工藤のアンケート分析3 -官僚とメディア関係者の支持率の差には別の要因が寄与している-

2007年1月18日

回答者の安倍政権への認識を明らかにするために、私たちは様々な設問を組み立てている。この設問は可能な限り、言論NPOが持つマニフェスト評価の評価基準に準拠して構成されている。

支持率の設問に加えて、私たちは
①安倍政権は何を目指す政権か分ったか
②安部政権に本来求められている役割は何か
③その役割の実行は期待できるか
の3つの設問を導入している。この設問を安倍政権への支持率に加えて分析することで、回答者の安倍政権に対する現状認識を明らかにしようと考えたのである。

今回のアンケートで各回答者層に共通したのは、安倍政権が何を目指している政権か、について100日経った現段階でも「分らない」との回答が圧倒的なことだ。全体では69.4%とほぼ7割が「分らない」と答えており、この比率は回答者層別に見ても同程度である。

では、安倍政権は何を目指すべき政権なのか。これに対してはほとんどの人が構造改革路線は前提としており、構造改革自体を見直すという回答者は全ての層で1割未満だった。

今回、私たちがアンケートの対象とした政策現場に近い人たちや政策論に関心のある大学生の間では小泉前政権時に始まった構造改革について合意は形成されていることが分かる。ただし、構造改革は認めつつも、その負の問題への対応や壊す構造改革から新しく組み立てる構造改革へと、政策マーケットの関心は移り始めている。

回答では、まず小泉氏の構造改革を「追求し続ける」という層は全体で14.6%に過ぎず、メディアは6.0%しかなかった。これに対して、安倍政権の役割は、構造改革は継続してもその「歪みを修正する」内閣としての期待が全体の37.4%と最も多く、「壊す段階から新しいものを組み立てる」内閣が32.6%と続いている。特に「歪みを修正する」はメディアが41.0%、官僚が42.0%と4割を越えている。

しかし、それでは回答者が期待するその役割を安倍政権は実現できるのかについて、全ての層が現状ではまだ懐疑的である。全体で見ると「期待できる」は12.3%に過ぎず、「期待できない」が35.7%、「分らない」が18.9%、無回答が25.1%となっている。

つまり、回答者の多くの人は安部政権がまだ何を目指そうとしているのか、見えていない。いや見えていないだけではなく、安倍政権に問われているとそれぞれが判断する役割を実行できるのかについても、まだ信頼を得るに至っていない。これが100日後の安倍政権に対する、回答者の多くの基本的な認識である。

こうした回答状況は、けっして小さな問題ではないように思える。安倍氏が目指すべき政治について、メディアや官僚など周辺で理解を得ていないということは、国民全体に向けて合意を形成する努力を怠っていることに他ならないからだ。


これまでの結果をさらに設問間のクロスで分析すると、現状の安倍政権への基本認識について、ある興味深い傾向が浮き彫りになっている。それは、安倍政権の支持率と100日後の政権への期待の変化との関係である。特に全体の傾向とは認識に落差があることで際立っている官僚とメディア関係者に限れば、両者の支持率の差にそれぞれ別の要因が寄与している。

官僚は前に説明したように44%が安倍政権を「支持」し、残りの12%が「不支持」、さらに44%が「どちらとも言えない」と回答している。この中で「不支持」や「どちらとも言えない」と回答した人の半数近くが、安倍政権の100日を「期待以下」と見ており、安倍政権の政治や政策対応への失望が官僚の支持・不支持の判断に影響を与えている。

これに対してメディア関係者の認識は大きく異なっている。メディア関係者の安倍政権への支持率は11%と最も低かったが、不支持の62%のなかで「そもそも(安倍政権に)期待していない」はさらにその6割を越える。100日を「期待以下」と判断して不支持を選んだのは27%だから、その倍のメディア関係者が、極論をすれば安倍政権の誕生時から「不支持」を決めていたのである。

安倍政権に「そもそも期待していない」という層はメディア関係者が48%と他と比べて際立って多いが、その層は全員が100日経った現在でも安倍政権を支持していない。安倍政権の100日間はメディア層に存在するそうした所期の見方を変えることはできなかったばかりか、「期待」の低下を通じて、不支持をさらに増やしているのである。


メディア関係者に安倍政権に「そもそも期待していない」という層がなぜ半数近くと多いのかは、今回のアンケート結果だけで説明することは難しい。

が、その人たちがどんな意識の持ち主かはある程度分る。たとえば、この「そもそも期待していない」層の7割近くが安倍政権に問われているものは、「壊す構造改革」から「新しいものを組み立てる」内閣、あるいは「歪みを修正する」内閣だと回答し、かつそのほとんどがその実行は期待できないと考えている。この「そもそも期待していない」層で小泉流の壊す構造改革を追求することを期待している回答者は一人に過ぎなかった。

安倍政権の100日はそうした所期の期待や印象を覆すことはできなかったことになる。
言論NPOのウエッブサイトではその理由に対する個別のコメントを発言として全て公開している。それらを併せて読んでいただけると、回答者の意向を理解することができると思う。