【vol.92】 佐々木毅×北川正恭『国民は日本の将来から逃げられない(3)』

2004年8月03日

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.92
■■■■■2004/08/03
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●INDEX

■ 佐々木毅×北川正恭『国民は日本の将来から逃げられない 第3回』


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■ 対談『国民は日本の将来から逃げられない 第3回』
  佐々木毅(東京大学総長)北川正恭 (早稲田大学大学院教授 (前三重県知事))
                       聞き手 工藤泰志・言論NPO代表
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マニフェスト(政権公約)型の政治を日本に定着させるためにも、昨年の総選挙に続
く今回の参院選は極めて重要な意味合いを持つ。政治学者の佐々木毅東大総長と、前
三重県知事の北川正恭早稲田大大学院教授は、今回の参院選をどう位置付けるのか。
両氏とも、年金制度改革などでみられた政治の現実をいい教材にすると同時に、参院
選は日本の将来に向けて国のあり方が問われる選挙であるため、今の政治が説明責任
を果しているのか見極めることが重要であるとの認識を示した。そしてマニフェスト
をめぐって政治と有権者による契約型システムを確立することが必要と指摘してい
る。(この対談は参議院選挙前の04/6/16に行われました。)


●マニフェストに書かれない実行体制

佐々木 マニフェストの中に、その実行問題も入れることがテーマとしてあったと思
   う。私は日本の場合、そこが必要だと思っている。幾らいいことを言っても、
   あるいは契約したと言っていても、実行体制そのものが、およそ考えられてい
   ない。

   例えば三位一体だって、あれだけ複雑なものをやろうとなったら、押し合いへ
   し合いやっていると普通妙な話になると思う。それぞれがいい話も3つぐらい
   一緒になってやっていると、必ずどこかでおかしなことになる。それは実行体
   制という話がないためだ。実行体制というものについては、むしろ以前の時代
   の方があった。たとえば、旧国鉄の話にしても、旧電電の話にしても、これを
   どうするかというときに、かなり時間をかけて実行体制をつくっていた。

   今の年金にしても、中央・地方の関係にしても、本当は非日常的実行体制のよ
   うなものが必要だ。ところが、それを年末の予算という全然非日常的でなく、
   極めて日常的予算編成の中で構造問題をやろうという話になるものだから、結
   局、大事な問題は先送りし、目先はともかく辻褄を合わせをしよう、という話
   になってしまう。

   首相がこういう指示を出したというけれども、それがどういう格好で実行され
   るのか、といった問題がある。インプットとアウトプットの間がブラックボッ
   クスになってしまい、だれがそこに責任を持っているのかということが明らか
   にならないようなことが、これからしばしば出てくるのでないか。

   例えば道路公団民営化に関する委員会なども、昔あった土光臨調などの現代版
   のように見えるのかもしれないが、果たして、政府が求心力を持って取り組
   み、実行体制をつくりながらシステマティックな発想を前提にして、政策を考
   えているのか、どうかだ。

   あの三位一体も、いい例だが、実行体制という問題をどう考えるかを、カッコ
   に入れたままにして、これもやりましょう、あれもやりましょう、みんな結構
   ですねと言って年末に押し合いをやったら、いろんなところで思わぬことが出
   てきてしまい、本来、目指すべき改革が進まないということが大いにあり得る
   のでないか、と思う。

工藤 企業経営の場合、1つのプロジェクトを成功させるにはやはり体制が必要で
   す。なぜそれをつくらないのか、不思議です。佐々木そこはやはり政治がどう
   いうふうに具体的にこなすかということについて、役所に投げてしまってい
   る。だから、三位一体にしても、結局、どうしようかという話になると、お任
   せという形になっているのでないか。今度の年金の場合、恐らく厚生労働省の
   1つの局ぐらいがやっていて、厚生労働省全体がどの程度コミットしているの
   か。


●改革が偶然に委ねられるリスク

   そういう意味で言うと、政策の決め方と、そのシステムの問題というのが内容
   にも影響する。だから、政策管理体制というのはどうでもいい問題でなくて、
   内容も含めてかなり本質的な問題なのに、そこがますます希薄になってきてい
   るような感じがしている。

   最初に申し上げた、これからの政府のあり方を考える問題というのは、ある意
   味で今まで日本政府が直面したことのないような問題も、これからやっていか
   なければならないと思うので、そういう意味で言うと、実行体制はカッコにし
   て明らかにしないでこうやります、ああやりますということを言うというの
   は、問題が多い。

工藤 そのままであれば改革はできないということですね。

佐々木 そのままにすれば、非常に偶然のままにゆだねられる。結局、着地点がはっ
   きりしないままで、多くの時間と、結果としてコストがかかるという可能性が
   ある。

工藤 今の話からもうかがえるように、マニフェスト型政治を実現するために日本は
   構造的な欠陥を抱えているわけで、それを立て直さなければいけない。今の状
   況だったらマニフェストもスローガンだけになってしまう可能性があります
   ね。

北川 マニフェストに関しては、どちらかといえば、政策評価に目が行きがちだが、
   執行体制の評価を行っていく必要がある。実行体制をつくることで、全体の流
   れを変えてこないといけない。今までのままで政治家が役人に丸投げして、審
   議会をつくり、しかもサプライサイドで情報非公開でという形から、情報公開
   をして、政府にガバナンスを求めるというふうにして実行体制を築き上げてい
   かないと絵にかいたモチになる。我々も、これから追及していこうと思う。

   結局、マニフェストサイクルにするために、強いリーダーシップがありビジョ
   ンに基づいて政策体系が決まり、予算とか定数が決まって、人事が決まって評
   価という、その価値前提でやっていかなければならないのに、みんな丸投げで
   何もない。日本政府って何なのと言ったら、財務省とか国土交通省とか、各省
   庁のガイドブックはあるけれども、政府のガイドブックは書けないという状況
   こそがまさに大きな問題。

工藤 ここのあたりをきちっと小まめに検証したり、どうなっているんだとやってい
   かなければいけないですね。ところで、党と内閣との一元化の問題はどうなっ
   ているのですか。

佐々木 党と内閣との連動性というのは、それ自体がようやくこの数年、問題として
   意識されている。ドラマティックには党が「うん」と言わないけれども、内閣
   が法案を出すとか、いわば政治的な表の話としては少しずつ出てきたことは事
   実だ。ただ、根っこの部分まで踏み込んだような形で、明らかにがっしりした
   政策のオリエンテーション、固まりができるというところまではいっていな
   い。実はその後ろでいろんなことを実際にやっている人たちはまた別にいる可
   能性がある。既存の利害関係とかの見直しをかなりラディカルにやらなければ
   いけない。

   例えば社会保険庁というのは何なのかという話にまで踏み込んでやらなければ
   いけないようなレベルの話になってしまうと、それは表面的なあいさつとか、
   政治家たちがお互いどういう顔の立て方をするかというレベルの話だけでは
   ちょっと問題には切り込めない。

北川 内閣府の強化を10年前にやったことから言えば、例えば経済財政諮問会議と
   か、経済財政担当の大臣などをつくった点は、進化していると認めてもいい。
   ところが、それができたけれども、実行体制で本当のところのソリューション
   ができていたかというと、できていないから、じくじたるものがある。橋本行
   革のことから、新しい基軸なんて何も出ていない。

   そのあたりはきっちりと体制が変わってこないといけない。例えば、私が三重
   県知事をしているときに、それを遂行するために財政課とか人事課をなくし
   た。県庁内で分権自立をしてということが伴ってこないといけない。それに自
   治労の問題も解決しないと、実態として実行体制は組めない。あるいは議会と
   知事の執行部との関係をどうするというのを1つ1つ検証し、対応しながら政策
   をやっていこうしたが、政府にはそういうのがないから、政治があいまいに
   なっているともいえる。

工藤 そこの哲学というのは、やっぱり効率化とか、住民にもっとサービスを直接つ
   なげたいとか、縦割りじゃなくて総合的なことをやるという理念が自治体トッ
   プにあったからでしょう。


                          ──次号へつづく──

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