民主主義の信頼を取り戻すため、今こそ改革を始める時である
~11月21日・22日の2つのフォーラムで何を実現したいのか~

2018年11月19日

工藤泰志(言論NPO代表)


IMG_7665.jpg


言論NPOは、民主主義の信頼を取り戻し、より強靭にするための議論を開始

 いよいよ、私たち言論NPOが準備する民主主義に関するフォーラムが明日となりました。民主主義といっても、それは当たり前のことで何をいまさら議論にするのか、と疑問に思っている方も少なくないと思います。
 しかし、私たちはある覚悟を持ってこのフォーラムを計画しているのです。
 今、世界の民主主義は多くの人が力を合わせ、新しい動きを始めることが必要なくらい大きな歴史的な試練に直面しています。そして、この日本もそれと無関係ではありません。
 民主主義は信頼を取り戻し、より強靭なものにするために改革が必要な局面にあるのです。そして、私たち言論NPOはそのための作業を始めることを考えています。
 3年前から、私は欧米やアジアの様々な民主主義の国を回り、また多くの会議を主催して数多くの研究者や政治家と議論を重ねてきました。
 私が、どうしても知りたかったのは、民主主義は本当の危機なのか、それは解決できる問題なのか、どこから私たちは取り組むべきなのか、ということです。
 先日、もう一度、名刺を確認してみましたが、私が議論を重ねた世界の論者は400氏近くになっています。


世界の識者に共通しているのは、民主主義を改革する必要性

 今日はその中から、国際的なNGO団体のフリーダムハウスのマイケル・アブラモヴィッチ代表、スタンフォード大学のラリー・ダイアモンド教授、さらにバリ・デモクラシーフォーラムを主催したインドネシアのハッサン・ウィラユダ元外相との発言の一部を公開します。
 この3氏ともに、民主主義の危機を乗り越えるために、民主主義の強靭性を高めるための改革が必要だと、主張しています。
 そのフリーダムハウスは、世界の民主主義が10年連続で後退し、民主主義の動きが後退した国は70カ国かそれ以上、との年次報告を出しています。
 これまで経済成長は民主主義を促進すると考えられてきました。この20年、世界のGDPは2倍以上に膨らみ、貧困率なども大きく改善されました。しかし、世界では民主主義の後退が始まり、経済成長と民主主義は別の軌道を歩み始めたのです。
 それはなぜなのか、私の問題意識はそれが始まりでした。


 民主主義の後退の背景にある、意思決定の効率性の悪さと社会の分断

 民主主義の後退の背景に、民主統治のガバナンスの問題やグローバリゼーションの進展があることはすぐ分かります。
 中国という権威主義体制の経済成長は、民主主義の意思決定の効率性の悪さを提起しています。民主主義への懐疑心が東南アジアで広がったのは、台頭する中国の影響が及び始めたからです。
 またグローバリゼーションの進展は、極端な富の集中と格差を生み出し、社会の分断を生み出しています。
 米国の先の中間選挙は、トランプ陣営と対抗する民主党の痛み分けだと私は思っています。しかし、米国の世論調査の結果でより明らかになったのは、共和党、民主党支持者の間にお互いが妥協できない考えの違いが浮き彫りとなり、社会の分断がより深刻化していたことです。ヨーロッパの都市の書店では、再び社会の分断や民主主義の危機を主張する本が大きなスペースを得ています。
 政治家はそうした社会の分断を利用して支持を集めようとしているのです。
 多くの国で大衆の不安に付け込むポピュリズムや一国主義に基づくナショナリズムが加速しているのはそのためです。
 自国第一主義を行動するトランプ米国大統領と爪を隠さなくなった中国の行動と、その対立は、世界のリベラル秩序を不安定化し、多国間主義やルールに基づく国際協力に亀裂をもたらしています。


世論調査結果から、代表制民主主義の信頼性が低下していることが明確に

 数年前、私たちが行った民主主義に関する議論では、今、世界で問われているのは自由民主主義の自由であり、民主主義の問題ではない、と一部の研究者は突っぱねました。
 しかし、私が世界を回って痛感したのは、民主主義の自身の危機に、世界の論者が向かい合っていたことです。
 私たち言論NPOが毎年実施している共同世論調査でも政党や国会、さらにはメディアに対する市民の信頼を大きく崩れ、自衛隊や警察に信頼の多くが集まっていることが明らかになっています。
 しかし、その現象は日本だけの問題ではありません。
 欧米でも私と同じ問題意識を持ち、多くのシンクタンクが世論調査を行っており、そこでも明らかになったのは、市民が政治から退出を始めていることでした。
 市民の大半は、議会や政府が、自分たちを代表しているとは感じていない。そして、政党や政治家は、国民のためではなく、自分のために働いていると考えられている。さらも、政治家は、一個人としては軽蔑され、メディアは信頼されていない。
 つまり、代表民主主義がその信頼を失い始めているのです。
 民主主義とは国民が主権者として、国の政策や今後を決める政治の仕組みです。
 私は初めて、世界の民主主義は危機に直面していることを理解したのです。
 今回のフォーラムで私たちが、代表制民主主義は信頼を回復できるか、にテーマに設定したのは、私たちは行動を開始すべき時だ、と考えているからです。
 今回のフォーラムでは、こうした議論にふさわしい欧州やアジアの論者11氏を招聘しました。
 私たちは、より民主主義を強靭なものに改革することが必要だと考えています。
 そのためにも、世界やアジアと連携してまず議論を始めたいと思います。

言論NPO代表 工藤泰志


関連記事

民主主義を立て直すには何をなすべきか ~3人の識者にインタビュー~

2.jpg  民主主義は勝ち残れるのか
 マイケル・アブラモヴィッチ(フリーダムハウス代表)  ⇒ インタビューはこちら
2.jpg アメリカ・ファーストの民主主義を考える
 ラリー・ダイアモンド(スタンフォード大学教授)   ⇒ インタビューはこちら
2.jpg 自由、民主主義、多国間主義を守るため、アジアのリーダーシップは不可欠
 ハッサン・ウィラユダ(インドネシア元外相)     ⇒ インタビューはこちら

1_3.jpg