【vol.21】 榊原英資 論文『構造デフレ下での経済政策とは何か 第3回』

2003年3月25日

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.21
■■■■■2003/03/25
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


言論NPOは、日本の政策課題について本物の責任ある議論を、ウェブ、雑誌、フォー
ラム等で展開しています。人任せの議論では決して日本の将来は切り開けないからで
す。政策当事者や財界人らが繰り広げる、白熱の議論の一部を皆さんに公開します。
                      https://www.genron-npo.net

──────────────────────────────────────

●INDEX
■ 榊原英資 論文『構造デフレ下での経済政策とは何か 第3回』

●TOPIX
■ 3/24 プレスリリース:読売新聞(3/17夕刊)「日本再生へ本音の議論」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ 榊原英資 論文『構造デフレ下での経済政策とは何か 第3回』
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
現在のデフレが金融的で現象であり、また需要不足に基づくものという議論に榊原英
資慶応大学教授は真っ向から異を唱える。榊原氏はそれをグローバリゼーションの中
で世界的に進行している構造的な現象とし、世界経済は構造デフレの時代へと大転換
しており、政策目標は激しいデフレの阻止に置かれると主張する。その視点にたっ
て、同氏はデフレ下での不良債権処理は一種の徳政令であり、国が企業再生ファンド
を組成するなどの提案を行い、産業や業界の再生の視点から取り組むべきだと語る。

●国が企業再生ファンドをつくるべき

日本経済は、まず過剰債務を減らさなければならない。私は『中央公論』で、そのた
めにマネーを使ってもいいと提言した。歴史をみると、このようなときには徳政令が
出されている。要するに、不良債権処理というものは徳政令だと考えるべきだ。倒産
の場合は、倒産すれば借金を返さなくてもいいのであり、倒産というペナルティーを
課した徳政令といえる。債権放棄も徳政令である。デフレの時代に入ったのであるか
ら、過去の借金は清算しなければならない。デフレのコンテクストで言えば、それが
不良債権問題である。なぜなら、デフレの時代には借金の額がどんどん上がるからで
あり、それは耐えられるものではない。

デフレを止めなければ不良債権問題は止まらないと言われており、自民党サイドから
も、補正予算を組んで何兆円か追加すればデフレは止まるから、それで不良債権問題
は解決に向かうという声が出ている。だが、そうではない。デフレは止まらないので
ある。

大変な調整が行われなければならないが、資本主義経済では通常、それは恐慌によっ
てなされる。「竹中恐慌」を起こしてもいいのかもしれないが、恐慌を起こさないで
調整を行うことを考えるのが政府であろう。先の内藤純一氏は、今の日本はモデルと
してはアメリカの恐慌のフレームに近いとしており、過剰債務のカットのフレーム
も、80年代から90年代のRTCではなく、30年代のRFC(復興金融公社)ということ
になる。日本では、RTC(整理信託公社)に対応するRCC(整理回収機構)となって
いるため、国が企業再生ファンドをつくることが必要になる。これは先日、塩川財務
大臣にも申し上げたことである。ただ、過剰債務は別勘定にして移すとしても、これ
までのRCCは倒産したところを回収するだけの機能しかなく、いわば回収屋であっ
た。そうではなく、企業を立て直すために出資したり、企業をつぶさずに解体した
り、M&Aをかけて再生するなどの作業が必要になっている。民間部門でも企業再生
ファンドが次々に出てきているが、それをもっと大きなレベルで国でつくるべきであ
るというのが私の主張だ。

例えば、預金保険機構の下にRCCと並ぶような形で企業再生ファンドをつくる。銀行
を敵に回す必要はない。銀行というものには、本来、そのノウハウがあるはずであ
り、今までメーンバンクがやってきた仕事なのだから、銀行からも人材を出させて、
ここで鋭意取り組むことにすればいい。今、取り組んでおられる企業再生ファンドの
方々とも連携をすればいいのである。しかも、預金保険機構の下にそれをつくれば、
政府保証を付けて債券を発行できるようになる。その結果、資金はいくらでも調達で
きることになる。ファンドに損失が発生すれば、将来、公的資金が投入されることに
なる。最初は努力して、最後の尻で、結果として足りなかった分について公的資金を
投入するというのが健全な考え方である。最初から銀行の会計だけをいじって、それ
で公的資金を入れるという発想は馬鹿げている。

企業再生ファンドを作り、政府保証付きの債券を出せば、政府保証が付いているとい
うことで、機関投資家も銀行も、この債券を買うことになるだろう。どこもカネが
余っている中で、その債券で何兆円でも調達できる。


●不良債権処理はどう進めるべきか

現在、不良債権問題は不動産、流通、建設、その他のサービス(リースやファイナン
スなどの)の4つの産業に集中している。そこをどうするかということを政府は考え
なくてはならない。計画経済ではないので最後はマーケットを使うことになるが、政
府としてどうするのかということが重要である。業界には様々な規制があり、規制を
どう緩和するのか、場合によっては外資をどう入れるのか、ほかの業界をどう入れる
のか。例えば、日本にも健全な製造業があり、それが入ってきて流通をやるなど、他
産業からの外資の参入を含めて考える。まさにそれを行おうとしたのが金融ビッグバ
ンであった。

銀行だけ叩いても、このままでは不良債権問題は解決しない。そこにはポピュリズム
があり、銀行は一般的に評判が悪いから、評判の悪いところが叩かれてきた。確かに
銀行経営も決して良くないが、それとこれとは別問題である。

産業をどう再生するのかという点について、政府は少なくともプランをつくり、官邸
に参謀本部を設けて、そこに銀行界、流通業界、その他の産業界の人間も入れて、こ
の業界はどうするといった議論をすべきである。その際、各種の規制についても取り
上げるべきであり、例えば、流通業界でも建設業界でも、業績の良いところや頑張っ
ているところはある。それらの企業は競争力があるから、現行の規制に対して不満を
持っている。彼らの言うことを聞けば、規制緩和をすべきという話が出てくる。

銀行については、もっと外資系の銀行を入れるべきである。新生銀行が叩かれている
が、新生銀行はきちんと儲けている銀行だ。金融界の人たちは、あのようなあこぎな
ことをすれば誰でも儲かるという言い方をするが、プライベートセクターというのは
役人ではなく、公共の利益をいう必要はない。公共の利益は金融庁が担うものだ。こ
うした意識の切り替えは金融ビッグバンでも手掛けたことであるが、もっと徹底する
必要があろう。

他方で金融庁は銀行に、中小企業に貸せと言い、それができなければ業務改善命令な
どということもやめるべきだ。私は、金融庁を政治から独立させるべきだと主張して
いる。各国とも金融監督は概ね独立しており、例えばヨーロッパ大陸諸国では中央銀
行が金融監督機能を担っている。中央銀行だから当然独立である。アメリカも、基本
的にフェデラルリザーブ(FRB)であり、比較的独立している。イギリスも、大蔵省
からFSAを離し、中央銀行からも銀行監督機能を分離して、比較的独立している。日
本は金融監督行政が政治に振り回され過ぎている。

金融界がきちんとした産業として成り立っていくためにも、政治から独立させること
が必要なのである。中小企業にカネを貸せと言うが、銀行は儲からないところには貸
してはいけない。もし中小企業に貸したいのであれば、財政で補助金を付けるべきだ
ろう。金融機関は民間企業であり、それを金融界にやらせるというのは間違いであ
る。

今、公的資金を入れて国有化という議論も出ているが、それを初めから考えるのは間
違いだ。結果として公的資金を投入し、国有化となることは考えられる。だが、その
前に前述の金融再生ファンドに移すプロセスで、それぞれの企業をどのようにしてい
くのかということをまず決めなくてはならない。それが決まって、そこでどう引き当
てするかというのが筋道である。今、竹中プランでやろうとしていることは、監査法
人が行うべきことなのであり、会計士が銀行のバランスシートをみてどうしろという
類いのことであって、問題はそのような話ではない。産業をどうするかということが
問題なのである。そこを成功させて、結果として公的資金投入ということがあり得る
ということである。入口と出口を取り違えている。

加えて、銀行を含め企業経営者に退陣を迫るのはよいとしても、それ以上のことをし
てはいけない。つぶれる、あるいは国有化するということは、それだけで経営者に
とっては悲劇的なことである。アメリカでは平気で企業がつぶれる。普通の資本主義
であれば、つぶれたときに、株主側では株が毀損し、恐らく経営者はやめなければな
らない。それだけでいいわけである。それ以上に、退職金を支給しない、刑罰を課す
ということは関係のないことだ。個人的な恨みつらみのような話になり、それではだ
れも経営者にならないだろう。


                          ──次号へつづく──

●上記の記事はウェブサイトにも掲載されています。
https://www.genron-npo.net/debate/contents/021224_a_01.html

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●TOPIX

■ 3/24 プレスリリース:読売新聞(3/17夕刊)「日本再生へ本音の議論」
https://www.genron-npo.net/about/press/030317_yomiuri.html

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  ┏━━━━━━━━━━━━ 会員募集 ━━━━━━━━━━━━━┓
   言論NPOは、ウェブサイト以外に、出版、政策フォーラム、
   シンポジウムなど、多様な活動を展開しています。
   また、自由闊達で質の高い言論活動を通じ、日本の将来に向けた、
   積極的な政策提言を繰り広げていきます。
   この活動は、多くの会員のご支援があって初めて成り立ちます。
   新しい日本を築き上げるため、言論NPOの活動をご支援ください。
   あなたの第一歩から、日本が変わります。
    入会申し込みはこちらへ
   https://www.genron-npo.net/guidance/member.html
  ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

──────────────────────────────────────
 このメールマガジンのバックナンバーはこちらに掲載されています。
 URL https://www.genron-npo.net/guidance/melma/melma.html
──────────────────────────────────────
 配信中止、メールアドレスの変更はこちらで。
 URL https://www.genron-npo.net/guidance/melma/melma.html
 このメールマガジンについてのご質問・ご意見などはこちらで。
 info@genron-npo.net
──────────────────────────────────────
 発行者 特定非営利活動法人 言論NPO
 URL https://www.genron-npo.net
 代 表  工 藤 泰 志
 〒 107-0052 東京都港区赤坂3丁目7番13号 国際山王ビル別館 3階
 電話 03-6229-2818 FAX 03-6229-2893
──────────────────────────────────────
 All rights reserved. 記載内容の商用での利用、無断複製・転載を禁止します