2006年の日本には何が問われているのか / 小林陽太郎氏発言

2015年9月08日

2006年の日本には何が問われているのか

kobayashi_y.jpg小林陽太郎/こばやし・ようたろう(富士ゼロックス取締役会長)

1933年ロンドン生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートンスクール修了後、富士フイルム入社。富士ゼロックス取締役販売部長、取締役社長を経て、92年に代表取締役会長に就任、現在に至る。その他、経済企画庁経済審議委員会委員、文部省大学審議会委員、社団法人経済同友会代表幹事、などを歴任。現在は、総合研究開発機構(NIRA)会長、NTT取締役等も兼任

※役職・経歴は2006年当時のものです

日本の民主主義をどう考えるか

 僕は、宮内さんが出された二つの問題と問題意識が重なるので、それを少し違った視点から話したいと思います。
 まず2006年の問題というのは、小泉さんの後を誰がやるのかということです。小泉さんがやってきた改革路線を例えば少しぐらいスピードダウンするとしても、基本的には同じ方向で進めるという意味でのリーダーシップを、小泉さんの後、誰が行えるのかという問題です。
 皮肉な現象だとは思いますが、小泉さんは政策決定プロセスのなかで自民党関与の度合いを随分、薄めたはずですが、むしろ今の状況は中川政調会長あたりがかってとはもっと違う形で直接的に介入している。こうした状況を見ているとポスト小泉として言われている人が、小泉さんと同じような形でリーダーシップを即発揮できるということはまずあり得ないように私には思えます。靖国問題とかそういうことではなくて、日本全体の内外の改革路線を一体どうやって維持していくのか。そうしたことについては、シナリオをいくつか作って、真面目に考えていく必要がありますね。
 それと関係あるのがメディアの問題です。少しオーバーに言えば、日本の民主主義というのは一体どういう民主主義なのかという問題に重なります。真面目なメディアの顧客は少なく、結局、何百万、何千万の人たちがつまんないメディアを読んだり見ている。平たく言えば、日本のメディアはカスタマー・オリエンテッドであり、問題は、そのカスタマーが日本の民主主義を作ってるわけですから、それは一体どういう民主主義なのかということです。
 スウェーデンのある政治学者が最近面白いことを言っていて、民主主義というのは、これはスウェーデンを対象にして言っているんですが、透明性が全ての薄いデモクラシーと、マスを対象とした問題を単純化したクイックデモクラシーと、いろんな意味で議論を積み重ねていくストロングデモクラシーがあるが、あまりに薄いデモクラシーとか、特にクイックデモクラシーばかりになっちゃうと、ひどい民主主義になってしまうと言っています。
 日本は100%クイックだとは言わないけれども、今の状況は70~80%はクイックデモクラシーだと僕は思うんですね。ストロングデモクラシーを良しとしている人たちはせいぜい有権者中10~15%ぐらいの層なのかもしれない、いや、本当は、ストロングデモクラシーを望んでる人たちはもっともっと多いんだけれども、それに応えられる政治家なり政党がいないということなのかも知れない。
 これは、メディアの問題とあわせて、「どういうふうに日本のデモクラシーを考えるべきか」ということを、テーマとして正面切って議論を始めてもいいのではないかと私は思っています。