明石康×小林陽太郎「世界の大変化の中で日本が考えるべきこと(2)」

2009年1月03日

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◆◆◆◆ 言論NPO コンテンツメールマガジン 
◆◆◆◆ Vol.2(2009年1月3日発行)

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コンテンツメールマガジン第2号では、昨日お届けした明石康氏と小林陽太郎氏
の対談「世界の大変化の中で日本が考えるべきこと」の第二話をお送りします。
司会は、言論NPO代表の工藤が務めました。ぜひご覧ください。
現在、Webを活用した市民討議の場『ミニ・ポピュラス』において
「今ある経済危機」への日本の政治の対応をどう評価するか、議論を行っております。
多くの方のご参加をお待ちしております!
(参加方法につきましては下記のお知らせをご覧ください)
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□■「世界の大変化の中で日本が考えるべきこと」(2)■□
【2】大きな視点で日本の国益と日本の進路を考える

(工藤泰志)
これまで日米の二国はかなり強い関係を持っていましたが、アメリカの変化が
始まる中で、アメリカとの関係も考えないとならなくなっているのでは。

(小林陽太郎)
日本では対中国への認識が問題になっていますが、対アメリカ観もかつてない
くらい悪くなっています。原因は、各種報道の中で、今度の経済危機の
諸悪の根源はアメリカだと言われていることではないかと思います。
もちろん日米関係は大切だし重要ですが、アメリカを見直そうという空気が
静かに出てきているのではないかと僕は思います。
もちろん、それはアメリカの否定というのではなく、日本が自身のポジションや
これから進むべき道やアメリカとの関係について自分自身で判断をするような方向に
きちんといかなければならないということではないでしょうか。世論がある意味では、
そんなふうに日本の政治のリーダーシップに対してメッセージを送っているのかも
しれません。「アメリカとの関係はかつてないほどいい」と数年前までいわれて
いましたが、なぜかつてないほどいいのか不思議に思っていました。
ブッシュさんと小泉さんの関係が個人的によかったということはあるかもしれません
が、世論の視野が少し広がり、いい意味で冷静になってきたのかもしれません。
僕はその世論のメッセージはかなり重要ではないかと思っています。
決して喧嘩ばかりしようというのではなく、むしろ、新しい政権下でもアメリカが
大国であることには変わりはないし、アメリカはかなり前から中国の存在を重要と
意識しています。それは趨勢から言えば当たり前で、日本がひがむことは何もなくて、
中国は日本にとっても大切な国です。
ただ、米中関係は今までのチャンピオンと、これからチャンピオンになる可能性が
ある国同士の関係です。リー・クアンユーさんは、21世紀を考えたときに、特に初頭
における米中関係は世界の秩序を形成する上で、かなり決定的な役割を果たすのでは
ないかと言っており、米中関係がきちんとした方向に行くためには、日本の存在は、
対米でも対中においても、非常に重要な役割を果たすことになると本気で言っています。
ただ、それをどうしたらいいのかということについては、明言していません。
しかし、それはやはり我々が考えないといけない問題です。
単なる政治のリーダーシップということではなく、非常に知的で透徹した哲学とか
理念とか、そういうものに裏付けされたリーダーシップが必要です。それは単に首相が
全て持っていなければならないと言うのではなく、とりあえず国を代表する首相がいて、
国としてそれをバックアップしていけるだけの理論体系を、日本の中でもきちんと
再構築する必要があると思います。

(明石康)
アメリカに対する世論の変化は、中国に対する世論の変化とも重なっているとも
思いますが、日本人が対外関係について冷静になり、客観的になった証拠だとすれば
喜ばしいことです。しかし、必ずしもそれだけではなくて、情緒的な要素もあるのでは
ないかと私は多少気にしています。中国に対しての世論を例にとれば、工藤さんも先の
「東京‐北京フォーラム」でご指摘になったように、ギョウザ事件などが色濃く反映
されたと思うし、そういった食に対する日本人の極めて敏感な態度が影響している
と思います。アメリカに関していえば、ブッシュさん個人の誤ったイラク政策に対する
反応とういうのが非常に大きかったし、それが今度の経済危機、サブプライムローン
問題で、日本自身が影響を受けたことに対する感情的な反発もあると思います。
私は、そういう対外的な敏感さや情緒性と同時に、日本人が冷めてきているという
よりも、対外関係に対するひとつの諦めみたいなものが出てきて、「日本という国に
心地よく閉じこもっているのが一番いいのだ」というような気持が根底にあるのでは
ないかと思います。国益中心の外交は全ての国がやっていることですが、その国益が
どの程度幅広く、長期的に世界を見据えた、啓蒙的な国益かということが重要です。
そういう国益ならけっして悪いものではないし、各国が追求すべきものだと思います。
ただ、狭い国益に閉じこもるというのは非常に困るし、わが国にも1920年代位から、
ともすれば心地よい単独行動主義に走りがちな傾向はあるわけです。
田母神論文の問題も靖国問題と多少つながっていると私は思っていますが、
横軸としての世界と日本との関係と同時に、我々が自身の過去をどう見て、将来の
行動をどのように見定めていくかを決める上で、やはり歴史を忘れたり無視すること
は許されないわけです。我々の歴史にはいいものもたくさんありますが、決して
誇れるものでないものもあったということを、対外的にも対内的にも、同じように
言える大人の態度をとるべきです。今の中国が戦後日本の民主的改革を認めるように
なったことは大変いいことです。おそらく、日本人の歪んだナショナリズムも勢いを
なくしていくと思いますが、その辺りの整理をして、歴史教育をきちんとすることが
必要です。日本文化に対しても他の文化に対しても、どっちがいいとか悪いとか
という問題ではなく、お互いに尊重し合い、理解しながら進もうという態度に
結び付いていけばしめたものです。
アメリカと中国とどちらかを選べという問題ではまったくないと思います。

(工藤)
2009年は、大きな視点での日本の国益を真剣に考えなければならない年だという
ことですね。

(明石)
日本人に特徴的な国連論みたいなのがあって、国連を万能視し美化する考え方と、
国連は全く役に立たないから無視していいという国連無視論とがあります。
しかし、本当はその中間で、国連はいいこともやるけれど、国連の決定はすべて
正しい解釈に基づくものではなく、各国がそこで国益を戦わせながら、 何かを
生み出していくのが国連だと思います。国連に100パーセント依存することは
できないし、日本もそこで主体性を持ってコンセンサスづくりに参加しなければ
いけない、という点を忘れてはいけないと思います。

 ~【3】につづく~(全4回でお届けします。次号もお楽しみに!)

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