講演録:「地域再生とパートナーシップ ~『公』の担い手とNPOの役割~」(その3)

2007年3月16日

なぜNPOに自立が必要なのか

〔当日配布資料〕

次のページ(p9)ですが、つまり「自立」とは何なのかということです。さきほどのゴールドマン・サックスのレポートとかいろんなことを見ていくと、基本的に言えば、寄付だけ集めろと言っているわけではないんです。資金基盤を多様化しないとダメですねということを言っているわけです。それは一つだけの資金基盤を持っているNPOはかなり厳しくなります。それからガバナンスが機能しなければダメです。

資金を集めるということを考えれば、ガバナンスがしっかりしていないところにお金を誰も出さないと思いますので、このガバナンスが問われます。この前、認定NPO法人の要件緩和があって、政府の補助金なり政府のある意味でのお金の投入がその要件の一つに認められたのですが、これはよくないんですね。それを今の塩崎官房長官に言ったら、何か喧嘩になってしまったのです。

要するに、こうした要件緩和はガバナンスを弱めてしまうんです。私は編集者時代はずっと金融問題の専門家で、経営問題でもよく論争を作りましたが、銀行の資本規制のところのBIS規制の算定式があって、それはアメリカを巻き込んで大論争になったのです。実際日本は株の含み益を資本の部の中に入れて、それで図体を大きくしてどんどん貸し出し競争をしてアメリカの不動産を買いあさったという時期があったのですが、そのルールががらりと変わって、日本の金融はどんどん敗退を繰り返すんです。つまり、それと結構似ているなと感じます。今まで僕がずっと企業経営を見ていく中で、恣意的な操作を行ったり、ガバナンスを曖昧にしていくシステムというのは、必ず壊れていくのです。だから、ガバナンスはむしろ強化の方向を選ぶべきだと私は考えています。

下請けというのは、じゃあ逆に何でダメかと言ったら、それだけが目的になってしまったらダメだということなんです。世界ではもうそういう議論はされていまして、文献を今日は持ってきてないのですが、例えばイギリスでも、委託文化の中でいろんなNPO法人が行政の委託だらけになっていく中でガバナンスが弱まり行政だけを気にしていくような形で、非常にガバナンスなり組織力が崩れていくという状況が結構報告されているんです。だんだん、組織内でいがみ合うなど、自発性のあるボランティアが徐々に阻害されていくということが報告されています。

NPOというのは、まさに自発性・自主性から組織、動き始めた一つのエネルギーなので、これが機能しながら行政と本当の意味でのパートナーシップをやっていくという形にしていかないと、どこかで疲れてしまうという状況があるのだと思います。

〔当日配布資料〕

次と次のページ(p10,11)はイギリスで、まさにその話です。これはサッチャーとブレア政権ではかなり概念が変わっていっていまして、医療の問題のサービス提供についてNPOをかなり巻き込んでいくのですが、しかしそれが下請けという状況になっていってしまう。ブレア政権になり、コントラクト、契約を結んでいくという局面になって、NPOという大きな流れと政府が調印するのです。それぐらい大きな契約概念に入っていって、その時の状況というのは、NPOというのは社会における主要構成員の一つだという形に位置付けられるわけです。その中では自主性・専門性ということをかなり尊く考え、一方でNPOセクターの自立に向けて環境整備をどうすればいいかということに入っていくわけです。それが一つの教訓だと思うわけです。

私はNPOを6年前に立ち上げた時に、いろんな大学の先生方から意見をいただきました。その時に皆さんから言われたのは、「工藤、行政と政府から金を取ればいいんだよ。」と言われました。何でもいいから金を取れとか言って、それは国の金とか行政の金なんだから使えばいいということを言っていましたけれども、やっぱり僕はそれは間違っていると思っています。税金ですし、それを自分達の運動のために取るとか、そういう発想を持つべきではないと思っています。自立をするのであれば、あくまでも資金源を多様化し、ガバナンスも強化しなくてはならない。そうしたNPOだからこそ、行政と契約をし、担えるのであり、社会の主要構成員としてパートナーシップを担えるのだと考えます。そうした形のサイクルを動かさないと、どこかで無理が出てくると思うわけです。

〔当日配布資料〕

アメリカでもそういう傾向があります。ただ、アメリカは非常にイギリスとは違って、かなり自主独立ではないけれども自助でやるという形があります。レーガン政権の時にNPOに対する補助金がかなり崩されて大変になるんですね。分権とかを見ていますと、その後アメリカのNPOも寄付にかなり入っていくのですが、ただ面白い現象もあって、寄付も不安定だという概念が出てくるんです。寄付というのは、毎年もらうので大変な努力をしないといけないのですが、そこに彼らは資本ベースの事業という概念を入れていくわけです。だから、NPOの資金源は、さっきは行政委託、寄付、それが多様化していって、自主的な財源を得ていく、さらに作っていくという形が今一つ大きな流れになっています。それは社会的起業家が生み出される背景になっています。

ちなみに、年次は忘れましたけれども、この総括の後に確か公益目的株式会社のようなものがイギリスでも出来ているわけです。つまり、ミッションとしては公益目的なのですが、システムとして株式会社を入れているという形になっているわけです。それも、取りも直さず経営をしやすい制度設計にはどういう形であるのかということの試行錯誤が前提にあるわけです。


NPOはどこまでできるか

〔当日配布資料〕

次は、NPOはどこまでできるのかということの話です。私は何で出版社の編集長までを辞めてNPOを立ち上げたのか、それはNPOにはすごく可能性があると思ったからです。すごく今、重要なことをやっているなと実感しています。デビット・コーテンという人はNGOの研究家で、世界的な援助をやった人達を対象に50年くらいアメリカの中でいろんな事例を調査して、その中で体系化・類型化していくんです。この4つの世代について日本では、「あなたはどこなの?」というふうに皆で勉強会をやったのです。

ニーズ対応型というのは、例えばサービスに対して担い手になるという感じですが、例えば、援助型で言いますと、何か食糧を持っていって皆に配ったりとか、何かを届けたりとかです。阪神大震災の時に、いろんな人達が救助をしたり、直接的なサポートをしたりしていくわけです。ただ、それが段々、直接的なサポートはするんですけれども、その人達が本当に自分達が帰った後に崩れたらまずいので、自立できるメカニズム、そういう人達が自分達の中で、例えば農業なり、何でもいいんです産業・企業を作ったりすることを支援する形が出来るというステージに今度は上がっていくわけです。それが地域の自立に向けた支援という形です。コーテンか著書の中で発展途上国の農業の問題を作っていくという事例を出していました。段階のNPOは結構あって、ここのところがパートナーシップの対象になっていくと思うのです。このレベルでも段々限界が出てきます。例えば、いっぱい事例はあるのですが、たまたまデビット・コーテンの本とか、いろんなものを見ると、農業の生産物を売った時に、売ろうと思ったけれども、それがいろんな業界が価格の締め付けしたりしてなかなか売れないし、不等な何か価格上、利益上の差別を受けるという問題が出てくるわけです。そういうことに気付いた人達は、その大きな全体のシステムに対して、NPOやNGOがこれは何とかしなければいけないのではないかという段階に入っていくわけです。

最後にある段階が第四世代という状況で、これは国境を越えるという状況です。例えば、一国で何か物を作って販売をしようとしても、アメリカや中国に対する不当な何かがあるなど、よくWTOで反発しているというのがこういう状況なんです。グローバリズムの中で、かなり貧困が拡大していく状況に対して立ち向かうという段階に入ってきているわけです。

非営利セクターというのは、このくらい世界的に動き、進化しているわけです。言論NPOは多分この三と四の間ぐらいに今入っているというふうに自分で思っています。このゾーンのところに経営も自主的にできて、一方でそういう社会的なミッションを担えるというところが出てきている。だから、NPOは進化をしているのです。そうしたNPOが民の側にいてパブリックを担う仕組みとして動き出している、または大きく変わろうとしている段階ですから、その動きを御理解いただきたいと思っているわけです。

▼ 「講演録その4」へ続く