【vol.39】 座談会 『アジアに門戸を開放せよ―中国人が見た日本 最終回』

2003年7月29日

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.39
■■■■■2003/07/29
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●INDEX
■ 座談会 厳浩×劉迪×周牧之
  『アジアに門戸を開放せよ―中国人が見た日本 最終回』


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■ 座談会『アジアに門戸を開放せよ―中国人が見た日本 最終回』
   厳浩(イーピーエス株式会社代表取締役社長)
   劉迪(早稲田大学国際地域経済研究所客員講師)
   周牧之(東京経済大学経済学部助教授)
                       聞き手 工藤泰志・言論NPO代表
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日本経済の長期にわたる停滞とは対照的に、中国の台頭が著しい。中国から留学生と
して日本に来て、その後も日本で活躍している厳浩、周牧之、日本に留学中の劉迪の
3氏に、日中関係の変化や日本が進むべき道について議論してもらった。3氏は、中国
をはじめアジア諸国の経済発展でかつての日本の輝きは失われたものの、アジアとの
関係を深めることで活力を取り戻すことは可能だと指摘する。


●問われる日本人の閉鎖的な意識、論調

工藤 厳しい指摘ですね。確かに日本人の意識、議論の論調は閉鎖的ですよね。外資
   なんてとんでもないという議論まで出てきている。

厳  その外資をもうちょっと分析して、どうなのかということを言うのはいい。た
   だ、多くの場合に感じられるのは、ナショナリズムというよりは「とにかく許
   せない」というような気持ちで、うっぷん晴らし的な議論をするのは退化現象
   ではないかと。

工藤 知的退化ですね。

周  日本のための議論が必要ですよ。アジアのためになどと考えずに、日本のため
   にどう付き合わなければいけないか、日本のための大義をどのように立てなけ
   ればいけないかと。この点はミクロではなくてマクロの話を議論しなければい
   けない。例えばビザ、留学生の話も実はひとつのマクロの話に尽きる。それは
   アジアの元気、活力をいかに日本の社会に取り込むかということですね。厳さ
   んがもしアメリカとかシンガポールに移転してしまったら、毎年数百億円ぐら
   いがそこへ行ってしまうでしょう。

厳  日本で700人ぐらい雇用しているわけで、僕がではなくて、この会社がという
   話だけれども......。

周  しかも、ここまで成功した留学生は厳さんしかいないんですよ。これは本来数
   十人ぐらいいていいはずだし、いればもっと......。

厳  だから、外国から人が日本に来て、日本で勉強して、企業をつくる、そういう
   普通の感覚でいかないと。


●中国を平均賃金でみるのは間違い

周  中国人留学生の調査では、日本で就職する人よりも帰国して就職する人の比率
   のほうが高くなったんです。

厳  今までは留学生が卒業したら、賃金格差がすごくあるものだから、いろいろ嫌
   な思いはしても日本で何年間か勤めるのが普通だった。その賃金格差は今でも
   すごいけれども、これもまたマスコミの論調が間違っているんです。中国を語
   るときに、すぐに平均賃金でやるでしょう。あれは全然間違いで、それが分か
   らない社長などもいて、すぐに給料が高いと言うわけ。その人の頭の中にある
   のは、中国人は今でも平均月収は1000元だと。でも、そんな額では北京、上
   海でちょっとしたホワイトカラーは雇えないですよ。まだ情報があまり流れて
   いないということもあるでしょうけれども。

周  一部の日本人は、外を見るときに自分の価値観で見てしまう傾向がある。日本
   社会の平均の感覚は、中国社会のバラエティーに富んだ感覚とは全然違う。そ
   こで認識の誤差が生じるわけです。

工藤 最後に、将来的に日本はどんな国になるべきかということでは、どのような期
   待を持っていますか。

周  これは2つのシナリオしかない。1つは活力のある国のシナリオです。前提とし
   てはアジア、世界の活力のある人々がここで自己実現できる、世界の資本もこ
   こで自己実現できるような国がつくれるかどうか。社会の多様性、寛容性、諸
   制度、産業集積がつくれるかどうか。

   もう1つは、活力のないシナリオ、活力がなくてもよいというシナリオがあ
   る。今のままの社会では、活力のある日本人も企業も海外へ出ていってしまう
   でしょう。

工藤 それでは、日本は高齢者ばかりになっていきますね。

周  それでもよいという国民的コンセンサスがあればいいのですが......。

厳  美しく老いていくということだ。

工藤 まだ引退国家になるのは早すぎると思いますが。


●まだ大きい日本の優位性を生かすには

周  残っているのは温泉で、観光立国とかね。これもひとつの生き方ですが、これ
   は極端な話で、日本には非常に大きなストックがあるから、そこまでは落ちな
   い。イギリスが世界の大国から退場して久しいけれども、資本で稼いでいる。
   ただし、資本で稼ぐときと商品で稼ぐときは社会構造が違ってくるんです。そ
   の恩恵を享受する人の範囲も違ってくる。工業国家で稼いだときは、みんなが
   平等に潤った。頭脳と資本で稼ぐときは、富は一部の層に集中していくわけで
   す。

   その意味では日本は、社会構造の再編成をしなければいけない。そうすると、
   逆に言えば、ある意味ではデフレがひとつの好機と見たほうがいいんですよ。
   デフレを利用する国家像を議論し、大義を立ててやっていくと。

厳  日本がアジアでどんな国を目指すべきかと、多くの日本人がそういう話をし始
   めたのは、まさに中国の台頭と関連していると思うんですよ。日本人には、あ
   と20年したら中国に飲み込まれるのではないかという不安があるでしょう。た
   だ、現状認識として、日本は中国よりはるかに整備された社会資本や技術など
   がある。日本人は時として過剰に悲観したり、ある種の中国人が過小評価した
   りすることはあっても、まだ持っている優位性をどのように生かしていくの
   か。

   その生かしていく道は、さきほどの周さんの話と同じで、メンタリティーと制
   度をオープンにしておかないと駄目だと思う。例えば労働者も、ドアの外に締
   め出しておいたのでは駄目だと。例えば中国では、なぜ田舎から上海に出稼ぎ
   に行くのか。上海が中国をすべてコントロールできるかというと、できない。
   しかし、カネのあるところ、経済が発展しているところへは行く。アジアをひ
   とつの国として考えた場合に、日本は、もしかしたら中国における上海である
   という可能性があるわけですね。いろいろな国の人が来ると。

   もっとも、そのためには、日本国内の構造改革、いろいろなことを変えていく
   ことは必要だと思うんです。中国がこのまま混乱を起こさずに発展していく
   と、アジアの中で日本が政治的なリーダーシップをとることは難しいと思う。
   ただし、日本はこれからも、中国とは違った種類のプレゼンスを持っているは
   ずだし、それは中国にとってもあったほうがいい。今のアメリカのように一国
   主義というのは、国も企業と同じで、ライバルのいない業界の企業は暴走し
   ちゃうんですよ。

周  アジアにおける適切な緊張感と活力......。

厳  活力をもたらす競争が、常に日本の役割のひとつとしてある。

劉  これからの日本は、多元化社会、文化的に豊かな社会をつくるべきではないで
   しょうか。例えばフランスは、ヨーロッパの中で目立つ覇権などはないけれど
   も、世界のいろいろな国の芸術家を受け入れ、よい場所を提供して有名にさせ
   る。そこで自分の夢が実現できる。中国の小説家はそこへ行ってノーベル賞を
   もらった。日本は現在その基礎、インフラを持っています。だから、制度に
   もっと柔軟性を持たせて、世界のいろいろな人、すぐれた人に国を開けば、必
   ずいろいろな国でまかれた種が日本で開花すると思います。

周  一番典型的な例はハリー・ポッターです。ハリー・ポッターの小説をつくった
   のはイギリス人ですが、その経済効果、実利を一番とったのはアメリカなんで
   す。これがなぜかということを少し研究したほうがいいですよ。いろいろな意
   味があるんです。制度の問題もあるし、産業集積の問題もあるし、知的社会の
   問題もある。こういうケーススタディーをきちんとしたほうがいいんです。

厳  中国が発展したとはいえ、今の段階ではまだ日本のほうがおカネがはるかにあ
   り、まさにそういう基礎はある。しかし、それを阻害しているものは何かとい
   うと、簡単な例で、外国人はおふろに入れさせないとか、留学生が六畳一間の
   部屋を借りるときに、すごく嫌な思いをさせられるとか。そういうことをすれ
   ば、日本人にとってマイナスだと。今の世論などを聞いていると、一種の新し
   い孤立主義のようなところがあるんですよね。

工藤 自ら孤立を招いていますよね。私たちもそういう議論をきちんとする中で、日
   本の改革を考えようと思っています。今日はどうもありがとうございました。

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