なぜこの一年間で日中両国民の感情が悪化したのか

2011年8月31日

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 なぜこの一年間で日中両国民の感情が悪化したのか

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さて、ご存知の通り、8月21日、22日と北京-東京フォーラムを開催しました
が、それに先立ち、8月11日に7回目の日中の共同世論調査結果を北京にて記
者会見を行い発表してきました。

今回の世論調査結果では、日本人の中国に対する印象、中国人の日本に対する
印象がこの一年で顕著に悪化し、過去7回の調査では最悪という結果が明らか
になりました。その理由は何なのか、調査結果を元に分析してみました。

ぜひ、ご一読いただき、ご意見、ご感想をお寄せいただければ幸いです。


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 なぜこの一年間で日中両国民の感情が悪化したのか

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工藤: おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝さまざま
なジャンルで活躍するパーソナリティが自分たちの視点で世の中を語るON
THE WAY JOURNAL、毎週水曜日は「言論のNPO」と題して、私、
工藤泰志が担当します。
さて、私は8月11日に北京で、私たちのNPOと中国のメディア、中国日報社
(チャイナデイリー)が共同で行っている日中の共同世論調査の記者発表に出
てきました。
この記者会見には日本と中国のメディア70社の約100人が来ていました。この
世論調査は、実を言うとこの放送のときにはもう終わっているのですが、8月
21日から行われる「北京-東京フォーラム」という日中のハイレベルの民間対
話でも報告され、日中の有力メディアが話し合うということになっております。
この対話そのものも非常に緊迫感のある内容になると思うので、どこかで皆さ
んにご紹介させてもらいたいと思っています。
今日この場で皆さんと一緒に考えたいのは、この世論調査の内容です。日中間
の国民の相手国に対する印象がこの一年に急激に悪化している。この状況をど
う考えればいいのか、という問題です。
実を言うと簡単に世論調査と言っていますけど、世論調査を中国で行うという
のはすごい困難で、これまでも企画した人がいたんですが実現できませんでし
た。私も7年前に中国で世論調査を提案した時には、会議を打ち切られたり、
日本の外務省からは「そんなことやったらつかまるぞ」と言われたことがあり
ます。ですが、どうしても私は日本と中国の間で世論調査を実現したくて、そ
れが何とか実現して、そして今7回目を迎えているということなんですね。


<今年の共同世論調査から「日中関係の今」を読み解く>


ということで、今日のON THE WAY JOURNAL「言論のNPO」
は、先日北京で行われた世論調査の分析を踏まえて、日中関係に今何が問われ
ているのかについて皆さんと一緒に考えてみたいと思っています。
この世論調査ですが、今回で7回目ですが、2005年の反日デモで騒然とした雰
囲気の中で初めて行われたんですね。そのときになぜ中国が若者を含めて日本
に反発を強めているのか、その真相にどうしても僕たちは迫ってみたいと思っ
たのですが、そのとき私は非常にびっくりしたことがあったんですね。驚いた
のは、当時半数を超える中国人が今の日本を軍国主義だと思っていた、という
ことです。
これはかなり中国側と議論になりました。そのときに私は気付いたんですね。
日本と中国はこんな隣同士なのに、お互いの基礎理解が足りない、未熟なまま
にある。それはどういうことなのか。考えてみますと、両国民の間に圧倒的な
交流不足がある。中国の国民の中で日本に来たことのある経験のある人が数%
しかいない。
今はいっぱいショッピングで秋葉原とかに来ている人がいるので、多くの中国
人が来ているような錯覚になっちゃうのですが、中国の人口はすごいので、あ
る程度来たとしてもパーセンテージは10%未満なんです。


<両国民の感情は構造的に不安定な状況下にある>


それから中国の人で日本人と話ができる知人なんてほとんどいない。実はこう
した傾向は日本人も同じなんですね。では、お互いの相互理解というのは、何
によって支えられているのか。というと、自国のメディア報道なんですね。つ
まり多くの日本人と中国人は両国の自国メディアの報道に依存して、相手国を
知っている、という状況にある。
これまで世論調査は6回やってですね、今回7回目なんですが、この傾向を分
析して、分かったことがあります。つまり中国人は過去の視点から今の日本を
見ている。当然、日本と中国の間には戦争もありましたし、中国はそれを傷と
して日本のことを思っています。そういう過去の視点で日本を見ている。
これに対して日本はですね、過去ではなく今の中国、巨大になっていく中国を
見て、中国のこれからに不安を募らせている。そういう不安定な構造の中で、
大きな事件が起こるとばっと感情が悪化してですね、それがミラー効果になっ
てお互いの世論に反映してどんどんどんどん共振して悪化していく。
つまり、日本と中国の国民感情は、構造的に不安定で弱い状況にある。
では、今回の一年間に何が起こったかというと、実は去年の9月に尖閣列島で
中国漁船の拿捕問題があって日本はそれを逮捕してしまって中国ではデモが起
こるという、そういう問題があった。日本ではその後3月に大震災があってで
すね、特に福島原発の問題があって、放射能汚染の問題で情報公開が遅れ、世
界、まあ中国もそうですが、いろいろなところに周辺国に対する配慮が足りな
い、という反発が広まってきている。
やっぱりそういうことの2つがですね、今回のお互いの世論にも急激に反映し
ているという状況なんですね。


<日中関係に対する認識はこの一年で両国民とも20ポイント以上悪化した>


ということで、今回の世論調査を見てみますと私が非常に気になったのが2つ
の点なのです。まず相手国に対するイメージが悪化している、ということです。
実を言うと日本人の8割、つまり78.3%なんですが、中国に対して悪いイメー
ジを持っている。これは去年からこの1年で増えている。6ポイントくらい増
えている。
中国の人は、6割の人、58.4%が日本に対してあまりいい印象を持っていない。
つまり日本人の8割と中国人の6割がお互い悪いイメージを持っていまして、
そして中国はですね、この1年間で10ポイントも悪いという人が増えていたんで
すね。
次に、今の日中関係はどういう状況か、ということがあるのですが、実を言う
と日本人の51.7%、半数を超える人が今の日中関係は「悪い」と思っている。
しかも、去年と比べて23ポイントも悪化しているんです。つまり逆にいえば去
年は30%くらいしか日中関係は悪いという人はいなかったんですね、日本人は。
それが一気に23ポイントも拡大して51.7%にふえてしまった。わずか1年でで
す。
これに対して、中国人は、54.5%が日中関係は「いい」と思っている。なので
日本は半数が「悪い」と思っていて中国人は半数が「いい」と思っている。だ
からなんかおかしいなと思うんですが、中国の54.5%という数字にもちょっと
理由があってですね、実を言うと去年中国人はですね、日中関係が「よい」と
判断しているのはなんと74.5%もいたわけですね。つまり74,5%の人が日中関
係がよいと思っていたのが一気に20ポイント低下してですね、それで54.5%に
下がったという状況なんです。なので、状況としては非対称になっているので
すが、お互い認識が悪化しているという点では同じなのです。


<悪化した理由の多くは、尖閣列島での政府対応など>


今回の世論調査は40設問くらいあるのですが、こうした感情の悪化がすべてに
影響を与えている。すべてが悪化しているという、悪いという状況なのです。
それはなぜなんだろう、ということを世論調査は聞いています。相手国に対す
る印象が悪い、と回答した日本人・中国人に何で悪いのか、と聞いている項目
がありまして、それに対して日本人で圧倒的に多かったのはやはり尖閣諸島の
漁船拿捕をめぐってその後の中国の反応だった。中国はそのあとかなり強硬な
対抗措置を執ったりデモを行ったりですね、そもそも漁船の拿捕におけるあの
シーンが日本はかなり放映されました。
つまり日本人の間に、日中間に領土問題っていうものがあるんだと。目に見え
る形でみんなわかり始めた、ということが今回のマイナスイメージにつながっ
ている。まあそのほか日本人のなかには、たとえばエネルギーとかそういうこ
との確保で中国政府の対応は強引なんじゃないかとか、そういう見方も結構出
ている。
では、中国人はなんで日本に対してマイナスイメージを持ったのか、その理由
で最も多いのは、やはり戦争なんですね。過去に戦争で侵略されたという思い
が中国の国民に根強い。でも今回急増している新しい理由もありました。それ
は2つあったんですが、1つは尖閣問題だった。尖閣問題で日本人が非常に強
硬な対応をしたと中国側は判断している。もうひとつ、それと並ぶように日本
に対してまずい印象を持ったのは、やっぱり福島原発の対応だったんですね。
やっぱり原子力、放射能汚染と言うことに関して中国の国民は非常に気にして
いる。中国人は放射能汚染も情報を日本が周辺国に出さなかったとか、非常に
対応が後手後手になっていたことを意識しているわけです。


<中国国民にも「フクシマショック」は直撃している>


実を言うとこれに関連して、今回の設問で私が驚いた設問があってですね、原
発をどうするかという設問があったのですが、日本は圧倒的に縮小・減らすと
いう意識なんですが、中国はまさに原発を200機くらいつくるという計画があ
るんですね。もう原発だらけという状況になる可能性があるのですが、その中
国の国民の中で半数を超える人たちが現状のままでいいと、これ以上増やすの
はよくないと、やっぱり減らすべきだという声が出てきている。それくらい福
島原発ショックというのは中国国民にも浸透している。
中国政府は今はちょっと増設を止めてるらしい、ということを聞いたことがあ
りますが、国民の中には、そういう慎重な声がかなり大きくなっている。


<震災時の日本国民の行動に感動した中国国民も多かったのだが...>


私は非常に残念だなと思っていることがあって、実を言うと私が4月に北京に
行った時もそうだったのですが、逆に日本にいいイメージを抱いている中国人
が多かったんですね。
震災の時の日本の市民のですね、連帯感とか、非常に秩序正しくいろんなこと
を協力し合うようなことに中国人は感動している。すばらしいと、日本人は。
と言う人たちが結構いたんですよ。いたんですが、それが全体のイメージを大
きく改善させることはなかった。これは非常にもったいないと。震災のときも
中国も日本にかなり支援していたんですが、中国にとどまらず海外から被災地
がどれくらい支援されて一緒にやっているかということが、あまり知られてい
ない。
アメリカのトモダチ作戦の話だけは出ているんですが、メディアも報道してい
ないですし、中国では日本の東北のある会社が中国の研修生を命がけで救って
逆にその専務さんが亡くなったということが英雄伝説になって大きく報道され
ていたのですが、日本ではそういう支援の動きが、大きな話題にならなかった。
何か、対立関係が様々な問題に波及しており、たとえば日本人で中国に行って
みたいとか、観光含めてですね、中国に行ってみたいかという設問ではですね、
お互い半数以上が行きたくないと答えている。
世論調査で両国民の認識が悪化したのは、この1年ことなので、いろいろ考え
なきゃいけないっていう問題が結構あるんですね。21日に行われるメディア対
話で私もその問題提起をするつもりなのですが、やはり両国の国民世論という
問題をもう少しきちんと考えるべきではないか、と強く思いました。


<交流を深めることで理解が進む段階から、「違い」を認め合う段階に>


今までの僕たちの考え方というのは、お互いを全然知らないのだから、それが
認識のギャップにつながっている、というものでした。その後、様々な交流が
動いていますが、まだ30%くらいの中国人は日本を軍国主義だと思っている。
改善はしていますが、まだ3割があると。という状況をどう考えるのか、とい
うことです。
基本的にまだまだ交流が足りない、という状況は変わっていない、と思います。
よく日本に来ている中国の留学生に会ったりすると、日本にきてイメージが変
わったという人が結構多いんですね。なので直接的な交流が決定的に必要、と
いう構造は変わっていない。これはまだまだ必要ですし、何か対立感情が起こ
ってナショナリスティックに、領土問題のような大きな問題が起こったときに、
国民感情を煽るような報道をなるべく止めたほうがいいとかそういう問題が結
構あってですね、そういうことによって国民感情を改善することはもっとでき
ると思うのですが、しかし、今回の調査を見て、それだけではだめなんじゃな
いかという気がしています。
やはり、中国と言う国はかなり巨大な国になっていまして、去年は日本経済を
追い越してですね、軍事的にも完全に軍事拡張を進めている。つまり巨大な国
となり、その行動も目につき始めている。しかもその体制というのは日本と同
じではないという状況にある。いろんな考え方に対しても、国の事情も日本と
かなり異なっているわけですね。それが日本人にも分かり始めている。
しかも、中国では新幹線事故の問題もありまして、今では大連のほうでも安心
安全の問題でかなり住民が騒いでいますよね。つまり中国の経済発展の後ろに
はいろいろなひずみがあると。色々な問題の中で中国は大きくなっていってい
るんですね。
僕たちはそういうころを知った上で、その中国をどう見ていけばいいのか、と
いう問題が問われていると思います。つまり、知らないから認識の改善が進ま
ないのではなく、違いが分かり始めたから不安を感じることもある。その違い
を理解したうえで、もっとコミュニケーションを高めていってですね、お互い
を尊重し合えるという動きを作っていかないとですね、やはり本質的な国民感
情の改善という問題にはつながっていかないんじゃないかと、思うんです。


<問われるのは辺境なナショナリズムではなく、違いを乗り越え共生を図ること>


ただ国際交流をやっている専門家と話す、とですね、日中間に求められている
のはかなりレベルが高い交流なのです。まず初歩的には相手を知りあうことが
その目的となる。次には違いを理解したうえで、相互に尊重できる関係を目指
す。そのための多様なコミュニケーションしていくというのは非常に難しい高
度な次元の話なんですが、しかしそのレベルまでこの2つの国民はなっていか
ないと、うまく付き合えない。
中国は経済的にもアメリカに並んでいくんじゃないかと、将来的には思われて
いる。しかし、そういうひずみを抱えながら、様々な問題がある。その国の未
来を変なナショナリズムだけで見ていくことは極めて危ないと思うし、それで
は2つの国がどう違いを乗り越えて共生できるか、その答えを見つけ出せない
と思うのです。
さて、私たち言論NPOでは21日、22日、本気で中国と議論をしてきます。本
当の相互理解は、本気の議論でしか、得られないと思うからです。こういう世
論調査から浮かび上がった日中関係の現実ということを皆さんはどう考えたで
しょうか。それでは時間です。今日はありがとうございました。


 ▼第7回 日中共同世論調査の詳細はこちらから
 https://www.genron-npo.net/world/genre/cat119/2011.html


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 言論NPOは、「言論スタジオ」と「ON THE WAY ジャーナル」と連動した
発言テーマで意見を募集しています。ご発言は、言論NPOのホームページな
どで公開させていただく場合がありますので、その場合は、お手数ですが、発
言の公開の可否と、お名前の公開の可否を、下の欄にお書きいただければと思
います。

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