今の話を聞いてどうですか。何か非常に元気になりますよね。


組織評価を行うことで、非営利セクターに投じた一石

田中:そうですね。この評価基準の本当に伝えたいこと、本質を理解してくださっていて、非常に嬉しかったです。今の議論を聞いていて思うのですが、いいことをするのだからいいじゃないか、ということがあります。逆に、特にメディアの方なのですが、気持ちを大事にするから、みんな善意なのに何でそれに優劣をつけるのか、ということを聞かれました。でも、いいことをするという意図でだけではダメで、成果を出さなければいけない、と言ったのはドラッカーなのですね。でも、成果を出すためには、そのやり方もきちんとしていなければいけないし、それを支える組織もちゃんとしていないといけない。実は、企業と同じように方法論があります。それをやはり、理解していただくための一石だったと思います。

 企業にしても、NPOとパートナーを組みたいと思っているところは沢山あるのですが、やはり本音のところ、4万5000もある中にはいい団体もあるけど、変な団体もいるので、どうやって選んだらいいかわからない。そういう中で、こういう風に自分達で自己規律を持って、説明してくれるところがあったら、それは安心だ、という本音を凄くおっしゃっていました。

工藤:そうですね。今回、この表彰をやるにあたり、審査委員の人達はかなり大変でした。言論NPOは事務局をやっていたのですが、応募した団体には受賞に関わらず全員にコメントを出す準備も行っています。それは凄く大変な作業なのですが、審査委員会は表彰式が終わったら終わり、だとは思っていないということです。

田中:そもそも、私たちは1団体ずつ、全部評価シートを持っていて、その評価項目に更に細かい評価項目があって、そこに点数をつけて、必要があればコメントを入れるようにしていたのですね。その中から、フィードバックをさせていただきたいと思っています。

工藤:本当に、審査委員会の努力には頭が下がります。ただ、僕たちがそれでもこれをやらなければいけないというのは、いいNPOになって、市民社会が強くなっていく方向に向かって欲しいのですね。そのためには、誰かが汗をかかなければいけない。ただ、今日感じたのは、同じ思いを持っている人は、結構いるのだな、と思いました。これは、もう少し枠組みを広げて、みんなで色々と考える場をつくったほうがいいのではないか、という感じもしました。ただ、これは年間のアワードなので、また来年もやるので、相馬さん、来年もこの賞に挑んで欲しいのですが、どうでしょうか。

相馬:うちの組織の内部的な問題ですが、1年過ぎて評価がどう変わっているか。しかしそれよりも、3年、5年経った後に応募したいな、ということがありますね。

工藤:僕たちも社員研修で、今度の土曜日に合宿して評価基準について自己点検を行う予定です。この評価基準は非営利組織上、本質的なテーマを掲げているので、このラジオを聴いている人達も、ぜひこれを見て欲しいですね。僕たちがどういう思いでこの表彰をつくっているのか。また、評価基準はどういうことなのか、ということは、言論NPOのホームページなどにありますので、ぜひ見て頂きたいと思っています。

 ということで、時間になってしまいました。このエクセレントNPO大賞については、色々なメディアでも報道されていますし、これからも色々なところで報道されることになっております。また、言論NPOのホームページにも、いろいろ公開していますので、ぜひ見て頂きたいと思います。僕たちは、この賞を作ることが目的ではなく、あくまでもこの賞は変化を起こすための手段であって、僕たちのゴールは日本の市民社会が強くならなければいけないということです。

 その変化が目に見える形になるまで、私たちはこの賞を続けたいと思っておりますので、ぜひ、皆さんもチャレンジしていただきたいと思っているところです。

 今日はゲストに、日本NPO学会会長の田中弥生さんと、NPO法人ぱれっと理事長の相馬宏昭さんをお迎えして、「エクセレントNPOで強い市民社会に向けた変化を起こそう」ということで議論してみました。

 いよいよ次週は、この「エクセレントNPO大賞」で、市民賞、課題解決力賞、組織力賞の3賞を受賞した団体にスタジオに来ていただいて、市民社会について議論してみたいと思っています。

 今日はありがとうございました。

田中・相馬:ありがとうございました。