第5回「エクセレントNPO」大賞 全体講評

2018年1月18日

 第5回エクセレントNPO大賞に応募してくださった皆様に御礼申し上げます。また、協賛企業の方々、後援団体の皆様にも御礼申し上げます。また、霞が関で政策評価に従事する若手官僚も準備に参加してくれました。こうしてみると、本エクセレントNPO大賞は、支援する方々と自己評価をして応募してくださる団体の力の結集で成り立っているのだと思います。


1.応募結果

 まず、応募結果ですが、ファクトを申し上げます。応募数は156件で、過去最多となりました。分野別にみますと、福祉から、環境、国際協力まで多様ですが、今年は子供の健全育成の団体数が躍的に伸長していました。

 また、審査点ですが、得点率は平均で60~65%です。昨年と比較しても5ポイント上がっており、全般にレベルアップしていることがわかります。

 全体にリピーター数が多いのも特徴で、全体の約6割はリピーターでした。「エクセレントNPO」大賞は、自己評価を重ねてゆくことで、質向上を実現してもらうことを目的としていますから、喜ばしいことと思っています。実際、2度、3度応募しているプロセスで、基準により適切かつ簡潔に回答できるようになっている姿を見出すことができます。私どもが、フィードバックを大事にしているのは、その過程で、参考なるものを提供したいと考えているからです。

 他方、課題もあります。リピーターが多いことでは、新たな参加者にとっては障害になるのではないか、あるいは、運営側の新規開拓の力が不足しているのではないかとう議論も、審査委員会の方でなされました。私ども運営側に出された宿題だと思います。


2.基準からみえる評価の課題、非営利の課題、そして市民社会の課題

 自己評価書の記載を基準ごとに丹念に読んでゆくと、様々な課題が見えてきます。それは、評価の課題のみならず、非営利組織の課題、そして市民社会の課題に至るまで多様で奥深いものです。

(1)課題認識は目的設定と表裏一体の関係にある

 まず、基準5です。基準5は、団体が直接的に取り組む課題やテーマを問うものです。団体のリソース(人、モノ、金)には限界がありますから、自ら取り組む課題の範囲や優先順位をつける必要があります。そのためには、地域や対象の範囲や規模、課題の性格や特徴を具体的に把握する必要があります。

 そして、この課題が解決した状態こそが、団体がめざす目標となります。したがって、課題認識を問う基準5は、目標を問う基準8と表裏一体の関係にあるのです。

 しかし、多くの団体が基準5について明確に記せていないか、苦労していたようです。課題の把握は、それに続く、目的、計画、さらに事後評価の全ての工程に影響する基点ですから、ここが明確でないと、後に続く活動もマイナスに左右する可能性があります。

(2)基準5は夢を追うような活動に対応できているか

 他方で、課題解決力にかかる基準全体への新たな問題提起ともいえるチャレンジもありました。それはアート系の活動です。課題解決は、社会的な問題を想定した言葉ですが、アートのように夢を追うもの、新たな価値創造に取り組む活動は、課題解決力の基準に必ずしもフィットしていないのです。審査委員会でも、この点について随分議論になりました。非営利組織の活動には、問題解決だけでなく、芸術・文化活動、学術のような活動もあり、重要な役割を果たしています。エクセレントNPO基準は、この視点が希薄だったのではないかと思いますし、大事な課題、論点として取り組まねばなりません。

(3)インパクトの視点は必要なのか

 基準7は、社会的なインパクトを視野に入れているかを尋ねるものです。この基準は昨年から新たに加えたものですが、政策や非営利セクターのトレンドを配慮したものです。

 私どもは、評価論にのっとり、インパクトを社会制度や人々の行動を大きく変容するような大きな影響と捉えています。基準7を加える時に、すべての非営利組織がインパクトを求める必要があるのだろうかという意見がありました。実際、基準7については、多くの団体が明確に記していませんでした。

 他方で、今のこの時代ほど、国内外の社会の変化に目を向ける姿勢や大きな視点が大事な時はないと思います。欧米諸国で指摘されている民主主義の危機がその一例ですが、あまりにも変化が激しいために、誰もが答えを模索しています。そうした中では、どんなに正しいと思っている活動も気づかぬうちに軌道を外してしまう危険性を誰もが抱えています。基準7を落とすことは容易いですが、大事な点を失うことにならないか、慎重に考える必要があると思いました。


3.NPO法制定から20年 ~高齢化と疲労感をどう克服するのか~

 そして、全体にNPOセクターの活性化の問題も見えてきました。応募団体の中には、NPO法が制定された直後から、20年近く、人知れず地域で活動されているところもありました。同時に構成員も20歳、年齢を重ねています。そうした中で、疲労感や高齢化を訴えている記述も散見されました。今年はNPO法制定20年ですが、おそらく、これらの問題を共有する団体は少なくなく、共通の課題であると思います。


4.よりきめの細かなフィードバックを

 これまでも、応募団体については、審査結果をもとに個別にフィードバック・レターを送っています。今年は、一次審査時に皆さんの応募書類に記したコメントをお送りしようと思います。これまで、審査のメモとして、コメントを記していましたが、今年はフィードバックすることを意識して記しています。興味深いことに、そうなると「自分だったらどうしたら良いのか」と考えながらコメントになり、おのずと表現が変わってきます。

 時間の都合から、コメント数には限界がありますが、表彰式後、全ての全体にお送りする予定です。

 また、先ほど、述べたように、自己評価力の技術向上だけでなく、エクセレントNPO基準のあり方そのものについても熟考する機会が訪れているように思います。私たちも、大賞運営という目前の課題に追われがちですが、ここに上げた課題を非営利の皆さん、応援してくださっている皆さんと議論するような場を作ることができたらと思っています。

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