第4回「エクセレントNPO」大賞 全体講評

2016年12月15日

1.「エクセレントNPO」がめざすもの

 私たちが、エクセレントNPO基準の作成に取り組み始めたのは2007年に遡ります。NPO法が創設されて10年を経て、その現状に目を向けたときに、大きな課題があることに気づきました。ひとつは、「行政の下請け化」の問題で、自治体などからの公的資金への依存度が高まり、組織や活動の変質が進んでいるという問題でした。また、寄付を集めない団体が全体の5割、ボランティアが全くいない団体が4割にも及んでいるという点も大きな問題であると考えました。なぜならば、寄付やボランティアは多くの人々の社会参加の大事な機会であり、NPOは自らそれを絶っていることになるからです。こうした問題の背景には、経営基盤が脆弱で試行錯誤を繰り返しても容易に答えを見出せず、めざすべきモデルが見えなくなっていることがありました。

 私たちは、この課題に対してどう挑むべきか悩みました。そして、たどり着いた答えが「エクセレントNPO」基準だったのです。すなわち、望ましい非営利組織像を定義し、それを評価基準という"目安"をもって示すのです。その際、考え方の基礎を提供してくれたのが、ドラッカーの非営利組織論 でした。そして、NPO調査を行い、望ましい非営利組織像と現状のギャップがどこにあるのかを明らかにしてゆきました。その結果、導き出されたキイワードが「市民性」、「課題解決力」、「組織力」でした。この3つのキイワードに基づき作られたのが、3分野33基準からなる「エクセレントNPO」基準です。

 そして、「エクセレントNPO」大賞は、この基準を用いて、自らを向上させようと努力する団体をクローズアップし、社会に対して「見える化」することを目的としています。

2. 第4回エクセレントNPO大賞における新たな試み

エクセレントNPO大賞では、3分野33基準から、15ないし16の基準を選び、応募書類となる自己評価の基準としています。

第4回エクセレントNPO大賞では、新たに2つのことを試みました。ひとつは評価基準の入れ替えです。最近、インパクト評価という言葉への関心が高まり、政府も報告書を出しています。こうした動向に鑑み、インパクトとアウトカムに関する基準を入れました。過去3回は、そのハードルの高さから、アウトカムという言葉も基準に入れていませんでしたので、大きく難易度が上がりました。

 もうひとつは、クラウド・ファンディングを第二次審査に導入したことです。その目的は、第一に人々からの共感性を観ることで、市民性審査に新たな視点を導入しようとしたこと、第二に、より多くの人々に寄付や頁閲覧、あるいは応援コメントというかたちで審査プロセスに参加してもらうことでした。

3. 審査方法

 第一次審査は書面による審査で、応募団体が記した「エクセレントNPO」基準に基づく自己評価書を審査しました。また、クラウド・ファンディング用に記していただいたプロジェクト概要から、論旨の明確性や実行可能性を確認しました。
 
 第二次審査はクラウド・ファンディングによって行いました。その間、1ヶ月間の頁閲覧数、目標額達成率、コメントを整理し、最終審査のためのデータとして整理しました。

 第三次審査は審査委員による審査で、第一次、第二次審査の結果を踏まえて受賞団体を決定しました。ここでは、審査のみならず、応募くださった皆様への説明のあり方についても議論されました。

 そして、次の点も報告させてください。応募時点でどの部門別賞でアピールしたいかを尋ねています。しかし、採点結果をみて、より上位にゆく部門を優先して振り分けさせていただきました。また上位選出の際には、部門別の評点に加え、総合点などのバランスも配慮しています。
      

4. 審査結果にみる成長と課題

 審査結果からみえたことのいくつかを挙げたいと思います。

 まず、今回、新たに審査として取り入れたクラウド・ファンディングについて述べます。先に述べたように、ここでの寄付や頁閲覧を市民からの共感性の代替指標ととらえ、取り入れました。その成果ですが、特設頁に参加した団体14団体の合計で、1,237人から、支援総額12,774,000円を集め、頁閲覧数は48,161件となりました。これは主催者の予想を遥かに超えるものでした。今後、その成功要因を探ってゆく必要がありますが、これは、個人の支援や寄付というもののポテンシャルを示唆するもので、「日本には寄付文化がないので寄付を集めない」というNPOの通念を打ち破る可能性があります。

 次に、市民性に関する評価です。市民性は、ボランティア、寄付者へのケアや成長支援にかかる4つの基準で構成されています。4年間通してみてみますと、評価基準の理解が進んでいることがわかりました。ただし、ボランティアや寄付者の成長についての説明は、全般に、今一歩という印象がありました。そうした中で「さぽうと21」や「ASIAN PEOPLE'S FRIENDSHIP SOCIETY」のようにボランティアの成長の具体的なイメージをもって運営しているところもありました。

 次に、課題解決力についてです。課題解決については、課題認識、目標設定、リーダーシップ、成果や進捗の確認、広報に関する7つの基準で構成されています。課題認識に関する記述ですが、自らが取り組む課題に関する説明が漠然としていたり、活動目標と整合しないものが散見されました。また目標設定については、インパクト、アウトカムという評価の専門用語を用いて基準を設定しましたが、これに適切に応えられているところは少なかったです。インパクトは社会的な仕組みや習慣が変わるような大きな規模の変化や影響をさしますが、その理解は正確さを欠いていたように思います。

5. むすび ~さらなる成長にむけて~

 結びとして以下を述べたいと思います。

 先にも述べましたが、インパクトやアウトカムについての理解に課題があることがわかりました。その認識が不正確であると、自らの活動成果を過大評価したり、逆に過小評価してしまうことがあります。そうしたことを避けるためにも、基礎的な知識や技術を共有する機会が必要です。あわせて、評価を誠実に行うための倫理というものも共有してゆく必要があると思います。
 
 また、「エクセレントNPO」基準にも課題がみつかりました。組織の中立性や独立性、公序良俗に反する資金を受け取らないことを規定した基準については、自己評価と審査結果の間に開きがみられます。それは、基準について認識ギャップがあることが示唆されています。したがって、この基準について、議論や検討の必要があると考えます。

 また、皆様から寄せられた自己評価書とともに同封された冊子や書類を拝読させていただきました。例えば「ホームホスピス宮崎」は、人生の最期を自宅のような場で迎えたいと希望する人々のためのホームを運営されていますが、この団体が送ってきた冊子の記事は心に響きました。しかし、自己評価書の点数が足りず、今回はノミネート団体に選ばれませんでした。評価基準で全てを網羅することはできませんが、他にも大事な視点があることが示唆されています。
 
 最後になりますが、エクセレントNPOのめざすのは、「良質な活動に人々の支援が集まる、だからこそさらなる向上を目指して切磋琢磨する」という、NPOと市民の間に良循環を築くことです。そして、こうした努力の積み重ねが私たちの市民生活を足元から強く豊かにすることになると思います。

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