民主党が勝利するためには、党内の分断を乗り越え、中道派と左派がいかに政策の融合を図るかがポイントに/足立正彦(米州住友商事ワシントン事務所シニアアナリスト)

2020年3月04日

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足立.jpg足立正彦(米州住友商事ワシントン事務所シニアアナリスト
 米州住友商事ワシントン事務所 シニアアナリスト。1990年にハイテク企業大手に入社し、日米経済摩擦案件にかかわる。2000年7月から4年余り、ワシントンDCで米国政治、米議会動向、日米通商問題、日米関係全般の調査・分析に従事。2006年4月より、住友商事グローバルリサーチにて、シニアアナリストとして米国大統領選挙・議会選挙、米国内政、米議会法案審議動向、米国の対中東政策などを担当し、17年10月から現職。慶應義塾大学法学部卒業。神奈川県出身。


民主党がバイデン氏支持でまとまれるかは勝ち方次第

 今回のスーパーチューズデーでバイデン氏が圧勝した理由は、まず黒人票をしっかり固められた点、そしてサウスカロライナ州での予備選の結果、党内での穏健・中道派の候補がバイデン氏に一本化された点です。

 一方、サンダース氏の反自由貿易の立場は、NAFTA等の自由貿易の恩恵を受けている南部諸州では、支持されていない。今回のスーパーチューズデーでも、サンダース氏は南部7州で全敗しています。もう一点、サンダース氏が支持基盤とする若年層の投票率が上がらなかったのも、苦戦につながっていると思います。


 ただ、サンダース氏が息を吹き返す可能性もまだあると考えています。特に注目している今後の戦いは、3月10日のミシガン州、17日のオハイオ州の予備選挙です。民主党の政権奪還には、ミシガンやオハイオに多くいる、高卒白人の有権者をトランプ氏から奪い返せるかが重要です。これらの州の結果が、指名獲得争いに非常に大きなインパクトを与えることになると思います。


 対トランプ氏ということになると、やはりバイデン氏の方が、無党派も含めた支持ということを考えると、かなり有利と思います。

 一方、バイデン氏がサンダース氏の支持基盤を取り込めるかどうかは、バイデン氏の勝ち方次第です。7月の全国党大会前に勝負を決められれば、サンダース氏も敗北を認めると思うのですが、非誓約代議員(特別代議員)も参加する全国党大会での第2回目以降の投票で決まるとなると、サンダース氏支持者の「バイデン氏は我々の候補ではない」という思いが、より強く出ると思います。


リベラル寄りの政策がトランプ大統領との戦いでも有効

 今、これだけアメリカ政治の党派対立が激しくなり、分極化している中で、いかに自らの支持基盤を強化できるかが、大統領選挙に勝利するための鍵だと思います。実際、トランプ氏はそういう選挙キャンペーンを展開していて、前回2016年に鍵を握った中西部の白人高卒有権者に対しては、NAFTA改定などの通商政策や不法移民の取り締まり強化といった公約を実現させているというメッセージを発しています。バイデン氏にとっては、2016年のクリントン氏の二の舞にならないように、アフリカ系や若年層の有権者がなかなか投票に行かないという状況を回避する必要があります。

 その点で、若年層やリベラル派、あるいはヒスパニック系といったサンダース氏の支持層を取り込むためには、同氏が主張している国民皆保険とか寛容な移民政策、公立大学の学費無料化のような、若年層や低所得の有権者が多いヒスパニックにアピールするような政策が、バイデン氏に必要なのではないかと思います。

 こうした政策は、トランプ氏との大統領選を戦っていく上でも有効です。トランプ氏の欠点は、強硬な移民政策をとったことで、ヒスパニック系有権者が離反していっているところです。この層を民主党支持に固定化していくような政策は、バイデン氏にとって大事だと思っています。


バイデン政権では同盟重視を期待できるが、
  国内回帰という米国社会の土壌は変わらない

 言論NPOが実施した有識者アンケートでは、民主党候補が勝った場合の方が、いろいろな国際課題に関して改善が期待できる、という結果が出ています。確かに、バイデン氏が大統領に就任した場合、戦後、アメリカが超党派で取り組んできた、国際秩序や同盟国を重視する方向への振り戻しはあると思います。トランプ氏のような、同盟国への負担要求にウェイトを置く「アメリカ第一主義」の路線から離れ、アジアや日本のことを理解している専門家で政権運営が行われるようになっていくのではないか、と予想しています。

 ただ、貿易に関しては、共和党も民主党も、一般の支持者が自由貿易に背を向けるような状況が生じているので、バイデン氏が主張しているTPPへの回帰は、議会が通さないでしょう。なぜならトランプ大統領の出現は原因ではなく、アメリカ国内の自由貿易に懐疑的な状況の結果だからです。内向き志向、国内に回帰する動きは、共和党だけでなくオバマ前政権時にも見られましたし、サンダース氏などの急進左派の保護主義的で、対外的なコミットメントには非常に消極的な動きも、根はトランプ大統領と同じ部分だと思います。アメリカ国内に回帰する動きは、アメリカ国民の土壌から出てきていると思っています。