【vol.55】 小川是×保岡興治×村松岐夫『マニフェストの策定と実行過程の課題(2)』

2003年11月18日

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.55
■■■■■2003/11/18
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  ■クオリティ誌『言論NPO 2003 vol.3――マニフェストと日本の争点』■

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●INDEX
■ 座談会 小川是×保岡興治×村松岐夫  司会:曽根泰教、工藤泰志
  『マニフェストの策定と実行過程の課題 第2回』


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■ 座談会『マニフェストの策定と実行過程の課題 第2回』
  小川是 (日本たばこ産業会長)、保岡興治(衆議院議員)、
  村松岐夫(学習院大学教授)
       司会 曽根泰教(慶應義塾大学大学院教授)、工藤泰志 (言論NPO代表)
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マニフェスト型政治に向けて政治や行政は本当に変わるのか。内閣と与党、官僚シス
テムなど実行過程についての論点は何か。自民党・保岡議員は、官僚の限界を超えた
総合的な政策設計に向けて政治の改革が進展していると現状を評価。行政学者である
村松教授は、重要テーマを評価する民間機関の必要性を強調する。元大蔵事務次官で
ある小川氏は、権限とミッションの所在を明確にした政治のリーダーシップの下で公
務員の志が生かされることへの期待を表明する。


●マニフェストで日本の政治構造は変わるか

曾根 今まで公約は守られないものだと言われてきたのですが、これはある意味で当
   たり前で、各議員先生方が選挙公報に私の公約と書きますが、それは中選挙区
   時代の産物で立候補者が多いときには同じ党から5人もいるわけですから、そ
   れぞれ党の公約を幾ら言っても選挙にならないわけです。それが小選挙区にな
   ると政権党から1人ということになる。そうなると、我が党の公約を訴えやす
   いと思うのですが、今は過渡期でその混乱が残っています。先生方は次の選挙
   で何を書くかというのでまだ項目出しをしていると思います。小泉マニフェス
   トで総選挙を戦うのでしたら、一体それと自分との関係をどうするのか、先生
   方に突きつけられていると思います。もう1つは、総裁選はこれまで党の公約
   とあまりつながりがなかったと思うのですが、それが今度初めてつながってく
   る。ある意味で歴史の転換点のような気がするのですが。

小川 私は今回の動きを日本の政治が構造的に変わっていく上での3つの大きな問題
   の1つだと思っています。第1の問題は定数の問題です。国民が代議政治を選び
   ながら、自分の投票とよその人の投票とに差がある。これは絶対におかしい。
   統計的な誤差をどう調整するかという以外は完全に算数の問題であり、従っ
   て、定数是正を行わなくてはならない。2つ目の問題というのは比例代表制の
   問題です。つまり、政権を政党がつくるためには、どう考えたって、小選挙区
   制しかない。その方向へ向かっていると私は思うのですが、依然として残って
   いる衆議院の比例代表制を全部小選挙区制へ持っていかなければいけない。

   3つ目の問題というのは、政党はどこも政権を取るという政党になってほし
   い。政権を取るためには、選挙民にとって分かりやすくしなくてはならないも
   のが2つあると思います。1つは、政権を取ったら誰が率いるのか。政党が選挙
   に勝ったら、その党首が総理として国を率いるリーダーです。もう1つは、我
   が党はこういう政策を基本的な考え方としている、ということをはっきりと示
   さないとならないということです。マニフェストには2つ大きな柱がある。1つ
   は政党の理念です。これは時代認識を踏まえて政党としてあるべき理念は絶対
   に心に訴えるようなものとしてなければならない。

   2つ目は政策ですが、政策で重要なのは重点と順位であって、広さではない。
   広さはこれから5年、10年、20年と続けていけば、今の選挙公約のように国政
   の全般になりますが、せっかくマニフェストの議論になって、具体的な政権公
   約だということからすれば、私は具体性と優先性の重要性が問題であって、幅
   広さは当面二の次と考えていただきたい。そうでないと、できもしないことを
   各党が並べるのと同じことになりかねない。国民にとってわかりやすいのは、
   選挙に向けてリーダーが誰で重点的な政策は何なのか、これは私は3つでも4つ
   でも5つでもいいと思っている。20も30も並べられても、それを最初からやる
   と今までの200ページの選挙公約に戻ってしまうではないか、そんな感じがい
   たします。

曾根 現実に今起きている問題として、小泉さんの目玉というのは実は3つ、郵政民
   営化と道路公団民営化の問題、それから三位一体の話、非常に簡単に言ってし
   まうと1枚紙かもしれない。あるいは2枚になるかもしれないが、非常に簡単な
   ものです。従来型の積み上げでいくと200ページぐらいになるが、優先順位を
   つけて党の意向を吸収できるのか、あるいは従来型のところへ小泉さんが吸収
   されてしまうのか。そういう問題があります。

保岡 国民にわかりやすくメッセージを伝えて、幾つかの柱によって国の進むべき方
   向や考え方を説明できるようにする工夫が必要だと思います。

   村松 基本的にお2人の言っていることに相違がそうあるとも思いません。
   おっしゃられるように、官僚制というのはどこの国でもその活動や役割に、お
   のずから備わった限界がある。ですから、やれないことがあるわけです。政治
   家はそれに対して、仮に乱暴なときがあるとしても、やらなければならない
   し、やれる。それが政治家で、そのことを政治家自身がこの頃非常に自覚し、
   また、世間からも注目をされ始めた。やはり官僚は自分では決められない。大
   蔵省といえども決められない。そうであれば政治家に、何が日本の問題かとい
   うことをしっかり考えて決めていただきたいと思う。

   ある時期までは政策について、ある種の理念があった。近代化を早くしなけれ
   ばいかんと、みんなそれに同意していたわけです。それに代わるものが基礎に
   あって、そして恐らく政党の間に意見の違いがあって、それを綱領にして、さ
   らに具体的に選挙のときにマニフェストが出てくるのだろうと思う。そういう
   条件がよりよく整うためには、小川さんのおっしゃられたように、定数の問題
   も選挙区制の問題もあるし、政党の自覚もある。

   ただ、そうはいっても、外国から日本を見ると、なぜ日本の政治はパー
   ティー・ガバメントでないのか、キャビネット・ガバメントでないのか、プラ
   イムミニステリアル・ガバメントでないのかと言われる。つまり、どこか責任
   を持ってリーダーシップをしっかりとるという仕組みが弱い。

   基本的には今そこが議論されているのだと思う。まだ今の議論の中でしっかり
   と私には見えないのは立法手続の改革です。自民党には政調会、部会などいろ
   いろありますが、それは一党優位制(プレドミナント・パーティー・システ
   ム)というときには起こる現象だと思う。しかしながら、そういう仕組みの中
   でもそれを長い期間続けると、一体権限がどこにあるのかということもさるこ
   とながら、責任がどこにあるのかわからなくなる。立法の手続きについて立法
   府がやるのか、立法府プラス・アルファの仕組みなのかをはっきりしてほし
   い。

保岡 我々も昨年、新しい政治システムを国家ビジョン委員会で提言したのです。国
   民の各種の意見を取りまとめる作業と、それを内閣が決断して枠組みをつくっ
   てマネジメントする機能とを一体化させ、つなぎ合わせていく。それは事前承
   認制ではなくて事前審査制だということを提言しました。これは好むと好まざ
   るとにかかわらず、そういう流れにせざるを得なくなってきている。新しいシ
   ステムへ明確に変えることは、政治決定、政策決定プロセスの責任の透明化に
   もつながるだろうと思います。

                          ──次号へつづく──

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